4-10 迷子になりました ①
私達を含めた各国の勇者一行+αは、明日この国を離れてバラバラに戦場に向かうことになりました。
何故バラバラかと言うと、勇者同士の仲がよろしくないからでございます。
どうしようもねぇな。
本来なら“調停役”じゃないけれど、ある程度勇者達の間を取り纏める人が居るらしいのですが、どうやらまだ到着していないハッコーの“風の勇者”の動向を調べているので到着が遅れているみたい。
あの勇者達を取り纏められるなんて、凄いなぁ……。
ホントだったら今日の朝に出発だったのですよ。
でも、結局風の勇者が来なかったのだから仕方ない。勇気くんの後釜だというのに、真剣味が感じられない。
まぁ、一年前に召喚されて当時は中学生だったらしいから、この世界を守る勇者として自覚を持てと言われても、あまり実感無いのかもねぇ。
と、思っていたら、妙なところから情報が届いた。
「ユールシア様、リヒャルドより伝言が届きました」
あの北にあるドワーフの集落で、ダンジョンマスターをやっていたエルダーリッチのリヒャルドくんから、どういう伝手か知らないけどノアに伝言が届いたそうな。
『ハッコーの勇者は、ハニートラップに引っかかりました』
「………んん~?」
……どういうことでしょう?
正直、意味が分からない。そんな思いを込めてゆっくりノアに振り返ると、公爵家で支給された上等の執事服をきっちり着こなしたノアは、華麗な仕草で恭しく頭を下げてから、意味ありげにニヤリと笑う。
「ダンジョンマスター協会所属メンバーの孫娘に、偶然一目惚れしたようです」
「………」
本当にただの偶然じゃねーか。
何を『計画通り』みたいな態度を取ってるのよ。
ダンジョンマスターには魔物以外に人間とかもいるみたいなので、そんなこともあるのでしょう。それに地球の男の子はエルフに妙な憧れがあるらしいのです。
「リヒャルドを含めたダンジョンマスター協会のメンバーは、この機に風の勇者に攻勢を掛けるそうですので、任せても宜しいかと。このせいで当のダンジョンマスターは、かなりの経費を使ったようですが」
「………そうね。とりあえず金貨100枚くらい、その孫娘のお爺さんかお婆さんに、経費として振り込んでおいて」
「かしこまりました」
これで振り込み詐欺だったら目も当てられない。
何だか良く分かりませんが、私的には風の勇者くんには興味はないので、私のやることに関わらないようにしておいてくれれば問題ありません。
そう言えば、風の勇者くんに強盗されたダンジョンマスターが居たんでしたね。恨みもあるでしょうし、そちらはダンジョンマスター協会に任せておけば良いでしょう。
ぶっちゃけ、その場の思い付きでダンジョンマスター協会を支配下に置きましたが、上手く動いてくれているようで良かったわ。
「サイン会でもしますか?」
「……勝手に“券”を配らないように」
……別に興味はないんだけど、少し練習しておきましょう。
そして次の日、朝早くから私達は旅立つ準備をしていた。
これから私達は遊撃部隊として戦場を引っかき回す、某狩りゲーの探鉱夫並の大事なお仕事が始まります。
「ユールシア姫っ」
「あら、キョージ様……」
風の勇者が何故か来なかったので、私は完全にキョージから離れて、その担当地域を受け持つ事になったから、特にこれ以上打ち合わせも無かったはずなんだけど、挨拶にでも来てくれたのでしょうか?
……ん~? 知らない女の人が一緒にいる。
「まだ居てくれて良かった。出立前に、ユールシア姫に是非とも紹介したい人が居るのですよ。セフィラ殿」
「はい。初めましてユールシア様。わたくし、勇者様方の調整役を承っております、国家連合軍作戦司令部参謀、セフィラと申します」
「あぁ…」
なるほど、彼女が例の調整役か。
どこの国の人なのかと思ったら、国連みたいな機関の人なのね。
「失礼しました、セフィラ様。ユールシアと申します」
「まぁっ、ユールシア様、私など小国出身の商人貴族家の出身でしかありません。呼び捨てていただいて構いませんわ」
挨拶をして軽く頭を下げた私に、彼女――セフィラは恥ずかしげに微笑む。
年の頃は二十代前半でしょうか、背中まで真っ直ぐに伸ばした、ミルクティ色の彼女の髪が微かに笑うとサラサラ揺れる。
顔は好みもあると思うけど、多分10人居れば6~7人は美人だと言うくらいには整っている。まぁ、人間味が消え去って人形のような私よりも、よっぽど男性受けしそうな容姿をしていた。
ふっふっふ……私は恐がられるからね。
でもまぁ、こんな儚げ美人さんが、あのアクの強い勇者達の調整役なんて出来るのでしょうか……?
私が少し心配になって目を細めると、セフィラはそんなことなど気付かずに、暢気なお姉さんよろしく、ポンッと手を叩いて背後を振り返る。
「あ、そうそう、ミンキチ様も出てきて下さいませ」
「………ああ」
セフィラがそう呼びかけると、木の影からあのブ――炎の勇者が現れた。
正直言うと、樹の幹から肉がはみ出ていたので最初から居たのは気付いていたけど、私も空気を読んで少し驚いた顔をしてあげる。
嫌々出てきたようなミンキチは、私やファニーを見ると舌打ちをするように大地に唾を吐く。私がそれに呆れるより先に、背後のティナから殺気が溢れ始めたけれど、それが吹き出す前にセフィラが軽やかな声を出す。
「もぉ、ミンキチ様ったら素直じゃないんだからっ。お二人が喧嘩をしたのは知っていますけど、ミンキチさんはお姉さんなんですから、そんな態度はダメですよ」
最後に、妹を叱る姉のように、『めっ』とセフィラは可愛くミンキチを叱る。
ちょっとセフィラさん、この人にそんな態度を取ったら……
「……ったく、セフィラに言われたら仕方ないなぁ」
……はぁ?
ミンキチの性格なら怒り狂うかと思ったら、あっさり受け入れて照れたような笑顔をセフィラに向けていた。
彼女みたいな誰にでも好かれそうな女の人は、てっきりミンキチの嫌いなタイプかと思ったのに……。
「ユールシア様も宜しいですねっ?」
「……ええ」
ここは、さすがは国連調停員と褒めるべきでしょうか……。それとも彼女の人柄を讃えるべきか。
素直に頷いてしまった私も私だけど、あの疑り深いキョージでさえ、少し困った顔でヤレヤレとばかりに苦笑して、好意的に感じている。
……なにこれ?
「そうでしたっ、ユールシア様、わたくし、お願いがありましたの」
「……なんでしょう?」
押しが強いのか天然なのか、セフィラは自然な感じに“お願い”をしてくる。
「えっとですね……、ユールシア様のお仲間様方には、予定通り敵軍を遊撃をしていただきたいのですが、ユールシア様には【聖女様】として、難民の方々を癒していただきたいと思いまして…」
……え?
つまりは、従者達と離れて、私だけ単独で他の作戦に従事しろ。……と?
両手を顔の前で合わせて、『私も上から言われて断れないから、ごめんなさい』とでも言うように、セフィラは上目遣いに私を見つめてくる。
これだけ目立つ面子が集まっているのだから、かなり人目を集めてはいたけど、彼女のその仕草と雰囲気だけで、この場が『セフィラのお願いを断ってはいけない』ような空気に変わっていた。
「……分かりましたわ」
「わぁっ、ありがとうございます。やはりユールシア様は聖女様なんですねっ。難民の皆様も喜ぶと思いますっ」
私が頷くと、セフィラは満面の笑顔で無邪気に笑う。
……違和感が酷い。
特におかしい部分を感じないのに、コレじゃない感が溜まりまくっている。
まぁうちの子達がそれを受け入れているのは、私の役に立つことが第一で、私が単独でも戦力的にまったく問題ないからなんでしょうけど、この場の空気が、まるで台本のある演劇のような感じと言えばわかるでしょうか……。
「あ、ちゃんと、ユールシア様には私どもの兵士を護衛に付けますので、ご不便はお掛けしませんので安心して下さいねっ」
「ええ」
まぁ、その辺りは当たり前だね。その“当たり前”で“良い人”ぶっているように感じるのは、私の心が狭いせいでしょう。
考えていても仕方ないので、私の荷物だけを別の用意された馬車に移すように従者達にお願いする。
「ねぇ、ユールシアさまぁ」
「ファニー、どうしたの?」
私達の中で……と言うか、セフィラが現れてから良くも悪くも変わってしまった空気の中で、一貫して何も変わらない笑顔を浮かべていたファニーが、私がずっと感じていた“違和感”の正体を教えてくれた。
「あのセフィラって男の人、どうして女の人の格好しているの?」
マジですかっ。だけど、聴きたかったのはそれじゃない。
***
闇の勢力に占拠された竜の小国の一つ、テルーザ。
その首都では王や騎士団長を含め、善悪隔てることなく“有能”な者だけが処刑され、一般の民は家から外に出ることを許されなかったが、無慈悲に殺された者はほとんど居なかった。
郊外でも首都から逃げてきた女子供や国外に逃げ遅れた者達が、通常とはいかないまでも農地や家畜の世話をする姿も見受けられ、民達は大きく害されることなく生活を続けている。
この地を攻め落としたのが、闇の勢力の“交戦派”でもある程度秩序のある闇エルフ軍と獣人軍であったことも大きかったのかも知れない。
それでも憎き人間の国を攻め倒し、無駄に犠牲を出して生命と女を略奪しようとした将校も居たが、それらはすべて闇エルフの王女の“手勢”によって粛正された。
この地を落とした闇の勢力側の大将は、闇エルフの双子の王女。そして獣人国の幼い王子である。
人間が誰も居なくなった王の城。その玉座に小さな獣人の子供が腰掛けていた。
その幼児が獣人国の王子なのだろうか。
負けることを前提に闇エルフの第一王女ネフルティアに唆されて出陣した軍で、お飾りとは言え勝利を収めた幼い王子であるというのに、彼の周りには身の回りの世話をする獣耳の侍女さえ居なかった。
黒い髪に黒い肌。可愛らしい猫耳の愛らしい幼児は、玉座に腰を下ろしたまま目を閉じて、身じろぎさえしない。
その誰も近寄らぬその場所に、同じような小さな人影が二つ、音もなく現れ近づいていく。
艶やかな黒い肌と長い耳。金の髪と銀の髪。
クマとウサギのヌイグルミを抱きかかえた双子の王女は、玉座に居る王子の前に出ると、光る果実のような物を掲げ、静かに跪き頭を垂れた。
「「本日の供物でございます。我らが【神】よ……」」
その声にそっと……わずかに開いた瞼の奥で、黒に浸食された白目と、美しい猫のような白金の瞳が、異様な光を持って瞬いていた。
また変な人が出てきましたね。
次回、ゆるちゃん、まいごになる。





