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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第三章・勇者の国 【異世界テス編】

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3-15 北の国から ④





 ダンジョンがあって、そこにゾンビ発生事件の原因があるかもしれない。

 でも私とコロナとの契約は、『ここに訪れて、事件解決のついでにここのドワーフ国を破壊するかも知れない北の勇者を何とかすること』なので、簡単に済ませるのなら、勇者を見つけて始末するだけで用は済む。

 でも私はそれをしない。

 別に勇者と仲良くしたい訳じゃない。あれが犯した罪を許すことが出来るのは勇気くんだけだし、勇気くんとも勇者達をなんとかすると約束をした。

 そう……『約束』だ。

 悪魔にとって【契約】は特別であり絶対であるけど、実は裏道も存在する。寿命という概念がない悪魔は、気に入らなければ放置することも出来る。

 期限がある今回のような場合でも、ドワーフ国が形だけでも残れば、最低限の契約は完了したと宣言することが出来るのだ。

 皆さんも訪問販売に来た悪魔との契約には注意してね。

 でも、約束は違う。

 他の悪魔はどうか知らないけど、少なくとも私は友達との約束は果たす……つもり。

 それに、簡単に済ませたら悪魔的につまらないでしょ?

 そして……私はこの世界に来てから、ある事をやると決めている。

 やってることは悪魔らしくはないんだけど、適当に頑張ろう。


「と言う訳で、大地と風太は、私の従者達と組んで、バラバラにダンジョンを攻略して貰います」

「「どういう訳!?」」


 む。説明が足りませんか? 大地と風太から同時にツッコミが入った。

 まぁ、説明はしていませんが。

「ニア、ティナ、二人に装備を渡して」

「わかりましたー」

「かしこまりました」

 私の指示にニアが、今回購入した新式の魔力剣を二人に配る。ティナが持っているのはこれも適当に買った部分鎧です。

 かなり値切りましたが、これ一本でも軽乗用車が軽く買える金額なんですよ。その上に私が強化の魔法陣を埋め込んでいるので、ファミリーカーを新車で購入できるくらいの価値はあるでしょう。値段を伝えると二人の顔が青くなった。

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、バラバラって…大地と別行動って意味ですか?」

 風太が大地をちらりと見ながら不安そうに私を見る。

「私とも別ね。私が居ると回復とか支援魔法とか、それこそ魔王と戦う勇者並に受けられるから、そんな過保護な状況だと鍛錬にならないでしょ?」

「……実戦で訓練ってことか?」

「うん、そうよ」

 多少引き攣った大地の言葉に、私はニコリと笑う。


 今回やることは、風太と大地に命がけの戦闘訓練をさせることです。最終的には勇者と戦っても簡単に死なない程度に強くするのが目標だけど、それは言わないでおく。

 この二人と瑞樹や燈火を含めた四人には、最終的に【勇者】になって貰う予定なんですよ。

 二人の訓練はニアとティナに任せて、私は私でダンジョンの最奥を目指す。

 そこにダンジョンマスターがいるのなら、少々お話ししたいこともありましたしね。私が勇者も押さえるつもりでいるけど、ティナとニアなら、単独で勇者パーティと戦闘になっても負けはしないと思う。

 私の目算だと【勇者パーティ】と【大悪魔(アークデーモン)】はほぼ互角。

 うちの子達は、戦闘力なら大悪魔の中でも上位だから、勇者四人組だと危ないけど、単独の勇者パーティなら問題ないと思う。

 ただ、それだと悪魔だとバレちゃうかも知れないから、もし出会っても出来るだけ戦闘は避けて欲しい。


「勇者のお供は“おやつ”に入りますか?」

「……ほどほどにね」

 ティナにとっては、勇者パーティの魂とバナナは同じ感覚でした。


「それでは行きましょうか」

「えっと……ダンジョンはどこにあるんですか? 確かコロナさんはこの地下にあるって言ってましたけど、まだ公表されてないんですよね?」

 風太はきちんと情報を整理しているね。

 この国にダンジョンがあることは、冒険者ギルドと北の大国ゲンブル程度しか知らないはず。たぶん住人に聞いても知らないんじゃないかな?

「ここの長老ドワーフとかなら知っていると思うけど」

「それじゃ、まずはそこから聞き込みかっ?」

 なんとなく冒険者っぽい仕事内容に、大地がウキウキしたようにそう言った。

 ぶっぶー。ハズレです。

「ぶち抜きます」

「「………は?」」

 なに言ってんだ、こいつ、みたいな顔をしている二人を放っておいて、私が振り返ると、ニアが【黄金魔剣(ニヤンコけん)】を抜き放った。


『ニャ』


 ドゴォオンッ!

 相変わらず赤面しそうな斬撃音を破砕音が上書きして、ニアの一撃で人気のない道路の地面が貫かれた。

 さすがニア。少ない魔力で効率的に岩盤を貫いている。

 多少の地震が起きて、あちこちから住人の悲鳴が聞こえるけど、これも計算通りなのです。ホントだよ。

 目撃者は居ないと思うけど、土埃が大量に上がっているから、野次馬が来る前に唖然として固まっている大地達を放り込んで、私達はダンジョンに落ちていった。


 目印は作った。さぁ、勇者さん。来ているのなら追っていらっしゃい。

 ……ここまでやって、下にダンジョン無かったら格好悪いな。


   ***


「げほげほっ」

 運良く……行き当たりばったりの行動でも、ダンジョンに降り立った三人の悪魔は、その場で分かれてダンジョンの探索を始めた。

 その一人であるティナは、土埃を吸い込んでまだ咽せている風太を冷たく見下ろしながら、感情の見えない顔で口を開く。

「エヘン虫ですか?」

「違いますよっ! けほ」

 律儀にツッコミを入れる風太に、ティナは理解できないと言った顔で首を傾げる。


「………」

 風太はあらためてティナをジッと見つめる。

 この世界に誘拐のような形で召喚され、能力が足りなかったせいで捨てられそうになっている四人を保護してくれた【聖女】の従者。

 性格的にはアレだが、互いしか拠り所のない四人は、不安だらけのこの世界でユールシアに感謝をしていた。

 自分達を異世界の脅威から保護して、生きる為、戦う為の術を教えてくれる。

 多少は手加減して欲しいとは思うが……。

 ユールシアの年齢は風太達より下だが、貴族だからなのか大人びていて、瑞樹はともかくあの勝ち気な燈火までも、まるで甘えるように懐いているのは微笑ましかった。

 ユールシアの容姿が桁外れに良いので、その衝撃から忘れがちだが、あらためて見ると、このティナと言う少女もとても整った顔立ちをしていた。


 人は生きているなら、ある程度の歪みはある。

 寝不足なら瞼は腫れるし、寝過ぎれば顔がむくむ。食べる時に右か左か噛む場所に癖があるだけでも、歳を追うごとに歪んでいく。

 例え血が繋がっていない家族でも何故か似ているように感じるのは、生活習慣が同じなので歪みに共通点が出来るからだ。逆に双子でも産まれた瞬間からまったく違う環境で育てば、かなり印象が違って見える。

 だが聖女一行の面子は歪みがなかった。

 3DCGなどを見慣れている風太は、歪みがないことを不自然だとは思わず、人形のように整っている美少女だと受け取った。

 まだ中学生の低学年程度の少女なのに、ジッと見ていると風太は顔が熱くなるのを感じた。

 風太は瑞樹に淡い思いを抱いているのでそれほどでもないが、恋人のいない城勤めの若い騎士などは、彼女達を見かけると顔を赤くして見つめている者も多い。

 特に外見が成人に見えるニアや、いつも可愛らしい笑顔を浮かべているファニーが、人気が高い。

 このティナと言う少女は、従者達の中でも一番美人に思えたが、表情が無く冷たい印象を与えているせいで損をしているのではないかと風太は思った。

 風太自身も冷静に物事を見る癖があって、大地達以外の者からは冷たい人間だと思われていることを知っているので、少しだけ仲間意識を持てた。

 ティナももう少し表情を和らげて、悪役令嬢みたいな縦ロールを止めて、壁ではなくもう少しだけ胸があれば………


「……何か?」

「………いえ」


 まるで風太の心を読んだように剣呑な気配が流れて、風太も思わず視線を外す。

 ちなみに風太の視線がティナの胸部に向けられていたのでバレバレだ。


「では、ダンジョン探索に参りましょう。不肖、このティナがお供をさせていただきます。風太様、準備はよろしいですか?」

「う、うん」

 さっきまで咽せていたので準備もへったくれもないが、風太は慌てるように貰ったばかりの剣を引き抜いて構える。今までの経験から、準備が出来ていないと言ってもそのまま引きずられて行くことになるだろう。

「えっと、ティナさんは戦いが出来るのですか?」

「はい、嗜み程度ですが」

「…………」

 あっさりと頷くティナに、風太は若干の不安を覚えた。

 戦闘の師匠であるニアの実力は毎回ボロボロにされているので知っている。でもこのたおやかなメイド少女はどの程度の実力があるのだろうか?

 それでもティナが大地の脚を掴んで、とんでもない速さで疾走している姿を見ているだけに、身体能力が人間離れしていることは知っているが、やはり不安だ。

 彼女が戦えるか、ではなく、何かあった時に、男として風太が年下の少女を護れるかどうかを不安に感じていた。

 着ている物はメイド服で防御力はまったくなさそうだし、彼女は武器の類も持っているように見えないのだから。


「来ましたよ」

「っ!」


 ティナの声に風太は、緊張に震えそうになりながらも前に出る。

 ダンジョン内はほんのりと天井が発光していて、ランプを点ける程ではない。

 床も壁も天井も石で造られた通路に、ずるずると引きずるように何かが近づいてくるのが風太にも見えた。

「わんちゃんのゾンビですね」

「………わ、わん…ちゃん?」

 あまりにも場違いな可愛らしい表現に、風太は力が抜ける思いがした。

 確かに犬だ。でもワンちゃんと言う程可愛くはない。

 ヘルハウンドの変異種かケルベロスの亜種であろうか。全長3メートルの頭が二つある腐った犬など、冗談でも可愛いと言いたくない。

 ヌラリと光る濁った視線と、アンデッド特有の寒気を感じさせる歪な気配と合わさって、初めての実戦をする風太はゴクリと唾を飲み込んだ。

「動きはそれほど速くありませんね。脚を斬ってみてはいかがでしょう?」

「わ、わかった」

 風太も覚悟を決めて、剣を構えながら震える脚を前に出す。


『ガウォオオオオオオオオッ』

「ひっ」


 突然ゾンビ犬が吠えながら襲ってきた。

 筋肉が腐っているので動きは遅かったが、身体が大きいので、一瞬で間合いを詰められ、風太は小さく悲鳴をあげた。

 ガチンッ。

 風太の目の前で、ゾンビ犬の牙が噛み合わされる。

 動けなかった風太だったが、ティナがその襟を掴んで後ろに下がらせてくれたので、ゾンビ犬の攻撃を躱すことが出来たようだ。


「風太様、もう一度、初めから」

「……え?」


 ティナは静々と貴族令嬢のような足取りで前に出ると、ゾンビ犬の首を掴んで引きずり初期位置まで戻した。

「…………」

『…………』

 これには風太だけでなく、脳みそまで腐ったゾンビ犬まであまりの出来事に唖然としているように見えた。

「れっつ、りぴーと」

『………ガァオウッ!』

 怪しい英語でもう一度やれと言うティナに、フリーズしていたゾンビ犬は本能の赴くままティナに襲いかかる。だが、


「お座り」

 けれど、またあっさりゾンビ犬の首を掴むと、お座り(物理)させたティナが風太の横に戻ってくる。

「さぁ、風太様、まずは脚を斬ってみましょう」

「………はい」

『………きゅ~ん』


 それから何度か同じ事を繰り返し、風太は生まれて初めてゾンビを倒し、同時に生まれて初めてゾンビという存在に心の底から同情した。

 

 

 ティナは常識がないだけで仕事は優秀です。


 次回は、ニアと大地ペアです。

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― 新着の感想 ―
まあメイド長だもんねえ この頃から既に絶壁のこと気にしてたのか
風太の淡い恋心(?)は…………まあ、適わないだろうなあ…………。残念! だがそれより可哀相なのはゾンビ犬よ…………。哀れ。
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