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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第二章・シンデレラの砂時計 【現代編】

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2-16 神魔大戦 ③

 いつもより少々長めですが、分けずに投稿しました。


 



 でも、折角あいつを見つけたのに、【真神・東京】からの攻撃が散発的に襲ってきて鬱陶しい。

「『夜の槍』…っ!」

『タス…ケテ…ッ!」

 私と【真神・東京】との力がぶつかり合って対消滅すると、その衝撃の余波が東京の街を揺らした。

 何か、私がやったより【真神・東京】の方が街に被害を与えている気がするわ。

 でも、さっきは押し切られたのに今回は相殺って事は……もしかして、東京の人間が恐怖を感じる度に【力】が減っている?

 と言うことは、東京の住人を殲滅すれば簡単に【真神・東京】を無力化できるのかも知れないけど、それは私の趣味じゃない。


 あ、マツリが逃げだそうとしている。仕方ないから手が空くまで一撃だけでも入れておこう。簡単には死なないでね?


「『射貫く光在れ……輝聖弓』っ!」


   ***


「何が起こって、きゃあああああああああっ!?」


 都内にある寺院の一つからマツリが外に出ようとすると、空から幾つもの光の矢が飛来して寺院の建物が吹き飛ぶように崩壊する。

「マツリ様っ!」

「けほっ、もうっ、何なのよっ!」

「早くこちらに」


 【真神・東京】と意思が通じ合える【巫女】は、特殊な精神を持つ年若い女児に限られる。

 女児に限られる理由は、【真神・東京】が子供のような性格を持つ故に、女性に安心感を持つ為と言われ、子供に限られるのは、【真神・東京】が同じような理由で大人に怯えて拒絶するからだ。

 それなのに大人になったマツリは、何故か【真神・東京】の声が聞こえていた。

 それはマツリの精神が幼い……を通り越して“幼稚”だったからだが、精神が成長しなかったマツリは奸計のみに特化し、幼い巫女達の中を管理する地位に就き、【真神・東京】から聞こえる声を自分の都合の良いようにねじ曲げて僧侶達に伝え、自分の欲望を満足させていった。


「突然建物が壊れたり、人が吹っ飛んだり、何が起きてるのっ!?」

 癇癪を起こすマツリに、見た目だけで選ばれた側近の十代の若者は、不安そうに暗い空を見上げる。

「あ、あれが見えないのですかっ! おそらく【邪悪】の封印が解けたのですっ、早く他の巫女達のところへ行きましょう」

「………わ、わかったわ」

 実際、マツリには上空の光景が見えていなかった。

 声が聞こえるだけで特殊な力も実力もなく、美貌と奸計だけで世の中を渡ってきたマツリは、魂に澱は溜まっても鍛えられていなかったのだ。

「ねぇ……、『じゃあく』って、えっと……柚子だっけ? あいつの事でしょ? 結構前に私が倒したじゃないっ、何で復活しているのよっ!」

「それは分かりません……。たぶん失敗したとしか」

「私が悪いって言うのっ!」

「い、いえ……」

「ホントにもうっ、なんで私の邪魔ばっかりするのかしらっ!」


 結局、マツリには、公貴や美王子の“イベント”を始めることが出来なかった。

 おそらく柚子が何かしたのだろうと思ったが、柚子を殺したことでも解決せず、証拠は隠滅されたが、マツリが何をしたのか彼らに伝わって、憎しみだけを向けられる結果になった。


「いつか、私に跪かせてやるんだから……。あ、そうだわっ! あんた、早く車を用意しなさいっ、それと僧兵を何人か連れてきなさいっ」

「は、はいっ」

 慌てて走り去る若い僧を見送り、爆撃で薄汚れた着物を脱ぎ捨てながら、マツリは嫌な笑みを浮かべた。

「……柚子がまた邪魔しに来るのなら、私だって考えがあるんだから」


   ***


『待て恩坐。あちらのほうに障気を感じる』

「へ? リンネの旦那、あっちは寺だぜ?」


 リンネの言葉に、その黒猫を肩に乗せたまま軽トラックを走らせていた恩坐は、怪訝そうに尋ね返す。恩坐の台詞からも分かるが、彼は物の怪のような存在を受け入れるのが異様に早い。

『寺と言うことは死体があるな。寺院だからと言って全てが清浄とは限らん』

「……確かにな。でも旦那、ここらの寺にはあの連中が居るぜ?」

『力が減っていても、人間程度は問題にならん。突っ込め』

「ホントかよ……。軽トラ(こいつ)のローンも残ってんだぜっ!」

 そう言いながらも恩坐はアクセルを踏み込み、その寺に正面から突っ込んでいった。


「な、なんだっ!?」

「貴様っ! 海島の弟だなっ」

 そこには僧服ではなく、私服の僧侶達が数名いた。だが、恩坐を知っていたと言うことは、【御山】の僧である可能性が高い。

 そして、それを示すように私服の僧達は“氣”を練り始める。

「問答無用かよっ!」

『問題ないと言ったぞ』

 バキィンッ!

 リンネはあっさりと軽トラックのフロント硝子を突き破り、まだローンが残っている恩坐の顔色を青くさせた。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 小柄な黒猫が吠える肉食獣のような咆吼に僧達が戸惑うと、リンネはそのまま僧達をなぎ払っていく。


『恩坐、俺はここの障気を喰らって……何をしている?』

「……いや、なんでも」

 恩坐はすっかり風通しの良くなった軽トラックのフロントに、地面に直に座りながらスキットルの酒を一口含み、遠い目をしてボソッと言葉を漏らした。

『まだ生きているのも居る。聞き出せる事は聞いておけ』

「お、おう」


 僧達のほとんどは軽傷にも関わらず、すでに事切れていた。

「……これが、悪魔か」

 その状態を見て恩坐はゴクリと唾を飲む。おそらく彼らはその魂を悪魔に喰われてしまったのだろう。

 だが、柚子は言っていた。『悪魔もこの世界の一部である』と。

 恩坐はそれを、『小さな見方をするな』と言うことだと考えた。食物連鎖で狩られる草食動物を可哀想と思うのは、人間が動物や植物を食べることすら否定する。

 それを言えるのは、生まれてからミルクと果物以外を口にした事のない者だけだ。

 酒や発酵食品ですら、口にすれば菌を殺す。

 恩坐はとてもじゃないが、それを他に強要するほど傲慢にはなれそうになかった。


「………ぅう…」

「おう、お前は息があるな。運が良かったところ悪いんだが、この非常時にそんな服着て、何処に行こうとしてたんだ? 逃げんのか?」

「ば、莫迦にするなっ! 俺達はお前とは違うっ。俺達はマツリ様のご指示で…」

 私服のような格好で倒れていた僧は激高して何かを言い掛けたが、途中で冷静になって言葉を止める。

「……おい、あの女に何を吹き込まれたっ!」

 恩坐はマツリの名を聞いて、真顔で倒れていた僧の襟首を掴んで持ち上げた。

「…ぅ……、もう遅いんだよ……。マツリ様の言うことを、」

「……言えよ」

「ぐほっ、」

 恩坐は一瞬で練った“氣”を僧の内臓に撃ち込み、臓器を痛めつける。

「全部の臓器が潰れたら他の奴に聞く。……早く言え」

「…………」


 その後、ほとんどの臓器を潰された男を見て、もう一人生き残っていた僧が喋り、マツリの企みが判明する。

「ふざけた真似を……っ。旦那、戻ってくれっ! すぐに移動するっ」


   ***


「きゃ、……また地震?」

「“きゃ”って……お前はそんな肝が…」

「何か言った?」

「い、言ってねぇっ!」

 若い頃から老けていたせいでほとんど変わっていない男と、まだ三十歳くらいにしか見えない女性が、いつものように漫才を始めると、もう一人の二十代の女性が振り向きざまに声を掛けた。

「琴姉さんも、父ちゃんもいい加減にしてっ。ここは病室なのよ」

「あ、ごめんね、美紗ちゃん」

「だから、美紗が俺を父ちゃんって呼ぶなよっ」

「とーちゃん、とーちゃん」

 三人の足下を、小さな女の子がそんな事を言いながら走り回っていた。

「見ろ、花梨まで父ちゃんって言い始めたじゃねーかっ。俺は『パパ』って呼ばせたいのによぉ……」


「……ふふ……」

 そんな光景に、個室のベッドに横たわった老人が穏やかな笑みを浮かべた。

「あ、お祖父ちゃん、目が覚めた?」

「……ああ、もう少しだけお迎えが延びたらしい……」

「何を言ってるの……? お父さん達ももうすぐ来るから、そうしたらまたみんなでお話ししましょ?」

「……ああ、そうだね……」


 塔垣の名を持つ琴音達の祖父は死の淵にいた。病気ではない。内臓系は弱っているがほぼ寿命が尽きたのだ。

 昔、孫娘の柚子のおかげで、また家族と向き合えるようになった。

 その矢先に柚子は、通り魔に刺されて亡くなったが、祖父は時折その胸から伸びる鎖がまだあるのを見て、まだ彼女が完全には消えていないと分かっていた。

 死の恐怖はない。

 死ねば、魂となって孫娘の下に行けると分かっていたのだから。


 コンコン……と扉が叩かれる音がした。

「はぁい」

 美紗が立ってドアを開けると、白衣を着た医者のような人間が数人と、やけに体格の良い男性看護師が数人。そして……やけに化粧の濃い女性看護師が居た。

「様子はどうですかな?」

「はい……先ほど目を覚まして」

 担当医でない医者が何をしに来たのか分からなかったが、美紗が塔垣老人を振り返ると同時に、医師と看護師達が病室になだれ込んできた。


「な、何なんですかっ」

「煩いわねぇ……あんた達、そいつらを黙らせなさいっ」

「「「はっ」」」

 琴音の批難に眉を顰めたケバい看護師が命令すると、男性看護師達が全員を拘束しようとする。

「てめぇら、何をしやが、ぐあっ」

「黙れ」

「静かにしないと、その子供がどうなるか分かんないわよぉ~?」

「何のつもりだ……?」


 ナースのコスプレにしか見えないマツリは、拘束され静かになった彼らを見下ろしながらケタケタと嗤う。

「あんたらには、柚子の人質になってもらうわ。モブには良い出番でしょ?」

「……柚子、って、何を言ってるの!? あの子はっ」

「はいはい、死んだ死んだ、刺した私が言うんだから間違いないけど、モブにこれ以上話しても理解できないでしょ」

「……っ!」

「……犯人は捕まったんじゃ……」

「ふふふ」


 塔垣老人の病室は、死期が近いのですでに別病棟に移されて、現状ではこの病棟にほとんど人は居ない。

 ベッドにあるコールを押せば看護師が来るであろうが、それは偽医師らが来た時に切られていた。


「この餓鬼……、どこか見たことあるわね」

「ひっ」

 マツリが顔を覗き込むと、琴音の娘である花梨が怯えた声を漏らす。

「やめてっ、花梨に手を出さないでっ!」

「ふぅん……カリンって言うのか」

 花梨は、その目元が隔世遺伝の為か琴音の祖母と良く似ていた。それはつまり、あの柚子とも目元が似ていると言うことだ。

「……なんか腹が立つ顔よね」

 そう呟いたマツリが花梨に手を伸ばした、その時。


『そこまでだっ』


 ガシャァン!

 病室の窓硝子を突き破り、大剣を構えた黒覆面が突入する。

「あっ」

 その正体に一瞬で気付いた美紗が声を漏らし掛けたが、勇気の視線で慌てて自分の口を手で塞いだ。

「なんなのっ!?」

「マツリ様っ、あれは何年も我らの邪魔をしてきた黒覆面ですっ」

「その通り」


 勇気は美紗を守る為にここまで来て、距離的にマツリ達より遠かったが良いタイミングで到着することが出来たようだ。

 さっそくこいつらを倒そうかと思ったが、小さな花梨が見ていたので、剣を仕舞い、勇気は素手で僧達と戦い始める。

「やはり、こんな狭い場所では、その大剣は使えまいっ!」

「そうだな」

 だが、基本的な身体能力が違いすぎる。

 今ではラーメン屋の若店主だが、勇気は人間国家の最終兵器である【勇者】なのだ。


   ***


「『夜の弓』…っ!」


 数百本に分かれた漆黒の矢が【真神・東京】に放たれ、それを巨大な津波のような衝撃波が相殺する。

 私と【真神・東京】との戦いは膠着状態に陥っていた。

 悪魔の最上位種の一つである【魔神(デヴィル)】の私とほぼ互角……。ううん、アレがまだ幼くて力を使い切れていない事を考えると、私のほうが不利か。

 リンネが力を取り戻せば押し切れると思うけど、リンネほどの【魔獣(ビースト)】が力を取り戻すには何千人の魂が必要なんだろ……?

 そして、魔力が現状海産物(タコスルメ)でしか補充できない私と違って、【神】は“信者”が居る限りその力は無限と言っていい。

 信者は欲望を捧げる東京の住人達。……いざとなったら、本気で大量虐殺でもしないと負けちゃいそう。


「ユールシア様っ!」

 従者から心配そうな声が聞こえる。

 あの子達も四人で、十体の同レベルに近い敵を相手にしているから、援護を求めるのは酷な話よね。

 むっ、……マツリの奴があんな所にいた。

 琴ちゃん……? 美紗? あの小さい子は私の姪っ子になるのか。


「『輝聖翼』…ッ!」


 コウモリの翼に黄金の羽毛を付けて、高速移動モードに変える。

「…くっ」

 その瞬間に衝撃波が襲ってくる。やばい、今すぐ飛んでいきたいのに動けない。

 勇気くんに任せるしかないか……。リンネと恩坐くんも向かっているみたいだけど、間に合うかな?

「………」

 私は少し考えて、輝聖翼から羽根を一枚取る。……たぶんいけるかな?


「一瞬でも良いから、お願い……『エイリアス』…」


   ***


「ぐわっ、」

 勇気の軽い拳の一振りで、偽看護師の一人がドアの外まで吹き飛ばされた。

「はぁっ!」

 その背後から偽医師が“氣”を込めた拳を撃ち込むと、勇気も“氣”を練り込んだ片手の拳で受けただけでなく、反対に偽医師の拳の骨を砕いた。

「ぎゃああああああああああああああああああっ」

 圧倒的な戦闘能力の差に、残った偽看護師達は怯えた顔で後ずさる。

 その様子に、勇気が一気に畳み込む為一歩踏み出すと、


「止まれっ!」

 いつの間にか移動していたマツリが、置いてあった果物ナイフを花梨に咽元に突きつけていた。

「花梨っ」

「ひぃえぇええん、おかーさーん……」

「煩いっ、顔に傷をつけるよっ」

 マツリはニヤリと嗤いながら、偽看護師達に視線を向けた。その視線を受けた僧侶達は、子供を人質にする事に抵抗を覚えながらも、勇気に対抗する為、仕方なく錫杖を握りしめた。

「……恨むなよ」

「………」


「どわぁあああああああああああああああああっ!?」


 その時、壊れていた窓から、何者かが投げ込まれた(・・・・・・)

「なっ、今度はなによっ」

 病室を転がって壊れていたドアから廊下まで滑っていった人間に唖然として、マツリが花梨の喉から切っ先を離すと、今度は真っ黒な塊が窓から飛び込み、花梨の襟を噛んでそのまま引き離した。

「猫っ!?」


「ぎゃぁあああああっ!」

「ぐあぁあ」

 続けざまに悲鳴が聞こえて振り返ると、勇気が残っていた僧達を床に叩き伏せていたところだった。


「花梨っ」

「おかーさーんっ!」

 花梨が琴音のところに走る。それらを見てマツリは目を吊り上げると、果物ナイフを向けて琴音と花梨の元に駆け出した。

「なんで、私の思い通りにならないのよっ!」


 まさかこの状況で、誰もがそんな短絡的な行動を起こすとは思っていなかった。

 一瞬の油断。……そのマツリの悪意の刃が二人に迫り……、果物ナイフが深々とその腹部に根本まで突き刺さり、勇気が声を上げた。


「恩坐っ!?」

「へへ……」


 この中で唯一、過去にある“少女”を刃から守れなかった男が、今度は自分の身を犠牲にして少女の家族を守ったのだ。

「邪魔するなぁあ、あ、ああっ、っ!」

 自分の邪魔をした恩坐に、マツリが口から泡を吹きながら、さらにナイフを押し込もうとする。

 今の状況では、へたに手を出すと恩坐の傷が広がる。刺さったナイフを捻られただけでも致命傷になるだろう。

 だが……


「……え、」

 マツリの手をナイフごと掴んだ者がいた。

 黄金の糸のような金の髪……冷たい人形のような完璧な美貌。

 その金の瞳で冷たくマツリを見下ろした少女は、マツリの顔面に片手を当てて引き離しながら一言呟く。


「『焼けろ』」

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」 


 屠畜される獣のような悲鳴をあげ、焼けた顔面を押さえながらよろよろと後ろに下がったマツリは、壊れた三階の窓から落ちていった。

 黒と銀のドレスを着た金色の少女は、琴音夫妻、美紗、花梨にそっと微笑んで、その姿は光に溶けるように消えてしまう。


 ユールシアの神霊魔法でわずかな間だけ創られた【仮想分体(エイリアス)】。

 その、消えてしまった少女にある“面影”を見て、美紗は目を丸くして、琴音はぽつりと声を漏らした。


「………()()…?」



  

 次は、土日更新で第二章を終わらせます。

 目標だった一ヶ月での修正が間に合わなくて申し訳ありません。

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マツリ………幼稚って言うより段々下衆になって…………いや、最初からか………。
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