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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第一章・悪魔を見た夢 【現代編】

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1-13 伝えたいこと ②

 ちょっとシリアスが続きます。

 



「なんか騒がしくない?」

 私は今日も商店街のラーメン屋さんに来ています。

 こうもラーメンばっかり食べていると太りそうで困ります。それに気付いた琴ちゃんは体重計の数字に愕然として、本日はジムでスイミングらしいのです。

「えっとね、道路工事やってるらしいよ?」

 先ほどの私の呟きに、一緒の宿題をしていた美紗が顔を上げて教えてくれた。

「この時期って、工事多かったっけ?」

「う~ん、わかんなぁい」

 お店の中ではなく、奥にある休憩室の窓から外を覗いてみると、音が幾つか聞こえて方向が特定できなかった。

「何カ所やってるの……?」

 道路工事自体は珍しくないけど、これって商店街の周り全部でやってるの?

 明日は学校お休みだから、琴ちゃん達が迎えに来るのが遅くなっても問題ないんだけど、車が入って来られるのかしら?

 まぁ、どうしようもなかったら、このお店に泊まってもいいんだけどね。

 ちなみにこのラーメン屋の奥と二階は、お爺ちゃんの住居になっていて、父ちゃんと美紗は二階に下宿している形です。

 

「柚子ちゃん、お泊まりするー?」

「どうしよっか?」

「じゃあ、一緒のお布団で寝ようっ」

 同衾ですね。うん、それでもいいかなぁ……と思い始めた頃、お店の父ちゃんが自分の携帯電話を持って休憩室にやってきた。

「柚子ちゃん、大葉くんから電話があったが、工事で通れない道が多くて迎えが遅くなるかも知れないから、遅くなる前にタクシーで帰ってこいってさっ」

「あらま」

「それと柚子ちゃん、携帯の電源切れてねぇか? 大葉くんが繋がらないって愚痴ってたぞ」

「あれぇ……」

 鞄から携帯電話を出してみると、本当に電源が切れていた。

 起動ボタンを長押しすると電源が入るけど、数秒もしたらでっかい電池のマークが画面に映った。

「電池切れか……」

「うちの電話使っていいから、連絡入れておきな。それとタクシー呼ぶか?」

「柚子ちゃん、お泊まりしないの……?」

 それを聞いていた美紗が寂しそうな顔をする。

「……父ちゃん、お持ち帰りしちゃダメ?」

「いい訳あるかいっ。それと俺は美紗の父ちゃんじゃねぇ! 最近美紗が真似して俺のことを『父ちゃん』って呼ぶから、商店街の人達からも『お父さん』って言われてんだぞっ、こんちきしょーっ」

「不幸な事故だったわね……」

「事故でもねぇよっ!?」

 さすが父ちゃん、ツッコミがキレッキレですな。

 

 その後、大葉お兄ちゃんに電話して、父ちゃんにもタクシーを呼んでもらう。

 あ、タクシー来るまでに携帯の充電しておけば良かったかな。……と思い付いたのがタクシーが到着する直前で、1分も充電できなかった。

 

 私がタクシーに乗り込んだのは、ラーメン屋さんが閉まる夜の九時でした。

 結構遅くになっちゃったな。タクシーが来るまで1時間以上掛かったんですよ。これだったら本当にお泊まりしても良かったかも。

「すみませんねぇ、お嬢さん。今日に限ってあちこちで工事をしてて、通れる道が少なかったんですよ」

「そうなんですかぁ」

 ガッチリした体格の若い運転手さんが話しかけてくるので、私も適当に返事をして、お相手しておく。

 初見で世間話程度出来ないと社会人なんて出来ません。私は小学生ですが。

「お嬢さんの制服って、高峯学園ですか?」

「ええ、そうですよ。ご存じで?」

「そりゃもう、ここら辺じゃ一番の学校ですからねぇ。格式高くって、私に子供がいても無理ですが」

「多くはないですが、普通の家庭の子もいますよ?」

「そりゃあ、子供を大事にしてるんでしょうなぁ。お嬢さんくらい可愛い子でしたら、お父さんも高峯に通わせたくもなりますわ」

「……お父さん?」

 

 この運転手さん、お父さんを知っているの? いや、うちでよく使っているタクシー会社じゃないよね? なんか見たことのない会社だけど。

 それにしてもこの運転手さん、お喋りだな……。

 

「タクシーに乗る時、お父さんが見送りに来てたじゃないですかぁ。親子の仲がいいですねぇ」

「…………」

 私と父ちゃんを親子だと思っている? ……あらためて文章にするとおかしいな。

 商店街やお店に来る人は、私が『父ちゃん』と呼んでいるのを知っているけど、この運転手さんは何処でそれを聞いた?

 お店で使うタクシー会社なのに、父ちゃんとは面識なさそうだった。

 そしてタクシー運転手なのに、私を送る場所が何処かも分かっていない?

「………」

「………」

 私が黙り込んだことで会話が途切れる。

 運転手は私から“何か”を聞き出そうとしていた。ううん……私が誰か“確証”が欲しかったのか。

 

「……運転手さん、帰り道が違いませんか?」

「……道路工事で通れない道が多くて、すみませんねぇ」

 

 これはやばいかもです……。私は性格的にこういう状況でも慌てたり出来ないけど、怖くないのと危険が平気なのとはまるで違う。

 あの妙な【力】が良いタイミングで出てくれるとは限らない。それも誰かを守ろうとした時だけ出てきたのだから、自分の危険ではまだ分からない。

 それに、この工事自体も怪しいぞ。

 

「ここで降ります。停めてください」

「……そいつは無理ですよ。もう少ししたら高速に乗りますからね」

「高速っ?」

 ラーメン屋から塔垣家まで車で20分しか掛からないのに、高速道路なんて使う必要なんて無い。

 あ~、ダメだこりゃ。もし誘拐犯でも愉快犯でも無いとしても、悪徳タクシーである事には間違いない。

「停めないと……暴れますよ?」

「へぇ……やってみればぁ?」

 運転手はそれまでの人の良さそうな仮面を捨てて、思い切り馬鹿にするような口調を使った。有罪確定です。

「……では遠慮無く。ぷす」

 本当に遠慮無く、私は運転手の延髄当たりに尖った鉛筆を突き刺した。

「ぎゃぁああああああああっ!?」

 叫びを上げる運転手。でも、か弱い私では1センチ程度刺さっただけだ。私は嫌がらせで鉛筆の先を折るように引き抜いてから、シートの下で身体を丸めた。

 ガゴンッ!

「ぐほっ、」

 偽運転手の空気を吐き出すような声がして、どこかに衝突して車が停まる。良く考えたら、対向車にぶつかったら危なかったな。もの凄く今更だけど。

 

「……て、てめぇ…このガキっ」

「あら、ご存命でよろしかったですわね?」

 額と首の後ろから血を流しながらヨロヨロと伸ばす手を避けて、私は上品に微笑んで後部座席から車外に出る。

 鞄良し、お財布良し、制服皺少々、携帯充電率3%以下。準備良しっ。

「でも、ここはどこかしら……?」

 どうやらオフィス街のようです。時間が時間だから電気が点いていないビルも多い。

 とりあえず交番でも探しましょう。それが見つからなくても、どこかにコンビニくらいはあると思う。

 

「…………なんで…」

 

 オフィス街の横道に、あの【黒猫】がいた……。

 その銀色の瞳が真っ直ぐに私を見つめる。何かを言いたいの……? 私に何を伝えたいの? あなたはいったい……。

「あ、待ってっ」

 近づくと遠くなる。立ち止まっても少しずつ離れていく。……でも、あなたは私の前に現れる。

 ガリガリと心の奥底から“何か”が爪を立てて足掻いていた。

 それに急き立てられるように私は【彼】を追う。

 息が切れる。私は体力がないから当たり前だ。でも前はもっと動けた? もっと速かった? もっと……強かった?

 日常に塗り潰されそうになっていた断片的な記憶が、少しずつ色を帯びる。

 あなたは……私に何をさせたいの?

 

 

「このガキっ、見つけたぞっ!」

 

「……え?」

 ここ……どこ? 気がつくと知らない空き地のような場所にいて、私の背後から、あの偽運転手がまだらに赤く染まった布で首の後ろを押さえながら、私に怒りの視線を向けていた。

「……あら、お元気そうですね」

「ふざけやがってっ」

 そこに偽運転手以外にも、数人の柄の悪い男達が居た。

 私の言葉に偽運転手は拳を握りしめて向かってくる。殴られるかな?

 

「やめろ、品原」

「……っ」

 その後ろから掛かった落ち着いた声に、偽運転手こと品原は表情を強張らせて動きを止める。

 車のライトの向こうから現れる二人の黒服。その真ん中を歩いてくる細身の男性。

 まさか、こんな所で会うなんて……。

 

「お久しぶりですね、お嬢さん」

 

 穏やかな“蛇”のような微笑みでそう言う、あの商店街で会った、あの男性。

 

 ………こんな所に連れてくるなんて、黒猫(あいつ)、本当に何がしたいのよ。



 

 第一章クライマックスに入ります。


 次回、悪意に曝された柚子は何をするのか。

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― 新着の感想 ―
???『ネコじゃない。というかネコはお前だろう?』 そういえば大昔にそんなタイトルの漫画があったなあ。ネコじゃないモン。
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