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101 女子高生もラッキーカラーは黄色になる

「いらっしゃいませ~。あ! ノノムラさんだ!」


「こんにちは~」


 異世界に来たから久し振りにフランちゃんのお店にやってきた。今日も綺麗な服がたくさん売ってる。ただ前に来た時と違って一角にちょっと他と違う服が売ってる。和服みたいな着物とか制服みたいなの。


「それはノノムラさんの服を参考にして作ってみたんだよ! 売れ行きも結構いいの!」


 ほほう。日本の衣服がこうして売られてるのはちょっと感慨深いなぁ。制服もカーディガンっぽくてかわいいし。


 それで店内を見て回ってたけど、店の隅っこの方に服が畳まれた状態で山積みになってる所があった。こういうの時々みかける。タイムセールってやつ?

 見た感じ的にもほかのより簡素な服ばっかり。


「それは売り物じゃないよ! 今度の物物店(ものものてん)に出す商品!」


「物物店?」


「うん。いらなくなった物を捨てるくらいなら欲しい人の所に届けてあげようっていう主旨の行事だよ」


 へー、フリーマーケットかな?


「この行事のポイントはお店の区画内で貨幣は一切使えないんだよ」


「それだと買えなくない?」


「欲しい物があったら自分も物を持って交換するんだよ。そうしたらお互い欲しい物が手に入って物も捨てられずに済んでいいよねっていう感じなんだよ」


 なるほど。だから物物なのかー。貨幣がない時代は物々交換が当たり前だったし、こういうのが名残としてあるのはちょっと楽しそう。


「それって誰でも参加できる?」


「もちろん! 当日は色んな人がいらない物を持って売りに出すよ。特にお店を構えてる人は品数も多いんだよ」


 たしかにいらない物って言われてもパッとは思いつかないけど、お店の人だと店頭に出せない商品を出せるもんね。そう考えたら結構合理的な行事なのかも。


「ありがとう、フランちゃん。良い事聞いたよ。私も参加してみたいし、それっていつするのかな?」


「明日だよ!」


 まさかの明日。これは帰ったらすぐに家の中を漁らないとなぁ。


 カランカラン


 お店のドアが開かれてお客さんが入ってくる。フランちゃんはキツネの耳をピンと立てて接客モードに入ってた。


「いらっしゃいませ~。ままま!? えぇっ、ミコ様!?」


 フランちゃんが急にレティちゃんみたいな反応をしたから思わず振り返ってみたら、店の中にミコッちゃんが来てた。


「あっ、ミコッちゃんだ~。こんこん~」


 そしたらミコッちゃんは軽く手をあげて返事してくれた。嬉しい。


「え!? ノノムラさんはミコ様と知り合いなの!?」


 なんかすごく驚かれてるけど何で? チラッとミコッちゃんを見たら小さく溜息を吐いてた。


「これだから同族と会うのあんまり好きじゃない」


 ちょっとだけ不機嫌そうに言ってる。


「ミコッちゃんってもしかしてすごい人だったり?」


 本人は口を開けてくれないからフランちゃんの方を見てみる。


「ミコ様は天神様を降ろしてくれる唯一の神子なんです。それはもうすごい人だよ!」


 フランちゃんが興奮気味に話してくれる。なんか色々と衝撃の情報ではあるけど、だからミコ様なんだね。普通に愛称かと思ったけど。


「そうだったんだ。私はてっきり只の占い師だと思ってたよ」


「それでいいよ。あの閉鎖社会の地位に価値なんてないだろうし」


 ミコッちゃんやっぱり不機嫌だ。耳と尻尾の毛が逆立ってるもん。


「占い師? そんなの初めて聞いたよ?」


 フランちゃんが首を傾げてる。なんというか私とフランちゃんのミコッちゃんの情報が一致してないんだけど。


「ミコッちゃんの占いはよく当たるんだよ。私も占ってもらったけど本当に当たったから」


 そしたらミコッちゃんの尻尾が少しだけ揺れる。んー、なんとなくだけど、ミコッちゃんはそっちの身分についてあんまり触れて欲しくないのかな。この前も占いが好きって言ってたし、何か思う所があるんだと思う。


「そうなんだ。あっ、えっと、ミコ様は……」


「服を買いに来ただけ。これいくら?」


「そんなそんな。ミコ様からお金を取れませんよ」


 そしたらミコッちゃんが頬をちょっとだけ膨らませて不機嫌な顔になってる。歳も私と1つしか変わらないし、同年代からも特別視されるのが気に障ってるのかなぁ。


「フランちゃん、本人が買うって言ってるんだし売ってあげたら?」


「え……でも」


「売ってくれないならいい」


「わ、分かりました! えっと、2850オンスです!」


 そしたらミコッちゃんがお金を支払って服を受け取ってた。そしたら用がなくなったみたいでそそくさに店を出て行く。


「ありがとう、ございました!」


 フランちゃんがぎこちなくお辞儀してから溜息を吐いた。


「う~、まさかミコ様が来るなんて……。なんか機嫌悪くしたみたいだし、どうしよう……」


 フランちゃんがカウンターの机に顔を埋めながら今にも泣きそうな勢い。


「私から言っておくよ」


「あ、ありがとう、ノノムラさん。あとミコ様に失礼のお詫びの品を……」


「多分いいんじゃないかな。もし次来た時は普通に物を売ってあげたら大丈夫だと思う」


「そ、そうかな」


「きっとそう」


 深都で食べ物を買ったときもきっちりお金を支払ってくれたし、借りを作るのは嫌って言ってた。だからそういう風にされるのがあんまり好きじゃないんだと思う。


「今から言ってくるね。また来るね~」


「は、はい。よろしく言ってください」


 フランちゃんが消え入りそうな声でしょんぼりしてた。ミコッちゃんも口で語るタイプじゃないし、難しいよね。とにかく後を追わないと。


「ミコッちゃんー」


「なに?」


 通りを歩いてたから声をかけたら振り返ってくれた。


「あのね、聞いて欲しいんだけど」


「うん」


「実は明日この街で物物店っていう行事があってね、いらない物を持って他の人の物と交換するんだって! 面白そうじゃない?」


 そしたらミコッちゃんが私をジッと見てくる。え、変なこと言ったかな。


「それとフランちゃんが失礼を許してって言ってたよ。悪気があったわけじゃないから」


「それを言いに来たと思ってたけど」


「ごめん、急に思い出したの」


「やっぱり変わってる」


 会う度に言われてる気がするけど、まぁいっか。


「別に気にしてないからいいよ。私も態度に出し過ぎてた。あの子に詫びておいて」


「分かった~」


 なんか仲介を任されてるけど、この機会に仲良くなれたらいいよね。


「占いの方はどう?」


「別に普通。良くも悪くもって感じ」


「へ~。ミコッちゃんの占いってあのカードでするタイプ以外にもあったりする?」


「知ってるは知ってるけど、知識だけで実践には程遠い」


 やっぱりこの様子だと占いが好きなんだね~。


「私の国だと占いでも色々あるよ~。血液型占い、星占い、手相占い。それで今日のラッキーカラーって言ってその日によって運気がよくなる色があるんだよ」


「色だけで運気が上がるなんて本当?」


「うーん、多分迷信」


「ダメじゃない」


 口では素っ気ないけど時々こっちを見て話してくれてる。


「もしミコッちゃんの今日のラッキーカラーが黒って言われたら信じる?」


「多分信じる」


 あれ、さっきの反応からして信じないと思ったけど。


「どうして?」


「あなたがいなかったらあの場はギスギスしてたと思うから」


 私の服を見ながら言ってくる。確かに制服は黒いけど?


「それとあの事はあんまり言わないで欲しい。私も自慢したいわけじゃないから」


 あれって言うのは神様の神子がどうってのかな。


「うん。言うつもりもないよ」


 そもそも神子がどういうのかすら分かってないし。


「でもあの様子だったら他の子も同じような反応しそう」


「はぁ。そうだと思う。こんな肩書きがあるだけで普通じゃなくなるんだね」


 なんかこういうのを聞くとリリを思い出す。リリもお嬢様と思われるのが嫌って言ってたし、年頃だから余計に壁を作られるのが辛いのかもしれない。


「だったら私が間に入って紹介するよ。それなら皆も萎縮しないんじゃない?」


「……あなたって」


「うん」


「お節介が好きね」


 それは否定できない。


「でも嫌いじゃない」


 まさかのミコッちゃんから褒められちゃった。

 今日の私のラッキーカラーは黄色だったみたい。


「じゃあまずはあそこのお店に行ってみようよ。あそこはフランちゃんの友達が経営してるの」


「気乗りしないけど」


 そう言いながらも付いて来てくれてるから、気が変わる前に扉を開けて早速入店。


「おめでとうございまっ、ます!? ま、ままま!?」


 レティちゃんが紙吹雪を散らそうとしてたけどびっくり過ぎて自分の頭にばら撒いてた。

 この反応に覚えがある。ノイエンさんが来た時と同じ。


「みっ、ミコ様!? どうしてあなたのような方が央都に!?」


 やっぱりミコッちゃんはケモミミ社会の中でかなり有名人みたい。そんなレティちゃんの反応がミコッちゃんは気に入らなさそうに腕を組んでちょっと頬を膨らましてる。


「レティちゃん、ミコッちゃんはしばらく央都に滞在するんだよ」


「ええ!? というかノラ様はミコ様とも知り合いなのですか!?」


 相変わらずハイテンションで理解が追いついてなさそう。ミコッちゃんはなんかもうどうでもよさそうにして店の商品眺めてるし。


「ちょっと色々あってね。それでせっかくだからミコッちゃんにレティちゃんのお店を紹介しに来たの」


「そっ、それは大変光栄でありますが、私如きの店でミコ様が気に入る物があるかどうか! 私なんかその辺に自生してる木の実以下の物しか作れませんから!」


 また謙遜モードになってるけど、それだけミコッちゃんの身分が高いからなのかな。

 ミコッちゃんは私の方を見て首を振ってる。これは間を取り繕わないと。


「大丈夫だよ、レティちゃんはいつもこんな感じだから」


「いつもって、こんなうるさい接客だと人も来なくなると思うけど」


 その一言が図星と言わんばかりでレティちゃんが床に崩れちゃった。


「レティちゃん。ミコッちゃんは1人のお客さんとしてこれからもよろしくね?」


「そ、そんな! ミコ様を客として扱うなんて私にはとてもできません!」


「そう? フランちゃんは普通に接客するみたいだよ?」


「嘘っ!? あのフランが!?」


 若干語弊があるかもしれないけど間違ってはないよね。


「ここは村と違って央都でしょ? だからこっちのルールに倣うべきじゃない?」


 強引かもしれないけどこれもミコッちゃんとの親睦を深めるためだと自分に言い聞かせよう。


「うぅ、そうでしょうか。でもミコ様に対等に接するなど……」


「それにミコッちゃんはこう見えて17歳なんだよ?」


「えぇっ!? 私より年下じゃないですか!」


 そういえばレティちゃんは18くらいって言ってたような。

 そしたらミコッちゃんがカウンターに商品を置いてた。


「これ売って」


「み、ミコ様」


「私はあなたを、ううん。ここで生きてるあなた達を尊敬してる。1人で働いてお金を稼いでやりくりしてるのはすごいって思う。その大変さは私も知ってるつもり。だからタダでは物は受け取れない」


 ミコッちゃんが淡々と言葉を綴ってる。何か思うのがあったのかな。そしたらレティちゃんが急にボロボロ泣き出しちゃったんだけど。


「み、ミコ様ー! 私のような者にそんな言葉を言ってくださるなんて! では、特別サービスで半額の50オンスで売ります!」


「別に安くして欲しくて言ったわけじゃないんだけど」


「それはレティちゃんの癖みたいなのだから大丈夫だよ。いつもセールしてるよ」


「はいっ! 安売りしないと客が来てくれませんから!」


「だったらまずは声を低くして欲しい」


 ミコッちゃんがついにケモミミを抑えてる。やっぱり普通の耳より聞こえやすいのかな。

 それで商品を売ってもらったミコッちゃんが気分よさそうに受け取ってる。


 自分のことじゃないのになんだか私も嬉しくなってきちゃった。私も何か買おうかな♪

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