4-08 勇者様に会いました ②
名称を統一しました。文章を一部修正しました。
炎の勇者・ミンキチ、二十Q歳。本人曰く永遠の15歳。もちろん本名ではない。
それと言うのも当時中学生だったミンキチは地味で大人しい少女で、本人はそれを不満に感じていた。
「やっぱり私は選ばれた人間だったんだわっ。私ってやれば出来る子なんだから周りの評価がおかしかったのよ」
異世界に召喚されて、今までの自分が間違っていたと盛大に勘違いをした。
見た目が地味で性格が大人しかったのなら、同じ趣味の友人でも作ればそれなりに幸せな人生を送れるはずだが、それはあくまで失敗をした大人の考えで、精神的に微妙な年齢で召喚された彼女は、今までの自分を恥ずかしいと思うようになり、本名を捨てて『ミンキチ』と名乗り始めた。
高校デビューならぬ『異世界デビュー』を試みたミンキチは、今まで自分が傷つくことだけを恐れて、誰にも話しかけられなかった“大人しい”自分を辞め、積極的に他人に話しかけ始める。
それがミンキチをさらに勘違いさせる結果となる。
幸か不幸か、ミンキチは【勇者】として高い適性を持っていた。勇者を祖先に持つ大国であるスザークは勇者を擁する必要があり、勇者であるミンキチが現れたことで、彼女を“姫”の如く扱い、褒め称え、彼女が黒と言えば白でもそれとした。
黙っていても寄ってくる貴族やその子弟達。毎日のように晩餐会が行われ、世界の美食や宝飾品がミンキチに捧げられた。
その当時のミンキチはまだ中学生である。これで増長し勘違いしたとしても仕方の無いことだろう。……ただ、ほんの少しの自重と、ほんの少しだけ他人を思いやる気持ちがあれば、今とは違っていたはずだ。
この世界【テス】では千年以上異世界人が召喚され、彼らの努力によって現代に近いアイテムや食品が揃っている。
激しく勘違いをした結果、髪を脱色し、派手な化粧をして、下着のような扇情的な衣装を着て城内を練り歩くミンキチを見て、いずれ王子に娶らせ【勇者】の血を王家に取り込むことを考えていたスザーク王は、一瞬で様々なことを諦めてその計画を白紙に戻した。
王族が微妙に距離を取り始めたことから、一部の貴族も距離を計るようになり、ミンキチの奇抜な言動や傲慢になりはじめた態度が目立つと、城内の若い者達が彼女から離れ始める。
城内にはミンキチを護衛する騎士もいる。彼らは勇者であるミンキチを無下に扱うことはなかったが、騎士とて人間だ。特に十代や二十代の若い騎士達は、セットした髪型や付け爪、塗りたくった化粧が崩れることを嫌って風呂にも入らず、体臭とそれを誤魔化す為に大量の香水が入り交じった悪臭に、彼らはミンキチを避けるようになった。
「わ、私には想い人がおりますのでっ!」
「……………」
ミンキチの最初の挫折。比較的ミンキチに優しかった見た目の良い騎士に告白し、ものの見事に玉砕することで、ミンキチはようやく他人から避けられていることに気付いた。
そこで自分を省みて心を入れ替えればここまで酷くはならなかっただろう。
ミンキチは『自分が悪いのではなく、男を惑わす女が悪い』と考えるようになり、似たような考えを持つ、男っ気のない女達とつるむようになる。
そんな女達はミンキチに取り入るように騎士の恋人達の情報を集め、告げ口されたミンキチは、勇者の権力で騎士を恋人に持つメイド達を脅し始めた。
「あんた、恋人が最前線送りになってもいいのぉ?」
「や、やめてくださいっ、……お願いします、何でもしますから」
それだけでなく、メイドを恋人にする若い騎士や文官も脅した。
「今度の遠征にメイド共を連れて行っても良いんだけど、あそこら辺は治安が悪いのよね……誰が良いのかしら?」
「どうか……どうか、彼女だけは……」
「だったら、あなた……分かっているわね?」
この時点でスザーク王が手を打っていれば、ここまで被害は無かったかも知れない。
だが、ミンキチはスザーク国が待ち望んだ【勇者】であり、この力が歴代の勇者と比べても優れており、事情を知らない国民からの人気も高く、王でさえも彼女に強くものを言う事が出来なくなっていた。
増長したミンキチ達は女を磨くことを止め、無理矢理引き抜いた料理人に作らせた豪華な料理や菓子を貪り、次第に“女性”から掛け離れた姿になっていく。
そんな“女”であることを捨て去った彼女達を、スザーク国の関係者達は恐れるようになっていったが、文字通り一人の“勇者”がミンキチに忠告をする。
「何を悪ぶっているの? それではいつか、みんな離れていくよ」
「う、煩いっ!」
当時の風の勇者、フォーテリス。彼が何気なく放った一言が、ミンキチが思ってもいなかった以上の衝撃を与えた。
心の奥底で自分がこの世界から“浮いている”ことに気付いていたが、それを自分でも気付けないようにその想いを閉じ込めていた。
この世界に勝手に召喚されて、頼るものは己の力だけ。もう地球に戻ることさえ出来ないのに、誘拐されたこの世界で、被害者である自分が多少好き放題にしたって許されるべきではないのか。
フォーテリスは自分達三人の“異世界の勇者”と違い、力こそ劣っていてもフォーテリスはこの世界の人達から国を超えて愛されていた。
これ以上彼が人気を得てしまったら……これ以上勇者として力を付けてしまったら、自分の存在に何の価値があるのだろう。
それは、家族からも故郷からも切り離され、力を示すことで“自分”を維持してきたミンキチの、ただ一つの恐怖だった。
***
「「「「なんだと、このガキぃっ!」」」」
大人げなくも炎の勇者様一行は、私のような子供の素直な一言にぶち切れて、武器を抜き放った。
「あらあら、困った大人達ですこと」
私は半分程広げた扇子で口元を隠して、薄く笑う。
「わたくし、ブタの話をしただけで、あなた方の話はしておりませんわよ」
「なんだとぉぉっ!」
やたら香水臭いのにオークのような体臭の女騎士が両手斧を抱えて私に凄む。
「待ちなさいよ、チーちゃんっ。……良い度胸だね、小娘が。私達に逆らおうなんて、どうなるか分かってんでしょうねぇ」
ぶよん…とお腹の肉を弾ませて、炎の勇者がへんてこな魔力剣を私に向ける。
あのオー……女騎士はチーちゃんって言うのか。他の勇者達と違って、ずいぶんと仲が良さそうね。
「あら、チーズを切るのに良さそうな刃物ね。まだ何か食べるの?」
「はぁ? このフランベルジュでチーズなんか……、おい、フィアたん、チーズ持ってきてっ!」
「はぁい」
力士のような女騎士が自分のポケットから直径30センチもありそうなチーズの塊を取り出すと、炎の勇者は波形の剣でチーズを切って、くちゃくちゃと貪りながらチーズに汚れた剣をまた私に向けた。
「今なら丸坊主にして全裸土下座程度で許してやるよ、もちろん、この城の中庭だけどねっ!」
「………」
こんなのが地球人の平均だと思われたら堪らない。
カンちゃんはこいつが嫌いで、自分のほうが美しいと言っていたけど、ごめん……、話半分にしか聞いていなかったことを懺悔します。確かにカンちゃんのほうがずっと女性的で可愛らしいわ。
好みがどうのこうのよりも、同じ性別として何となく許せない。女性であることを追求していたカンちゃんも同じ気持ちだったのでしょう。
ちらりと横を見るとティナも無表情でいながら頬がわずかに痙攣していた。うわぁ、ティナも美には煩いのでかなり怒ってるっ。
これは、私やティナが相手をしたら、悪魔の能力を自重出来るか自信ない。
「ファニー……少し遊んであげなさい」
「……任せましたわ、ファニー」
「ん? わかったー」
私達の中で唯一、彼女を初めから生物としても見ていないファニーに任せる事した。
ティナも私が我慢をしているのを感じたようで、あっさりと役目を譲る。
良い結果にはならないかも知れないけど、私とティナが手を出してこの国が消滅するより、多分マシでしょう。
「はぁ!? あんたが出なさいよっ!」
「ファニー、手加減してあげるのよ」
「はーい」
「「「「ブッ殺っ!」」」」
これでも私達、勇者や聖女なんて呼ばれています。
「ふんがぁっ!」
開幕はあの力士みたいな女騎士から始まった。太っているように見えるけど、あれってほとんど筋肉……違うか、霜降り状態かも。
多分、ミスリル性の手甲……その丸太のような腕から繰り出される張り手が唸りを立ててファニーの顔面に迫る。
ファニーはそれを首を傾げるように躱すと、綺麗な銀の髪が数本引き千切られ、それでも変わらない笑顔のままファニーは蹴りを放った。
ぶよよん……っ!
軽く見えてもオーガ程度なら粉々にするようなファニーの蹴りを、女騎士ではなく、炎の勇者が自分の脂肪を盾にして防ぐ。
脂肪が波を伝えるように波立ち、ファニーの攻撃を吸収して受け流したのだ。
「キャハハ、私に打撃は効かないよっ!」
炎の勇者がポロポロとひび割れたファンデーションを零しながら高らかに笑う。
あぁ、なるほど……某世紀末のハート様みたいな感じなのね。そう言えば外見も似ているような気がするわ。
……色々捨てきっていて、逆に感心しますね。
「ヒャーッ、エクスプロージョンッ!」
唐突に、今まで後ろにいたガリガリに痩せて肌も乾燥してガサガサになっている女騎士が奇声を上げて、【爆裂】らしき炎呪文を解き放った。
ズガァアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
炎と爆風に城の一部が吹き飛び、ティナは私を炎から護りながら、背後の壁を破壊して城の外に飛び出した。
無茶するなぁ……。仲間も巻き込んで上級炎魔法とか何を考えているのでしょう?
「ティナ、どうなってる?」
「全員、ぴんぴんしていますね」
「あらまぁ」
煙と炎の向こうで、ファニーらしき小さな影と炎の勇者一行が、元気に城の屋根を飛び回って戦闘を継続していた。
さすがにお城のあちこちから悲鳴が上がり、兵士達がこの惨状に唖然として、侍女さんが腰を抜かしたようにへたり込んでいる。
「主様、お茶にいたしますか?」
「そうね……」
ティナがどこからともなく取り出した白いテーブルセットに、私も観戦モードになって優雅に席に着く。もしかしたら【勇者の秘術】の【亜空間収納】を使えるようになったのかな?
それにしても……
「意外と強い」
炎の勇者一行は、かなり戦闘力が高い。好き勝手に戦っているように見えて、連携がしっかりしている。
炎の勇者は一瞬でファニーが只者ではないと見抜いて、仲間を庇ってその攻撃を受けた。あの魔法も他のメンバーに炎耐性があると分かっていたから、互いを信頼して使っていたのでしょう。
目算だと【勇者パーティ】と【大悪魔】の戦闘力はほぼ互角。
単純な魔力量では、人間は下級悪魔にさえ敵わない。それでどうして人間が悪魔と戦えるのかというと、悪魔は魔力イコール生命力で戦闘力であるので、無計画に国を滅ぼすような大破壊をすれば、生命力も戦闘力も大幅に落ち込むことになる。
要するに悪魔は本気を出しにくいので、人間でも何とか戦えているのです。
逆に人間は肉体、精神、魔力の総合力で戦い、全力で戦闘し傷ついたとしても、仲間が癒してまた元に戻ってしまう。
その人間側の究極が【勇者】であり、勇者の個人総合戦闘力は上級悪魔を超え、仲間を得た【勇者パーティ】は、さらに総合力の桁が跳ね上がっていた。
私の従者達は通常の大悪魔よりも強いけど、炎の勇者一行も通常の勇者パーティよりも強くて、しかもファニーは悪魔としての能力を制限して戦っている。
……少しファニーに不利かも。
「主様、わたくしも参戦いたしますか?」
「う~ん……」
こう見えて従者達は仲間思いで、それ以上に戦闘狂だ。今の状態で二人も従者を出すと、傍観しているノアとニアの双子も動くと思う。
あまり大事にはしたくない。……と、色々ご託を並べてみましたけど、それ以上に私はファニーがアレに負けるのを許すつもりはない。
私はティーカップの縁をそっと指でなぞると、その中の真っ赤な紅茶が私の感情の余波でぐらぐらと煮立つのを見ながら静かに呟いた。
「ファニー、第一制限解放」
「はーいっ」
「「「「ッ!?」」」」
悪魔としての本性も曝していないし、障気や能力も使えないけど、ファニーから溢れる魔力量が自分達を超えていると感じて、炎の勇者一行が一瞬で飛び離れた。
炎の勇者がファニーを警戒しながらも、私のほうを睨んでいるのが見える。
「小娘っ!! あんた何をしやがったっ! まともな人間の魔力じゃないよ!」
従者であるたかがメイドの魔力に、炎の勇者は私が何か“まともじゃない手段”で力を与えたのかと思ったのでしょうね。
「あら、怖かったら逃げてもいいのよ? 内緒にしてあげるから」
そう言って私は優雅に微笑みながらお茶を飲む。……熱っ。
「ふざけるなっ! みんな、極大魔法を使うから準備してっ!」
「「「おうっ!」」」
ファニーよりも私の態度が気に入らなかったのか、一気に攻勢に出るみたい。
さすが腐っても……文字通り“腐っている”けど、勇者と言ったところか、パーティ連携による“大規模破壊術式”を使用するようです。
…って、こんなところでそんなモノ使うなんて何を考えているのっ?
あれは完全に私も巻き込む気でいるな。ファニーの能力が思ったよりも高いのは私が原因だと思ったか……。
それよりも何とかしないとお城が消滅しかねない。ファニーが何とか……
「……あ、ダメだこりゃ」
やばい、ファニーめっちゃ良い笑顔だっ。
本気になったのか、ファニーは空間転移の応用でどこかの地の底か火山から、直接マグマを召喚しようとしていた。
このままぶつかり合ったら、お城が消滅しそう。仕方なく不自然にならない程度に防ごうかと腰を浮かしかけたその時、
『ドラゴンスコール』
天が一瞬で曇り、嵐竜を思わせるシルエットが浮かび上がると、突然、滝のような叩きつける雨が降り注いだ。
「「「「「…………」」」」」
大量の水で大規模炎魔法も中断され、ずぶ濡れになった炎の勇者一行とファニーが、キョトンとした顔で目を瞬いた。
「ユールシア姫もミンキチさんも、他国の城で何をやってるんですかっ!」
そこには大規模魔術を放った反動で肩で息をしながらも、眉を吊り上げて“正論”で私達を叱るキョージの姿があった。
……私は止めようとしたのに。
魔法の炎なので、水蒸気爆発などはなかったようです。便利ですね。
良い子の皆様も、人様の家で本気戦闘は自重しましょう。
次回、夕食の続きです。





