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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第四章・素晴らしき腐った世界 【異世界テス編】

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4-22 悪魔の罠 ②

今回で戦争パートは大体終わりです。


 




「ユールシアお嬢様、ノア殿とニア殿より連絡が入りました」


 おやつ替わりの蒸かした芋を持ってきたギアスのその声に、訳の分からない書類の山に芋版で決済をしていた私は顔を上げる。

「ん~…? 計画が進んだ?」

「そのようですな。大きな所では炎の勇者ミンキチが失脚し、戦場から離脱したそうです」

「へぇ……ずいぶんと早いね」

 確かにノアにそうするように命じておいたけど、もう少し掛かるかと思ってた。

「ミンキチと獣人軍が共謀している情報を流しましたが、どうやらキョージがその情報を使って、人類を裏切ったように見せたようですな」

「キョージかぁ」

 まぁ、あいつならそのくらいはやるか。

「でも、あの三人の勇者は、前風の勇者である勇気くん殺害の共犯者でしょ? そんな簡単に共犯者を裏切ったら自分も危ないのに良くやるわね」

「かなりの電撃戦で、有無を言わさず蹂躙したそうです。それでもミンキチには逃げられたようですが、大地の勇者カンゾーが追撃戦に入り、追っているそうです」

「なるほどね」


 カンちゃんにはノアを通じて、【魔宝石】を生成する薬品を与えてある。

 キョージでもミンキチでも、戦場の混乱に乗じて襲ってくれれば面白いことになるかと思っていたんだけど、カンちゃんは合法的にミンキチを始末するほうを選んだみたいね。

 あれが本当に【魔宝石】を生成する薬品だったらだけど……。


「それで戦場はどうなってるの?」

「獣人軍は、同じ闇の勢力であるダークエルフ軍とキョージの軍によって半壊し、獣人の将軍は討ち取られ、残った軍はダークエルフ軍に吸収されました。それでも勇者の一人が裏切ったことで人間の軍に混乱が生じ、カンゾーさえも居ない今、キョージが前線に出る羽目になっているようです」

「……そろそろかしらね」

「さようかと」

 残っていた蒸かし芋を口に突っ込みながら立ち上がると、ティナとファニーが衣装を持って現れる。

「どうぞ、主様」

「うん」

 衣装と言っても引きずるほど長い黒髪ウィッグを被るだけなんですけど。

「ファニー、あなたはミンキチとカンちゃんを例の場所まで誘導してくれる? ティナはその情報を恩坐くんに伝えて」

「はーい」

「かしこまりました」

「さあて、【魔王様】のお仕事を始めますか」


 私のその一言に【失楽園(ロストエデン)】にいる全ての悪魔が動き出す。

 バイトを含めても3000体近い悪魔が出払っているのに、ここにはまだ1000体以上の【上級悪魔(グレーターデーモン)】が残っていた。

 バイトの日給だって馬鹿にならないのですから、定額使い放題の社員を遊ばせておく訳にはいきません。


「ギアスっ!」


『グォモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』


 私の魔力を受けてギアスが人型から本来の姿である【魔獣・ベヒモス】へと変わっていく。………また無理矢理変身させると反動が大きいんだけど。

 ティナとファニーが【失楽園(ロストエデン)】の扉を開き、1000体を超える【上級悪魔(グレーターデーモン)】と山のように巨大な【ベヒモス】が再び人間界への戦場へ飛び出した。


 ……久しぶりに見る太陽が黄色いわ。


   ***


「………魔王だぁあああああああああああああああっ!!!」


 その存在が現れただけで戦場は恐怖と混乱に包まれた。

 炎の勇者の裏切りと大地の勇者の不在。

 ギリギリ均衡を保っていた戦争を嘲笑うかのようにさらに悪魔の軍勢が押し寄せ、巨大な獣が戦場を蹂躙する。

 だが人々は、数千体の悪魔よりも山のような獣よりも、たった一人の少女を恐れた。

 獣の頭上から冷たい美貌で見下ろす、黒い聖女……

 真の【魔王】が放つ押し潰されるような威圧感に恐怖した。


「みなさん、畏れないでっ! ユルちゃんはまだ堕ちてないっ!」


 だが、そんな戦場に響く少女の声があった。

 黒髪に黒い瞳。瑞樹と呼ばれる小柄な少女がそう声を張り上げると、その声に応えるように戦場のあちらこちらから声が上がる。

「そうだっ、我らが聖女様を救い出せっ」

「魔王め、聖女様を解放しろっ!」

 そのほとんどは一般兵士や民兵などであったが、それ故に数が多く、その勢いの強さからまるで気圧されるように、悪魔の軍勢が彼らを避けていった。

 そうなると恐怖に逃げ惑っていた兵士達も彼らと共に動くようになり、本来の軍の命令から離れていった。


 当然だがそれを良しとしない者も居る。


「何ですか、あの人間共はっ!」

 戦場の後方で地竜の背から戦況を見ていたネフルティアは、手に持った果実酒の杯を叩きつける。

 途中まで上手くいっていた。

 勇者の一人であるキョージと共謀して、お互いの政敵を陥れることに成功した。

 あとは魔王を倒しさえすれば、あの平和な戦争状態を続けることが出来ると、そこまでキョージと合意していたのだ。

 戦争が無くなれば一番いらなくなるのが【勇者】であり、奪う物が無くなれば困るのがダークエルフの王族である自分なので、その点に関していえばある意味、味方よりも信用していた。

 だが、あの【魔王】を倒せなければその全てが無駄になる。

 その為にはこちら側の軍を一纏めにして、使い潰すつもりで当たらなければ倒せる物も倒せなくなる。

「あの、戦場で叫んでいる小娘を殺しなさいっ、今すぐにっ」

「は、はいっ」


 それはキョージも同じ思いであった。

 その目的はネフルティアと違っていたが、あの瑞樹という少女とその仲間を邪魔に思い、何度か刺客を放ってはいたのだが、その全ては彼女の仲間達と、聖女の従者達によってことごとく邪魔をされてきた。

「……どこまで行っても邪魔をしてくれますね」

 あのずっと邪魔に思っていた【聖女】が邪悪に取り込まれた時、【魔王】と言う存在は計算外だったが、これで表だって始末出来ると内心ほくそ笑んでいた。

 だがあの聖女は、あんな存在になり果てたとしてもまだ自分の邪魔をする。

 やはり自分が直接手を下すしかないかと腰を浮かしかけたキョージの元に、部下の一人がそっと話しかけてきた。

「どうした?」

「フィヨルド殿下が到着なさいました。直接ご伝言したいことがあるとか」

「殿下が? この戦場に?」

 普段感情をあまり出さないキョージも思わず問い返す。

 この戦場に王族を出している国もいるが、セイル国の第一王位継承者である10歳の少年を国が出すとは思えない。

 おそらくはユールシア姫に好意を持つ殿下が周囲の反対を押し切り、それを姉のビアンカが後押しする形でこちらまで来たのだろう。

「そうか……」

 キョージが口の端だけに笑みの形を作る。

 元よりあまり期待していなかった策の一つであったが、ここで上手く誘導すれば、あの瑞樹という少女も、殿下も、ユールシアも纏めて始末出来るかも知れない。

 そうなれば、この世界の富も名声も地位も全て得ることが出来、あとはじっくりと計画を推し進めることが出来る。

「それでは、殿下にこちらにお連れしろ。くれぐれも丁重にな」

「はっ」

「キョージ様っ!」

 その時、キョージの居る本陣の天幕に兵士の一人が駆け込んできた。

「どうした、騒がしいっ」

「あ、悪魔どもの軍勢が、我らに向けて一斉に攻撃を仕掛けてきましたっ!」


 何があったのか、何が起こったのか、まるで最前線の兵達を無視するような形で、悪魔達がキョージ達の居る本陣へ一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 確かにこちらの軍を襲うという情報は得ていた。だが、キョージはそれを逆手に取りその攻撃を獣人軍へと擦り付けて、裏切り者の汚名まで着せた。

 それがまるでキョージに恨みでも持つかのように、またこちらへ攻撃を仕掛けてくると聞いて、キョージの部下達も落ち着きを失い始める。


「キョージっ!」

「殿下っ」

 そして運が悪くと言うべきか、フィヨルドが到着する。

「殿下、ここは危険です。私と共に下がりましょう」

「何を言っているっ! ユールシア姫が囚われているのでしょうっ、勇者であるそなたが下がってどうするのですっ」

「……はっ」

 誰に何を吹き込まれたのか、黒に堕ちた聖女を救おうとする殿下の言葉に、キョージはわずかに眉を顰めた。

「そう言えば殿下。私に伝言があるとか」

「あ、そうだっ。姉上より伝言です。例の場所に勇者が向かっている……と言っていたのですが、何のことですか?」

「…………」

 キョージは思いがけない内容に沈黙する。

 ビアンカには国盗りの共犯者としてある程度の知識を教えてある。だが、具体的なことまで伝えている訳でもなく、ビアンカの役目は、キョージがセイル国を乗っ取るために必要な【血】の持ち主である以外の意味はない。

 そんな彼女が、国元にいながら勇者達が【例の場所】に向かったという情報をどうやって知ることが出来たのか?

「殿下……その伝言を聞かされたのはいつのことでしょうか?」

「え? 魔力嵐の外にいた今朝のことです。姉上は通話の魔道具を使いたかったようですが、魔素が荒れていて通話出来なかったらしいのです」

「そうですか……」

 直接問いただしたいところだが、今フィヨルドが言った通り、【魔王】が現れてから魔力嵐のようなものが発生していて、この戦場では通信系の魔術がほとんど使用不可のような状況になっている。

 疑わしいことに変わりはないが、もし本当にそこにあの二人が向かったというのならば、キョージにとって全ての計画が無に帰りかねない事態だった。

(………潮時か)

 以前、地球で主であった男を裏切った時のように、キョージはあっさりと人類を切り捨てる決断をして、脳内で計画の修正を行う。

 勇者としての名声も地位も、以前は求めていた物であったが、今のキョージからしてみれば単なる通過点に過ぎないのだ。

 どのみち、このままでは悪魔の軍勢に押し切られるのも時間の問題であり、状況に流された結果としては面白くないが、タイミング的には悪くない。


「では、殿下。ユールシア姫の説得をお願いしてもよろしいですか?」

「ええ、もちろんですっ!」


 そしてキョージは自国の王子を囮として、数名の部下と共に戦場を離脱した。

 目指す場所は闇の勢力の拠点。大空洞の中心にある古い城。


 三人の【勇者】が戦場から居なくなると、見捨てられた人間や闇の勢力の者達は悪魔の軍勢に押されて窮地に陥った。

 その半壊する軍を支えていたのは、各国の将兵達ではなく、瑞樹という少女とその仲間達を中心とした、聖女を救い出そうとする勢力であったが、それでも徐々に悪魔達に追い詰められていった。

 このまま人類軍は悪魔の手により倒されてしまうのか?

 だがその危機的窮地を救うために軍を率いて現れた者が居た。それはこの戦場で忘れられ、最初にこの国を占拠して籠城していたはずの、ダークエルフの幼い双子の姫達であった。

 

 

次回より、【勇者】vs【悪魔】の決戦が……始められるといいなぁ。

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― 新着の感想 ―
久しぶりに見る太陽が黄色いわ > 一体どれ程の書類に芋版を捺していたのか…………。お疲れ様です、ユルさま! 普通の芋版ならそんなに数は捺せないだろうから、その数だけでも凄そうだな。何個の芋を潰したんだ…
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