3-01 また聖女になりました ①
加筆修正版。
「ちょ、ちょっと待ってよっ、あなたが私達を召喚したんじゃないのっ!?」
「どういう事だよっ! じゃあ、あの人達は!?」
「怪しい奴らめっ、殿下、お下がりをっ!」
「お前ら黙れっ! 殿下のお話を聞かぬかっ」
「あなた達も黙りなさいっ! いえ、えっと、あなたは何者ですのっ!?」
私達を除いた人達……召喚された四人や騎士達が混乱したように騒ぎ始め、ビアンカと名乗ったこの国のお姫様が、少し薄い眉を吊り上げて私を指さした。
仮にも王族ともあろう者が他人を指さすとは情けない。……とは思ったけど、これは仕方ないね。私も少々ノリ過ぎました。
こちらの世界に渡る途中、丁度良くあの四人が召喚されていたようなので、彼らの後についでにお邪魔してしまったんだけど、気づいたら何か面白そうな“青春劇場”を始めていたので、私もほら……
つい、やっちゃった♪
あれが『異世界召喚のお約束』なのですね……。初めて見ましたがなかなか感慨深いものです。私も魔界にいた頃は、人間に召喚されたら何をやってウケを取ろうかと考えていましたが、召喚する側も結構愉しそうです。
とりあえず“ノリ”でこの世界まで来てしまいましたが、まずはあの亜空間からここに来るまでの出来事を思い返してみましょう。
では、回想シーンに入ります。
「あなた、どうして、わたくしを無視しますのっ!?」
***
「ユールシア様ぁ、こっちだよー」
空間の裂け目を修復して、ギアスと恩坐くんを新たな【悪魔】として安定させてから私達は移動を始めました。
……まぁ何故かその前に、上級悪魔400体と握手して出発が二時間遅れる羽目になったんだけど、なんでこうなったん?
その後、彼らはあの【失楽園】に帰っていったけど、あそこに住んでいるのか……。
とりあえず目指すは、元“異世界の勇者”である勇気くんの故郷、異世界【テス】でございます。
座標を聞いてもぶっちゃけ良く分からなかったけど、転移能力の高いファニーが分かるみたいなので迷子の心配はなさそうです。
でも異世界【テス】は、本来なら立ち寄らなくても良い世界だ。
私の目的は、あくまでお父様やお母様が待っている世界に帰ることなんだから、寄り道したくはないんだけど、その前に聖王国のある世界の座標が分からないのよねぇ。
そう言えば……
「ねぇ、リンネ。私達が居た世界って、なんて名前?」
『あの世界か。比較的新しい世界で、悪魔内では【アトラ】と呼ばれていたな』
「……ん? 私達って、そのアトラの悪魔じゃないの?」
何となく認識がおかしかったので意味を聞いてみると、何故かリンネに軽く溜息を吐かれた。
『お前は知識が偏っているな。魔界は一つだよ』
「え……ちょっと待って。それじゃ、魔界に帰れば、簡単にその…アトラに帰ることが出来るの?」
私の今までの苦労って……。
そうは思ったけど、それも若干ニュアンスが違うらしい。
『あの地球は、魔力がなくて魔界への通路が閉じていたし、あの世界に近い魔界は消滅していた』
「んん~?」
良く理解できない私も、何度か聞いているうちに少しだけ理解できた。
要するに魔界を含めた【精神界】の広さは無限であり、そこから該当する世界へ通じる魔界を捜そうとするのは、宇宙の中で生存できる惑星を捜すのと似たような感覚なのだと思う。
ただ精神界だけに距離は適当なので、頑張れば隣の世界に行ける。
その中で唯一【魔神】だけが、あらゆる世界を渡れる存在らしい。私は座標すら分かんないんですけど……。
あの【悪魔公】七柱だか六柱だかは、魔界を治めているらしいけど、あの辺りの世界百個分と繋がる広さを治めているだけで、とんでもなく遠くに行けば、また違う存在が治めているみたい。
地球でも昔は、旧約聖書に載ってたような悪魔がいたのかもね。
リンネも見たことはないし、アトラ周辺の魔界だけでも地球と同じくらいの広さがあるらしいけど。
まぁそんな訳で、世界を渡るには異次元を通るのが手っ取り早い。
地球に戻った時の感覚からそんなに遠くはないと思うけど、それでも座標がないと何千年掛かるか分かったもんじゃない。
一応、お父様が考えてお母様が“名付け”てくれたから、その魂の繋がりがあるんだけど、さすがに近くまで寄らないと感知できないんですよ。
それに【テス】に立ち寄る意味も少しはある。
“異世界召喚”を行っていると言う事は、聖王国がある世界とも繋がっている可能性もあるからね。
完全な情報じゃないけど【勇者の秘術】の件もある。
勇気くんが覚えていたのは、物を収納できる【亜空間収納】で、こちらはノアに私達でも使えるように解析させている。
もう一つは【レベルシステム】だけど、魂を食べて力を上げられる悪魔達からすればあまり旨みのある情報じゃない。けど、そんな勇者がぽこぽこ居たら上級悪魔達が可哀想な感じになるので欠点を調べておきたい。
それに……勇気くんとも【異世界の勇者】の件で約束したしね。
それにしても……
「邪魔だねぇ」
「そうでございますね」
「ホント、じゃまー」
思わずボソッと呟いてしまうと、ティナやニアが、行き先を阻むように漂う中身入りの自動車を投げ飛ばしながら相づちを打つ。
ここら辺の異次元には日本の物が散乱していて非常にうざったい。偶に食品も流れてくるけど、ここら辺になると空気もなくなって、お酒ならともかく普通の食料品は乾燥して黒っぽい粉になっていた。
道を開く為に物を動かすと、重力がある訳じゃないから連鎖的にぶつかりあって、ガコンバコンととても五月蠅いのですよ。
それで消えていってくれればいいけど、ぶつかりあってまた違う物が目の前に流れてくるから本当に面倒くさい。
「………いくらなんでも多すぎない?」
いくら何でも漂っているゴミが多すぎる。
あの場所に【真神・東京】が居て空間が乱れていたとしても、それでも限度って物があるでしょ?
『どうやら各所で空間が開いていたようだな。ほら』
肩にいたリンネが近くに漂っていた物に飛び移ると、その近くの小さな物を私のほうへ弾いて流してくる。
「……お守り?」
受け取ったそれは少し古びたお守りで、私でも知っているような有名神社のお守りだった。
『確か南の、人間の気が集まる社で同じ物を見た。この地域では無い物だろ?』
「そうね……」
実際にその神社があるのは北だけど、異界の悪魔にお守りの種類を見分けろと言うのが無茶ですね。
有名神社のお守りだからお土産の可能性も高いけど、意識を変えて見てみると東京では見かけない物や、関東以外のナンバーが付いた車もあった。
「……テスって世界は、どれだけ頻繁に日本中から拉致ってたのよ」
この辺りのゴミは、すべて【テス】の召喚によって巻き込まれた物だ。
どうやら【テス】から地球の【日本】に、直通の異世界召喚通路が出来上がっていたみたい。でも……
『ユールシア、気づいているか?』
「……ええ」
そして思っていたよりも、死体が多い。
異世界から召喚されても、全員が無事に異世界に渡れる訳じゃない。異次元を生身で渡れるだけの生命力と、次元を越えることに耐えられる魂の強さが必要だ。
召喚時に魂だけを召喚することも出来るけど、異次元の中で死んでしまったら魂は身体ごと異次元に取り残される。
この死体の数からして、魂の適性や魔力の大きさなどを調べるような、魔力が多く必要な術式を省いて召喚を行っている。
ずいぶん適当な術式で召喚してるんだね……。
召喚魔法陣が反応するだけの魔力的素質と、無意識でも同意がなければ人間は召喚できないけど、それでも辿り着けるのは半分か……多分もっと少ない。
「おぞましいわね」
『……そうだな』
人間の欲は本当におぞましい。……とか言いつつ、そこら辺に漂っている霊魂は私達が吸収しちゃってるんですけど。
だって仕方がないのですよ。異次元に引き裂かれて世界に還元されずに悪霊化した魂なんて、私達が近づいただけで消滅して勝手に吸収されちゃうんだから。
そんなに美味しいモノじゃないけど、減った魔力を回復させる足しにはなる。
『確かにアレは、ユールシアが好きそうなモノではないな』
「……は?」
意味不明な発言をするリンネの視線を追ってみると、漂うゴミの遙か向こうにうっすらと山のような影が見えた。
なにあれ……? 異次元の悪魔系? 見た目はでっかいスライムで確かに好みではないけど、何か迫ってきてる? あ~…もしかして私達があれの餌を食べちゃったのか。
……ん? もしかして『気づいているか?』ってあれのこと?
私達、グダグダだなっ。
『それでは俺が倒してくるが、構わないか?』
「うん、行ってらっしゃーい」
今回、あまり戦闘方面の出番が無くて欲求不満気味のリンネにお任せする。正直、パッと見だけど従者の数人掛かりでもギリギリそうだから文句はない。
まぁ、愉しそうだから良いよね。……男の子の感覚は分からないわ。私は一仕事終わったばかりだから、もう働きたくないでござります。
『ガウガウ』
「ギアス、お前も来るか?」
『ガウ』
どうやらテディベアも行きたいみたい。男の子同士で頑張ってね。数百歳と数千歳を男の子というのはなんだけど。
他の男子はいいのかな? と思ってちらりとウサギくんを見ると、彼はリンネとギアスに、私に手を向けてからドンッと胸を叩いて見せていた。
この場は俺に任せて安心して戦ってこい……的な?
あらやだ、かわ…格好いいわ、恩坐くん。
思わずファニーが捕まえて全力でぎゅ~って抱きしめているけど、壊さないでね。
ちなみにノアは無駄な体力は使わない派だ。
ちなみに私達が徒歩で到着するまでにリンネ達の戦闘は終わってました。
ギアスはボロボロになってたから、結局私が魔力を使って修復する事になりました。……仕事が減らぬ。
でも、あの“異次元の悪魔”ごとゴミも吹き飛ばしてくれたから、その後の道中は快適になった。
『………(ぽんぽん)』
「ん? どうしたの?」
かなり歩いた……実際には歩いていないし、異次元だと時間の流れも適当だけど、そんな感じで進んでいる途中で、恩坐くんがぽむぽむと私を叩いた。
『………(ひょい)』
「向こう?」
ギアスもそうだけど、恩坐くんも言葉を話さないからよく分かんない。
「向こうで人の気配が流れてるって言ってるよー」
「………」
どうやらファニーはヌイグルミ達の言葉が分かるらしい。何故ですか?
「あなた達、どうなってるかわかる?」
従者達も感知能力はヌイグルミ達より上だけど、生粋の悪魔だからか小さな事は気にしないのよね。
「えっとねぇ…」
「どうやら人間が召喚されているようですね」
「うん、四人くらい」
「………」
うん、小さな事じゃないなっ。恩坐くんが居て助かりました。
でもあの杜撰な召喚で人数が四人って凄いね。大丈夫かなぁ……?
「あれを追ってみましょう」
助ける義理もないけど、見殺しにするのは気分が悪い。
それに折角向こう側から、魔力を使って【扉】を開けてくれるのなら、こちらも楽が出来るしね。
人間が創れる【扉】は小さいけど、うちの魔獣達は今小さいから平気なはず。
そして私達は、新たな舞台……異世界【テス】に降り立った。
次回、勇者の一人……『あの人』と出会います。





