1-04 お姉様になりました ②
弟……。わたくし、ついにお姉様ですっ! どの世界でも常におミソだった私が、ついに『お姉様』と呼ばれる日が来たのです。
フェル達の行動も120%理解しましたっ!
「と、とりあえず……」
縁起物で身体にいい“紅玉”を根こそぎ収穫して、また取りに来られるように辺りの危険な生物を絶滅させようとしたら、動物好きのミンに叱られた。
生態系を変えると、リンゴがあっと言う間に普通の小動物に食い尽くされちゃうんだって。
「ユールシア様、お待たせいたしました」
そんなことをしている間にノアとギアスが、軍用馬車を鹵獲して戻ってきた。
二頭引きの八人乗り。乗り心地は悪そうだけど、フェル達の馬車と合わせれば全員乗れます。出来れば今のうちに恩坐くんとギアスを休ませないと、向こうに着くくらいで人化が解けそう。……ちなみに馬車を奪われた兵士達はどうなったのか聞いていない。
それではさっさと移動する。まだ見ぬ弟ちゃんが私を待っているのです。
反乱……? 知りませんなぁ。
こちらの馬車にフェルかミンを引っ張り込んで、弟ちゃんの名前や、ヴィオの様子を聞き出そうとしたけれど、それは本人達から直に聞いて欲しいと拒否された。
口が軽そうなサラちゃんは、自覚があるのかさっさと向こうの馬車の御者席に着いていた。
ちょっと落ち着いたので、もう暴走なんてしませんよっ。
現在、家族はカロー子爵の屋敷に滞在しているそうです。
そんな分かりやすい場所じゃなくて、どこか郊外の別荘でも無かったのかと考えたけど、そんな場所を厳重に警護したら反乱軍に丸わかりになるらしい。
そんな状況の子爵家からここまで、フェル達は馬車で二日掛かった。
これはまぁ、地図と地元民の話を頼りに来た訳だから、急げば明日の明るいうちに到着出来る予定。
途中の村で宿泊もせずに強行軍。私達は睡眠も人間の食事もいらないけど、フェル達はそうも言っていられない。
ニアが森から鹿っぽいナニカを狩ってきたので鍋にして、今夜はメイドさん達と大きなほうの馬車で仮眠する。
「ユル様……本当に戻られて嬉しいです。ヴィオも本当は、ユル様が戻られるまで子供は作らないと言っていたのですが……」
「赤ちゃんは授かりものだから仕方ないねぇ……」
「今、ヴィオは、ユル様が帰られるまで産まずに頑張っています」
「そこは頑張っちゃダメでしょ」
そして翌早朝出発して、ようやく昼過ぎに子爵のお屋敷に到着した。これがヴェルセニア家のお屋敷なら帰ってきた感もあるけど、特に感動はない。
かなりの強行軍だったけど、私達が問題ないのは当たり前だが、フェル達やお馬さんはぐったりした顔になっていた。
「姫様っ!?」
私達の到着に慌ただしく出てきた子爵家使用人の後ろから、かき分けるように一人の女性が出てきて驚きの声を上げた。
「ブリちゃん久しぶり~」
駄洒落じゃない。
私専属の女性護衛騎士団の隊長さん、ブリジットちゃんです。
「いつお戻りになったのですかっ!? どうして二年も帰らなかったんですか!? どうして私達を置いていったんですかっ!? 姫様さえ居てくれたら……うわぁああああああああああああんっ」
「ええええええええええええええっ!?」
どうしていきなり泣き出した!?
そうね……そうなのね。護衛騎士なのに置いていっちゃったね。私が居なくて寂しかったんだね?
そっとブリちゃんを抱き寄せると、その横から涙目になったサラちゃんも縋り付いてくる。
「「早く私達にも、お婿さんを紹介してくださいっ!!」」
「待てコラ」
なんと言うことでしょう。彼女達が泣いていたのは、ヴィオやフェルやミンにそうしたように、お婿さんを紹介してくれる私が帰ってきたことを安堵していたのです。
……照れ隠しもあるのだと思っておく。
まぁ、彼女達も二十代半ばに近づいているので焦るのも分かる。この世界だと、貴族女性は二十歳まで。一般人の女性でも25までに結婚出来れば何も言われない。地球だったら、全然焦る歳でもないんだけどね……。
でも待って。ヴィオ達の件は、私が言い出したけど、実際に探すのは“婆や”に任せていた気がする。
「婆や達もこっちにいるの?」
「いえ、侍女長様や執事長様は、公爵様をお手伝いする為に王都に残られました……」
「……そうなんだ」
婆やと爺や、年配者と男性陣は王都やトゥール領に残って、お母様と子供や若い女性陣だけが疎開してきたみたい。
「……お婿さんの件は考えておく」
「「お願いしまーすっ!」」
そんなブリちゃんの案内で屋敷の中に通されました。
使用人達が走って行ったので、お母様やカロー子爵にも知らせに行ったのでしょう。
その途中で話をしたところ、この二年で女性護衛騎士の約半数が寿引退し、今はブリちゃんサラちゃんを含めた8人しか残っていないらしい。
つまりは、残った子達は恋人もいなくて、全員分の嫁ぎ先を探さないといけないかも知れない。
何となく盛り下がった気分のまま廊下を進むと、豪華な扉の前に辿り着いた。
「ユルっ!」
「お母様っ!」
扉を開けると互いを呼び駆け寄り、お母様と私はギュッと抱きしめあった。
お母様は相変わらずふわふわでよい香りがします。
「よく戻りましたね。心配しましたよ」
「ごめんなさい……。ただいま戻りました」
まぁ普通は心配するよね……。
「ユル様、お帰りなさいませ」
「ヴィオ……ただいま」
お部屋にはヴィオも居た。いつものようにメイド服を着ているけど、そのお腹がここから見て分かるほど大きくなっている。
「驚かれませんね……。あの者達からお聴きになりましたか? 勝手に外出したことといい、後で叱っておかないといけませんね」
「本当に、ユルに弟が出来たことを私が話したかったのに」
「あっ! そうそう、弟に会わせてくださいませっ!」
私が勢い込んでそう言うと、お母様とヴィオは顔を見合わせてクスッと笑い、隣室へと案内してくれた。
「あ……」
「ばぁぶぅ」
そこにはベビーベッドの上で這いずる、私と同じ、金髪に桃色がかった金瞳の可愛らしい赤ちゃんが居ましたっ。
「あぅ?」
赤ちゃんは初めて見る私に、ベッドの格子に掴まり立ちしようとするけど、失敗してこてんと転がる。
「あなたの弟……シリルよ」
「シリル……」
お母様はシリルを抱き上げると、私に抱っこさせてくれた。
「あぅあ」
物怖じしない性格なのか、シリルは私に抱っこされても興味津々で私のキラキラする金の髪を引っ張っていた。
痛いけど痛くないっ! シリルのあまりの可愛らしさに、思いっきり高い高いをしながら私は高らかに叫んだ。
「素晴らしいっ! この子は、世界一の美少年になるわっ!」
「……ユル」
何故かお母様からは残念そうな目で見られました。
「ユル様、少々よろしいでしょうか?」
「うん?」
ひとしきりシリルを可愛がって、ようやく落ちついた頃を見計らってヴィオが声を掛けてきた。
お母様とシリルを残して最初の部屋に戻ると、ヴィオがお茶を煎れてくれる。ちなみに従者達は呼ぶまで廊下で待機です。リンネ達はフェル達が応接室のほうへ案内していたからよく分かんない。
「あらためて、お帰りなさいませ、ユルお嬢様。本当に無事で良うございました」
「うん。ありがとう」
一旦仕切り直して、ヴィオが真剣な表情を作る。
「ユル様、今から話すことは公爵家でも一部の者しか知りません。ですが私は、ユル様には知っていただくべきだと判断しました」
「……うん、教えて」
何があったのでしょうか。ヴィオがここまで言うからには大変なことなのでしょう。
「今回の反乱は、南方軍とそれを支持するベルローズ公爵家等が中心となって起こしたと見られていますが、その裏には“王弟”の存在が垣間見えます」
王弟……
「……誰?」
「…………」
私の素直な言葉に、一度瞬きしたヴィオがゆっくりと眉間を揉みほぐした。
「国王陛下の弟君で、王位継承権五位。ユル様の大伯父様でございます」
「あ、ああ~……」
初めて聞きました。良く考えればお祖父様が一人っ子のはずないよね。王位継承権第一位の伯父様だって、息子二人では少なすぎると言われているのに。
そう言えば私も王位継承権持ってたね。なんで六位なんだろうかと思っていたけど、その王弟さんが五位だったのかぁ。
「その王弟さんが、お祖父様から王位を奪う為に反乱を起こしたと?」
「そう考えて問題ないと思います。ただし、それが王弟自身の意志か、それを煽ったベルローズ公爵家の意志かまでは分かりません」
「なるほどね……」
どんな思惑があるのか知りませんが、そのせいでお父様が大変な目に遭って、幼い弟を抱えたお母様や、身重のヴィオまで、こんな所に来るような負担を掛けている。
……ふふふ。私の家族に手を出した以上、どうなるか分かっているんでしょうね。
「ゆ、ユル様……?」
「ん? なぁに?」
多分、無表情になっていたのでしょう。ニコリと微笑むと、ヴィオがホッとした顔をした。
「ユル様のことですから、私が何も話さなくても、大人しくなさりはしないでしょう。ですが、絶対に無茶はなさらないでください。そして出来れば……旦那様と、この子の父親をお救いください……」
そう言ってお腹を撫でるヴィオは母親の顔になっていた。
さすがヴィオはよく分かっている。何も分からなければ反乱軍全部に喧嘩売るつもりだったからね。
「大丈夫よ。私に任せなさい」
「……本来ならお諫めしなくてはいけない立場ですが、ユル様のお言葉が何よりも安心出来ます。無事のお帰りをお待ちしております。ユル様には、この子の名前を戴きたいのですから」
「おお~~~」
名付け親っ! ちょっとテンション上がって参りました。
……ユルが、【名付け】…?
次回、もう一人のお姉様。





