3-04 聖女様達の華麗な日常 ①
説明文がまた多い…
十四年前……綺堂京時はボロボロの身体で、水晶球の光が照らす石造りの部屋に倒れていた。
その後、ここの住人と思われる人物達に運び出されて治療を受けたが、京時は外傷はそれほどでもなかったのだが恐ろしく衰弱しており、ベッドから起き上がれるようになるまで二週間ほど掛かった。
その間、京時はこの世界……【テス】に召喚された勇者候補であると聞かされる。
この歓待具合から、おそらくは勝手に調べられて、京時は【勇者】としての素質があったのだろう。
やっと会話が出来るようになった頃、京時は違和感を感じはじめていた。
この異世界に召喚というのも現代人である京時には違和感だらけなのだが、それよりも会話をする時、自分の声や身体に違和感を覚え、当時の召喚者である十代前半の第一王女の口調が、丁寧ながらも同年代に接するような口ぶりだったからだ。
そして動けるようになって鏡を見た京時は驚愕する。記憶にある自分の姿が、十歳以上若返っていたからだ。
自分の記憶にある京時は二十六歳だったのに、鏡に映ったその姿は十代前半……せいぜい十四~五歳で、どうしてこうなったのか分からないが、京時はこの事実を自分の内にだけ仕舞い込み、この世界で“生きる”為に動き始めた。
調べて分かったことは、この世界は地球の中世から近中世程度の文化で、地球と良く似た文化体系を持っていた。
言葉については最初から普通に会話出来ていたが、これはこの世界に来たことで、この世界特有の【スキル】の恩恵を得られたからだと分かった。
そして、元の世界に帰ることはほぼ不可能だとも理解する。
この世界が地球から【勇者】を召喚するのは戦争の為で、地球に送り返す技術はあるらしいが、呼び寄せるより送り出す方が魔力を消費するらしく、そんなことの為に貴重な魔力を消費するとは思えなかった。
使える【勇者】なら彼らが手放すはずもなく、使えない凡人であったなら、尚更そんな物の為に魔力は使わない。
それに彼らから大人しく『帰す』と言われても、途中で異次元に放り出される目算の方が高かった。
異次元に放逐……あの恐ろしさは経験した者でないと分からない。
あの柚子と言う少女の形をした“化け物”に放り出され、京時は強運か偶然か、偶々異次元に放り出されてすぐに【召喚】されてこの世界に来られたようだ。
助かったと思う安堵より、あの少女への恨みの方が勝った。
だがすぐ地球に戻れる状況だとしても、あれに勝てないのでは戻っても意味がない。それに京時は成り上がる事を目指していただけで望郷の念は薄く、どちらにしろ、まずはこの異世界【テス】で力を付けるとこが重要だと考えた。
幸いにも【勇者】としての素質があった京時は、この世界の発音に合わせて自分のことを『キョージ』として名乗り、テスで第二の人生を始めた。
そして年月が過ぎて、勇者として力と名声を手に入れたキョージに、所属するセイル国からまた異世界召喚という強制拉致の事実が伝えられる。
キョージはそれに関して特に思うことはない。キョージの関心は拉致の善悪ではなく使えるか使えないか、それだけだった。
今までも何度か召喚に立ち会い、他国の召喚も噂に聞いていたが、キョージの後に続く勇者の素質がある者は、二年前にやっと大国ハッコーで召喚された少年だけで、このセイル国ではキョージのパーティメンバーとなれる者さえ召喚出来ていない。
使えない者ならいつものように多少の金を渡して城から放逐し、これが小賢しいことを考える奴ならば騎士達を使って始末させる。
ある程度使える者なら、教育してキョージの道具にすればいい。
だが、今回は四名という大規模な召喚だったが、実際に現れたのは九名+αで、そのうちのイレギュラーである者達は、地球とは違う他の異世界よりの来訪者だった。
この十四年で調べた文献により、この【テス】と【地球】以外にも異世界があることは分かっている。それらの世界の“異世界人”達が偶然転移することにより、ある程度の文化が統一している節も見つかった。
それらの世界なら、この世界以上に異世界転移を使える魔導が存在していてもおかしくはない。
そして四人しか召喚出来ない魔力でそれ以上の人数が来たというのは、彼らがこちらの召喚魔法陣を利用して、自分の意思でこの世界にやってきた可能性があった。
その異世界人達は、とても人間とは思えない美しい少女達であった。
その人間離れした特異な美貌に、キョージは自分を異次元に落とした“化け物”と同じ印象を得て警戒した。
その中心人物と思われる金色の“姫”からは、キョージから見ても恐ろしいほどの魔力が感じられた。それを感じてキョージは自分の仮説が正しいと直感し、彼女がこの世界の知識を得る前に始末するべきかと考える。
本来のキョージなら、相手が危険でもその知識を得ようとしただろう。
それほどまでにあの“柚子”の印象は、キョージのトラウマになっていたのだ。
彼女からも、丁寧な言葉遣いをしていてもこちらを警戒しているのは、その言動から感じられた。
しかも今回召喚された四人の子供を気遣う素振りを見せたことで、キョージはそれらを利用して彼女と王国とを敵対させようと考えた。
王国のやり方はこの世界なら当たり前だが、キョージから見てもただの誘拐だ。
それに反発して彼女が王国ともめ事を起こした時、キョージは彼女を排除する為の行動を開始する。
勇者である自分が攻撃することで彼女を“敵”だと印象づける。出来ればこの場で始末出来れば申し分なく、出来るだけリスクを排除する為にあの四人を巻き込む形で攻撃魔法を使い、彼女の気を分散させて魔法を避けさせないようにもした。
あの四人を巻き込んだのは、彼女に護らせる為だ。
この世界に来たばかりなら、彼女が咄嗟に直撃を逸らすことが出来ても、彼らは死亡し、彼女の動揺を誘えるはず。
キョージの範囲魔法に、仕事熱心な数名の騎士が巻き込まれたのは計算外だったが、避けさせない為に使ったその攻撃は計算通り、彼女達全員を直撃した。
だが、直撃ではない余波でさえ騎士を行動不能にする【アシッドクラウド】を受けても、彼女は自分だけでなくその他の全員を完璧に護りきってみせた。
それを見てキョージは一瞬で計画を変更する。
どうして彼女がそこまであの四人を気に掛けているのか分からないが、そんなに甘い部分があるのなら利用出来るのではないかと考え直し、多少強引だったが、勇者としての権力を使い、彼らを彼女の“枷”として押し付けた。
今は少し様子を見よう。あの“柚子”の印象があって信用は出来そうにないが、従順ならばキョージの手足として、第二王女のように“女”として落としても良いし、従順でなくてもキョージの“計画”に使えるはずだ。
かなりの賭けになるかも知れないが、リスク無しに全てを手に入れることは出来ないのだから。
***
軽く炙ったタコスルメが美味しい季節になりましたね。ユールシアです。
知っていますか? あの魂で味付けして、自動で出てくると思われていたタコスルメは、あの上級悪魔の職人達がせっせと手作業で作っているらしいのです。
それでいいのか、悪魔達。
「ユールシア様、お茶のお代わりはいかがですか?」
「そうねぇ、いただくわ」
専属侍女のティナとファニーが、魂を軽く絞って血のような色合いになったお茶をいれてくれる。
現在私は城の中庭で、騎士達の訓練を見学しております。
あれからどうなったかと申しますと、ぶっちゃけ“放置”です。あの場で王に逆らった形になったけど、キョージに強引に丸め込まれてしまった。
あの場を仕切れるなんて、ずいぶんと【勇者】様は信用されているのね……。
王国としては逆らった異世界人は許し難い。でも勇者の魔法を防ぎ、多数の怪我人を一瞬で癒すほどの力を見せている。
だから私を、あの四人を教育する為と言う名目で放置した。
面倒な女だけど力はあるので、他国に行かれるよりはマシだから、私が大人しくしている限りは、あの四人には手を出さない。だから城に残って私の力と得るはずの名声を使わせろ。……こんな感じ?
どうやらセイル王は、私を【聖女】として召喚したと発表するつもりらしい。天使として発表するとか言われたらどうしようかと思った……。
私としてもあの時は彼らを“誘拐犯”として対処していたけど、【勇者】の国と積極的に敵対するのはあまり良くないと後から気付いた。
勇気くんから悪い印象しか聞いてなかったから、初めから変な目で見ていたね。
今回の目標は【勇者の秘術】と、勇気くんとの【約束】だから、きっちりと進めていきましょう。
中庭にノアがどこからか出したティーテーブルセットを使い、優雅にお茶を飲む私達に、城の騎士達はやりにくそうに微妙な顔をしていた。
露骨に警戒しているのが、あの謁見の間での出来事を知っている上級騎士達で、若くて事情を知らない騎士達は、女の子達が見学に来ているのでソワソワしてる。
微妙な顔をしているのは、私が癒して『聖女』と呼んだ騎士達だね。一度は剣を向けてしまったから、距離感を掴みかねているみたい。その中に恩坐くんがボコボコにしたあの騎士も混ざっているけど。
そんな中でも、事情を知らない若い騎士達から、大地と風太に稽古を付けている美少女騎士(笑)のニアは注目を集めていた。
「えい」
「うわぁっ!」
ニアが使う訓練用の木剣を大地と風太が必死の形相で避けていた。
気が抜ける掛け声で軽く振るっているように見えても、【大悪魔】の一撃なので、手加減込みの木剣でも踏みならされた固い地面をプリンのように抉って、見ていた騎士達からどよめきが起きていた。
最初ニアは自分の【黄金魔剣】を使用しようとしていたのだけど却下した。当たり前ですよ。あんな私の声で『ニャ』とか鳴かれたら、私の繊細な悪魔の精神にダメージを受けてしまう。
あ、そうそう、あの四人だけど勇者の素質は無かったよ。あの瑞樹って子だけはちょっと惜しい感じで、英雄級って言うのかな? 頑張れば【勇者の秘術】の簡単な物は使えそう。
その時の様子はこんな感じです。
*
「そ、それでは“ステータス”を調べさせていただきます」
城の王宮魔導師の一人が緊張した面持ちでそう言った。
一応私に任せると言ったけど、それはあくまで勇者として素質が無くて放逐する場合であって、もし【勇者】なら専門の教育が待っている。
「ゲームみたい……」
燈火がそんな感想を漏らしたけど、そう思ったのは私や他の三人も同じだった。
私は柚子の時に勇気くんから【鑑定】を受けたけど、城の設備でやるとちゃんとした表示がされるのかな?
でもその他大勢の前で私のステータスを見せたくないなぁ。
特に“器用”の部分は……。
謁見の間でなく【上位鑑定】が出来る魔導施設に移動しているけど、キョージやビアンカも付いてきているからね。
「ちなみにビアンカはどれくらい?」
「ちょ、ちょっと、どうしていきなり口調が変わっていますのっ!?」
どうせキョージに聞いてもまた回りくどい舌戦になりそうなので、口の軽いビアンカに聞いたんだけど、いきなりフランクすぎたか。
ビアンカは文句を言いたそうにしていたけど、それでも私の実力を思い出したのかそれ以上は言わずに素直に応じてくれた。
「まぁいいですわ……。ふんっ、私のステータスは安くありませんわよ。でもどうしてもって言うのなら教えて差し上げますわっ」
「うん、どうしても」
「仕方ありませんわねぇ」
ひょっとして自慢したいんだろうか。
HP:67 MP:128
筋力:8
防御:7
敏捷:7
器用:7
魔力:9
「……オール一桁ね」
「MPを見なさいっ、128よっ!? エルフより多いんですからねっ」
こっちだと体力と精神力はこう表示するのね。マジゲームだ。
でも、エルフか……さすがにこの世界の固有発音を聞くのは勇気がいるな。
もし、アトラと同じような固有名だったら私の腹筋がやばい。
それとビアンカもスキルまでは教えてくれなかった。まぁ当たり前だね。自分の弱点をばらすようなものだし。
「あなたも、そんなこと言っていられるのは今のうちですわ」
「そうですわね」
さすがに私もそれは素直に認める。
「なぁ、俺、早く見てみたいんだけど」
大地がソワソワした感じで横からそう言ってきた。他の三人も同様で自分のステータスはやっぱり気になるらしい。
そして大地のステータスはこんな感じだった。
HP:95 MP:83
筋力:12
防御:12
敏捷:11
器用:7
魔力:9
「平均値ね」
「え……そうなの?」
大地がガックリしていたけど、そんな酷い数値じゃない。平均値だけど精神がほんの少し上なのは異世界人だから?
他の三人も同様で、スキルは一般的な教養スキルとか運動系のスキルが付いているだけだったけど、
「私も【水魔法特性】と【光魔法特性】って付いた」
瑞樹がそう言ったのは、四人とも魔法スキルを持っていたからだ。
この世界だと数人に一人しか魔法の特性を持ってないけど、次元を渡れるような異世界人は魔法系のスキルを持っていることが多いらしい。
「ふふん、いよいよユールシアね。あなたがどんなステータスか見てあげるわ」
ビアンカも私に敬語を使うのを止めたようです。
それはいいんだけど、また変な数値が出たら困るから、ちょっと本気出しますか。
「では始めます…」
「うん」
王宮魔導師が魔導装置を使うと、付属の水晶球が輝いて【鑑定】が始まった。消費魔力の関係で勇気くんの時は5分かかったけど、さすがにお城の設備は早い。
1分ほど過ぎると光の文字が壁に投射される。
名称:ερ‰$¢σα£ 年齢:12歳 種族:ξιαβολ 性別:女性
HP:‰$ゞ∞εφ¢σ MP:μεφΨ?ι‰$£ゞ∞εφ∈μζ・$¢φα……
筋力:ゞ∞£ωыъъξゞ∞εφ
防御:£ゞ¢σασωωμζ・$¢∞
敏捷:ゞ∞ゞΨ?ισω‰$£εφ
器用:2
魔力:μεφΨ?ι‰$σω£ゞ∞εφ∈μζ・$¢φα……
¢σιαβασΨ?ι£ゞ∞εσω∞εφ¢?‰$¢σα£?ισωゞ∞εφμζ・$¢$σω£ιαβ‰$σω?£ωыъъ?σα£Ψ?ιゞμцμαш£?Ψ¢ω?ιββλιζζε†?αμ?σωω‰$・ゞ∞$£ъъ?σα£ゞ∞εσα£Ψ?ιゞμцμω∞εφ¢?‰$¢σσω?£ωыω?£ωыъ$σω£ιαβ‰$σω?£ωыъъ?σα£Ψ$σω?£ωыъъ?σαζε†?αμ?σασΨ?ι£ゞ∞εσωσσω?£ωыω?£ωы……………
「「「「……っ!?」」」」
全員が驚いて目を見開く中、文字化けのようなモノが途切れることなく続き、『ギギギ…』と嫌な音を立てた水晶球は熱暴走を起こしたように溶解していった。
「……どうして」
隠したい部分だけ表示されるんですかっ!
悪魔化しても器用値は増えません。
次回、他の悪魔達の日常です。





