4-07 勇者様に会いました ①
色々タイミングが合わずに遅れました。すみません。
「……ユルちゃん、ここが“竜の脹ら脛”なんですか?」
「……そうなんじゃない?」
馬車から降りた瑞樹の言葉に、私は適当に答えた。
闇の勢力側との境界である山脈の麓に、五つの小国が集まった【北竜】と呼ばれる国家群がある。
要するに一国一国の力が弱いので、纏まって闇の勢力の軍勢を退け、ゲンブルなどの大国にも無茶を言われたらみんなで頑張ろう的な集まりのようです。
旅をすること数週間、私達は最前線に近いルクテルと言う国に辿り着きました。
道中は特に何もありません。ちょこちょこと魔物が襲ってくることはありましたが、騎士達がさくさく倒していたので私の出番がありません。
出てきた魔物はアトラとは違っていましたが、風太によると一般的なファンタジー系の魔物で、ご、ごぶりん? とか言う可愛らしい名前の魔物らしいです。
……あれですかね? アイドルとかを『○○リン』とか呼んじゃうのと同じような感じで、きっと愛らしい姿をしているのでしょう。
そんな訳でルクテルに着いたのですが、五つあった【北竜】の小国のうち、一番北にあるテルーザが闇の勢力に滅ぼされた国なのです。
この【北竜】の国家群は、名前の通りにドラゴンの部位で呼ばれ、ルクテルは『竜の脹ら脛』と呼ばれていた。
……なんでそんな微妙な部位なの?
ドラゴンテイルでも、竜の牙でも、もっと良い名前を付けなさいよ。
なんだろ。この国だけ地味に苛められてるの? と思ったら、他の国は『竜の喉仏』とか『竜の舌』とか『竜の尾てい骨』とか微妙な名前で呼ばれていた。
ちなみに滅ぼされたテルーザなんて『竜の皮下脂肪』である。
意味が分からない。
「ようこそいらっしゃいました、勇者様、聖女様っ、ルクテル公国を代表して歓待いたしますぞっ」
ちょっとぽっちゃり気味のルクテル王が自ら私達を出迎えてくれた。
まぁ、ルクテル公国と言っても人口は10万ちょいで、セイル国王都の半分しか居ないので、私から見るとルクテル王はどこかの街の“町長”くらいにしか見えない。
「出迎えご苦労」
そんな感じだからかキョージや騎士達は、ルクテル王に出迎えに来た執事に掛けるような言葉を残して、さっさと城に入ってしまった。
「「………」」
なんか居たたまれない……っ!
「……ルクテル王、ユールシアと申します。よろしくお願いいたしますね」
「…お…ぉお、ユールシア様、心よりお持てなしさせていただきます」
私が出来るだけ優しく微笑んで挨拶すると、ルクテル王はもの凄く感動したように目を潤ませていた。その後ろのお城の人達もハンカチを目元に当てている。……小国って大変なんだね。
気を良くしたらしいルクテル王は私達を案内しながら、色々お話ししてくれました。
あの竜のなんたらとか言う名称は、遙かな昔、この辺りを襲っていた邪竜を英雄達が倒し、報酬としてその部位を受け取った者達を王として、それぞれ国を為していったのが始まりらしい。
「つまり、我が先祖が竜を倒した英雄なのですよっ」
「わぁ、素晴らしいですわ」
あれぇ……計算が合わないぞ。
かなり細かく部位を別けたみたいだけど、牙や爪や角はどこ行ったの?
戦功によって貰える部位が変わってくるのなら、この国家群のご先祖様達って、大して役に立っていなかったのでは……。
とりあえず褒めるけど、多少棒読みなのは勘弁して戴きたい。
そんなルクテルに私達が来たのは、滅ぼされたテルーザに向かう拠点にするのに、丁度いい位置にあるからです。
大軍で攻め込みにくいけど攻められることも少なく、私達のような数十人の【勇者パーティ】が使うには便利な場所なのです。
各国の軍隊はもう少し広めで軍隊が駐留しやすい国に集まるので、この国にはセイルを含めた他の勇者だけが集まることになっている。
「ハッコーの風の勇者様はまだ着いておりませんが、スザークの炎の勇者様はすでに到着なさっております」
「カンちゃ…カンゾー様は?」
「大地の勇者様は一度こちらに寄った後、今は現地に向かわれています」
「なるほど」
カンちゃん居ないのかぁ……。居たら居たで暑苦しいんだけど、美に対する姿勢とか私はそれなりにカンちゃんを気に入ってはいるのです。
でもそれとこれとは話は別で、カンちゃんに容赦するつもりもない。
悪魔は嘘も吐くし裏切ることもあるけれど、“約束”だけは守るのですよ。
さて、そんなことより問題は“炎の勇者”だね。
カンちゃんによると、こっちは本物の女性みたいだけど、カンちゃんはあまり仲良くないのか、10年近く会話をしていないと言っていた。
あなた達“勇者様”は、本当に仲が悪いのねぇ……。
それから私はルクテル王やその王妃様とお茶をして過ごした。別に私から炎の勇者に挨拶にいく必要もないし、どうせ夕食で顔を合わせることになる。
王妃様は、……何というか、関西のおばちゃんみたいな感じでした。
なんか気に入られて豹柄のショールを戴いたけど、こんなのどこで着るの?……って言うか、どこで作ってるんだ、こんなの。
私の執事をしているノアも気に入られたらしく、ポッケがお菓子でパンパンにされる攻撃を受けていた。
さて晩餐の時間です。
ご飯を一緒に食べるのは勇者様方と私だけ。大地達は他の騎士達と一緒に城の兵士達の食堂で食事を摂るらしい。
「一緒じゃなくてごめんなさいね」
「いや……そのほうが助かるんだけど」
大地達はお貴族様の食事に慣れないみたい。騎士達も貴族だけど、野営とかもする人達なので礼儀作法とかには煩くないから、そっちのほうが気楽なんだって。
そりゃ私も気楽なほうが良い。牛さんのお肉より、そこら辺に自生している殺人鬼の魂をティナがさっと炙ってくれるほうがいい。
ここら辺の特産物なのか、案外、見かける殺人鬼って多いんですよ。
ルクテル王とも夕食は別です。勇者達が集まるにも数日のラグがあるし、毎日一緒に食べるとかなり胃に悪いそうな。……不憫な。
「ユールシア様がお着きになりました」
お城の執事さんが扉に呼びかけると、内側から開かれる。
「ありがとう」
少し疲れたような侍女さん達に軽く微笑んで部屋に入る。私が連れているのはティナとファニーの二人だけです。ノアには情報集めを頼んで、ニアには大地達の護衛をして貰っている。
私はこの二人しか連れて行かないことにとても不安を感じている。私の身の安全とかそう言うことじゃなくて、こんな美味しそうな魂がゴロゴロしている場所に、この二人を野放しにしたくなかったんだけど、私に止められるかしら……?
まぁ私は“理性的”で有名な悪魔なので、みんなを止めるくらいはきっと出来る。
「「「………」」」
部屋の中に入ると、すでに一人が席に着いてお酒みたいな物を飲んでいた。
その背後にいるガラの悪そうな真っ赤な鎧の女騎士達が私をジロジロと見て、驚いたりニヤニヤした顔をこちらに向けてくる。
「へぇ……あんたが聖女さまぁ?」
席に着いていた二十代後半の女性、……っぽい物体が私を見てニヤァ…と笑った。
うん、多分女性。そして多分人間……だと思う。
外見は軽く100キログラム以上ありそうだ。別に脂肪分が多いからと言って特に思うことはない。グラム当たりの単価が低そうとか、そんな感想しかない。
髪がツインテールな事も、歳を考えろとかそんな言葉しか出てこないが問題ない。
茶色の染めたその髪が脂ぎっているのも、現代日本と比べたらいけないと思う。
肌が荒れて吹き出物だらけでも、不摂生はしないほうが良いよと言ってあげたい。
それを隠すつもりなのか、ファンデやチークを塗りたくっているけど、粘土細工としてみれば芸術的でしょう。
寝不足なのかどんよりとした瞼に濁った瞳は、見慣れればヌイグルミのようにも見えてくるような気がする。
テーブルの上に置いてある紙束に“男性同士”が裸で頑張っている絵が描いてあるのも、貴族には色々な趣味の人が居るので私は慣れている。
ぶ厚い唇にグロスたっぷりの真っ赤な口紅は、そこだけ切り取って解像度を10以下にすればセクシーかも知れない。
私は礼儀作法には煩くないので、女騎士達が絨毯に唾を吐いたりするのも自分で掃除をするのなら許しましょう。
彼女がケツをぼりぼり掻きながらブッとガスを漏らし、酒を飲みながらゲップをしても、あからさまに眉を顰めたりはしませんわ。……ほほほ。
「ファニー、どこかでブタが鳴いてるわ」
「あはは、不味そう」
「「「「なんだと、このガキぃっ!」」」」
私の素直な一言に、大人げなく一瞬で切れた彼女達が武器を抜いて立ち上がる。
ほほほ、……何を怒っているんでしょうねぇ。
私はこの外見通り温厚で、一つ一つのことは大抵は気にしないのですが、何故か同性として許せない限界値を超えていたようで、私の口から素直な気持ちが溢れ出て、どういう事か怒らせてしまったみたいです。
温厚なユルちゃんにも限界値があったようです。
次回は、炎の勇者の実力





