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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第四章・素晴らしき腐った世界 【異世界テス編】

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4-20 魔王 ③

 主人公不在。なので真面目です。

 

 




 人間側の連合軍が撤退という形で防衛線を下げて各部隊の再編成が行われると、混乱は一時的になりを潜め、次第に落ち着きを取り戻した。

 あれほどの惨事にもかかわらず人的被害が最小であったこともある。

 それでも安堵して眠れる訳もない。

 あの【黒い聖女】となった存在は、本当に真の【魔王】なのか?

 それを目撃した者達は、それを“魂”から相容れない存在だと恐怖し、各国の軍も、散発的に襲撃される脅威に曝され、本国まで撤退することも出来ずに戦場に釘付けにされた。


 闇の勢力軍の事も忘れてはいけない。

 本来の敵であり、彼らと戦うために各国の兵は集められた。現状目の前の【悪魔】と言う敵に目を奪われ、背後から闇の勢力に奇襲を受けるのではないかと、国家連合軍は警戒していたのだ。

 だが、悪魔達の軍勢は、国を占拠していた闇の勢力軍にも襲いかかったらしい。

 現在は王城に立て籠もり籠城戦のような状況になっているようで、一瞬安堵しかけた各国の上層部は、新たにもたらされた情報に息を飲む。

 こちらには気付かれず、闇の勢力側から大軍とも言える援軍が恐るべき速さで迫っていた。

 だが悪魔達は、彼らも見逃しはしなかった。

 闇の勢力側から人間の住む場所まで来るには、迷路のような洞穴を通らなくてはいけないが、彼らは夜目が利くとは言っても、悪魔のように完全な闇でも目が見える訳ではないのだ。

 暗闇の中で襲撃された闇の勢力軍は瞬く間に半壊し、散り散りとなって人間国家側へと、まるで誘導されたように流れてきた。

 その数は数十万。人間国家軍よりも遙かに少ないとは言え、闇の勢力側の兵士は能力が高く、部隊が再編成されればすぐに人間国家への脅威となるだろう。

 種族、国家の最大の怨敵。数千年戦い続けてきた憎むべき敵。

 それは彼らにとっても同様のはずで、臨時に引かれた防衛線ではいつ戦闘が開始されてもおかしくない緊張状態が始まっていた。


 だが、今もっとも警戒し、速やかに対処しなくてはいけない相手は【魔王】とその軍勢なのではないのか。

 今はまだ、悪魔の軍勢が散発的にしか攻撃をしてこないので、膠着状態を維持出来ている。だが、悪魔軍が総攻撃を仕掛けてきたら、どちらも迂闊に動けず、何も出来ないまま壊滅する恐れがあった。

 ならばどうするか?

 各国の指揮官が集まり会議を行ったが、大国は自国の利益と利権を求め答えは出ず、小国は自国の戦力に損害が出ることを厭い大国に責任を押し付けようとした。

 答えのでない平行線。そんな時、闇の勢力側に接触を試みていた国家連合軍作戦司令部セフィラ配下の密偵が、闇の勢力側首脳陣に会談する意志があると言う情報を持ち帰ったのだ。


 その早い展開を警戒する者もいたが、現状ではそれがもっとも最善手であることも確かで、最悪でも【魔王】をどうにかするまで停戦できればと希望を抱き、早速密使による会談の準備が行われた。

 それでも問題はあった。

 闇の勢力側が指定してきたのは、防衛線の中間で、少人数のみでの会談である。

 出来ればこちらに呼び寄せたいが、長い諍いの歴史がある以上、相手がそれを承諾するとは思えない。

 当初、会談には各国の上層部が利権を主張するために席を得ようと画策していたが、少数でも身体能力が高いダークエルフや獣人が相手では、威圧されて一方的な条件を呑まされる可能性もあった。

 そこで各国の上層部は会議の末、三人の【勇者】に全権を与え、彼らに人類の未来を託すことにしたのだ。


「……面白くないわ」


 自分用に割り当てられた天幕の中で、セフィラが苛立つように爪を噛む。

 突然現れた【魔王】と言う不確定要素。

 確かに魂が震えるような恐ろしさを感じたが、同時にこれはチャンスかとも考えた。自分が導いた【勇者】達が【魔王】を倒せば、勇者の力と影響力が増し、セフィラの計画はまた一段階上へと進めるはずだ。

 自分の真の理想の世界を創る。ただそれだけの為にセフィラは女の振りまでして、人々を誘導し、時には導き、勇者達が本当の【勇者】となれるように進むべき道を示してきた。

 気にくわないのは、自分の意図から外れた存在が居ること。

 そのうちの一人は、【黄金の聖女】と呼ばれる少女だった。ごく稀に地球以外の異世界人も召喚されることはあったが、あれほどの影響力を有し、何の見返りも求めていない人間など今まで存在しなかった。

 だから少しだけ退場して貰おうと考えていたが、彼女はセフィラの意図を離れて行方不明となり、次に見た時には何かに取り込まれ【魔王】と呼ばれていた。

 そのたった数週間の間に何が起きたのか? 

 分からない。だから面白くない。

 自分の計画を乱す可能性がある“イレギュラー”は気にくわない。


 闇の勢力と光の勢力との停戦は送り込んでいた密偵がセフィラの役に立とうと取り付けたもので、ある意味セフィラの目指していたものに近いが、一時的では意味がない。

 人類が平等で公平な世界を築くには、まだそこまで成熟していない。

 だからこそ、人類にはセフィラの計画が必要なのだ。

 その為には、こんな所で中途半端に和平してしまっては、人類を導く【真の勇者】にまで成長しなくなる。


「………あれが使えるか」


 一般兵士達や民兵達の間で、ある動きがあった。

 それはあの【黒い聖女】の悲しみを見たと言う兵士達から始まり、一部の英雄クラスからの支持もあって、『聖女様を魔王の呪縛から救いだそう』という試みが動き出していたのだ。

 その中心には、数名の若者達が居た。

 彼らには中心に居るつもりはないのだろうが、地球から召喚された彼らは聖女に保護されて、この世界で生きるための術を教わっていたらしく、彼ら四人が聖女を助けたいと戦場に出て健気に頑張っている姿を見て、兵士達は心打たれたように同調する者が徐々に増え始めていた。


「申し訳ございません、少々よろしいですか?」

 兵舎で兵士達の手当をしていた小柄な少女にセフィラが声を掛けた。

「…えっ、私ですか?」

 どうやら水魔術の使い手らしく、聖魔法ほどではないが水魔術で傷口を洗い、毒素を消し、傷口を覆って治癒を促進させるような、手際よい手当をして兵士達には慕われているような少女だった。

「はい、確か、ミズキさん…でしたか?」

「……ああ、確かユルちゃんとお話ししていた、国連の人…」

「はい、セフィラと申します」

「あ、瑞樹ですっ」

 二人はペコペコと、どこかの国のサラリーマンのようにお辞儀しあう。


 セフィラはその瑞樹という少女をジッと観察する。

 見るからに気弱でお人好しそうな少女。でもその瞳の奥には強い輝きのようなものが見えた気がした。【上位鑑定】のスキルを使い確認してみると、この世界に召喚されてから一年も経っていないのに、聖女によって鍛えられたのか、スキルこそ少ないけれど“特化型”のような高いステータスを保持していた。

 本人の資質もあるのだろう。セイル国では【勇者】の素質は無しと判断されたそうだが、セフィラから見ると“英雄クラス”程度の素質はあった。

 他の三人もそれなりに鍛えられているようだが、この瑞樹という少女が頭一つ抜きん出ている。


「あ、あの……何のご用ですか?」

「そうですね。……これだけの治療をお一人で行っていたのですか? MPも大変でしょうに」

「い、いえ、ちゃんとお医者様も居ますし、一人じゃないですよ。それに、ユルちゃんから、効率的に魔術が使えるようにかなり特訓されましたから」

 スパルタ軍のような特訓だったみたいで、瑞樹はそれを思い出したかのように冷や汗を流している。

「そうですか、彼女は残念でしたね……」

「大丈夫ですっ! ユルちゃんが負けるはずありませんっ! 私達が絶対に助け出してみせますからっ!」

 突然人が変わったように聖女を救うと言い切った瑞樹に、セフィラの目が丸くなり、そんな瑞樹を周りの兵士達が優しい瞳で見つめていた。

「そう……ですか」

 セフィラは優しく微笑むように瑞樹を見つめながら、これなら使えるかと確信する。

 人々を正しく導くもの――それは正しい【勇者】の資質の一つだ。

 それは、今居る勇者達がただ一つ持っていないものでもある。


「ユールシア様を救う術がある……と言ったらどうしますか?」

「えっ!?」

「どうぞ、こちらへ」

 思いがけない言葉に驚く瑞樹を、セフィラが兵舎の外に誘い出す。

「え、あの、どういう事ですかっ」

「今のあなたではユールシア様を救うことは、……いえ、他の三人の勇者様でも難しいでしょう」

「で、でも、」

「ですが、あなたには秘めた力が有ります。聖女であるユールシア様に育てられたあなたなら、それが出来るのです」

「そう、なのかな」

 セフィラの声を聴き、その瞳を見つめる瑞樹が、具体的な説明もしないセフィラの言葉を信じ始めた。

 セフィラの言葉は正しい。セフィラの言うことなら信じられる。

「で、でも…」

「大丈夫ですよ。新しいスキルを得れば、すぐにあなたは強くなる」

 それでもわずかに疑問を感じている瑞樹に、セフィラは少しだけ眉を顰めた後、また優しげな微笑みを向けた。

(……鑑定に表示されない、奇妙な精霊(・・・・・)の加護でも受けているのかしら)


 勇者は光の精霊の加護を受けて、【勇者】と言う称号を得て勇者となる。

 例えばキョージの場合は、その他に水の大精霊からも加護を得ているが、それは鑑定には表示されない。


「さあ、私を受け入れて。あなたに相応しいスキルを与えましょう」

「………わたし…」


「ご歓談中失礼いたします」

「っ!?」

 それまでまったく他の気配を感じなかった空間で、突然声を掛けられたセフィラが数メートル飛び下がった。

「あ、あなたはっ」

「……あ、ノアくん」

 一瞬キョトンとしていた瑞樹が、ユールシアの美少年執事が居ることに気付いて暢気な声を漏らした。

「あ、そうだっ、ユルちゃんはまだ、」

「はい、我々も手を尽くしていますので、しばらくお待ち下さい」

「うん……」


「…………」

 突然邪魔をして瑞樹と会話をし始めたノアに、セフィラが奥歯を噛みしめる。

 聖女の従者で護衛であり、おそらく直接戦闘を行っていた人物。

 ユールシアの【聖女】としての力の幾つかは、この従者達の力だとセフィラは考えていた。だからこそ、彼らをユールシアから引き離したのだ。

 この従者のことはそれなりに警戒していた。だがそれは従者が四人もいたからだ。

 おそらく英雄クラスであろう四人の従者を引き連れていたからこそ、ユールシアは聖女として勇者並の戦力を得ていたのだろう。

 だが、今はたった一人。しかもセフィラの能力は女性よりも男性のほうが効きやすい傾向がある。


「ノア様、あなたにお願いがあります」

「はい、何でしょうか」

 親しげに微笑みかけるセフィラに、ノアもニコリと微笑み返した。

 ブルネットのさらさらとした柔らかそうな髪。まだ十代半ばだと言うのに、見つめているだけでも目眩がしそうな冷たい美貌。

 人間に性的興味を失ったセフィラでも意識が白く濁りそうになり、そんな頭に掛かる靄を振り払ってノアと見つめ合うと……ノアの瞳の奥――そこに漆黒のマグマのようなドロドロとした【闇】を見た気がしてセフィラのほうから視線を外してしまった。


「……い…え、なんでも…ありません」

「そうですか。こちらの瑞樹様を含めた方々には、我が主の教育方針がありますので、あなたがお力になりたいのも分かりますが、しばらくはご遠慮していただけますか」

「……………」


 ノアがゾッとするような笑顔を残して瑞樹を連れてこの場を去り、セフィラは彼らの姿が見えなくなった後に、どっと全身から冷たい汗が吹き出すのを感じた。

 

 

 ノアは他の三人と違い、出番を増やすといきなりノア無双が始まるので難しいのです。


 次回は、勇者達の動きです。

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セフィラの、ユルさまには効いてたっぽいのにノアには効いてない? 
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