3-05 旅路となりました ③
「本当に大丈夫かい? またクビになったりしないだろうね……」
「だ、大丈夫だよっ。たぶん」
女将さんとマルク少年が不安そうに会話をしている。まぁ、自分の息子がいきなり現れた未成年の女の子に雇われるとなったら、親である女将さんとしては不安に感じるのは理解できます。
作る料理に特殊な付与効果――正直言って、悪魔にとっては微妙なステータス上昇効果のようですが、悪魔はそれを“旨味”と感じるので速攻ヘッドハンティングしたけれど、勇者パーティを追い出されたばかりなので難航するかと思いましたら、同年代の美少女であるニアやファニーを見て、彼はすぐに頷いてくれました。
「月のお給金として金貨5枚。契約金として大金貨三枚をお渡ししますね」
今だ不安な顔をする二人の前で、ギラギラと輝く大金貨を一枚ずつテーブルに並べ、ついでにもう一枚取り出してスッと女将のほうへ置くと、大金貨一枚一枚の動きを、目を見開いて追っていた女将が震える手でその一枚を拾い上げ、大事そうに自分の財布に仕舞い込んだ。
「マルクッ、死ぬ気でお嬢様に付いていくんだよっ!」
「かーちゃん………」
世の中大抵のことはこれで片が付きます(ゲス)。
金貨は地球のお金に換算すると、だいたい10万円くらいでしょうか。大金貨はその10倍です。
聖王国では若い夫婦なら年に大金貨3枚。四人家族でも大金貨4~5枚あれば楽に生活出来ますが、ここらは田舎なので大金貨二~三枚あれば家族が普通に暮らせます。
特に国は違っても聖王国タリテルドの金貨は交換レートが高めなので、どの国で出しても歓迎されます。信用、大事。
属国ではないのですが、付近で貨幣の価値が変動しやすい小国は、少しずつタリテルド金貨に流通通貨をシフトしているみたいですよ。
会員さんからの寄付がかなり貯まっているので、消費目的でミレーヌに投資したり、王都の一等地にお店を出したりしましたけど、何故かさらにお金が増えている。
これも定額使い放題の社員達が身を粉にして(偶に文字通り灰になって)働いてくれた賜物ですが、お金は貯めるだけでなく使わないと意味がありません。
余ってるなら孤児院とかに寄付しろよバカヤロウ、とか言われるかもしれないけど、王族としては割れ鍋に目張りして使わせるよりも、丈夫で安い鍋を安定供給することにお金を使いたいのです。
例の如く話は盛大に逸れましたが、無事に料理人としてマルク少年ゲットです。
とは言え、アクセル側を除いてこっちは悪魔だらけの気楽な旅だったので、それを人間に合わせるのは面倒――もとい息苦しい時もあるかと思うので、徐々にこちら側の常識に洗脳――じゃなくて教育していきましょう。
「それで色々と聞きたいことがあるけど、いいかしら?」
「はい……」
食堂の端っこを借りて面接という名の尋問をする。そして私の真正面に座ったマルク少年は、私と向かい合って一秒ほどで視線を逸らした。
……私とニア達で何が違うのか。とりあえず精神衛生的に私が『上司だから怖い』と言うことにしておこう。
「あなたと勇者パーティのことについて話してくださる?」
「それは……」
作った物――料理に付与効果を与えられる能力を生まれながらに持っていたマルク少年は、都会の教会で偶然その力を認められる機会があって、この村に戻った後、それを知った勇者パーティが勧誘しに来たそうです。
ノアの試算だとその料理で得られる上昇値は、普通の人間だと5%程度の能力上昇みたいだけど、%上昇ではなくて、追加上昇なので、本当に勇者だったら得られる効果は微々たるものだと思う。
マルク少年が勇者パーティにいたのは約半年。最初の頃は勇者達もそれほど強くなかったそうで、能力上昇を喜んでいたそうですけど、勇者パーティが強くなってくると微妙になってくる。
時間で効果は減退するけど、それでも毎日食べ続ければ三食分くらいは効果が累積する。でも勇者パーティが強くなれば強い敵と戦うことになる。強い敵と戦うのは疲れるし、実入りも多いので高級宿に泊まりたい。せっかくの高級宿なので美味い酒や豪華な料理も食べたい。でもそうなると累積効果が無くなり微妙になる。
そんな感じで徐々に邪魔者扱いされ、マルク少年がほぼ村人程度の強さしかなかったのもあるけど、分配金を払うのが嫌で追い出されたとか。
「いくらぐらい貰ってたの?」
「最初は一回の冒険で銀貨2枚くらいで、最後のほうは小銀貨5枚くらいで……」
「安っ!」
この世界は魔物は多くない(野生動物が危険だ)けど、その分、冒険者の代わりにある傭兵団なら、小規模でも一回雇うのに金貨5枚くらいは必要になる。
ゴブリンを一泊二日で倒してヒャッホー、みたいな初心者に優しい世界ではないのです。時速百キロでドリフトしながら突っ込んでくるサイを剣や槍で倒さなければいけない危険な世界なのです。
熊さんとこの傭兵団でもはぐれカバ一体倒すのに20人がかりだったし、もしかしたら勇者パーティって何十人もメンバーが居たのかしら?
「えっと、勇者さんと戦士と騎士さまと魔術師と僧侶と俺で…」
「少なっ!」
聖王国の勇者パーティより多いし、一応荷物持ちの奴隷がいたそうですが、その人達の経費を差し引いても分け前が少なすぎですよね。
それと、ここより南では奴隷制度がまだ残っているみたい。聖王国とかご近所の国はそんなんありませんよ。
「なんでも教会で孤児とか集めてて、そこであぶれた子供が奴隷になるって噂は聞いたことあるっす」
「へぇ……」
教会がねぇ……。聖王国ではそんな子供はそのまま聖職者見習いになっちゃうけど、ここら辺ではそれが普通なのかしら?
そう言えばマルク少年は教会で能力があるって認められたのよね? 教会がその集めた子供達の能力を調べていたとしたら……
「「………」」
チラリと視線を向けるとローズが顔を背ける。
シルベール教国ではアクセルやエステルのように、潜在的に能力のある子供を王族として迎え入れてきた。
もしかしたらその教会とやらは教国の息が掛かっているのかも。その教会から簡単にマルクの情報を得た勇者もその関係者?
何を企んでいるのか知りませんけど、少し探ってみる必要はありますね。
「……ちょっと、変なこと考えないでよね。私はあんたを女王のところへ連れて行かないといけないんだから」
「別に、変なことはしないわ」
横からローズが私に釘を刺すようにそんなことを言う。教国の女王とどんな契約をしたのか知らないけど、随分と社畜精神に溢れていますね。
「マルク、明日出発するから準備をなさい。身の回りの物だけで良いけど、分からなかったらノア――そこの執事に聞いてね」
「は、はいっ! 俺は戻ってきたばかりなんで荷物はそのままいけますが、随分急ですけど、どちらに向かわれるんすか?」
「あなたがいた勇者のところよ」
「ええええええええええええええええええええっ!?」
五月蠅い。よし、マルク少年の教育係はティナにしましょう。
調理に必要な調味料や器具とかはティナとファニーの亜空間収納にあると思うけど、この村でも買えるものは新調しておきたいので、ティナがマルクの首根っこを掴んで引きずっていく。……マルク少年の新しい扉を開かないといいな。
先に契約金の一部(賄賂)を渡していた女将さんは、そんな息子を見てもにこやかに私にお茶を出してくれました。
夕方になってチラホラとお客さんが食事処にやってき始めたので、女将さんに紹介してもらって勇者や教会の情報を仕入れると、その教会は主街道沿いの街にあると判明しました。
そして翌日順調に出発です。元々療養や観光で立ち寄ったわけではないので何の問題もありません。
朝に出発して夕方遅くには次の宿場町の予定ですが、お昼ご飯は適当に済まさないといけません。悪魔的にいらない気もするけれど、マルク少年の腕試しを兼ねてギアスが(半分囓って)獲ってきた鹿(?)でお料理していただきます。
「……これ、雇って作らせるほど美味いか?」
何故かちゃっかり食べに来ているアクセルが、鹿肉(桃色)の串焼きを噛み千切りながらボソッと呟くと、マルク少年がビクッと身体を震わせる。
まぁ、マルク少年が作るのは基本ネギ焼きしかない田舎料理なので、舌の肥えた人間には特に美味しいとは思えないのでしょう。でも、
「アレ」
「…………」
私が指さす方角で、狂ったように串焼きを貪り食うローズとクマとウサギを目にしてアクセルが黙り込む。
一般的な悪魔であるローズでも美味しいと感じるのなら色々と使えそうです。
そもそもマルク少年の天職って、『勇者の仲間』ではなくて『邪神の司祭』のような気がしないでもない。
とにかくマルク少年の能力はある程度把握できたので、後は勇者と教会です。
何を企んでいるのかちゃんと暴かないといけませんね。
……私の暇つぶしと嫌がらせの為にっ!
「やっぱり変なこと考えてるでしょっ!」
次回、異国の勇者。





