4-06 姫様の華麗な日常 ③
悪魔的な表現がございます。
旅は順調に進んでいます。……本気で面倒です。
ここら辺は国と国とを結ぶ森の道。軍隊は通れないような幅の道だけど、その分早く現地に辿り着ける。
ぱぱぁっ、と飛んでいけばあっと言う間なんですけど、一応名目は軍の別働隊としての【勇者パーティ】の一員なのでそんな訳にもいかない。それに、お城で大地達が私達が見せたことを仲良くなった騎士に話しても、冗談だと思われている程あり得ない事らしいので見せるのは拙い。
私は別にゆっくり旅でも良いんですよ? こっちの世界に来てから何かと行動に規制を受けていたので、偶にはのんびりと観光旅行とかしたいじゃありませんか。
……でもねぇ。
「ユルちゃん、お約束だと、ここら辺で山賊とか出てきそうですねっ」
「……また瑞樹はそう言うことを言う」
こんなところで盛大にフラグを立てなくても良いのです。
要するに瑞樹や燈火や、うちの子達が退屈になってきているんですよ。もうトランプも飽きました。馬車の中でやると地味に酔うんですよっ。
なんで毒もまともに効かないのに、私の身体は馬車酔いとかするんでしょ……?
『山賊が出たぞーっ!』
「………」
ほら来たよっ!
この間、人を殺すのを悩んでいたはずの燈火が顔を活き活きさせるほど、この子達は暇を持て余していたのです。
そして似たような表情で燈火と瑞樹が私に顔を向けるその後ろで、うちの悪魔ッコ達が比喩ではなく牙を剥き出して笑っていた。
逃げて、山賊っ! 悪魔の魔の手からっ。
「……仕方ありませんね」
山賊のせいか動きが止まった馬車の中で、私は軽く溜息を吐いて立ち上がる。だって放っておいたら絶対面倒になるに決まってますからっ。
「……ユルちゃんが出るの?」
「外に出ても良いけど、あなた達は前に出てはダメよ?」
「「はーい」」
良いお返事です。一応だけど、燈火達のほうが私より5歳年上なんだけど分かっている? それとファニーとティナはなぜ返事をしない?
ティナが扉を開けてくれて私が馬車から降りようとすると、すでに馬車を降りていた大地達二人と若い騎士が駆け寄ってきた。大地達と同年代の男の子騎士は、ちょっと緊張した面持ちで降りようとする私に手を差し出してくれる。
「ありがとう」
「い、いえっ」
私がニッコリと微笑んで礼を言うと、男の子騎士は顔を真っ赤にして俯いた。
ふむ……そういう初心な姿を見せられると私もちょっと照れる。何しろ、セイル国では私をまともに直視してくれない人が多いからね。
私はティナみたいな特殊能力を持ってる訳じゃないのに、腑に落ちぬ。
「それで状況はどうなりましたか…?」
「はっ、ご報告させていただきまつっ」
噛んだ。
彼のお話を聞くと、山賊は三十人前後で、少なくても他国の兵士が偽装をして襲ってきたと言うことではない“天然物”の山賊みたいです。
つまりどういう事かと言うと、天然物は養殖物よりも味が良いと言うことです。
なんだそりゃ。
自分で言ってても良く分からないが、なんとなく山賊に興味を持ったことを理知的に私なりに説明するとそう言うことになりそうな気がしたのです。
と言う訳でいざ出陣。
現地に到着すると……と言っても徒歩で10秒ちょい程だけど、騎士達と睨み合う農民風の男達が居た。
農民風なんだけど、その身にボロボロになったどっかから拾ったような兵士風な装備を身に付けている。武器も槍がメインなんだけど、良く見るとまともな鉄槍もあれば、木の棒に包丁をくくりつけただけの人も居た。
「キョージ様、どうしましたか?」
「これはユールシア姫。……どうやら彼らは食うに困った、元はどこか近くの村民のようですね。セイル国の領土内でしたら捕まえるところですが……」
「あらまぁ」
どうして山賊が武装した騎士達なんか襲うのかと思ったら、不作かなんかで切羽詰まって襲ってきたのかな? だったら尚更どこかの商人でも襲えよと思わなくてもないけど、何か理由があるのでしょうか。
私が彼らの目に見える位置に出ると、ざわりと動揺のような気配が広がる。
……怖がられた。私の見た目は、田舎に行くほど慣れるのには時間が掛かると、お城の侍女さんに言われたことはあるけど、正直軽く落ち込む。
「おうおう良いご身分だなぁっ! お貴族様の嬢ちゃん連れて観光かいっ! 俺達は明日の飯にも事欠くって言うのによぉっ! さぁ、女子供と食料を寄越しやがれっ!」
山賊の中から頭一つ大きい、熊のような髭面の大男が巨大な斧を持ってがなり立ててきた。
彼が盗賊の頭のようです。なるほどね……特権階級に対して不満もあるのか。
大なり小なり全員が不満を持っているようで、他の山賊達もギラギラした視線を私達に向けている。熊ヒゲの命令もあったのでしょうけど、それなりの覚悟で襲ってきたようです。
……でも、あまり美味しそうじゃないね。
「それで、キョージ様はどうなさるの?」
「それは……」
勇者様なのだから村人には手を出せない。と思ったらキョージはまるで路傍の石でも見るような視線を彼らに向けた。
「他国で山賊行為を発見した場合は、その場で処刑と決まっています」
ダンッ、と大地を抉るようにキョージが飛び出した。
多分、私と従者以外には消えたように見えたでしょう。ギリギリ大地と風太が影を捉えられたくらいかな? まぁ従者達の戦闘を特等席で見せているのだから、それくらい成長してくれないとこちらが困るんだけどね。
それはどうでもいいんだけど、キョージは剣を抜いて熊ヒゲに向けて刃を向けた。
まだ0.5秒も経っていないけど、後5秒も傍観すれば山賊の半数はキョージに斬り殺されそうな感じです。
「『光在れ』」
私が唱えた神聖魔法がキョージと熊ヒゲの二人へ飛ぶ。ついでにこっそりとファニーに目線だけで合図を送る。
私が彼らに掛けたのは【光の城塞】と言う防御系の魔法だけど、通常の【城塞】と違って魔法から身を守る【結界】の効果も含むけど、その場から身動き出来なくなる。
要するに拘束魔法として使ったんだけど、キョージへ掛けた【光の城塞】が不自然に解除された。
でもその一瞬の拘束と、熊ヒゲに掛かった【光の城塞】のおかげで、熊ヒゲは腕を斬り裂かれるだけで済んだみたい。
「……どういうつもりですか?」
追撃を掛けずに、私と山賊達から等間隔に飛び下がって距離を置いたキョージが低い声音で私に声を掛けた。隠そうとしてもちりちりと殺気が漏れてますよ?
私としても、元が農民だろうと山賊行為に手を染めた時点で恩情を掛けるつもりもないけど、即殺するほどでも無いかなぁ……と思わず手が出ちゃった。
それにしても、どうやってキョージは私の魔法をレジストしたのか?
……抵抗出来たのとは違うな。単純な魔力差ならレジストはされないと思うけど、さっきの場合は、それ以外の要因で外された感じがした。
むぅ……また知らない【勇者の秘術】か、それともキョージの特性とか【スキル】の類かも。
「まぁまぁ、そんなに好戦的でなくても良いではありませんか。ここは、わたくしに任せていただけません?」
「……………」
威圧ではなく、魔力を溢れさせながらニコリと微笑むと、キョージは他の人に気付かれない程度に少しだけ眉を顰めた後、爽やかそうな笑顔を浮かべて恭しく胸元に手を当て私にゆるりと頭を下げた。
「分かりました。“聖女様”の御心のままに」
「………」
嫌みな人だなぁ。
わざと山賊兼村人に聞こえるように『聖女様』と口に出した。
これで私は、これから『聖女様』として彼らと接触し、交渉することになる。通常の異世界に召喚されて聖女にさせられた一般人なら、体面を気にするし、今までの常識が邪魔をして無下なことは出来ない。そして、それでは何の解決にもならないのを知った上でわざとハードルを上げてくる。
「せ、聖女だぁ? そんなんで俺達がびびるとでも思ってんのかっ! ガキの遊びじゃねーんだっ、引っ込んでろっ!」
熊ヒゲが腕の傷を無視して、残った腕で斧を構えた。
多少は気後れしているみたいだけど、まだ敵愾心は薄れていない。威圧じゃなくて魔力を垂れ流しただけだと、キョージみたいに魔力を感じられない人にはあまり脅威にならないようね。
そんな熊ヒゲを見つめ、私は『聖女様』らしくそっと彼に微笑みながら、彼に向かって緩やかに近づいていった。
「このガキがっ、痛い目に遭わねぇと、……え?」
一応は、子供に手加減するくらいの良識があった熊ヒゲが私に手を伸ばした瞬間、私の護衛騎士であるニアに一瞬で取り押さえられていた。
……良かった。ニアで。これが一瞬出遅れて指をワキワキさせているティナだったらどうなっていたことか。それはともかく。
「さぁ、山賊さん達。彼を無事に帰して欲しかったら降伏しなさい」
『『『…………』』』
あまりの出来事に、山賊だけでなく後ろの騎士達からも唖然とした雰囲気が伝わってくる。
「……くっ」
「あ、兄貴っ!」
「お前ら、俺はどうなってもいいから、降伏なんてするんじゃねぇっ!」
ニアから折れるギリギリまで腕を捻られながら、熊ヒゲは仲間達に声を掛け、私に恨みがましい視線を向けてきた。
「俺をどうしようってんだっ! 聖女様が拷問でもしようってかっ」
なるほど……。甘く見られているね。
でもね……あなたが相手にしているのは、“聖女様”でも“貴族の小娘”でもなく、この世で最も恐ろしい【悪魔】なのですよ。ふふ。
「これからあなたの“毛根”を死滅させます」
『『『…………』』』
私のおぞましい宣告に、男性陣の表情が微妙に引き攣った。
「な、なにを……」
「…『光在れ』…」
私が神聖魔法を唱えると、その光に触れた『それ毛皮?』ってくらい毛深かった腕の毛が抜け落ちて、ツルツルの素肌になる。
「なっ!?」
「…『光在れ』…」
驚愕する熊ヒゲにさらに魔法を使うと、もっさりとした胸毛が抜け落ちた。
「さあ、全身、綺麗綺麗しましょうねぇ」
「ちょ、ちょっと、待てっ」
何やらちょっと愉しくなってきた私の晴れやかな笑顔と、赤ちゃんのような状態になってついに彼だけでなく、他の山賊達も素直に投降してくれました。
……どういう訳か、騎士さん達と私の心の距離が遠くなったような気がするのは何故でしょう。
*
山賊さん達は私の誠意ある説得によって、心を改めてくれました。
どうやら彼らは、キョージが言ったように近くの農村の男衆らしく、凶作で食べる物にも困って、旅人を襲っていたようです。
あの熊ヒゲがこちらを襲ったのは、領主が凶作にも関わらず税を減らしてくれなかった恨みが特権階級に向かった結果らしい。
「それで、凶作の原因は分かっているのですか?」
「へ、へい、聖女様……? この間の嵐で畑の土が流れてしまって……。それだけなら何年かに一度あるんで、えっと…『異世界の農業』とやらで山から枯れ葉の混ざった土を持ってきて補ってたんですが、この嵐でそれも流れちまって……」
私達は現在、ちょっと寄り道して山賊さん達が元居た村に向かっています。
多少旅の行程は崩れるけど、柔らかいベッドとは言わなくても床のある場所で寝たいとかそんな個人的な理由ではないんです。本当デス。
「ユールシア姫、他国の事情に関わるのですか?」
キョージが批難……と言うよりも、呆れたような声でこっそり私に話しかけてきた。
ちなみに他の人達は、心の距離の分だけ実際の距離も離れている。
ちゃんと毛根も私が完璧に治して、村の病人も癒したのに、どうして誰も近づいてこないのでしょう……?
「あら、いけませんか?」
「こちらの国はあまり裕福ではありません。このような村はどこにでもあるでしょう。聖女様はそのすべてを救うおつもりで…?」
要するに少女の感傷じみた“偽善”をするのかと聞いているんだと思う。
「ふふふ……」
それに対して私はそっと笑う。
「単なる“実験”ですわ。お気になさらずに」
「そうですか……」
そのせいで、キョージとはさらに心の距離が開いた気がした。今更だけど。
「「「「おおおおおおおお」」」」
村人達から感嘆の声が上がる。
私があるモノをパラパラと畑に蒔くと、トマトやジャガイモなどがにょきにょき成長していった。
……ちょっとトマトやジャガイモが緑色がかっているけど、栄養価は増しているはずです。
「おお、聖女様、これで村も助かります」
よぼよぼの村長が私に向かって頭を下げると、100人近い村人達が同じように一斉に頭を下げた。
「いったいどうやって……、いや、そんなことはどうでもいい。すまなかった……だが山賊行為は俺が若い衆をそそのかしたようなものだ。だから罪は俺一人で……」
畑の様子を見て感動していたような熊ヒゲが私にそう言ってきた。
裁判しても山賊行為は普通に死罪だ。彼らは商人を襲っても荷を奪っても、あまり殺しはしなかったみたいだけど、領主に報告すれば極刑は免れないでしょう。
「私達は他国の人間です。この国のことに、これ以上関わったりしませんよ」
面倒ですし。
「……すまねぇ」
熊ヒゲが顔を隠すようにまた頭を下げた。
……犯罪を見逃した形になったけど、これは“実験”なので、そんなに感動されても困るんですけど。
「ユールシア様ぁ、取ってきたよ」
「ご苦労様」
持ち場を離れていたファニーが、この地の領主と、その他の美味しそうなドロドロの魂を刈ってきてくれた。
村人さん達の魂がさほど美味しくなさそうだったので仕方ありませんね。食生活の充実が一番重要ですから。
でも大丈夫かなぁ……。
山賊さん達ちゃんと生き残って下さいね。あの新作寄生ワカ……作物は大地の魔力を吸って成長しますけど、一番の好物は“魂”なので、作物が増えすぎるとそこら辺の生物を襲うような気がする。
そうして私達はまた旅立ち、数週間後、最前線に近い山岳国家セブリルに到着した。
ちなみに関係ない話だけど、この数年後、どこかの国の小さな村が魔物の群れに襲われたらしいが、“作物”が魔物を襲って村は無事だったと言う与太話が広がった。
次回、炎の勇者との邂逅。





