4-21 悪魔の罠 ①
現在風邪がぶり返して朦朧としており、あとで少し書き直すかも知れません。
真の【魔王】と言うこの世界始まって以来の脅威を受け、闇の勢力軍と光の勢力側との会談が行われることが決まった。
闇の勢力側は、ダークエルフ王族の第一王女ネフルティアと獣人族の将軍。
光の勢力側は、その全権を委任された勇者、キョージ、カンゾー、ミンキチの三名である。
その他に勇者のパーティメンバーや、ダークエルフや獣人の騎士なども来ているが、どちらも20名までと決められていた。
場所は防衛線の近く、周囲数キロは何も無い平原に設営された天幕で行われ、事前に両軍によって下調べもしてあるので伏兵などは隠れようもない。
「初めまして勇者様、お会い出来て光栄ですわ」
まず最初に、ダークエルフ随一の美姫と自他共に認めるネフルティアが、自分の美貌を前面に押し出すように口火を切った。
ただでさえエルフ族は美麗な者が多く、そのエルフでさえ見蕩れるネフルティアの満面の笑みを向けられれば、小国の将軍程度なら瞬く間に絆されていただろう。
「これはご丁寧に。噂に違わぬ美しき姫にお会い出来て、嬉しく存じます」
だが、水の勇者キョージは顔色一つ変えずに微笑みだけで受け流した。
この会談に限っては相手が悪すぎた。
キョージは女性の美しさなど道具の一つとしてしか見ておらず、カンゾーにしてみても、このように女の美しさを交渉に使うような者は侮蔑の対象であったし、ミンキチからすると、モテる女は初めから爆殺対象であった。
「まぁ、お上手ですこと……」
だがネフルティアは一瞬で意識を切り替える。この場での交渉相手と言える“敵”は、このキョージだけであると考え、彼を落としに掛かった。
奸計に長け、疑り深いダークエルフ。その王族であるネフルティアは、その策略と話術で幾多もの政敵を闇に葬ってきたのだ。
この会談の目的は一時的な休戦協定を結ぶことだが、それがいつまでか、問題が起きた場合どうするのか、未知の敵にどこまで協力体制を得られるかが議題となる。
最悪決裂するとしても、干渉無しの休戦だけはしなければいけないのはお互い分かっているが、出来れば人間側としては個々の能力が高い闇の勢力軍を弾避けに使いたく、ネフルティアも食料や物資などを有利な条件で提供させたいと考えていた。
様々な条件を決める話し合いの中で、他の勇者や獣人の将軍も意見を出すが、話し合いが進むと、ネフルティアとキョージが自然とその場を仕切るようになる。
「冗談じゃないわっ! 同時行軍はともかく、あんたに協力するのはごめんよっ」
カンゾーがテーブルに拳を叩きつけるようにして立ち上がる。
共に【魔王】に立ち向かうには、ある程度の協力体制を兵達に見せつけなくてはいけない。口で言っても長年続いてきた確執はそう簡単に拭えるものではないのだから、兵達の不安を取り去るためには作戦上必要なことであった。
だがカンゾーはネフルティアを信用出来なかった。それは個人的な感情によるものが大きかったが、ある意味“女”の勘なみに当たっている。
「なら、あたしがやるよ」
この場で一番協力的ではないと誰からも思われていたミンキチがそう言った。
「……あんたが?」
「なんだい、カンゾー。あたしはあんたと違って我が儘なんて言わないさっ。あんたもそう思うだろ、おっさん」
「……そうだな。ミンキチ殿なら私が横に立とう」
ミンキチに話を振られた獣人の将軍が、ニヤリと笑い相づちを打つ。
「あんたら……」
カンゾーは信じられないものでも見るように二人を睨め付ける。
どことなく不自然さは漂うが、北の勇者であるカンゾーは勇者の中で一番、闇の勢力との戦闘経験があり、カンゾーに煮え湯を飲まされたこともある将軍が、この非常時にカンゾーが協力的ではないと貶めようとしているようにも思われた。
しかも種族間の問題を超えて人類の未来のために戦おうとするのを、カンゾーが感情だけで妨げているようにも見える。
言いたいことは山のようにあるが、結局理論立てた説得が不可能だと感じたカンゾーが黙り込むと、ネフルティアとキョージが一瞬だけ視線を交わして、休戦協定と協力体制締結の締めに入った。
「……みんな頭がおかしいんじゃないの?」
会談が終わり、自分の天幕に戻ったカンゾーが苛つくように艶やかな髪を指で掻く。
キョージとネフルティア。ミンキチと将軍。
最初はギスギスとした雰囲気もあったが、それぞれが不気味なほどあっさりと意見をすり合わせて、まるで最初から決まっていたかのように会談を終えた。
違和感が消えない。だが異議を申し立てても現状ではカンゾーの地位を危うくするだけで、何も変わりはしないだろう。
人類の未来のために遺恨を払い協力する。それに逆らうのは“悪”だ。
「……あの二人が何を企んでいるのか」
カンゾーは闇の勢力側を疑っているのと同じくらい、キョージとミンキチを信用していなかった。
裏に何かある。だが、それはいつ決まった? 彼らは初対面のはずだ。
誰か、裏で手引きした者が居るのか……?
「カンゾー様、面会したいという者が……」
「……いま?」
天幕の外から掛けられた部下の声に、考えを邪魔されたカンゾーが眉を顰める。
勇者であるカンゾーには四六時中面会したいという者が途切れることはない。だからこそ、ほとんど断っている面会をカンゾーに伺うのは、よほどの人物だと思われた。
「なぁに? どっかの王族?」
それでも大したことはないだろうと不機嫌そうな声を出すと、すでに連れてきていたのか、外から英雄クラス以上の強い気配が感じられた。
「聖女様の従者、ノア殿がお出でになっています」
***
「えっと、……これ、魔王(仮)の仕事じゃないよね?」
「ユールシア様、がんばって」
ファニーが煎れてくれるお茶を飲みながら何をしているのかと申しますと、大量の書類を決裁しております。
「……多すぎるでしょ」
簡単に説明すると、色々勝手に動いているノアに詳細の説明を求めたところ、大量の書類が届いたでござります。
その数、数百枚。これが全部同時進行で行われているノアの悪巧みらしい。
それに目を通して、やっちゃダメなのをバツを付けて、良い物には芋版を押して決裁しているのですよ、って、なんで芋版なんだよ。
しかもこのインクっぽい黒いのって、ダークエルフの血じゃないでしょうね?
確かに計画のほとんどはノアに任せちゃっているんだけど、余計な物まで色々混ざっているから他人任せにするとえらい目に遭う。
なんだこの【新鮮ミルク牛チチ獣人牧場計画】って、却下だ却下っ!
「……お嬢、俺を労ってくれてもいいんだぜ?」
人型になった恩坐くんがまた大量の書類を抱えてやってきた。
ここ数日、ノアとの伝書鳩のようなことをさせているので、恩坐くんもどこかやつれたような気がしてる。
「……あとで、獣人国産の乳酒にタコスルメ付けるわ。それと、ノアとニアに計画の第二段階を至急進めるように伝えて」
「はぁ~……了解」
私の最大限の譲歩に恩坐くんは溜息を吐きながら仕事に戻っていった。
でも……
「……恩坐くんは、うらぶれた哀愁漂う背中がよく似合うなぁ」
「ほんとだねぇ」
そして私の仕事はまだ終わりそうもない。
***
光の勢力と闇の勢力軍が再編成したのを見計らったように、悪魔達が両軍に襲いかかってきた。
その数、およそ3000体。
両軍合わせて百万を超える軍勢に対して少なすぎる数に見えたが、魔法を自在に扱う悪魔は、一体の【下級悪魔】でさえも一般兵士十数人分に匹敵する。
だが、物理攻撃をほぼ無力化出来る悪魔でも、この数の差なら人間側の勝利に終わっただろう。
問題は【上級悪魔】だ。
悪魔は階位ごとに能力が段違いに上がっていく。
特にこの場にいる【上級悪魔】は特殊な依り代を用いて“顕現化”させた特殊個体であり、粗食に耐えて徹夜でも働く真面目な企業戦士なのだ。
悪魔の戦闘力を魔力とイコールとして考えると、【下級悪魔】は500前後。
一段階上の【上級悪魔】で2000~3000だ。
対してステータスが10前後の一般兵士は、スキルの恩恵があっても50~100。
ステータスが戦闘の全てではない。実際に【上級悪魔】が出たとしても、騎士と指揮官が居る30名以上なら押さえ込めるだろう。
だがこれは戦争なのだ。
いくら数で圧倒していると言っても戦争で直に戦うのは最前線にいる数万人程度で、10対1程度の戦力差では傷すら付けられない。
人間側にも【上級悪魔】を単独で倒せる、特殊な力を持った【英雄クラス】が存在しているが、その英雄クラスも各国に数名しかいないのに対して、【上級悪魔】が1000体も居る状況では劣勢は免れなかった。
それでも人類は諦めなかった。
獣人将軍率いる闇の勢力軍と炎の勇者たるミンキチが、悪魔軍に中央から果敢に攻め入り、数百体の悪魔を討ち取り打ち破ったのだ。
だが……それには理由があった。
「ねぇ、ノアきゅん? その情報は間違いないの?」
大地の勇者カンゾーが二メートルの巨体をくねらせながら、ほんのりと頬を染めて、十代半ばの執事服の美少年に問いかけた。
あまり見ていて気持ちの良い物ではないが、二人掛けのラブソファに腰掛けたノアは優しげな微笑みを浮かべながらも、カンゾーの手の甲にそっと指で触れた。
「私の言葉が信じられませんか……?」
「い、いえっ! そうじゃないのっ、あなたのことは信じてるわっ」
ミンキチと獣人将軍には、とある筋から、悪魔軍が中央を手薄にしてでもある場所へと攻め入る兆候があると言う情報がもたらされていた。
その場所とは、水の勇者キョージとダークエルフの姫ネフルティアの陣営だ。
本来その情報の裏付けが取れたのなら、逆に悪魔軍を罠に嵌め打撃を加えるべく勇者と英雄クラスを集めて迎え撃ったであろう。
ミンキチと獣人の将軍はそれを知りながらも、“とある人物”の仲介で手を組み、この機に政敵を始末しようとしていたのだ。
その情報は、カンゾーも側近の騎士――あのエルダーリッチのダンジョン以来、まるで人が変わってしまったように真面目になった者達で裏も取っている。
カンゾーは浮かれていた。
昔、恋をして拒絶された、あの先代風の勇者以来の“恋の予感”を感じていた。
「だとしたら、ミンキチの奴は許せないわねっ」
カンゾーとしても出来ればあいつらには消えて欲しいが、その情報をわざわざ持ってきてくれたノアの手前“ぷんぷん”と怒ってみせる。
「本当にそうですね。だとしたら……、ああそうそう、カンゾー様にお渡ししたい物がありました」
「あら、何かしら?」
カンゾーの言葉にノアは妖艶にも見える笑みを浮かべ、懐からポーションのような液体の入った瓶を取り出し、カンゾーの両手を包み込むように渡した。
「……これは」
それを見たカンゾーの顔がわずかに引き締まる。それはカンゾーが黄金の聖女に依頼していた物。
「あなたの夢を叶える、魔法のお薬ですよ」
ナンバー1ホストです。
次回、麗しの勇者に迫る悪魔の罠とは。





