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102 女子高生も物物店へ行く

「これくらいでいいかな?」


 今日は物物店(ものものてん)が開催されるみたいだから家にあるいらない物を鞄に詰め込んだ。いらない物って言ってもこの前に大掃除もしたからそんなにないけど、せっかくだし参加しないとね。


 というわけで今日もレッツ異世界へゴー。


 庭でウロウロしてたらすんなり異世界の街に着いたから早速行こう。


 うん、行こう。


 ……。


 どこで開催されてるの?


 肝心の情報を聞いてなかったよ。困ったなぁ。こういう時はあそこに行こう。出店の通りを歩いてたら今日もリガーを沢山売ってた。


「おー、嬢ちゃんか。いらっしゃい」


 相変わらず優しそうな鳥さんのお店。


「あのー、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「おう、いいぞ」


「今日は物物店が開催されるって聞いたんですけど、どこでするかまで知らなくて教えて欲しいんです」


「物物店なら旧市街でやってるぞ。孤児院のある付近だな」


 ほうほう、あそこでやってるんだ。廃れてる場所って言われてるけど、案外そういう催しもするんだね。


「じゃあその鞄の荷物も交換用の奴ってわけだな。嬢ちゃんは変わった物を持ってそうだし、楽しめると思うぞ」


 相変わらず褒め上手な所が営業上手って感じがする。


「店長さんは行かないんですか?」


「俺は見ての通りリガーを売るくらいしかしてないから不要な物なんて家にも早々なくてな。流石にリガー持って交換しにいくのは躊躇うしな」


「そうなんですね。でも開催場所が市街ってちょっと意外だなって思いました」


「だろうな。元々は市街の人がお互い助け合いする為にお金の変わりに手持ちの物で交換するのがきっかけでな。それで孤児院の院長がそれなら街中の人を巻き込んで派手にしようってなって始まったんだ。今ではそれなりの規模になって、それ目当てで来る人もいるくらいだ」


 孤児院の院長ってノイエンさんだよね。本当になんでもしてるなぁ。

 けどそれを聞いたら益々楽しみになってきた。本当に鳥さんは何でも知ってる物知りさんだね。


「教えてくれてありがとうございます。リガー1つ売ってもらっていいです?」


「もちろんだ。140オンスだ」


 お金を払ってリガーを貰って市街に歩いて行こう。時間もあるしリガーを食べながらゆっくり歩こう。


 それで市街に繋がる石橋に来るとそこから人の通りも増えて来てた。みんな私みたいに鞄やリュックを背負っていそいそと歩いて行ってる。


 私も続いて行ったらもう始まってるみたいであちこちで物を交換してる人がいる。殆どはレジャーシートを敷いてそこに物を並べて人が来るのを待ってるみたい。品数が多いとそうした方がいいのかな。


 ふらふら歩いているけど、どこを見ても結構面白い。お店じゃなくて自分がいらなくなった物だから商品に一貫性がなくてコップや壷、服にそれに変な形のおもちゃを出してる所もある。


 こういうのを見ると普段と全然違ってなんか楽しい。見てるだけで面白い。


「ノノムラさーん!」


「ノラ様ー!」


 なんか声がしたから目を向けたら奥の方でレティちゃんとフランちゃんがシートに物を出して売ってた。


「こんこん~。2人ももう来てたんだね」


「はいっ! この日の為にいらない物を捨てずに全部保管していたのですから! 私のような貧乏人がいい品を手に入れられる絶好の機会ですからね!」


 レティちゃんが恥じらいもなく大きな声で言ってる。それで気になってどんな品を出してるのか見てみたら、芋虫っぽい何か、切り株に無数に生えてる茸みたいなの、鉢一杯に芽が出てるカリフラワーみたいなの。何かの材料?


 フランちゃんの方は沢山の服を出してある。綺麗に畳んであって皺もなくて普通に売り物になりそうなのが凄い。


「あ、これいいね」


 カーディガンっぽい服があったから手に取ってみる。サイズも少し大きいくらいだから大丈夫そう。


「これ欲しいから私の見てもらっていい?」


「本当!?」


 それで鞄から物を出していく。って言ってもそんなに大層な物はないけど。子供の時に使わなくなった色鉛筆。小さくなって履けなくなった運動靴。棚の奥に眠ってるだけのマグカップ。絵柄が可愛くて買ったはいいけど使いもしないメモ帳。あと最近着なくなった服。


「これ! これ欲しい!」


 フランちゃんが迷いもなく私の古着を指差してくる。うん、なんとなく食いついてくれると思った。


「ありがと~。大切に着るね」


「うんっ! 私も大事にする!」


 いらない古着が新品同然のお洒落な服に変わったよ。うーん、これはいいかもしれない。


「ノラ様っ! 私もノラ様の物が欲しいです!」


 レティちゃんが目をキラキラさせて言ってくれる。その発言はとっても嬉しいんだけど、レティちゃんが売ってる物が私にはどう見ても不要な物ばかりなんだよね。


「ごめんね。この中に欲しいのはないかも」


「ガーン!」


「レティ、だから言ったよ。こんな気持ち悪いの誰も欲しがらないって」


 幼馴染からの目から見てもやっぱり変みたい。


「だ、だったら今から尻尾の毛を毟って毛玉にして売ります!」


「ダメに決まってるでしょ!」


 ちょっと欲しいって思ったけど黙っておこう。


「それじゃあ行くね。バイバイ」


 レティちゃんとフランちゃんと別れて別の所に行こう。そしたら前の方で見知った3人組みが歩いてた。リリにムツキにキューちゃんだ。


「やほ~。皆も来てたんだね~」


「ノノも来てたのね! 会えて嬉しい!」


 リリが近寄って来たから軽く手を合わせて挨拶っぽくしてみる。


「皆も欲しい物探し?」


「ううん。ただ見て回ってるだけ」


 ムツキが言った。


「そうなの?」


 確かに見てるだけでも楽しめそうではあるけど。


「いらない物がないからどうしようもない」


 ムツキから悲痛とも思える寂しい叫びが聞こえたよ。確かにムツキは物を最後まで大事に使いそうな気がする。


「右に同じね。というかいらないって思っても後でやっぱり置いとけばって思うのが怖くて結局手ぶらで来たって感じだけど」


 リリ、それは部屋が物で溢れていく人の思考だけど大丈夫かな。


「我は興味など毛頭ないがこやつがどうしても行きたいと言うから仕方なく来てやったのじゃ」


 キューちゃんがまるで保護者であると言わんばかりの発言。


「何言ってるのよ、ヘイム。退屈で死ぬのじゃーって騒いでたのは誰よ?」


「知らぬ。我はそんなこと言わぬ」


 付き添いに来たのはリリの方だったかー。


「じゃあ皆手ぶらなんだね。残念ー。交換したかったんだけどなー」


「え、もしかしてノノ持ってきてるの?」


「うん」


 鞄の中身をチラッと見せたらリリとムツキの思考が停止してる。変な物でも入ってたのかな。気になって自分でも覗いたけど別に普通。


「ノノの物……部屋にいらないのあった気がするわ。探してこよう!」


「……私も」


 リリとムツキが物凄い勢いで走って行っちゃった。そんなに気になる物があったのかな。キューちゃんだけは残ってて動じてなさそう。


「子供じゃのう。物などいつかは壊れてゆく。そこに価値などあろうか?」


 こういう所の価値観はやっぱり死神様って感じだね。


「物にも魂があるって聞くけどキューちゃんは信じない?」


「信じられぬ」


「私の世界だと付喪神って言われて、人の思いや願いが物に宿るって信じられてるよ」


「物は物じゃ。どんなに熱意や情があった所でそれ以上の価値はなかろう」


 そうなのかなぁ。とりあえずリリとムツキは帰っちゃったからキューちゃんと一緒に歩いて行く。それで丁度孤児院のある所に来たけど、何か良い匂いがする。それで覗いてみたらグラウンドの方で屋台みたいなのが出てた。


 それで中に入って近くに行ったらセリーちゃんが三角巾をして給仕服でせっせと料理をしてる。


「セリーちゃん、こんにちは~」


「ノリャお姉ちゃんだ! いらっしゃいませ!」


 小さいけど笑顔も接客も一流のかわいい店員さん。まるで妖精のお店みたい。


「セリーちゃんも物物店を出してる?」


 一応聞いてみる。普通に料理を出してるだけかもしれないし。


「そうだよ! たいしょーが傷んだ材料は店で使えないからってこっちで使わせてもらってるの! 傷み物だけど味も問題ないよ!」


 なるほど、そういう手もあるんだねー。これは強い。実際お客さんも結構来てる。店に並んでるのは何かのスープかな。小さく切った具材がお椀一杯に入ってて、出汁から良い香りがして来て食欲がそそる。ポトフみたいな感じかな。


「これ欲しいんだけど私の持ってるので交換できるかな?」


 いっそお金を払ってでも食べたい気分だよ。


「わっ! これ欲しい!」


 セリーちゃんが12色の色鉛筆を手にして言ってくれた。


「それでいいの?」


「うんっ! 魔法線だとすぐに消えちゃうから力作も消えて寂しいの」


「ありがと~。じゃあ早速もらっていい?」


「いいよっ! 具はこれで食べてね!」


 セリーちゃんから串を貰った。具材の殆どが丸いから簡単に刺せるようになってるみたい。芸が細かいなぁ。早速スープを一口飲んでみた。


 温かくてちょっぴり辛くて、でも癖になりそうな味だ。具も食べてみよう。お~、この肉団子やわかくて美味しい。


 味わって食べてたら何か視線を感じた。隣でキューちゃんがじーっと私の方を見てる。


「キューちゃん?」


「なんでもないわい!」


 何も言ってないのに何でもないとは如何に。


「食べたい?」


「食べた……いわけがなかろう! そんな餌で我は釣れんぞ。我は死神じゃ。もうお前さんの餌付けには屈せぬ!」


「そっか。じゃあ食べるね」


 こっちの野菜みたいなのはコリコリしてて、スープの味も染みてて甘くて美味しい。これ癖になりそう。普通に店で売らないのかな。


「ぐぬぬ。美味しそうに食べおって」


「キューちゃんも交換してもらったら?」


「何も持ってないのを見て分かるじゃろう! こうなるなら我も何か1つくらい持っておけばよかったものじゃ」


「さっき物に価値なんてないって言ってなかった?」


「こんな美味そうな料理を食べれるとは聞いておらんのじゃ!」


 それは私も知らなかったけど。


「ええい! こうなったらこの服をくれてやるわい! それでその料理を寄越すのじゃ!」


 キューちゃんが急に服を脱ぎ出そうとしたから流石に大変だよ。


「あの、その服はいらないよ?」


 セリーちゃんがぽつりと呟いたからキューちゃんの動きも止まった。なんかフリーズしてるけど、これは絶望してるパターン。


 これをきっかけにキューちゃんも色々と考えを改めてくれたら嬉しいけど。

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[一言] 価値観の違いは如何ともしがたい処ですが、キューちゃんも堕とす料理は偉大。
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