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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第二章・シンデレラの砂時計 【現代編】

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37/193

2-18 旅立ち。……そして

 第二章の最終話です。

 

 



 その日、世界中の一部の者達に激震が走った。

 動画投稿サイトに上げられた幾つかの映像。それはただ暗い雲を映すだけの映像だったが、魂の強い者はその映像の中に【悪魔】を見た。

 見える者と見えない者がいる事から、これが架空の映像ではなく、伝説と言うよりもお伽話に出るような“化け物”が空を埋め尽くすように溢れかえる様子に、見えていた者達は戦慄した。

 そして山のように巨大な魔物が出現して雲を吹き飛ばし、その後に聞こえてきた美しい【声】に、世界中の大規模宗教や国家の中枢は混乱する。

 その【悪魔】の軍勢を率いてきたと言うまだ若い女性の声で、いつかまたこの世界に戻り神諸共人間を喰らうと宣言し、魂が強い者ほどその声に恐ろしさを感じたのだ。

 それでも人間にはまだ希望があった。

 悪魔は何かと戦い、それを退けた【存在】が確かにいるのだ。


 国の中枢にいる者達は脅威を感じていたが、それは世界的な人口のわずか0.1%にしか分からないことで、その他の大部分の人達は世界に脅威を感じていない。

 悪魔の“言葉”は世界に闇を植え付けたが、それはまだわずかである。

 それでも悪魔は、もう一つ人々の心にあるモノを植え付けた。それは一部の人間だけでなく全ての人間がそれを見ることが出来たからだ。

 それは青空の中、上空に浮かぶ【天使】の姿だった。

 はたしてそれを天使と呼んでもいいのだろうか。夜の如き漆黒のドレスを纏い、輝くような黄金の髪と黄金の翼を持った、一人の少女。

 ほとんどの映像は細部まで分からなかったが、一人のカメラマンが撮った望遠写真にたった一枚だけ写ったその姿は、まさに天使のような美しさをもって世界中にファンクラブが作られ、“信者”達を魅了した。

 きっと、彼女が悪魔を退けた聖なる【大天使】であると信じて。


 こうして【世界】は、人間達とは違う力ある存在を知った。

 今はまだ無理でも、いづれ世界に闇は生まれ、精霊達も戻るだろう。

 ただ……それを成したのは悪魔の恐怖でも言葉でもなく、可憐な天使を映したたった一枚の写真だった。


   ***


 次元の裂け目の中に入ると従者達も後を追ってきて、私達の前に跪く。

「ユールシア様、凜涅様、ご無事で何よりです」

「あれ? あなた達も上空にいたよね。何処にいたの?」

「問題ございません。人間に見つかる可能性もありましたので、地上に降りて人混みの中に紛れておりました」

「…………」

 ええ~……それじゃ私、無駄に人間に姿晒しちゃったのか……。隠れるんなら誘って欲しかったわ。


 あらためて異空間の中を見ると、私が知っている異次元とは少し様子が違っていた。

 【真神・東京】が居たことで空間が何度か(ほつ)れていたのか、自転車や植木鉢、商店の置き看板など日本の物が、衛星軌道上のデブリのように漂い散乱している。

 軽自動車に白骨死体が乗っていたりと気になる物もあるけど、あまり気にしてもどうしようもない。

 そして何より、ここには異空間に無いはずの“空気”があった。

 高山並みに薄いし、私達悪魔は呼吸なんてしていないから平気なんだけど、急に真空になると肌に悪い……じゃなくて、この空気が無くてこれだけの大穴が空いたら、地球の大気がかなり吸い出されたかも知れない。


「……おそらくこれは、【異世界召喚】の影響だと思う」

「勇気くんっ?」

 何故か勇気くんがここにいた。空気があるから平気だけど地球に帰れなくなっちゃうよ? まぁそれは良いとして。

「……どうして連れてきたの?」

「恩坐が望んだ」

 勇気くんの背後に、お腹まわりをサラシでぐるぐる巻きにした恩坐くんが、血の気を失った顔で異空間に浮かんでいた。


「……恩坐くん」

「……よぉ、もう終わったのか……柚子」

「うん……終わったよ。どうしてここまで来たの?」

「……何だよ、水くせぇな。最後まで…見届けたいから、リンネの旦那に…頼んで連れてきて貰ったんだよ……」

『ああ。戦士の願いだ。戦いが見える場所まで連れてきた』

 ちらりと肩を見ると、リンネがさも当然のようにそう言った。

 ……え、これ、私がおかしいの? 死に掛けなんだから病院で大人しく手当てされていろよ。そんで、戦闘が終わったから、勇気くんがここまで連れてきたのか。

 男の人の考えはよく分かんないな……。


「勇気くん……回復魔法は?」

「回復魔法は対象の体力を上げて自然治癒力を無理矢理引き上げる魔法だ。自然治癒で治らない傷には効果がない。……俺の回復魔法では無理だ。治癒魔法が必要になる」

「そこまで酷いのか……」

 多分、恩坐くんの命は長くない。恩坐くんは自分の傷の深さを感じて、私のところに来ることを選んだのでしょう。

 私の治癒魔法なら治せるけど、恩坐くんは血を流しすぎて魂が減っているから、吸血鬼になってしまうかも知れないし、私が助けると【契約】によって恩坐くんの魂は私の物となり、今の魂の状況ではへたをしたらそのまま寿命を迎える。


 マツリは最後までやってくれたなぁ……。一撃で倒すことで魂の消滅から救った形になったけど、情けを掛ける必要もなかった気がする。

 まぁ、あの状態なら、やり直せてもミトコンドリアからだろうけど。


「ねぇ、ユールシア様ぁ、コレはどうします~?」

「ん?」

 真面目っぽい会話にも空気を読まないニアが、胸元にへろへろになったギアスを抱っこしてそう尋ねてきた。

「このベンジャミンですけど」

「……ベヒモスね」

 ほとんど合ってないじゃないか。

「このベヒモスですけど、どうやら急激に成長させた反動で、上級悪魔(グレーターデーモン)程度まで退化してるみたいな?」

「ええ~……」


 魔力を放出してすっかり縮んでしまったギアスの見た目は、クマのヌイグルミ(テディベア)のようになっていた。

 ニアから予備の魂を貰って分けてあげると子供のように喜んで、短い手足で魂を掴んでガシガシ美味しそうに囓っている。

 あれ? 可愛い。……中身は爺ちゃんだけど。……ひょっとして。


「ずいぶんと魂を食べるのに抵抗がないのね……?」

 そう呟いた私の言葉に、テディベア(ギアス)が黒曜石のような丸い瞳で小さく首を傾げた。

『ガウ?』

「やっぱり……記憶がない?」

 少し驚いてクマの顔を覗き込む私に、リンネが呆れたように教えてくれる。

『人間の頃の記憶をほとんど残しているユールシアのほうが珍しい。ある程度の人格は残っているが、ギアスのこの状態が普通だ。知識は少しずつ思い出すかも知れないが』

「へぇ……」

 普通の転生体の悪魔ってそうなんだ? と言うことは、私ってかなり珍種だったんだね……。どうりで初めて会った時、リンネが興味を持つはずだわ。

 私も自分自身の記憶は曖昧だったけど、ギアスはもっと曖昧の範囲が大きくて、人間だったことも覚えていない感じ。

 そのぶん悪魔としてすんなり馴染んでいるんだから、悪い話ばかりではない。

 どっちにしろ今のギアスは、ちょっと強いだけの動くテディベアだ。……でも、私を見つめるその瞳は優しい。柚子のお祖父ちゃんだからかな。

 それより今は恩坐くんのことだ。


「ねぇ、恩坐くん」

「……なんだ?」

「簡単に言うと……あなたは死にます」

「……はは、だろうなぁ」

 笑ってる場合か。なんだろ……やる事やって悔いはないってこと? でも私は悪魔として提案をしなければならない。

 選ぶのは……恩坐くんだ。

「私が【悪魔】だって、もう知ってるよね?」

「ああ……」

「悪魔を助けたことを後悔してない……?」

「もちろんだ」

 そこだけは迷いもなく、恩坐くんはキッパリと答えた。

「それなら恩坐くんに選択肢をあげる。このまま【人間】として綺麗に死にますか? それとも【悪魔】となって意地汚く生きますか……?」

「…………」


 恩坐くんが真面目な顔になって黙り込む。

 これは新しい【契約】のご提案。恩坐くんは私を助けているので、前より凄く良い条件で再契約をすることが出来る。洗剤だって三ヶ月分付けてもいい。

 このまま【人間】として死ぬのなら、魂の契約は解除されて安らかな死を迎える。

 でも魂が飽和した状態の地球では転生することも難しく、世界に溶けて新たな別人格の魂に生まれ変わるでしょう。

 悪魔に転生すれば、その魂は私に永遠に縛られる。人間の記憶もほとんど無くなる。

 でも、恩坐くんの“人格”は残される。

 どちらが幸せなのか……。それを決めるのは恩坐くんだ。


「……なぁ、柚子……」

「なぁに?」

「…お前……ああ言う敵が多いのか…?」

「そうね。私は悪魔だから、敵は多いかもねぇ」

「そうか……」

 また何かを考える恩坐くんの言葉を、私はジッと待つ。

「俺さぁ……ガキの頃、…正義の味方に…なりたかったんだよ……」

「うん。……知ってる」

「悪霊とか…ぱぱっと倒してさ……。でも悪い奴は悪くなかったりもするんだよ…」

「……哲学的だねぇ」

「悪魔も……正義の味方になれるかなぁ……」

「恩坐くん……」

 何も言わないつもりでいたけど、これだけは言わせて貰おう。

悪魔(・・)自由(・・)だよ」

「……そうか」

 恩坐くんは目を閉じて……そして静かに口を開いた。

「ガキの頃の…約束だ。正義の味方として……お前を護ってやるよ」

「……うん」


 それで“再契約”は完了した。

 そして新たに『私を護る』と口にしたことで、さらに上位の【契約】となる。

 それを見ていた勇気くんは、何か言いたげだったけど結局何も言わなかった。


『ユールシア』

「ん?」

 そんな私達を見ていたリンネが、そっと肩からとんでもない事を口にする。

『恩坐の魂はもう限界だ。最初から強固だったギアスと違い、魔界ならともかくこんな異次元では、依り代を用意しないと悪魔になっても魂が霧散しかねないぞ』

「「……え?」」

 私と恩坐くんの顔が思わず引きつった。

 ちょ、ちょっと、折角良い雰囲気だったのに台無しですよ。依り代? そんな物がこの異次元のどこにあるのよ!?

「……えっと、これは?」

 そこら辺に漂っていた、薬局のケロちゃん人形を見せると、恩坐くんは尚更顔を青くして、ぶるぶる首を振った。ええいっ、我が儘言うんじゃありませんっ。


「ユールシア様ぁ、これ使う?」

「え、なに?」

 空間の裂け目が広がるのを押さえていたファニーがやってきて、ロングスカートを捲ってごそごそと何かを探し始めた。

 可愛らしいメイド少女であるファニーが捲ったスカートに、恩坐くんの視線が吸い寄せられていたので、バチンッと顔面を叩いておく。……ファニー、ガーターストッキングなんだね。

「恩坐、死ぬぞっ!?」

「死ねば?」

 慌てた勇気くんの声に、私はあっさりと答えた。男の人って……。

「あったよ、これぇ」

「これって……」


 それは以前、ファニーの依り代となったファンテーヌが壊して、それを気にしたファニーがせっせと自分の髪と魔力で修復した、私のウサギのヌイグルミだった。

 まだ持っていたのね……。

 三歳の誕生日にお父様から貰ったそのウサギのヌイグルミは、リアル系の兎でなく、ディアドロップ(らっきょ)型の胴体に棒状の手足と丸い頭が着いた、デフォルメされた可愛らしいウサギさんだった。


「良し、それでいきましょう」

「はーい」

「……え、ちょ、」

 即決した私に恩坐くんが何か言っているけど、私は何も聞こえない。『この悪魔っ』とか聞こえた気もするけど、おかしな風評被害はやめて下さい。

 それに【魔神(デヴィル)】の思い入れがあり【大悪魔(アークデーモン)】が魔力を込めた素材なんて、かなり上質な【依り代】なんだよ? やったね、恩坐くんっ。


「私、【悪魔公女(ユールシア)】の名において、汝の魂を悪魔に堕とす。依り代に宿りて私に永遠の忠誠を捧げよ……」

「ちょっまっ」


 死に掛けは大人しくしてなさい。恩坐くんが肉体ごと消滅して悪魔の魂となったところで、私は無理矢理ウサギのヌイグルミに恩坐くんを詰め込んだ。

「恩坐くん、あなたに悪魔としての“種族名”を授けます」

 えっと……ウサギの悪魔は……


「生まれ出でよ、……悪魔【ラプラス】…」


 時を観る悪魔。私としては『鏡の国のアリス』のウサギのイメージ。

 攻撃を先読みする恩坐くんのイメージと合うんじゃないかな……?

 少しするとウサギのヌイグルミ(恩坐くん)はむっくり起き上がり、不思議そうに辺りを見回してから私にコクンと頷いた。

 上位契約のおかげかいきなり上級悪魔(グレーターデーモン)くらいの力を感じるけど、生まれたばかりでこれなら上出来でしょう。

 記憶は……たぶん、ギアスと同じ状況かな。曖昧になった記憶の中で、それでも私を認識している。

 時間が経てば少しは記憶も戻るはず。力を増せば人型にもなれるかも知れない。

 待ってるからね……恩坐くん。


『………』

「ん~?」

 恩坐くんは何かを指さすと突然どこかに走り出した。

 何をするのかと思ったら漂流物の中から何か目的の物を見つけたようで、また走って戻ってくる。

「……恩坐くん」

 その手には焼酎っぽいお酒の瓶とグラスを持っていた。

『ガウガウ』

『……(こくん)』

 それを見たギアスがちょこちょこと恩坐くんに近づき、クマとウサギの二体は、おっさん臭い仕草で酒盛りを始める。

 シュールだね……。まぁ、いいか。


「本当に良かったのか……アレ(・・)で」

「いいのよ。……それで、勇気くんはどうするの? このまま故郷に戻る?」

 あらためて勇気くんに向き直ると、私は意地悪してそう尋ねた。

「俺は新婚なんだよ……」

「美紗はやらんぞ、この若造が」

「今更、何だよっ!」

 憮然としながらも勇気くんの顔は笑っていた。……そっか、自分の中で折り合いは付いたのか。

「なんなら私が代わりに復讐してきてあげるよ?」

「……お前に渡すモノを追加で持ってきた。俺が知っている異世界【テス】の情報だ」

「へぇ……」

「座標と、【勇者の秘術】のうち俺が知っている物を記録しておいた。だが俺の記憶も曖昧な部分が多くて完全じゃない」

「故郷に【悪魔】を送っても良いのね?」

「お前はある程度信頼している」

 ある程度……ね。

「了解……。ありがたく貰うよ」

「だが気をつけろ。お前の方が強いはずだが、【異世界の勇者】の怖さは強さだけじゃない」

「…………」


 そう言い残して、勇気くんは地球側から次元の裂け目を修復する為に、私達と別れを告げた。こちらと向こう側の両方から修復すれば完全に塞ぐことが出来る。

 それは私の、この世界との別れを意味していた。

 ……今は、ね。


 聖王国への道はまだ分からない。でも、異世界召喚を行っている勇気くんの世界なら何か手がかりがあると思っている。

 それに……勇気くんを裏切った【勇者】達は、どんな味がするんでしょうね……?

 ふふふ……。


「それではみんな、そろそろ行きましょうか」



   

 第二章までの改修がようやく終了いたしました。

 お待たせして申し訳ありません。

 だいぶ雰囲気が変わりましたが、第三章からはいつも通りになると思います。


 第三章の3-02まではほぼ同じなので、このペースで続けます。でもちょっと違いますよ。あの人が出てきますから。

 第三章前に、私の趣味でまた設定を一話入れます。悪魔の解説です。


 では、次は火曜更新予定です。

 ご感想やご評価もお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
新生悪魔ふたりは酒を飲めるのか…………。 ミトコンドリアになったマツリはミトコンドリアであるにも拘わらず自由気まま我が儘に生き、まるでパラサイト・イブのように…………?
昨晩に第一部を読み終えてから、一気にここまで読み進めてしまいました。 すごい…面白い…すごい… テディベアとウサギのぬいぐるみがチビチビやっている光景を想像して、和みました。 書籍が気になって夜しか…
[良い点] 縁のある人達が仲間入りして嬉しいです 人時代の記憶が完全に無くなるかもだけど、ユルの傍に居てくれるのは頼もしいですね [一言] 恩坐くん、さすが小学生の頃から酒好きだっただけはありますね…
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