1-02 ただいま戻りました ②
今回から主人公視点です。
時間は少し戻ります。
地球から異世界テスへと渡り、途中寄り道もしましたが、一年半もの長旅を終え、ようやく懐かしのアトラへと戻って参りました。
いや実際はあの【悪魔公】の……えっと、平なんとかさんと半年間も亜空間で戦っていたので、実質は二年ぶりとなります。
いやはや長かったねぇ……もう私も13歳になりました。
「……ところでここはどこ?」
異次元の扉を開けてアトラに戻ってきたのはいいけど、出てみたら見渡す限りの大森林でした。
「アトラなのは確かだよー」
私の呟きにここまで船頭役をしてくれたメイドのファニーが、元気よく手を上げて適当なことを言い切る。……本当に適当だな。
「植物の種類と太陽の位置からすると、おそらくはタリテルド西南辺りの森だと思われます」
「……そうなんだ」
別に下がっていない眼鏡をくいっと指で上げて、辺りを調べていた執事のノアが報告してきた。なぜ、そこまで分かる?
騎士のニアとメイドのティナの脳筋コンビは、端から自分が役に立てると思っていないのか、ヌイグルミ形態のギアスと恩坐くんで遊んでいた。自由だな、君達。
『とりあえず、移動するか』
「そうね」
中でも一番自由なリンネは、まだ人型に慣れていないからと黒猫モードになって、私の肩で、襟巻き状態で寝そべっている。……この猫毛野郎。顎下撫でてゴロゴロ言わすぞ。
どうしよう……常識的な一般人は私だけだ。
「えっと……ニアとティナ、人里に出られる道を探してきてくれる?」
「「はい」」
遊ばせておくのも何なので、二人に仕事を頼むと嬉々として頷いた。……やっぱり暇だったのね。
『あの二人でいいのか?』
「………」
……本当に大丈夫でしょうか。リンネの言葉に、私は今にも飛び出そうとしている二人の背中に声を掛ける。
「誰かに会ったら丁寧にねっ。それと空を飛んだり、落ちてる殺人鬼とか拾い食いしたらダメよ~っ」
「「……はい」」
何で残念そうなんだよっ。
まぁ、あの子達も子供じゃ……まだ子供か。でも悪魔の心配をしても仕方ない。二人を待とうとした瞬間に出てくるテーブルセットとティーセット。
ノアが煎れてくれる煎茶を飲んでいると、五分もしないうちにティナが帰ってきた。
「主様。近くに村がありまして」
「あらあら」
「燃えておりました」
「はぁっ!?」
なんだそれ!? いまいち状況が分からない。どういう事なの?とティナを見ると、彼女は静かに振り返り、そこには血塗れの兵士二人を引きずった、返り血で顔をまだらに染めたニアが、褒めてくれと幻覚の尻尾を振りながら良い笑顔でそこに居た。
「――では、あなた達は南方方面軍の人なのね?」
「「……はい」」
突然敵対してきたのでニアが『つい、やっちゃった』らしいのですが、一応タリテルド国軍の鎧を着ていたので、話せるくらいまで治癒したところ、彼らは全面降伏してくれました。
彼らが言うには、南方を守護する騎士団とベルローズ公爵家が中心となって、南部が反乱を起こしたらしい。
「反乱の理由は何なの?」
「わ、我々は、魔王戦から離れていたせいで不当扱いを受けているっ。それは他の軍部と王家が癒着しているから、それを正す為にっ」
「はいはい……」
どんな崇高な理由があるのかと思ったら、大した理由はなかった。
「嘘言っている訳ではないのよね……?」
私がほんの少しだけ【威圧】を滲ませ、ニアとティナが彼らの肩に手を掛けると、一瞬で彼らの顔が真っ青に変わる。
「ほ、本当だっ…です」
「……そもそも、姫様が戻ると分かっていたら反乱なんて起こさなかったんだ。魔王を片手で捻りつぶした姫様が一年以上戻らなかったから……」
こらこら、誰の話よ。
アトラはテスに比べても情報伝達がまだ未発達とは言え、何か色々と噂に尾ひれが付いていそう……。
『ところで……村が燃えているのはいいのか?』
「……あっ!」
耳元でボソッと漏らしたリンネの囁きに、重大な事を思いだした。
「ティナっ、燃えている村に案内してっ! ファニーは恩坐くんを連れて先に跳んで! ノアはこの兵士達をお願い、ニアとギアスは私と一緒に来てっ」
「「「「はっ」」」」
私の命令に従者達が即座に行動を開始する。
空を飛ぶのは拙いので私達が一斉に走り出すと、恩坐を抱えたファニーが程良い位置で空間転移していった。
……一度戦場で羽根生やして飛んでる姿を見られているから、今更な気もするけど、これ以上奇妙な噂を立てられたくないのです。
走ること数分、木々の隙間から立ち上る煙が見えた。
実を言えば火事自体はどうでもいい。……まぁ、当事者にしてみれば大変なことなんだろうけど、問題は火を付けた人間――反乱軍の兵士がいるはずだ。
火を付けたのは多分、見せしめでしょう。言うことを聞かなければ次は村人が犠牲になる。
さすがに私も失った命までは復活させられない。そういう魂を食べるのもちょっとだけ気が引けるし……。
そんなことを考えながら森の中から村に突入すると。
「……え?」
そこには山積みになった気絶した兵士達の天辺で、仁王立ちして得意そうに腕を組む恩坐くんの姿があった。
*
「こんな辺鄙な村で聖女様にお助けいただけるたぁ、ありがてぇこってごぜぇます」
「亡くなられた方がいなくて良かったわ」
到着する前にあっさり片が付いた訳ですが、現在私は、村長さんと村の皆さんから歓待を受けております。……畑の真ん中で。
いや、村長さんの家も燃えちゃったから仕方ないんだけどさっ。もうちょっとだけ何とかなんなかったのだろうか。おジャガも貰ったけど。
ちなみに怪我した人はそれなりに居たけど、全て私が癒しておきました。その喜び具合はいまだに村民が頭を下げて平伏している様子から見て取れます。
……別に私を見てもいいのよ? 怖がっている訳じゃないのよね?
「所で村長さん、兵士達が何をしていたのか分かりますか?」
「んだぁ、是非とも聖女様にお伝えしてぇことがあっただっ。うちの村さぇ、カロー子爵さまにずいぶんと良くして貰っただぁ。だからぁ、あいつらが何を言ってきてもぉ、ぜってぇ、言わねぇって」
「えっと……?」
訛っている上に話が長いっ。うちの【神霊語】翻訳さん、性能良すぎでしょうっ! なんで訛りまで的確に翻訳しちゃってるのっ?
「フォルト様の奥方様がぁ、こっちさ来てるらしくて、あいつら探してただぁ」
「ふぁ!?」
フォルト様ってお父様よね? つまりお母様がこっちに来ていて、反乱軍はそれを捜していると……。
「全員っ! 即座にお母様の下へ向かいますっ!」
私の掛け声に全員が一斉に動き始めた。
いや、『全員』と言ったけど村人達は動かなくていいのよ!? 鼻水垂らしたガキんちょが駆けずり廻ったり、枯れ果てたお爺ちゃんが鍬を杖代わりに持ってヨボヨボと動き出している。
「お嫁さん、飯はまだかいのぉ……」
誰かっ! お爺ちゃんに早くご飯をっ!
『落ち着け』
ペちっと、リンネに肉球で叩かれて我に返る。ついでにお爺ちゃんちのお嫁さんでもない。
「あ、えっと、村の人達は村の復興をお願いしますっ! 兵士達は縛って監視しておいて下さいっ。私は従者達とお母様のところへ参ります、それでは、ごきげんようっ」
あっけにとられる村人達に早口で別れのご挨拶をした私は、従者達を連れて急いで村を後にした。
「それで、奥様の居られる場所に心当たりは?」
「え……」
ノアの冷静な言葉に、走っていた脚が停まる。ちなみに初速で時速300キロは出ていたので、それだけで森の地面が10メートルほど捲れ上がった。森の動物たち、ごめんなさい。
『あいつらに任せてみたらどうだ?』
「ん?」
リンネの声に下を見ると、クマとウサギのヌイグルミが私を見上げながら片手を上げていた。
『ガウガウ』
『…………』
何を言っているのか分からない。
「ギアスが、ユールシア様に近しい匂いを感じるって」
『ガウ』
何を言っているのか分からない。精霊語の翻訳もただの“鳴き声”までは翻訳してくれないのに、どうしてファニー達は分かるのでしょう?
「……近しい人?」
誰だろ? とりあえずそっちも気になるのでお願いすると、
『ガウガウ』
『……(こくん)』
ギアスと何か語り合っていた恩坐くんが、頷いて森の奥へと走り出した。
……あ、足跡が光ってる。【ラプラス】の“ウサギの案内人”モードになっているみたいだから、その方角で“何か”があるのでしょう。
再び走り出して数十分……。恩坐くんの短い脚だからそんなに速度は出ないけど、体感で数十キロほど移動すると、ノアとニアが私のほうへ寄ってくる。
「ここまで来れば、私でも分かります」
「うん。この気配って……フェル、ミン、サラかなぁ?」
「あの三人が居るの?」
どういう組み合わせなの? ファルとミンがお使いに出て、サラちゃんが護衛ってところかな? 近しい人って……ずっと一緒にいると体臭が似てくるのか。
「うん。多分、反乱軍の人間に襲われてる~」
「………」
早く言いなさい。
「では、私が先に行って、やってしまいましょうか?」
「うん、……いや、待って」
悪魔的な微笑みでのたまうノアの提案に頷き掛けて、慌てて止める。
どうも、生まれた時から側に居た人達がピンチになると冷静さを失うなぁ……。親しい人達から離れて悪魔寄りになっていた思考が、故郷に戻ってだいぶ人間寄りに変化している。
「人質に取られると拙いわね……。気配を消して不意打ちします」
速度を落とさず物音と気配を消して、私達は現場へと急行する。この中で一番隠密が苦手なのは私なので、これ以上は速度が上がらない。
……あ、見つけた。発見が早かったからか、五人の兵士達に囲まれてはいるけど、三人とも無事なようです。
……あまりの懐かしい顔に、ちょっと胸がキュンとした。
「止まって」
深刻そうだけど、絶体絶命という状況ではないみたい。すぐに飛び出そうとしたニアやティナを止めると、私だけがひっそりと近づいていった。
「私達は自分の意志で此処に居る。裏切り者のあなた達と一緒にしないでっ!」
「そうね」
だいぶ近づいたのに案外気付かれないのね。
「ユル様は負けないわっ! 絶対に帰ってくるんだからっ」
「うん」
何度か相づちを打っていたら、そこにいた全員がダラダラと汗をかき始め、静かにその顔が私の方を向いた。
「ただいま」
「「「出たぁああああああああああああああああああああああっ!!!!!」」」
私は秘境に出るツチノコか何かかっ!
思考形態は1部に近づいているかも。
次回、メイド達から知らされる驚愕の事態とは。





