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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第一章・悪魔を見た夢 【現代編】

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1-05 夏休みになりました ①

 



 その【存在】が初めて現れたのはいつの頃だろうか。

 明治時代の文明開化。西洋の文化が入ったことで日本の制度や習慣が大きく変わり、日本人の意識が変わったことで、それはこの世界に生まれた。

 初めは小さな何の力もない存在だった。

 だがそれが変わったのは一九五〇年代、戦後から復興して急激に日本の経済が発展し始めると、その【存在】も同様に【力】を付け始めた。

 力が大きくなれば気付く者もいる。

 それを見つけたのは偶然かも知れないが、気付いた者の一人が政治家にそれを話し、日本の地位を上げようと躍起になっていたその政治家は、噂に聞いていた東京地下にある大鍾乳洞の中に、その【存在】を見つけてしまった。

 

 意思が有り、大いなる【力】を持つモノ。

 

 調査を依頼された旧軍の科学者や陰陽師達はそれをそう位置づける。

 意思はある。だが目覚めてはいない。その発見は力を持つ財閥と政治家に報告され、その【力】を利用する手段が探られた。

 数年後、この国を古くから守護する宗教団体の協力により、一部の女児がその存在と意志を通じ合わせる事が出来ると判明し、その女児を【巫女】として置くことで、その力を利用できるようになった。

 そして日本はさらに成長を始める。

 それがこの【存在】の力のおかげなのかは分からない。だが国力を上げ、他国からも注目されると、新しい文化の中心である東京の地下で、その【存在】はさらにその力を大きく成長させていった。

 

 そして現代になり……それは目を覚ます。

 遙か彼方の異界より来訪した、一人の【少女】に恐怖して……。

 

   ***

 

 季節は夏ですっ。唐突ですがっ。“私”が今の私になったのは春頃だったので、秋になったら六歳になります。

 王子くんから夏休みにスイスの牧場に行こうって誘われたけど、ごめん。うちの家は夏休みにスイスに行くような家柄じゃないんだよ。

 でも、サム(笑)じゃなくて本当に良かったよ。王子くんならまだ私の精神耐久は削られない。

 本名は心が痛いし、サムは心が寒い。駄洒落じゃない。

 王子くんは私が手を引っ張って動かしていたので、少し痩せてきました。

 あの凄い“おやつ”を控えているのも大きい。私が毎回止めていなければ、幼稚園にいる時間だけで毎日2000キロカロリーは摂取していたでしょう。

 止めるのは案外簡単でした。ちょっと落ち着かない様子になった時に私が手を握ってあげると、ニコニコと手を握り返して食べるのを忘れちゃうんです。

 お友達と認めて貰えたかな。

 これからの目標は、『王子くん』と呼ばれてもおかしくないように痩せさせることですね。

 

 さすがに三ヶ月も経ちますと、だいぶ記憶の混乱も落ち着きました。

 思い出した部分も沢山あるけど、この三ヶ月分の記憶が上書きされたからだと思う。

 まぁそれでも私は子供らしくないんですけど……。

 あ、そうそう、私の外出禁止がさらに延びましたっ。

 いや、もちろん幼稚園には通っていますけど、ピアノのレッスンにも通えなくなっちゃった。意外かも知れないけど私ってピアノ弾けたんですよ。

 まるで何年もやっていたかのように……って言うか、私の中にある断片的な記憶のほうで、お城の中でやっていた記憶のままに弾いたら普通に弾けた。

 でも鍵盤の位置とか微妙に違うのよね。……何でだろ?

 あ、そうだ、外出禁止が延びた理由ですが、この三ヶ月で交通事故二回、通り魔一回に遭ったからです。

 ……どんな確率だよ。どっちも事前に回避出来たから良かったものの、そのどれも、正気を無くした人間が絡んでいた。

 あの、トラックの運転手みたいに。

 ………狙われている。

 どこかの“誰か”に。

 

 そんな理由で、自分でも人が多い場所には外出しないほうがいいと判断しました。

 あくまで自重できる範囲で、だいぶ適当だけど。

 でも、そうなるととても暇になる。遊ぶ相手も王子くんか公貴くん達くらいしかいないから、彼らもお稽古事があるみたいで毎日は遊べない。

 女友達がいないと結構きつい。あのグループの女の子達は公貴くんと普通にお話しする私とお話ししてくれない。幼児でも女は怖い。

 気分的には琴ちゃんくらいの歳の人と遊ぶほうが、精神年齢的に楽なんだけど、私は猫かぶってますからね。ネコ幼女です。

「あれ?」

 お部屋の絵本を片付けながら偶にぼんやり窓の外を眺めていると、家の裏手のほうにある丘の上に何か赤い物が見えた。

 何だろう……って言うか、何だっけ? 何か見覚えがある気がする。

 五歳の私のほうの記憶じゃなくて、断片的なゴチャゴチャになった記憶のほうから、“私”の記憶が浮かんできた。

 あれって神社の鳥居かも。確か祀ってあるのは、お狐様というか土地神みたいな感じだったと思う。

 ちょっと気になるな……。遊びに行きたいなぁ。

 木漏れ日の光が漏れる静かな神社とか、何となく心惹かれませんか?

 そんな訳で、

「大葉お兄ちゃん、裏の神社に行ってみたい」

「おお、いいぞっ、蝉かっ。兄ちゃん、蝉捕るの得意だぞっ」

 丁度帰ってきたお兄ちゃんにお願いしたら、すぐに良いお返事が貰えました。

 お兄ちゃんは、どうして神社に行きたい、とか、どうして神社があるって知ってる、とか、そういうの気にしないから助かる。

 あと、蝉はいりません。

 

 大葉お兄ちゃんと一緒に神社に行くお許しが出ました。ひゃっほーっ。

 ちなみにお兄ちゃんは麦わら帽子に首にタオルを巻いたフル装備です。なんでそんなに蝉捕りに本気なの……?

 私も白い幅広帽子をかぶって虫網を持たされたけど、蝉なんて捕らないよっ。道路に落っこちていて何だろうと近寄ると、突然鳴きながら地面を跳ね回るアレは、結構トラウマなんですよっ。

「柚子、石段長いけど大丈夫か? 兄ちゃんがおぶってやろうか?」

「……自分で登ってみる」

 たぶん五十段くらいだと思うけど幼児だと大変だ。そして落ちたら死ぬ。

 バチ…ッ。

「っ、」

「どうした?」

「なんでもない」

 登ろうとした瞬間、ばちっと静電気みたいな感じがした。

 なんだったんだろ? 近くの大木に巻いてあった縄が切れたけど、あれって私に関係ないよね?

 まぁ気にすることもないでしょう。今度は普通に入れたし。

 でも石段は結構大変です。

 普通の階段だとそんなでもないけど、蹴上げ高さも踏面もバラバラな石段だと、歩幅の狭い幼児は普通よりずっと疲れます。

 でもそれを乗り越えてこそ、静かな境内でのんびり出来るってものですよ。

 

『ミーン、ミンミン』『ぎゃははっ』『向こう行ったっ!』『ミーン、ミーン』『なんか降ってきたっ』『カブトいねーの?』『ミーン、ミンミン、ミーン』『え~んっ』

 

「…………」

 神社に着いたのは良いけど、そんなに静かじゃなかった。

 近所の小学生達が狂ったようにはしゃいで蝉を捕っています。……男の子ってそんな感じだっけ……? それと結構お参りに来る人も多かった。

「……予想と違った」

 暇つぶしも兼ねて静かな神社で森林浴っぽい事をしようと思ったのに、普通の場所より騒がしい気がする。

 石段を登っただけで疲れちゃったので、手を洗ってお参りしてから、神社の境内に座ってぼんやりと空を眺める。

 聞こえるのは五月蠅い子供達の声……。やかましい蝉の音。……駆逐はまだか。

 パンパンっ、

「……え」

 近くで柏手が打たれる音に顔を向けると、知らないお婆ちゃんが私の前にみたらし団子のパックを供えて拝んでいた。

「……あの、ちょっ…」

 呼び止める間もなくお婆ちゃんはそのままどこかに行ってしまう。良く見ると大福とかお煎餅もあって、パックの上には5円玉が置いてあった。

「…………」

 私にどうしろって言うのっ? 誰とご縁を結べばいいのよ、お婆ちゃんっ。    

 

 またなんか通り魔とかが来る前に家に戻ったほうが良いかもね……。

「ねぇ、お兄ちゃ…」

 振り向くと大葉お兄ちゃんは、小学生達に蝉捕りの講義を行っていました……。

 

 何か暇つぶしはないかなぁ……。

「………あ」

 何気なく見回した神社へと上がってくる石段の先に、真っ黒な猫がいた。

 何の色も混じらない本当の涅色(くろ)……。

 その銀の瞳が私を映して……

 

「……柚子ッ!」

 

 気がつくと私はお兄ちゃんに抱きかかえられていて、下に降りる為の石段が目の前から続いていた。

「なにやってんだ、柚子っ、落ちるとこだったぞっ!」

「……あ、…うん、ごめんなさい」

「……具合が悪くなったのか? もう帰ろう。また来たくなったら俺が付き合ってやるから…」

「……うん」

 元気を無くした私に、お兄ちゃんは叱るのを止めて優しく頭を撫でてくれた。

 ……私、何をやってたんだろ。



 

 出会えるのはいつの日か……。


サイドストーリー

『シンデレラの砂時計』開始


次回、商店街に向かいます。


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― 新着の感想 ―
「結界が破壊されたぞ!? 何があったんだ!?」 「解らん! この神域の多重結界が焼き切れるなんて、普通じゃ有り得ない! 何があったかなんて、聞きたいのはこっちだ!」 みたいなやり取りが何処かであったり…
[一言] 黒ぬこは正義
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