4-09 勇者様に会いました ③
※前話の内容が、あまりにもバカすぎたので一部小賢しい感じに修正しました。
今回は説明多めです。
セイル国の【聖女】とスザーク国の【勇者】の戦闘は、“喧嘩”として処理された。
……いやいやいや、それはないでしょ。と大多数の人間が思い、顔にも出ていたが、これから光の勢力側が団結して闇の勢力に占拠された国を取り戻すのに、内紛のようなモノが起こったなんて、敵に知られる以上に味方に知られると士気に関わるので拙いらしいのです。
大人は大変ねぇ……。わたくし、まだ12歳の子供なので分かりませんわっ。
何を人事のように……と思われるかも知れませんが、もう他人事です。
この城を壊した損害は、“炎の勇者”と“セイル国”の責任として、両者が折半して補償することに決まりましたので、もう私の手から離れました。
どうして私の責任が問われなかったのかと言いますと、この国、ルクテル公国の王様と王妃様が私を擁護して下さったのです。
大国の勇者からしてみれば、どこかの町長夫妻にしか見えなくても、仮にも国連?みたいなものに加盟している国家ですし、しかも今回は純然たる被害者ですので、その意見はほとんど受け入れられた。
情けは人の為ならず。
横暴に振る舞ってきた勇者達と、私のように国王夫妻と仲良く接してきた“か弱い”女の子では、どちらに味方するなんて考えるまでもないでしょう。
同情でも人には親切にしておくものだと実感しましたね。
まぁ、私は悪魔なんですけど。
「本当に、ユルちゃんのような優しい女の子が、あのような野蛮な勇者に喧嘩をふっかけるなんて、誰が信じると思っているのかしらっ」
「まあ、王妃様、信じて下さって嬉しいですわ……」
さすがに少しだけ気が咎めるような気もするけど、もう気にしない。
結局、私との顔合わせを兼ねた“食事会”は、私だけ不参加になって、私は国王夫妻と一緒にご飯を食べることになったのです。
……あれ? なんだか、最初に提示された晩餐メニューより豪華になってない?
「これは姫の為に、うちの料理人達が腕を振るったのですよ」
「そうですか……」
最初に出迎えてくれた中に料理人も混ざっていたのかな?
あの時に優しくして、感動して涙ぐんでいた人の中にいたのなら、この料理が何となく“供物化”しているのも理解できる気がします。
あの勇者達と、個人と国のプライドと利益と意地を賭けたギスギスした中での食事も心躍るものがありますが、美味しい物が食べられるのならそれが一番です。
悪魔でも健康的な生活は美味しい食事が一番なのですよ。
食事中にあの炎の勇者であるミンキチの話を聞かせてもらった。
とは言っても、ある程度の情報を入手出来る立場であったなら誰でも知っていることらしいから、ノアやファニーが集めてきた情報と変わりないのかも知れないけど、時と場所、その立場によっても入ってくる情報は違うし、何しろ私はセイル国で【勇者】に関する情報を意図的に制限されていたので、小国とは言え……だからこそ大国の脅威に対抗する為に情報を集めていたルクテル王の情報はちょっと嬉しい。
要約するとこんな感じです。
あのミンキチとか言う名前だけど、本名なのかと思ったら、まったく似ても似つかない『美王子くん』並に素敵ネームだったらしく、あの名前は、いづれネットアイドルとして売り出す為の自分で付けた“可愛い芸名”だったようだ。
……いたたたたたた、聴いている私の心がダメージ受けるほど痛々しい。
カンちゃんとかは女性に嫉妬することはあっても、自分を慕う女の子達には意外と寛容なんだけど、ミンキチは男女関係で自分より充実している人はすべて敵としていたので、潜在的にかなりの数の敵がいるらしい。
あれだけ好き放題やってきたので、彼女よりリアルが充実している人なんて、ほとんど全員なのではないでしょうか。
勇者であっても相当の悪評が溜まっていると思うんだけど、勇者だから許されているのかな? と思ったら、スザーク国の王族があちこちに頭を下げて許して貰っている状況のようです。
スザーク国の王家はセイル国と違って苦労人だなぁ……。
どうして当代の勇者はここまで酷いことになっているのか?
勇気くんの後任である“風の勇者”にはまだ会ったことはないけど、噂を聞く限りは、この世界をゲームか何かと勘違いして、善良なダンジョンマスターから強盗まがいの真似までしているみたい。
でも、過去の文献を調べてみても、ちゃんと勇者をしている立派な人も居た。
要するに現代になってから、彼らのような勇者(笑)が来るようになったのです。
魂の強弱に善悪は関係ない。割合的に言えば、自分の欲望に忠実な人間ほど魂は強いのかも知れない。
悪魔が好む“業”の深い魂は、ある意味、魂が強い人達でした。
これって、地球で人間の天敵がいなくなって“闇”がなくなり、彼らのような魂が悪魔に食べられることなくまた転生出来てしまった弊害かもねぇ……。
そんな勇者達でも、この世界は受け入れている。まぁ、誘拐まがいに召喚したのだから当然だけど、少し考察をしてみましょう。……面倒だけど。
なんだかんだ理由を付けたとしても、やっぱり“勇者”が優遇されるのは“強さ”故だと思う。
では勇者の強さとは何なのか……? と私はカニを食べながら考える。
故郷アトラの幼なじみでもある『聖王国の勇者』もそうだけど、基本は光の精霊の力を身に宿し、悪魔と同等である精霊の力を使う事で戦闘能力を上げている。
私の“ユールシア”の身体が悪魔の魔力に最適化しているように、精霊力に身体を最適化することでその力を自在に扱い、肉体までも強化していた。
魔力だけなら悪魔のほうが何十倍も多いのに、総合戦闘力だと【大悪魔】とさえ戦えてしまうのはその為です。
でも聖王国の勇者では大悪魔にはまだ敵わないと思う。
10年以上勇者をしているキョージ達と比べるのは可哀想だと思うけど、それでもアトラの勇者とこのテスの勇者とでは“戦力”に差を感じた。
ではその違いは何なのか? と私はシャケのソテーを食べながら考察する。
戦闘力ではなくて“戦力”。【勇者】に頼り切った長い歴史から生まれた、この世界独自の【勇者の秘術】の存在もある。
だけどそれはあくまで戦闘を便利にする意味合いしかないと思う。
レベルアップの秘術も力の底上げにはなるし、序盤なら“ひのき棒”が“鉄の剣”になる程度の効果はあるけど、完全に勇者として覚醒した後なら、その程度の差なんて誤差の範囲じゃないかな?
ミンキチのパーティメンバーは、元一般人とは思えないほど強かった。
キョージの使ったあの【ドラゴンスコール】とか言う魔法も、普通に使えば冷雨で大軍に心臓麻痺を起こさせる、かなり高位の魔法だ。
カンちゃんも、魔導師が何十年も修行して覚えるような強い魔法を簡単に使い、まるでゲームのような剣技も使用していた。
それは、この世界独自の力……【スキル】のおかげだと考える。
スキル。それを覚えただけで技能がさくさく使える便利なもの。
地球にもアトラにもなかった、この世界独自のもの。
私だって【スキル】そのものを否定するつもりはない。
それは、ある程度の修練を積めば相応の“技能”は手に入るはずで、それはどこの世界でも同じだと思うから。あ、このニンジン甘い。
でもこの世界ではスキルを手に入れれば“失敗”がほとんど無くなる。
例えば【剣技】スキルを手に入れただけで、身体が勝手に動くとかあり得ない。
料理で計量スプーンなんて使わなくても、適量が勝手に入るのはどうなの?
一般スキルはギリギリ許容出来るとしても、鑑定みたいな特殊スキルで、知識が無くても名前や性能が分かるとか、度を過ぎている。
べ、別に、悪魔だから恩恵がないのを愚痴っているのではないのよ?
勇気くんに聞いた話だと、スキルは【勇者の秘術】と共に過去の魔導師達が命を削るようにして創り上げたものだと言っていた。
それならば理解できる。防御などの支援魔法と似たようなものだからね。
だから【勇者の秘術】で特殊な支援を受けたのならば納得出来るけど、勇者達が通常の魔法スキルや武器スキルを覚えて、それを一般人が何の問題もなく会得出来るのが理解できない。
どこが納得出来ないのかというと、スキルを“誰でも”習得することが出来るシステムが世界にあることが納得出来ない。
それをするには世界全体のスキルを管理する“システム”が必要だ。
普通の世界はそんな風に出来ていない。
だとしたら【勇者の秘術】を創り上げた後も、それを管理しているスパコン以上の管理システムのようなものがないとおかしい。
まさか、それが【神様】だなんて思わないけどね。
……いやホント、あんな【真神・東京】みたいなのは勘弁して下さい。私がマジ戦闘とか、ホント柄じゃないんですよっ。
キャビアとかトリュフのような凄い魂じゃなくて、ちまちまとオムレツくらいの殺人鬼の魂でも刈って食べる程度で充分幸せなんですよっ。
「……あ」
「あら、どうしたの? ユルちゃん」
「いえ……」
なんか殺人鬼の魂を、コンビニの肉まん程度に考えている自分が居た。
なんか、今更な気がしますけど……。
うん、私は大丈夫。北国のジャガイモ美味しい。
とりあえず……結論としては、勇者をなんとかするには、スキルをどうにかするのが楽かもね。
次回は、最前線に突入します





