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100 女子高生もチョコをもらう

「ノラノラ、今日は何の日か知ってるか?」


「バレンタインでしょ?」


 昼休憩だけどいつもより教室に人が多いし、男子がそわそわしてるし。


「へー、てっきり忘れてると思ったけど案外覚えてんだな」


「リンさんじゃないんですから普通は覚えてると思いますよ」


 この日が近付くとテレビとかもバレンタイン特集とかで盛り上がるし、嫌でも気にはするよね。とりあえず鞄から袋に詰めた粒チョコを出してリンリンとコルちゃんに渡した。


「はい。私にしては珍しく手作りなんだよ~」


 板チョコを溶かして型に入れただけだけどね。

 そしたらリンリンとコルちゃんも鞄から包装した箱を手渡してくれた。え、準備いい。


「じゃあ私はこれ。買った奴だけどな」


「私も時間がなかったので買ったのですが受け取ってください」


「え~、うれしい。ありがと~」


 いわゆる友チョコって奴だね~。今度ゆっくり食べよう。


「女同士で渡して男子諸君はすまんなって感じだけどな」


 リンリンが周りの男子の視線を流すようにして言ってる。確かにチョコ取り出した時、皆こっち見てたと思う。


「そもそもバレンタインは大切な人に贈り物をする日ですから何も間違ってませんよ。チョコを贈るというのも日本独特の文化です」


「クリスマスにケーキ食べたり、お正月におせち食べたり?」


「結局理由付けて美味しい物食べたいだけっつー魂胆だよな」


 美味しい物を食べるのは楽しいから仕方ないよね。

 とりあえず私にとってのバレンタインイベントはこれで終了。異世界の皆にも渡そうと思ったけど、平日に全員分を用意するのは無理だったよ。


 そしたら急に教室の扉がガラガラって勢いよく開けられた。そこには長い白髪の綺麗な女子生徒が立ってる。背も高くてスタイルもよくてすっごい美人。あれ、よく見たら知ってる顔のような。


「お姉ちゃん!? 何が目的ですか!」


 コルちゃんが椅子から勢いよく立ち上がって叫んでる。何が目的発言はちょっと笑うんだけど。混乱し過ぎて出た言葉がそれだったのかな。


 ヒカリさんは優雅に歩いて周りの男子の視線を釘付けにしてる。こんなモデルみたいな人が学校にいたらそうなるよ。


「今日が何の日か知らないとは言わせないわ」


 そしたらヒカリさんが手作りっぽい包装を見せてくれた。


「はい。コル、リンちゃん。ノラちゃんはこっちね」


 なんかちょっとだけ包装が豪華になってる。えー嬉しい。


「ヒカリさんありがと~」


「ふっふっふ。サプライズ成功ね」


 ヒカリさんが満足そうに笑ってる。コルちゃんとリンリンも何か言いたそうにしてたけど、チョコのお礼を言ってた。


「それで何でヒカリさんが学校に来てんの?」


「そうですよ。大学はどうしたんですか」


 リンリンとコルちゃんから質問攻めされてる。


「大学は自分で受ける講義を調整できるのよ。だから平日の昼間だって休みもあるし、昼から講義の日もあるの。そこの君。ちょっと椅子貸してくれない? これあげるから」


 ヒカリさんが近くの男子にチロルチョコ渡して椅子を借りてる。男子も何かすごく喜んで叫んでた。ヒカリさんは人の心を掴むのが上手だなぁ。


「へ~、大学生ってそうなんだ。じゃあ今日は休みだったんだね」


「そ、そうね。休みよ」


 なんか微妙な反応。これにはコルちゃんが反応して溜息吐いてる。


「講義休んでまでこっちに来たんですか」


「だって仕方ないじゃない! 大学うろうろしてたら皆してカップルでチョコ渡しちゃってさぁ! 友達もツイッターに手作りのチョコばっかりアップしてるし! だから決めたのよ。私だってチョコを渡す相手がいるってことを証明しに来たの」


 めちゃくちゃ力説してる。一体何と戦ってるんだろう?


「お姉ちゃん、通報しますよ?」


「ひどい! チョコ上げただけじゃない!」


「学校に不法侵入してるじゃないですか!」


 コルちゃんの正論にヒカリさんが思い出したように「あー」って言ってる。これは本気で考えてなかった奴。


「いいじゃない。制服だしまだまだ現役よ」


 確かにヒカリさんの学生服姿は全然違和感ない。ちょっとサイズがあってない感はあるけど。


「大学行きたくなくて高校来る人とか初めてみるんだけど」


 リンリンの切ないつっこみ。


「それにしても高校はやっぱりいいな~。初々しい学生を見ると発作が出そう」


 ヒカリさんが手でシャッターチャンスの形を作って女子生徒を狙ってる。そういえば今日はカメラを持ってない気がする。さすがにそっちは犯罪だと思ったのかな。


「お姉ちゃん、本気で通報しますよ?」


「こんな美人が来て嬉しくない人がいるっていうの!」


「だからって何しても許されるという問題ではないでしょう!」


 コルちゃん、ヒカリさんの前だから素が出てるけど、皆に見られてるのは大丈夫なのかな。後でフォローしておこうかな。とりあえず、3人から貰ったチョコを鞄に入れておこう。

 それで鞄を持ったら中に入ってたお菓子が転がって床に落ちちゃった。そういえば今朝に異世界に行ってリリとムツキに美味しいお店誘われて驕ってもらったんだった。


 それを片付けようとしたんだけど何か視線を感じる。あれ?


「ノ、ノノノノラちゃん。そ、それはなにかなぁ?」


 ヒカリさんがすっごく動揺して聞いてくる。


「えっと、これはね……」


「ま、待て。落ち着け。それ以上言われると私の気持ちの整理が追いつかない」


「リ、リンさん、まだそうと決まったわけじゃないでしょう。たとえば、そう例えば瑠璃にあげるものだとか……。いえ、これは憶測ですよ。はい」


 説明しようとしたら2人も勘違いしてるみたいで話が進んでる。本命チョコと勘違いした感じ? 確かに包装も結構豪華だし、見た目も大きい。


「違うよ。これは……」


「ノラノラ。無理しなくていい。そりゃ私らに気遣って言ってくれてるんだろうけど私は腹括ったぞ。うん、括った。括ったからな!」


 リンリンまずは落ち着いて聞いて欲しい。説明したいのにできないよ。


「いやあぁぁぁぁぁ! 私のノラちゃんが誰かに取られるのなんて納得できない!」


「お姉ちゃん、落ち着いてください! きっと異世界ですよ! これも異世界に関するものです!」


 さすがコルちゃん、よく分かってくれてるよ。


「そうだよ、これは異世界に行って……」


「異世界の男なのね!? 駆け落ちなのね!?」


「ノラノラー!!! こっちを置いて行かないって言ってたじゃないかー!!!」


 リンリンが私の肩を揺らしてくる。誰でもいいからこの人達の暴走を止めてくれないかなー。何かもう説明する気もなくなってきたよ。


「のっ、ノラさん……。その微笑みはまさか本当、なのですか。でっ、でもノラさんが選んだ道ならそれを祝福するのが友人としての、ああ、なんだか無理です!」


 とうとうコルちゃんまで壊れちゃった。仕方ないからスマホの画面を開いて文字を入力してそれを見せた。そしたら皆が真顔になって何事もなかったように席についた。


「やっぱバレンタインはダメだな。余計な誤解を生む」


「違うわ、リンちゃん。問題なのは本命チョコという概念よ。そんな概念がなかったからこんな悲劇は起こらなかったわ」


 なんか急に反省会みたいのが始まってる。


「それを言うならお姉ちゃんはノラさんにちょっと豪華なのを贈ってたじゃないですか」


「そっ、それは……。私だって本命っぽいチョコを贈ったっていいじゃない! インスタでいいね集めたっていいじゃない!」


 ヒカリさんがやけになってる。


「その前に1つ言わせて。次からはちゃんと最後まで言わせてね?」


「「「ご、ごめんなさい……」」」

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