1-17 事件の結末。……そして
第一章の最終話となります。
黒覆面は、訳の分からないところから大きな剣を取り出して、私に向けた。
器用だね。……パンツの中にでも隠していたのかしら。
京時の相手を屋上でする為に出入り禁止を解除したら、速攻で怪しい人が入り込んできたわ。
……って言うか、この独特の雰囲気と“気配”って、
「何をしているの? 四十万勇気くん」
「…………」
私が名前を呼ぶと勇気くんの気配と身体がぐらっと揺れた。
「……どうして分かった?」
「え、……私達、同じクラスじゃない」
「……そ、そうか」
ウソですっ。さすがに話した事のないクラスメイトなんて、顔さえうろ覚えですよ。
でも悪魔を自覚した今の私なら、彼の魂が“普通”とちょっと違うことも分かる。前は違う意味も分からなかったけど。
私が見た目を人間に戻すと、まだ警戒しているけど、だいぶ緊張感が削がれてしまった勇気くんは、剣を私に向けずに貯水塔から飛び降りて近づいてきた。
「勇気くん……あなた、何者?」
「まずは俺の質問に答えろ。お前は“転生者”か?」
転生者……。死んでからも魂が【世界】に還元されず、その性質を残したまま新しく生まれ変わった者。
でも彼の問いはそう言う意味じゃない。私に前世を覚えているのかと確認している。そう言った意味では、私は勇気くんの言う“転生者”なんだけど。
「記憶が混濁しているのよ。知識はあるけど、“私”のことが思い出せない」
「そうか……。転生は記憶が曖昧になるからな。今のところはお前の言葉を信じよう」
今のところは……ね。武器は下げても仕舞わない。まぁ私も彼のことを警戒している訳だから仕方ない。
それに……こういう“気配”には、少し覚えがある。
こいつは“私”を傷つけられる【力】を持った人間だ。
「つまりはあなたも転生者なのね……?」
「……ああ、そうだ。色々と事情がある。お前のほうは……異界の“魔導師”か? しかも人間を辞めている類の……」
勇気くんは先ほどの事を見ていた。何処から見ていたか不明だけど、それを見て私を狂気系の魔導師だと思ってくれたみたい。
「……それで? そんな危険な奴は放っておけない?」
「……おい、【魔力】を簡単に解放するな。この世界には魔力がほとんど存在しない。お前がどこから転生したのか知らないが、この世界は“歪”だと理解しておけ」
「………ふぅん」
なるほど、私の中にある力の正体は【魔力】だったのか。
「ねぇ、この世界が歪って…」
「詳しい話は後だ。俺も聞きたいことは山ほどあるが、お前もここから早く離れないと後が厄介になるぞ」
「そうね……今度、学校でお話ししましょう。それから……」
会話が終わったと思って立ち去ろうとしていた勇気くんの足が止まり、その瞳がまた私を映す。
「勇気くん。私は“お前”じゃなくて“柚子”よ」
「……分かった」
短くそう言い残すと、四十万勇気くんは屋上から飛び降りて、夜の闇の中へと消えていった。
お互いに有益な関係になれるかな? 利益がある限り、信頼は出来なくても信用は出来そうです。
死者達に、久遠爺さんを玄関に運ぶように言って、それが終わったら、ついでに大人しく死んでおくようにも命じると、私も屋上から飛び降りてこの凄惨な現場から立ち去った。……事件は迷宮入りかしら。
「柚子……っ!」
あの廃校から数キロ移動した所で、私の名を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、……恩坐くん?」
顔を向けると、へろへろな足取りでこっちに走ってくる恩坐くんの姿が見えた。
私も彼の方へ足を向けると、駆け寄ってきた恩坐くんは膝に手をついて荒い息で肩を上下させながら、ホッとしたような不機嫌そうな、そんな顔を見せた。
「恩坐くん……どうしてこんなところに?」
「……あのなぁ、柚子が何も書いてねぇ、変なメールを送ってくるからだろっ!?」
「え、……ああ~」
あの時、携帯電話を適当に弄ったのが、メールになって恩坐くんに飛んだのか。
……あれ? でも恩坐くんはどうして私の位置が分かったの?
「ホント、柚子はマイペースだよな……。心配させんなよ」
恩坐くんは急に優しい目になると、私の頭に触れて、ガツッ、と力を込めて彼の胸に押し付けた。
「痛っ、」
……なんか、前にもこんな事があった気がする。……でも、
「恩坐くん、汗臭いっ!?」
「ひでぇなっ! ここまで何十キロあると思ってんだよっ、変なメールで心配させた罰だ、我慢しろっ」
恩坐くんは悪戯ッコのように笑いながら、ぐりぐりと汗臭い胸元に私の顔を押し付けた。後で覚えてろよっ。
「柚子、携帯の電源切れてるのか? 電話も通じなかったぞ」
しばらくして解放してくれた恩坐くんがそんなことを言った。
「あ、そう言えば、誘拐犯に取られたままだったわね」
「はぁっ? マジで誘拐されていたのかよっ!?」
「う、うん。まぁ逃げ出せたからいいじゃない。結構、マヌケだったよ?」
「柚子は適当だな……。後で俺の携帯貸してやるから家に連絡しておけ。親にすっげー怒られるからな」
「……うっ」
家族の顔を思い出して身を竦める私に、恩坐くんはポンポンと私の頭を撫でる。
「今度から、危なくなりそうならすぐに俺に電話しろよ? 俺も今よりずっと強くなって………、柚子を絶対守るから」
「……うん」
そんな恩坐くんの言葉に、私の中に微かに何かが灯って……… 私の手から半透明の細い鎖が伸びて、恩坐くんの心臓に繋がっているのが見えた。
……なにこれ。
***
家に帰ることが出来た私は、心配されて泣かれて怒られた。
後で聞かされた事だけど、私の事は警察に連絡されて事故から事件に変わる一歩手前の状況だったらしい。
何故か王子くんの二句之家にも連絡が行って、裏で本庁が動くように圧力を掛けてくれたとか何とか。……なんで二句之家が動いたんだろ?
それと、久遠家の事は表には出なかった。それどころか、あの廃校で起きた大量殺人も無かったことにされた。
……裏で“国家”が動いたのかなぁ?
それから一ヶ月以上外出禁止になりました。学校にも行けない外出禁止だったけど、ほとんどは病院の検査や心療内科通いでした。子供が誘拐されたのだから当たり前だけど、もちろん私はなんともない。
そんなんで一ヶ月も掛かるものなの?
そんなこんなで月日は過ぎて、ゴチャゴチャになった記憶の整理をしながら数ヶ月経った、ある日のこと。
「柚子、お話があるからお父さんの書斎に来て貰える?」
「……ん? はーい」
とりあえずお返事をして、お母さんの後を付いてお父さんの書斎に向かう。
何のお話だろ? 誘拐の件かな? でも久遠爺さんは病院施設に入って何も出来ないから、進展なんて無いと思うんだけど。
………私の正体がバレた? いや、さすがにそれは無いと思うけど。
「お父さん、お話って?」
「おお、来たか。柚子はそこに座ってくれ」
書斎にはお父さんが居て、お母さんも私と一緒にソファに座る。
「久遠家の新当主から正式に詫び状が来た。柚子は詳しいことは知らなくていい。公貴くんにも詳しいことは話さない方針だから、この件はもう忘れて欲しい。いいかな?」
「うん」
公貴くんと気まずい雰囲気になるのは嫌だから文句はありません。
「それと……、あの商店街のラーメン屋のことだが……」
「……え?」
「待て待て、悪いことじゃない。あの二人は正式に店主である飯野氏の養子になって、あの店を継ぐそうだ。そして店主は彼に店を譲って、田舎に引っ越すらしい」
「ええええええええええええええっ」
父ちゃんが新しい店主になるの? 美紗と父ちゃんが幸せになれそうなのはいいんだけど、お店は大丈夫かな?
「あ~……私らも少々大人げなかった。あの二人を心配して子供達が優しさを見せたのは良かったが、私達大人が躊躇したことが誘拐にも繋がった。だから、うちの塔垣商事で新製品の麺を提供し、二句之ハムから新しいチャーシューが提供される新規事業として、彼らをバックアップする事になったんだよ」
「おお~……」
いつの間にそんな話に。うちと二句之ハムで、新製品の開発していたのは知っているけど、これなら新しいお店の“売り”になるかな?
なんだ、良いお話で良かったわ。
「それでだな。……あ~、そうだ、柚子。お前を保護してくれた恩坐くんは、良い少年だな。仲がいいのか?」
「え? うん、学校でよくお話はしているけど?」
「む、そうか。でだな……、これは確定ではないのだが、一応柚子の意見も尊重すべきかと……」
「……お父さん?」
何が言いたいの? そんな感じで視線を向けると、隣のお母さんがお父さんの様子に溜息をついて、代わりに話してくれた。
「二句之家から正式に、柚子を美王子くんの“許嫁”にしたいってお話が来てるんだけど、どうする……?」
これにて第一章は終了です。ご既読ありがとうございました。
おおよそ思った通りの展開に進められてホッとしております。
次は、二章の頭に簡単な登場人物紹介をして、第二章の本編は一日空けてからまた始めますが、一章のようなスピード更新はご勘弁ください。
二章もストーリー重視で進めていきますので、よろしく願いします。
よろしければブックマーク、ご感想、ご評価もお待ちしていますので、よろしくお願いします。





