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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第四章・素晴らしき腐った世界 【異世界テス編】

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4-04 姫様の華麗な日常 ①

少々短めです。

 



 海に面する東の大国、セイル王国。

 人口約180万人。巨大な港が幾つもあり、他の大陸との貿易と豊富な海の資源によって、周辺国とは比べものにならない程の豊かさを誇る海洋国家だ。

 その豊かさのせいか国民の気質は比較的大らかだが、国家としては軍船500隻を擁する軍事国家としての一面もあり、陸戦に置いても魔術師2000名による魔導兵団を用いる戦略で、他国からは畏れられている。


 セイル王国の王都、港から見える高い場所に王が住む美しい城がある。

 王宮の中は一般エリアと上級エリア、そして王族が住まう最上級エリアに分かれていた。一般エリアは城勤めの騎士や兵士、下働きが居るエリアで、上級エリアは騎士や文官だけでなく執事や侍女達もすべて貴族位の者達しか居なかった。


 その侍女の一人に子爵家の三女であるカトリーナの姿があった。

 歳は今年で27歳。15歳の成人から王宮で侍女をしているが、一度他の貴族家に嫁いでから世継ぎを産んだ後に戻った訳ではない。

 そもそもカトリーナはまだ独身である。外見は美人の部類に入るのだが、縁がなかった……もしくは男運がなかったので、いまだに独身で働いている。

 さほど裕福とは言えない子爵家の、しかも5人兄弟の三女なので、繋がりのある貴族に嫁がされることもなく、両親は『自由に生きなさい』とか何とか、『良い話』で纏めようとしていたが、要するにお金が勿体ないので上級学校に進学させずに15歳で家を出された訳で、そんな立場だからこそ遊び半分で声を掛けるようなボンクラ騎士やチャラチャラ貴族しか居なかったので、カトリーナにしてみれば、強引にでも嫁ぎ先を決めてくれれば……、と思わなかったこともない。


 元々カトリーナは彼女と歳の近い第一王女の侍女として雇われていたのだが、第一王女は他国の王家に嫁ぐ時、カトリーナを連れて行かなかった。

 理由としては単純で、第一王女はもっと幼い頃から遊び相手として側に居た、上級貴族出身の侍女しか連れていかなかったからだ。

 残された侍女はカトリーナを含めて数名だったが、そのほとんどは残されてすぐ、まだ十代のうちに適当な騎士などと結婚してしまい、男運が悪い彼女だけが取り残された形になった。

 元王女の侍女と言うことでそれなりに侍女の中では上の立場だが、他の王族には他の侍女が付いているし、上級騎士達も多少気後れする存在の彼女は、城の中で少々持て余されていた。

 そこで国がカトリーナに与えたのは、召喚された【勇者】の世話係だった。

 とは言っても、勇者キョージが召喚された頃はカトリーナはまだ第一王女の侍女をしており、別の世話係が付いている。それに……


「……あの方は、どうも苦手です」


 ちゃらい男共しか周りにいなかったせいか、カトリーナはキョージの笑顔に不信感を持ってしまった。

 新たに誰かが【異世界】から召喚されても、5年前の老人と言うだけでさっさと放逐された女性のように居着かない者ばかりで、カトリーナはこのまま仕事が無い日々が続くのかと思っていた矢先、また新たに勇者召喚が行われた。


 王族主導による勇者キョージ以来の大規模召喚。

 予定では3~4名と言うことだったが、何故か9名+αの【勇者候補】が召喚され、そのうちの5名は自力でこの世界にやってきたらしい。

 その5名……普段召喚する、キョージと同じ【テラ】の人間ではなく、他の異世界から来た者達は、王陛下の前で不遜な態度を取りながらも、その勇者と匹敵する実力から王に許され、【聖女】の称号さえ与えられたらしい。

 異世界の美姫……ユールシア。

 王族や勇者でさえも持て余したのか、同じく持て余されていたカトリーナが専属としてユールシア姫のお世話をすることになる。


「驚きました……」


 初めてユールシア姫を見た時、カトリーナは雷を受けたような衝撃を受けた。

 まだ幼いとも言える彼女の美貌に思わず見蕩れてしまった。

 実際にはまだ城側を警戒していたユールシアの軽い威圧を受けていたのだが、そんなことも気付けないほど“姫”の存在は強烈だったのだ。

 カトリーナは第一王女のことも『殿下』としか呼んだことがなく、第二王女であるビアンカのことも王女として『殿下』と呼んでいる。

 この国では王の子はすべて『殿下』と呼ばれるのが通例で、冗談でも『姫』と呼ぼうなど考えたことすらなかった。

 それなのにユールシアの姿を見た時、『姫』と言う単語が浮かんだ。

 12歳の平均よりもスラリと高い身長のせいか、少女としての清純さと女性としての艶やかさを秘めた、妖精のようなその容姿。

 冷たい人形のような美貌を彩る黄金の糸のような髪に、12歳とは思えない意志を見せる金色の瞳……。

 見たこともないような光沢の上質な黒と銀のドレスを身に纏い、世にも美しい従者達を連れた彼女が“姫”でないのなら、一体誰を姫と呼べるのだろうか。

 その姿だけでも彼女が【聖女】と呼ばれることを納得してしまう程だ。


 あまりに衝撃だったので、最初の頃は近づくことも出来ず、侍女長からユールシア姫の監視を申しつけられていた事なんて完全に忘れていた。

 同じく彼女に近づけなかった侍女達も含めて、“姫様”の従者様方に食事やお茶やお菓子や軽食を手渡す程度しか出来なかった。


 王と彼女の謁見の様子を知っていた上級貴族は、“姫様”を警戒しているようだったが、事情に詳しくない侍女や騎士達は“姫様”達に心を許すようになってきた。

 同時に召喚された、放逐され掛かっていた勇者候補達を救済するその慈悲深さや……単純に彼女達の容姿に惹かれた者も確かに多いが、彼女達の貴族とは思えないような気さくさに、城の一般の者達はまるで“姫様”に“魅了”でもされたかのように惹かれていった。

 そして『聖女の従者』によって単独のゾンビ大量殲滅がなされると、庶民や兵士からの名声も上がり、そのうち何故か、頭髪が少々寂しくなってきた男性達が彼女を支持するようになると、次第に貴族からも“姫様”と呼ばれるようになっていった。


 ……まるで内側から浸食するように。

 “姫様”を警戒して接触しなかった者達を隔離するように、少しずつ認識が書き換えられるように。


 実際には、どうしようもない適当な理由だったとしても。



「カトリーナさん、この背中のこと知っててやったんでしょ……」

「……はい、姫様」

 年相応のちょっぴり不満そうに頬を膨らます“姫様”に、カトリーナは悪戯が見つかった子供のように視線を逸らす。

「……もぉ、言ってくれれば良かったのに」

「申し訳ございません」

 素直に謝れば“姫様”は絶対に怒らない。

 そもそもカトリーナは“姫様”が、ビアンカのように我が儘で怒りを撒き散らすような姿を見たことがなかった。……まぁ、それを作った従者の少女騎士が張り倒されていたが、その後すぐに立ち上がったことから、じゃれ合い程度なのだろう。

 カトリーナもそんな間柄になりたいと強く思う。

 カトリーナが“姫様”の背中が良く見えるように髪を結い上げたのはわざとだ。

 シミ一つ無い美しい彼女の背中を誰にも見せたくないと思いながらも、その美しさを隠すことは“罪”のようにも思えた。

 なによりもカトリーナは“姫様”に仕えていることを誰かに自慢したかった。


 人とは思えない程の神が創り上げた恐ろしいまでの美貌を、ゆったりとしたはにかむような笑顔で優しく包み込む“姫様”。

 彼女は【聖女】として、勇者キョージと共に悪に立ち向かう為、戦場である北の大地へと旅立つ。


   ***


「それでは、行ってきますわ」

「はい姫様、お早いお帰りをお待ちしております」


 あの会食から一週間後、私はキョージと共に、闇の勢力側に占拠された北の小国へ向かうことになった。

 キョージとは出発は一緒だけど馬車は別です。彼は自分のパーティメンバーとして、10名の騎士と4名の魔導師、2名のレンジャーと4名の下働き兼荷物持ちを連れている。

 速度と隠密優先の少数精鋭なはずなんだけど、思ったよりも人数が多いです。

 まぁ、現実だと勇者と戦士と魔法使いと僧侶だけなんてあり得ないか。


 出発する私達をお城の侍女さん達が見送ってくれる。

 その中でカトリーナさんの声には、心配しているようで確実に無事なはずだという確信めいたものが、チラリと垣間見えた。

 ……間違っていないんだけど、最近ちょっとだけ“信仰”めいた視線を向けられることもあるので、ちょっと怖い。最近のおやつが少しだけ“供物”化している気がする。


「カトリーナさん……やっぱり『姫』って呼ぶのは拙くないです?」

「いいえ、姫様は私達の“姫様”ですから」


 よく分かんないけど、他の人達も頷いているので、もう気にしないほうがいいのでしょうか……。

 

 

次こそ本当に出発です。


次回は、旅の道中。 ユル達が全力で走れば半日で着けますけど。

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― 新着の感想 ―
つまり、 カトリーナ「惚れてまうやろーっ!?」 という事ですな。 キョージ(身振り手振りの無言でアピール) カトリーナ(不審者を見る目)
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