3-14 北の国から ③
「どうしてこの性能でこの値段なのよっ。新製品なのに、前回よりも強度が落ちてるじゃないのっ。もっと安くしなさいよ!」
どうやらクレーマーさんのようです。
チラリと近くの武器を見てみると『新製品』と書いており、魔導伝導率15%アップとか、驚きの省魔力設計とか書いてある。……異世界人に毒されすぎてない?
汗を拭いている店長っぽい店員に騒いでいたのは、かなり背が高くて筋肉質な、身なりの良い男性だった。でも、『おねぇ』だ。
貴族っぽいからお金はあるでしょうに、なんで値切っているの?
仕方ないなぁ……
「武器として強度が下がっていたら、本末転倒ね」
「あら、あなた、分かってるじゃないっ」
「お、お客様?」
私も値下げに便乗してみた。
……ん? 何かおかしな事をしましたか?
こういう場合は理不尽な客に困っている店員を助けるのが筋かも知れないけど、お金を持っているのと、節約は別である。
ふふふ、わたくし、悪魔ですのよ。
ここら辺の意識は、ユールシアと言うよりも、新たに統合された“柚子”の感性が出てきている感じです。
悪魔として、少しレベルが上がった感じでしょうか。
値下げ交渉に参戦してきた貴族のお嬢様っぽい私に、男性は悪い顔でニヤリと笑い、店員の顔色が悪くなる。
「で、ですが、こちらの製品は新素材を組み込むことで、画期的な…」
「でも、武器として弱くなった物に、従来の二倍は高いわよ。私は毎回、新製品買ってるでしょっ、もっと安くしなさいよっ」
「まぁまぁ、お待ちになって。美しいお顔が台無しですわよ?」
「あらぁん?」
私がやんわり遮ると、男性は微笑んだ顔を私に向けた。私も同じように微笑み返してから店長に声を掛ける。
「どの程度強度が落ちていますの? 説明してくださる?」
「この素材は…」
なんだか長ったらしい説明を始めたけど、要するに全体の性能は上がったけど、その新素材のせいで強度は一段階下がる。値段が高いのは素材が高価と言うよりも、配合の研究費が高くなってしまったらしい。
「なるほど分かりました。新製品に開発費を含めるのは当然だとしても、強度が下がった製品では完成品と言えませんわ。ですから、この値段でいかが?」
「……そうねぇ。まだ高いけど」
「新製品ならある程度は仕方ないわ。でもこれ以上は性能的に無理よ?」
「……分かりました」
新製品を値引きされている前期モデルと同金額で、私は二本、男性は一本購入する。
思ったより安くならなかったことで男性は不満そうにしていたが、新製品が好きなようで口元は緩んでいた。
店長さんは、毎年来ていただろうクレーマーがすんなり引き下がったことに安堵しながらも、安く売ってしまったことに顔を顰めていた。
「ねぇ、店長さん」
「……な、なんでしょうか?」
私がそっと話しかけると、店長は少し怯えた顔で振り返った。
「大丈夫ですよ、悪い話ではありませんから。この魔力武器の強度を高める、特殊な魔法陣は必要有りませんか?」
「………ほほぉ」
店長が一瞬で商売人の顔になった。
この世界の魔道具は、魔石に頼っているせいであまり小型化や複合化をしていない。
私自身も魔法陣は作るけど、今回はアトラでは当たり前になっている魔法陣の売り込みをしてみた。
一度実物を武器に埋め込んで強度を調べさせ、店長との交渉の結果、金貨二百枚――約二千万円で技術販売が終了した。
特許料も欲しかったけど、それはまぁもっと大掛かりな時で良いか。
「おまたせぇ」
「「お疲れ様でした、ユールシア様」」
半日ほどの商談を終えると、恭しく従者の二人が迎えてくれた。
その後ろで疲れきった顔の大地と風太が呆れた視線を向けてきたけど、私はそんなこと気にしない。
私もあの男性も安く買えたし、店側も問題点が改善されてみんな幸せなのです。
これもある意味、知識チートですね。
「あなた、ユルちゃんっていうのね?」
「あら、先ほどはどうも」
いきなり『ユル』ですか……。まぁいいけど。
横から話しかけてきたのは先ほどの男性だった。半日も経っているから帰ったと思っていたら、私を待っていたらしい。
「ふふん、私は顔が良いだけの小娘も嫌いだし、あまり値切れなかったのも不満だったけど、ユルちゃんのやり方は気に入ったわ」
「まぁ、ごめんなさい。あなたが知り合いの“姫”に似ていたものですから、思わず声を掛けてしまいましたわ」
身長3メートルの姫だけど。
私が彼を“姫”に例えると、彼は頬に手を当てて『うふ』と笑った。
「もぉ、若いのに口が上手いわねぇ。どこかの商家のお嬢さんかしら?」
「ご想像にお任せしますわ」
「うふふ」
「ほほほ」
二人で微笑み合うと、近くにいた他の客があっと言う間にいなくなった。
「本当に気にいったわ。私のことはカンちゃんって呼んでね、ユル」
「カンちゃんは、どこかの貴族の出身?」
「ふふふ……こちらも想像にお任せするわ」
なんとなくだけど、カンちゃんは“異世界人”だと感じた。
この世界で髪を染めて、おねぇ言葉を使う三十代の男性なんて、多分異世界人だけだと思う。私は特にそう言った人に偏見はない。
「この世界の子が、みんなユルちゃんみたいだったら良かったのに」
「あら? カンちゃん、どうしたの?」
「それがねぇ、この私に、どこぞの得体の知れない小娘と交渉しろ、なんて言う奴がいるのよ~」
「それは面倒ね。私もお仕事で、どこの馬の骨とも分からない奴を、どうにかしないといけないの」
「ユルちゃんも大変ねぇ。やっぱりユルちゃんって、お嬢様でしょ? そっちの護衛の男の子達は“異世界人”かしら?」
ぬめっとしたカンちゃんの視線に全身を舐められて、大地と風太の顔が盛大に引き攣る。
「異世界人で戦える子は、それなりに強いから雇うと高いのよ」
「あ、そうなんだ」
勇者以外は役立たずとして放逐されるけど、それでも魂が強いからか、一般人より色々な分野で使える人材が多いみたい。
それなら城で鍛えて兵士として使えばいいのに、と思うけど、こっちの常識がない人間を一から教育するのはお金が掛かるんだろうなぁ。
「うふふ、なんなら、私に雇われてみる? 可愛がってあげるわよ」
カンちゃんが大地達に1センチくらいの睫毛でウィンクすると、二人はぶるんぶるんと首を振る。
「何事も経験よ?」
私がニコリと微笑むと、二人は一瞬で数メートル飛び下がった。
ふむ。意外と特訓の成果が出ているのではないですか? これならさらに特訓しても良さそうです。
こうして私はドワーフの国で、謎の異世界人、カンちゃんと出会った。
それなりに仲良くは見えるけど、私もカンちゃんも相手を値踏みしながら、どう利用出来るか考えている状況だ。
つまらなそうな仕事になるかと思ったけど、少し面白みが出てきて良かったわ。
……そういえば、勇者ってどこにいるんでしょ?
次回は、ダンジョン内で二人を鍛えます。





