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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第四章・素晴らしき腐った世界 【異世界テス編】

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閑話 地球編 囚われた時間 前編

 この話は、柚子がマツリに刺されてユールシアとして目覚めるまでの間の話です。

 時系列としては、ユールシアが地球に訪れ封印されている半年間の話になりますが、『ネタバレ倉庫』の一部の内容を取り込んだ話となります。




 どれだけ文明が栄え、町に光が溢れようと、“人”の居ない場所には“闇”がある。

 だが、何も無いように見えても、そこには確かに生命が溢れていた。

 夜を奏でる虫の音色。夜目の利かない鳥たちが枝で羽根を休め、小動物が落ち葉に紛れた木の実を囓る。

 そんな穏やかな“夜”が突如乱れた。

 虫の音が息を潜めるように一斉に音を消して、動物達が何かに怯えるように逃げ出していく。


 バチ…ッ!!


 何かが弾けるような……“何か”を強引にこじ開けるような音がすると、夜の色が一瞬で深みを増し、誰も居なかったはずの暗い森の中で、二つの小さな人影がそっと立ち上がる。

 一人は、キラキラとした豪奢な金の巻き毛の女の子。

 一人は、サラサラとした白にも見える銀髪の女の子。

 二人とも一目で上等と分かる、某所で見られるような似非ではない本物のメイド服を纏い、不思議そうな顔で辺りを見回すと、銀髪の少女が口を開いた。


「ねぇ、ここで合っているのー?」

「わたくしが主様の“匂い”を間違うはずがありませんわ。それに、方角は示しましたけど、ここまでの道中はあなたの力で来たのでしょ?」

「私だって、道が分かっただけだよー。でも、あの二人はやっぱり無理だったみたい」

「……それは仕方ありませんわ。二人が【吸収】と【解放】で後押しをしてくれなければ、私達だってここに来ることは難しかったでしょう」


 二人は先行して“こちら”に現れた。

 いかに巨大な力を持つ四人とは言え、気配だけを頼りに道なき道を力だけで渡るような真似は出来なかったからだ。


「でも“道”は確保出来ました。あの二人が追いついてくる前に、主様の所在を確かにしておきますよ」

「はーい」


 無表情とも思える落ち着いた金髪少女の言葉に、無駄に元気の良い無邪気な笑顔で銀髪の少女が応じる。

 この日、この夜……“邪悪”の脅威に曝されていたこの世界は、新たな二つの災厄を迎えることになった。


   ***


「ここもか……」

 四十万(しじま)勇気(ゆうき)は関西にある観光地の一つで独りごちる。

 十五年ほど前、勇気はこの国に巣くう“何か”に操られ、友人である少女と敵対する形となり、結果的に少女を死なせてしまった。

 勇気が手を下した訳ではない。だが、勇気と同等以上の能力を持つ彼女の“隙”を作ってしまった為だと勇気はずっと後悔していた。

 勇気は彼女に借りを作った。その場で仇を取ろうにも、彼女との戦闘で力を消耗し、彼女が死んだことで呆然とする友人を巻き込む訳にも行かず、仕方なく撤退した。

 だがその友人――恩坐は諦めていなかった。

 誰がどう見ても死亡し、葬式にさえ出たというのに、恩坐は“邪悪”に対する封印術式が解除されていないことから、彼女がまだ生きていると信じているようだった。


 時間封印封滅術式――【十二刻の砂時計】。

 未来において現れた“邪悪”を過去に封印し、十二年の時を掛けてその存在そのものを削り、消滅させる。

 あの時、彼女が本当に死亡していたなら、術式は解けているはずだった。恩坐が言うには、未来で現れる“本物の彼女”の封印を解けば、復活するはずだと言っていた。

 それが本当かどうか勇気に確かめる術はない。それでも友人の為……彼女に借りを返す為に、信じて戦うことにした。

 そして、自分を操ったあの“存在”を許す訳にはいかなかった。

 自分の誇りを傷つけ、彼女を死なせ、そして何より彼女が死んだことで悲しむ、最愛の妻の未来の為に、あの存在を元“勇者”として許せなかった。


 数ヶ月前、恩坐の話通りに“邪悪”がこの世界に現れ、即座に封印された。

 その時に邪魔を出来れば良かったのだが、さすがに元勇者でも数千人規模の退魔僧達を相手には出来ない。そこで勇気と恩坐は、封印を弱めるべく動き始めた。

 恩坐は仕事柄情報を集めていたが、過去の出来事からいまだに【御山】と呼ばれる団体から監視状態にある。

 情報収集には、真実を知ることを求めた二人の人物――二句之家と久遠家のバックアップも得て、勇気が実行部隊として動いていた。

 今も関東のとある寺院近くで、数百人規模の封印継続作業が昼夜問わず行われているが、邪悪を縛る封印はそれだけでなく、各地にある霊的力場の強い場所からも補強する為の術式が行われている。

 勇気は【勇者の秘術】による亜空間転移を使い、幾つかの場所を潰して浄化を行い、次の候補地としてこの地にも来た。


「さて……」

 何も真っ昼間から仕掛ける訳では無い。転移が出来るとは言っても、その情報を与える訳にはいかないので、襲撃後離脱する為に暗くなってからが望ましい。

 妻には買い付けや出張など色々理由をつけて出掛けているが、なんとなく妻には自分が何をやっているのか感づかれているかも知れない。それでも正直に話して心配を掛ける訳にもいかないので、明るい時間に出てきたが、少々時間が余ってしまった。

 そんな時は、現地のラーメンを食べると決めていた。妻の兄から“暖簾分け”をして貰い、これでもラーメン店の店主である。

 美味しいラーメンがあれば、妻の喜ぶ顔見たさにラーメンを買って帰ることもある。

「……これも修行の為だからな」

 誰にも聞かれていないのにどこか言い訳っぽい言葉を口に出して、勇気は少々ソワソワした仕草で、事前に調べていた有名ラーメン店を回り始めた。


「ん?」

 その途中、勇気は不自然な少女達を見かけた。

 観光地だけあって外国人観光客も多いが、十二~三歳で金髪と銀髪。それもこの国では滅多に見ない本格的なメイド服を着ているとなると、かなり人目を引く。

 そんな彼女達なので修学旅行らしき男子高校生にナンパされているようだったが、あまりそう言うことには関わらないはずの勇気は、慌てて“助け”に走った。

「こら君達、その子達から離れなさい」

「なんだよ、おっさん……」

 二十代半ばでも高校生から見れば“おっさん”である。

 それが気に障った訳ではないが、勇気が仄かに殺気を滲ませると、高校生達はすぐに顔を青くして立ち去っていった。


「ありがとうございました」

「おにーさん、ありがとー」

 二人の少女がすぐに形式上だけのお礼を言ってくる。

「……いや」

 勇気も特に感慨も無く短く返した。

 別に彼女達を助けた訳ではない。彼女達の落ち着き方やその人間離れした美貌から、どこかあの友人の少女と同じ雰囲気を感じて、高校生達を助ける為に思わず身体が動いてしまったのだ。

「ところで少々お尋ねしますが、そこの板に書いてある“ラボウメン”とはなんでございましょう?」

「……ラ()メン」

 まさかそんな穿った読み方をしているとは思わず、2秒ほど考え込んでから、勇気は呆然とその言葉を反復した。

「君達、ラーメンを知らないの?」

「ほほぉ、これが“らうめん”でございますか。以前、主様よりそのような料理があると聞いた覚えがございます」

「あははー。煮込まれたブタの怨念は感じるけどねぇ」

「………そうか」

 これだけ日本語が達者なのに、ラーメンを知らない観光客がいるとは思わなかった勇気は、銀髪少女の発言は聞こえなかったことにすると、ラーメン店店主として少しだけ説明してあげることにした。


「ここら辺のラーメンはお店によって結構違いがあって、土地柄であっさりとした上品なイメージがあったんだけど、実際はかなり濃厚で独特なんだ。もちろんあっさり味もあるんだよ。でも俺のお勧めはこってり味だな。鶏ガラをドロドロになるまで煮込んだ白湯スープがお薦めなので一回食べてみるといいよ。白湯だと博多の豚骨ラーメンが有名で、初めての人は独特の匂いで敬遠しがちだけど、慣れると結構癖になるんだよね。暑い地方でこってり味はどうかと思ったけど、麺の細さと硬さがいいんだよ。食べる時は硬めで注文して、味に飽きてきたら紅ショウガを入れるとまた変わった味がして、これも結構癖になるんだ」


「……さようでございますか」

 少しだけ饒舌になった勇気に金髪巻き髪の少女が言葉少なげに頭を下げた。

 もう一人の銀髪の少女はすでにその場から離れ、近くの修学旅行生や観光客相手に、どこかのコスプレ会場の如く写真を撮られながらポーズを決めていた。


   ***


「出たぞっ、“黒覆面”だっ!」


「ちっ」

 何カ所か襲撃をしていたせいか、勇気が術式を行っていた古い社を襲撃すると、想定したよりも多数の退魔僧が待ち受けていた。

「【ウインドストーム】っ!」

 夜の竹林に暴風が吹き荒れ、土や枯れ葉と共に退魔僧達を吹き飛ばす。

 それでもこの十数年に及ぶ幾度かの戦闘によって、勇気の攻撃魔法に対して氣で対応されるようになっていた。勇気もこの世界で生きることを決めてから手加減をするようになっていたので、大部分の僧達はまだ戦闘不能になっていない。

「奇妙な勤勉民族めっ」

 勇気の元の世界――テスの人間なら、スキルで軽減出来ないものはすぐに諦めるが、この世界はスキルが無い為か、手持ちの技能で様々な対抗手段を模索してくる。


「追い込めっ! 氣を使って包囲し、…ぐあっ」

「遅い」

 それでも勇気は、人間最強である人類の最終兵器【勇者】である。

 しかも生まれた時から血の滲むような修行を繰り返し、異世界の“邪悪”から異界の魔法までも習得し、今の勇気ならばテスにいる“異世界の勇者”であろうと互角以上に戦えるはずだ。

 身の丈ほどの大剣を軽々と振り回し、人間の数倍の速度で竹林の中を風のように駆け抜け、勇気は僧達を打ち倒していく。

「何人居るんだ? あまり魔力は使いたくないが……」

 勇気が殲滅するつもりだったなら、もう決着は付いていたかも知れないが、殺さないように決めていたせいで手間取っていた。

 魔力を使いたくないのは、消耗を嫌うよりもこの土地そのものに原因がある。

 退魔僧達はここを“霊的力場”の強い土地として、邪悪を封印する補助の為に利用していたが、ここはその“邪悪”の影響を受けて“魔素”が強くなった土地だ。

 そういう場所からは、魔物が自然に発生する可能性がある。勇気が魔力を多く使えば本当に魔物が現れかねない。そうなれば退魔僧の身も危ないのだが、今まで魔物など見たこともない彼らでは想像すら出来ないのだろう。

 出来れば土地を浄化して離脱したい。最悪は強引に浄化し、手の内を曝すことを承知で亜空間転移を使うか……と勇気が考え始めた時、唐突にそれが現れた。


『『『……っ!?』』』


 勇気だけでなく、退魔僧達も一瞬戦闘を忘れて動きを止めた。

 勇気も覆面の下で額に汗が流れる。

 竹林の奥……その果てしない暗闇の中から、とてつもない障気を放つ“邪悪”な気配が現れ、こちらに近づいて来るのが分かった。

 この気配の邪悪さは、勇気が過去に対峙した“邪龍”クラスを彷彿とさせた。

 今の勇気に勝てるか? あの時は勇気のパーティだけでなく、他の勇者パーティとも合同でなんとか倒せたが……

「来るっ!」

 その時勇気は、竹林の奥から頭部に生やした無数の蛇が竹林をなぎ倒しながら、何かが迫り来る様子を一瞬垣間見て、即座に行動を決めた。


「全員逃げろっ! 振り返るなっ! 死ぬぞっ!」


 それだけを叫び、勇気は僧達のことも振り返らず即座に離脱を始める。

 一瞬で見て理解した。アレは“まともな化け物”じゃない。勇気は無意識のうちに、勇者であった頃のように【鑑定魔法】を使用していた。

 その結果は【正体不明(アンノウン)】。それはその存在が、勇者である勇気よりも上位の存在であることを示していた。純粋な暴力と破壊の化身。あれを倒そうとするのなら、勇気が命を掛けなければならない相手だろう。

 後ろは振り返らなかったが、勇気の余裕のない叫びを聞いた僧達がバラバラに逃げ出すのが気配で分かった。逃げ切れるかは運次第だが、そこまで責任は持てない。

 まさか、邪悪の影響で魔物が出る可能性は考えていたが、あれほどの化け物が出るとは想像もしていなかった。

「……柚子を解放出来たら、倒すのを手伝って貰わないといけないな」

 アレが封印される柚子のせいなら責任を取ってもらおうと勇気は考えたが、誰のせいかと問われれば、それはある意味間違っていなかった。


   *


「逃げちゃったねー」

「……失礼ですね」

 気配を消していた銀髪の少女――ファニーが闇から現れそう言うと、金髪の少女――ティナが金色の蛇を巻き髪に戻しながら眉を顰める。

「やはり、本性を見せなくても良かったのではありませんか?」

 とある用事でここまで来ていた二人は、偶然この場所で強い魂を感じてそれを回収しようかと思ったが。

「こっちの世界は、女の子が戦う時には“変身”しないといけない“風習”があるみたいだよー?」

「……どこの情報ですか?」

「“てれぴ”って言うのでやってた」

「なら仕方ありませんね」

 あっさり納得したティナはファニーと本来の用事を始める。

 それはこの場に溜まっていた魔素を回収すること。瞬く間に綺麗さっぱりと辺りの障気ごと魔素を吸収し、二人は主に習った作法通りに手の平を合わせた。

「「ごちそうさまでした」」


 次元踏破で減っていた魔力を“間食”で回復させた二人は、気付かないうちに封印の弱体化を果たし、【御山】の退魔僧達は未知の魔物からなる“恐怖”を警戒をするようになり、結果的に勇気や恩坐の行動を助けることになった。




 次は恩坐編です。

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― 新着の感想 ―
テラ的に考察するとティナやファニーが真の魔王になる可能性もあった………のかなあ? 真神・東京を眠らせる為にファニーが魔王化!とか。 勇気くん、柚子が死んで凹んで弱々な美沙(小学生)を大人な知性と精神…
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