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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第三部 第四章・【奈落編】

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4-10 奈落の旅 ④




 その“平なんとか”が居そうな穴に侵入した私達。入り口はプレーリードッグの巣穴かよ、って感じの小さな穴だったのに、降りていくと少しずつ広くなり、平坦な床に降り立つと縦横3メートルくらいの洞窟になっていた。

 【奈落(アビス)】はイメージで印象が変わるから暗闇にはならないはずなのに、奥の方へ進めば、おどろおどろしい暗黒が渦巻くような禍々しい気配が漂っていた。


「普通ね」

『普通ね……』

 人間だったら恐怖に怯えるところなんだろうけど、私達のような魔界生まれ魔界育ちの悪魔ッコからすると、田舎を思い浮かべて無人野菜販売所が頭に浮かんでくる程度にはありふれている。

 何というか、形から入る奴なんだろうか……。

 でも、個性だの何だの言われる昨今、痴情のもつれでチームを追い出されてなおハーレムを作る人よりも、そもそも痴情のもつれが起きようのないコミュ障が、大学デビューで雑誌に載ってたファッションを丸パクリしている姿を見るほうが微笑ましいではないですか。

 そう考えると、こんないかにも悪魔ですよみたいなセンスは嫌いじゃない。

「行くわよ、ローズっ」

『どうしたの? 急にやる気になって……』


 出来るだけ平らにならした通路の壁に、信者に彫らしたらしき髑髏の彫刻。

 所々に見える、鬼火のような揺らめく灯火。

 揺らめく影が亡霊のように苦痛と怨嗟の呻きを漏らす。


『……ユールシア様、どうしてそんな微笑ましそうな笑みを浮かべているの…』

「あら、そう?」

 どうやら微笑んでいたらしい私は、自分の頬に手を当てる。

 だって、こんなテンプレまがいの事を恥ずかしげなく出来るなんて、とても可愛らしいじゃありませんか?

 きっと個人用の小部屋で、一人でご飯を食べるのが大好きな子に違いない。

 ところが、そんな風に微笑ましく微笑みながら進んでいると、途中から様子が変わってきた。

「……バラの香り?」


 仄かなバラの香りじゃなくて、まるでトイレの芳香剤のような強い花の香りがプンプンと漂ってくる。

 なんだこれは? 純朴な田舎の青年ではなかったのか? 周囲と合わせるのなら少しだけ髪を茶にすればいいだけなのに、何故かキンキラキンにしてしまった薄ら寒さのようなものを感じた。


「…………」

『どうしていきなり不機嫌になってるのっ!?』

 どうやら感情が顔に出ていたみたいで、ローズが怯えていた。

 いけないいけない。気の迷いで何故か良い子のように思えていたけど、やはりどう考えても“平なんとかさん”は敵なのだ。

 気を引き締め直して洞窟の奥へ進んでいく。私の気合いが分かったのか、ちょっと皮肉屋のローズも真剣な顔つきで後に続く。

「『………」』

 あまりの芳香の強さに周囲の魔力が幻視化して、床一面にバラの花びらが敷き詰められたように見えた。

 おそらくこの先に奴が居る。悪魔のローズを畏れさせ、あの集落の救えない魂達を怯えさせ、悪魔崇拝者達を従えて何かを企んでいる。

 通路の奥が微かに明るくなる。

 その少し広くなった場所をそっと覗き込むと……なんとそこには、石で出来た仮面を着けた、ぴらぴらの腰蓑いっちょの半裸男がバラの中で奇妙なポーズを取って、少女達を待ち構えていた。

「『!?」』


「げひゅっ!?」


 その瞬間、私は手近にあった岩を掴んでそいつの頭頂部に叩きつけていた。

 ガッ、ガッ、ガッ!!!

「げふっ、ひぐっ ひぎゃうっ!?」

 続けざまに側頭部、後頭部、また頭頂部に渾身の力で岩を叩きつけ、圧力に耐えきれずに岩が砕けると、血の花を盛大に咲かせるそいつに、前方宙返りをするように踵落としを喰らわせて陥没した地面に埋め込み、その穴にそこら辺にある岩を片っ端から放り込んだ。

「埋めろ埋めろっ! 変態は埋めてしまえっ!!」

『えー………』

 唖然としていたローズも気を取り直して一緒に岩を穴に捨てる。

 しばらくして穴が完全に岩で埋まると、私はやりとげた晴れやかな笑みを浮かべて額を拭う。

「変態は滅びた」

『…………』

 ローズは腑に落ちないような理解できないような複雑な表情で黙り込んでいた。

「それじゃ、行きましょうか」

『私達、何しに来たんだっけ……』


 ズガガガンッ!!

「うがああああああああああっ!!」

 その瞬間、埋めた岩を吹き飛ばして穴の底から変態が復活した。


「ちっ、変態がしぶとい……」

「誰が変態だっ、このガキがっ!」

 私の言葉に変態が図星を指されて逆ギレぎみに憤る。

 だって、半裸というか腰蓑だけのほぼ全裸で、全身ひょろひょろなのにネタに出来ない程度に胸毛が生えているのが嫌すぎる。

「……ん? 貴様…どこかで……」

 私と睨み合っていた変態が、半分割れた石仮面から覗く目を細めて私を見た。

 いや、私に変態の知り合いはいないんだけど……と思っていると、私を見ていた変態の目が大きく見開かれた。


「……き、貴様……ユールシアかっ!!!」

「……だれ?」


 この変態は私を知っているようだ。訝しげな顔をする私に、その変態は若干苛ついた様子を見せながらもニヤリと嗤う。

「この仮面を外した素顔を見ても同じ事が言えるかな……」

 変態が半分砕けた石仮面を外すと、岩で殴られた傷もすでに癒えたのか貴族めいた整った素顔が曝された。……こいつ……まさかっ、


「平田くんっ!!?」

「誰だそれはっ!?」


 そうだ……私は思いだした。コイツはヒ、ヒラ…… そうコイツは、ギアスを罠に掛けて数万もの魂を搾取した悪魔で、これでも魔界を統べる『悪魔公七柱』の一柱だった悪魔だ。

 私は同じ最高位悪魔としてコイツと戦い、当時は私のほうが若干力は下だったけど、半年間の激闘の末、僅差で打ち破ることが出来た。

 どうして今まで思い出さなかったのか……。コイツには悪魔の駆け引きや狡猾さ、そして高位悪魔同士の戦い方を学んだ。

 でもどうしても……コイツ、キャラの印象が薄すぎてちょっとよそ見をすると顔さえもぼんやりとした印象になる。


「まさか、印象が薄くて忘れ去られることで、その隙に暗躍をする悪魔の高等テクニックを……」

「わけの分からんことを言うなっ! おのれユールシア、あの時の恨みを忘れたわけではないぞっ! 私が百年も育てていた契約を完遂間際で横からかっ攫うわ、せっかくの上等な魂を次元の裂け目にあっさりと捨てるわ、戦いの最中に突然奇妙な干物を食べ始めるわ、いい加減にしろっ!!!」

「随分と久しぶりねぇ。最近景気はどう? 元気してた?」

「貴様は人の話を聞けないのかっ!!!!!」


 また何故か憤る平なんとか。こんなお日様のあたらない場所にずっと居るから随分と苛々しているみたい。

「ワカメ食べる?」

「どうして貴様は、この奈落(アビス)に当たり前のように物を持ち込んでいるのだっ!? だいたいどこからそんな話になったっ!?」

「まぁまぁ」

 私はコイツを落ち着かせるためにそこらの岩を爪でくり抜いて器を作り、岩のテーブルがあったのでそこに乾燥ワカメを盛って置いておく。

「お湯はある? ワカメ茶煎れるけど」

「あるわけないだろうっ!!!」


 ガシャン! と平なんとかはワカメの器を素手で払うように弾き飛ばした。

 これが最近のキレやすい若者か……。いや年齢的に若者ではないね。飛び込み営業できたサラリーマンが、三十超えているのに何故か髪を脱色していたくらいの残念さだろうか。

 どうやらコイツは私に恨みを晴らそうと戦う気でいるらしい。


「それで、こんな所で何をしているの? バラの造花とトイレの芳香剤でも作っていたの?」

「誰がそんなことをするかっ!! フフ……貴様にいいことを教えてやろう」

 少し落ち着きを取り戻した平なんとかが、弱体化して幼女化している私を見下ろすように鼻で笑う。

「次に高騰する株の銘柄?」

「どこの世界の話だっ! いいか、私の話を聞いて絶望するがいいっ! 貴様程度でも知っていようっ、私は魔界最古の悪魔公の一柱、シルベルタル殿と契約し、現世への復活を報酬に、この地でも特に邪悪な魂を選別して彼女の先兵となるように送り出す役目を担ったのだ。その契約の一環として、身体が自由に動けるまで再生されたのだっ! どうだ、貴様に彼女と事を構える勇気があるのか?」


「『…………」』

 私はチラリとローズを見る。ローズは静かに首を振る。

 シルベルタルの下で事務業務を担当していたローズが知らないって事は、ひょっとして……最初の一回だけでシルベルタルに忘れられてない?

 ……コイツ、可哀想。




ユールシアが彼の名前を覚える日は来るのか!?


次回、平なんとか戦の決着。


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― 新着の感想 ―
誰が変態だっ > 誰がどう見ても変態だっ! なんでこんな格好を………!? 平田くんっ!!? > 平なんとかよりはまともな呼ばれ方、何だろうか? だが、せめて平井くんとか………。 しかし、この平なんと…
[良い点]  内心ヒラヒラさんと呼んでいた彼が、ここまで引っ張るとは思っていませんでした。今回「平なんとか戦」は、まるで平家との戦のような字面で重みを増しました(笑)
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