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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第一章・悪魔を見た夢 【現代編】

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1-12 伝えたいこと ①

 



 早いもので、秋になって私は八歳になりました。

 最近私の放課後はちょっと忙しい。お稽古事もあるけど、まずはあの商店街でラーメンを食べて美紗と遊ぶことですね。ついでに商店街の探索をするのですが、最近チンピラさん達がどことなく怯えているような気がします。不思議ですね。

 公貴くんのお話も偶に聞くけど、まったく良い方には向かっていない感じです。

 次は華子と一緒に飼育小屋で動物達のお世話。偶に王子くんも手伝ってくれます。

 王子くんはすっかり間食の癖も無くなって、だいぶスリムになりました。その結果か王子くんのご両親が私に会ってみたいと言ってるとか。

 ……あの名前を付けたご両親ですか。ちょっと会うのが怖いので保留です。表向きの理由は私の身体がまだ弱いからですね。

 本当に弱いんですよ?

 

「こほ、」

 秋になって涼しくなったせいか、外にいたらちょっと咳が出た。

「……おい、大丈夫か?」

 これも最近、やけに真面目に修行するようになった恩坐くんが、氣の鍛錬を止めて近寄ってくる。

 忙しい最後の理由は、こうして恩坐くんに氣の使い方を教わっているからです。一年教わっても私は何も出来ないので、こうして休憩しつつ恩坐くんの修行を眺めていることが多いんですけど。

「うん、ちょっと咳が出ただけだよ?」

「最近涼しくなってきたからなぁ……。柚子は弱いんだからあんまり無茶はするなよ。ほら、手も冷たくなってきてる」

 あ、それは筋肉少なくて冷え性なだけです。

 恩坐くんはさっきまで武道の型もやっていたから、お手々がポッカポカです。

「恩坐くんは暑いの? 顔が赤いよ」

「ばっ、ちょっと動きすぎただけだよっ。ほら、柚子はこいつでも羽織ってろ」

 恩坐くんは私の手を放すと側にあった自分の上着を投げつけてくる。そしてもちろん手で受け取れず、顔で受ける。

「ぶへ、ちょっと汗っぽいよ?」

「へへっ、そのくらい我慢しろって」

 それでも恩坐くんの上着を借りて肩に羽織っておく。今度、シュッシュする奴を買ってこよう。

 

 こんな風に、恩坐くんは夏ぐらいから真面目に修行するようになって、私にも優しくなった気がする。私がいつまでも“氣”を習得できなくても、呆れた顔はするけど邪険にしない。来るなとも言わない。

 恩坐くんも五年生。11歳の男の子だから、子供から“男”になりつつあるのは理解できるんだけど、ちょっと急ぎすぎてない?

「……何かあったの?」

「……ん?」

 静かに氣を練っていた恩坐くんが私の声に振り返る。

「何か……ってなんだ?」

「ん~……なんだろ? 気合いが入ってる?」

「……そうだな」

 恩坐くんは私のところまでまた戻ってくると、ポンと私の頭に手を置いた。身長伸びたなぁ。

「柚子の将来(・・)は俺が命を掛けて守ってやる。だから安心して守られてろ」

「…………」

 もちろんそんな意味はないと分かっているけど、これはちょっと……

 顔が熱かった。

 

 

 そして……どこかで小さく“鎖”が鳴る音が聞こえた。

 

   ***

 

 恩坐は少し気が焦っていた。

 やる気が出たと言い換えてもいいが、これまで子供らしく格好良い技ばかり練習して、寺の息子としての“心の鍛錬”を欠いていた恩坐が真面目に取り組むようになったことを両親は喜んでいたが、偶に帰ってくる一番上の兄は、自分が内緒で“裏側”の事情を話したことを少し後悔していた。

 

「恩坐、あまり無茶をするなよ。あと20年近くあるんだから」

「大丈夫さ、兄貴っ。無茶はしねぇよっ」

 

 日本には古くから、この国を守護する機関が存在する。

 世に仇なす悪霊や物の怪の類を滅ぼし、土地の“氣”の流れを調整して、千年以上の時を“外敵”から日本を守護してきた。

 退魔僧。退魔師。陰陽師。時間を経て外国の悪魔払いの技術さえ持つ、この国で最大の宗教組織……明確な名称はなく、それは通称として【御山】と呼ばれていた。

 全国にある神社仏閣の、およそ三割が【御山】と関係があり、その十分の一が直接、怨霊退治をする家系で、恩坐の家もその一つだった。

 

 そして東京の地下で【力ある存在】が発見されると、その力を利用し、さらに効率的に怨霊退治を行えるようになった。

 その存在は、自分に害をなすモノにはとても敏感だった。

 まるで小さな幼子のように……。

 

 恩坐の兄はそう言った事柄を恩坐に教えるようになった。

 自分が対峙する【敵】がどのようなモノかを知り、危機感を持って貰いたかったからだが、恩坐はさらに大胆な行動を取るようになる。

 

「良しっ、これでいいな」

 動きやすい服装に着替えて、夜中に家を出る。

 恩坐が真面目に修行するようになって喜ばれたが、相変わらず“氣”の修行は良い顔をされなかった。

 一般的に子供では扱いきれず怪我をしやすいからだが、本音を言えばそれに嵌りすぎると学業が疎かになる恐れがあったからだ。

 世知辛い話だが、普通に住職になるにも【御山】の僧侶になるにも、一定以上の教養は必要で、四男である恩坐は良い大学に行って、普通の職業に就く道も親は考えていたからだ。

「……いいんだよ、俺は正義の味方になるんだから」

 親には言えなかったことを恩坐がボソッと口にする。

 沢山の人を守るのではなく、護りたい存在(もの)を護りたい。

 その為に恩坐は比較的自由が利く、“拝み屋”になろうと考えていた。

 

「“拝み屋、恩坐”。……なんかかっけぇ」

 

 成長しても、そんなところはまだまだ子供だ。

 さて、恩坐が夜中に、家族にも内緒で出掛けた理由は、戦いの修行である。

 恩坐は自分の“氣”のレベルが上の兄に近くなっていることに気付いていた。その急激な成長は、友達になった下級生の少女が使ったあの“氣もどき”にある。

 誰から見ても失敗で、本人も失敗だと思っていたが、恩坐はそれをサイキックに近いものだと思い至った。それほど近くにいた恩坐に“力”を感じさせたのだ。

 生意気だけど、年下とは思えないほど話しやすく、ひ弱なのに精神力だけは強そうな女の子。最初に“氣”を教えたのは、その外見の良さに思わず気を許してしまったからだが、今ではその中身のほうを恩坐は気に入っていた。

 父や兄達が“氣”を使う時、修行によって心を鍛えて、その精神力で心を平常に保ち、氣を扱う。そのほうが事故が少なく安定(・・)するからだ。

 だが、その少女の“力”の使い方はその真逆だった。

 未熟な精神で暴走させるのではなく、高い精神力で安定して暴走させる。言うだけでも無茶に思えるが、それが一番しっくりした。

 恩坐は兄の話を聞き、力を付けるにはそれが自分に合っていると感じた。

 

「……どこかにいるかな」

 恩坐は逸る心を静めて、気配を探る。捜すのは地縛霊か浮遊霊。それらに生物のような気配はないが、視線や感情の流れを感じる時がある。

 それを特に強く感じるのが悪霊や怨霊だが、そんなモノと簡単に遭遇することはほとんど無いはずだ。

「居たよ……」

 霊は人の目には映らないが、“氣”の強い人間には見えることがある。そしてその存在を“居る”と認識することでより明確になる。

 それは公園の角にいた。事故にあったのか、自殺したのか分からない。それは輪郭すら曖昧な中年男性の地縛霊だったが、それは自分を認識できる恩坐に静かに暗い視線を向けてきた。

「……う、」

 霊を見るのは初めてではないが、一人で対峙するのは初めてだったので、恩坐は若干腰が引ける。

「……あんた、何か言いたいのか?」

 今まではただ“滅ぼす”対象としてしか見てなかった霊だったが、何かを言いたげだと恩坐は感じた。

 父も兄も何も感じず、ただ除霊をしていた。恩坐が感じたそれは、子供としての感受性と感傷に過ぎないかも知れないが、ただ払うことを躊躇った。

『………』

 地縛霊の男は視線をわずかにずらす。その視線を追ってみると、誰かが供えたのか枯れかけた花と、小さな清酒の酒瓶が目に入る。

「……開けりゃいいのか?」

 問いかけても地縛霊は答えない。恩坐は酒瓶を取るとキャップを開けて、花が供えてあった石に掛けてやる。

「これでいいか?」

 また問いかけると、地縛霊は恩坐をジッと見つめていた。

「俺にも付き合えって言うのかよ。………げほっ」

 恩坐は嫌そうな顔をして、酒をちょっと舐めると思わず咳き込んでしまう。それを見た地縛霊の瞳が先ほどより優しげに見えて、恩坐はさらに顔を顰めた。

「もういいか?」

『………』

 恩坐は掌に“氣”を込めて地縛霊を散らした。何の抵抗もなく……あっさりと。

 恩坐は初めての除霊に高揚感もなく、舌に残った酒の味に口元を歪める。

「はぁ……苦ぇな」

 

   *

 

 恩坐はその夜、もう一人の地縛霊を除霊した。

 それは形さえ定まっていない幼児の霊で、なんとなくうろ覚えだったお伽話を聞かせてやると、氣を撃つままでもなく消えてしまった。

「………」

 さっき舐めた酒の味を思い出して、恩坐は顔を顰めながらも一杯呑みたい気分になったが、小学生なのでそれも出来ない。

 そして恩坐は衝撃の事実に思い至る。

「……全然、戦いの修行になってねぇじゃねぇか」

 そして気付くのが遅い。

 

「……げっ」

 そして強い気配を捜して歩いていると、廃材置き場の一角で見るからにやばそうなモノが見えた。

 簡単に言えば、鬼のような形相をしたケバい女、だった。よほど怨念が強いのか輪郭が異様にはっきりとしている。

 そう言えば兄が、【邪悪】の影響で悪霊や怨霊が増えていると言ってたことを思い出して、恩坐は顔を青くした。

 この気配だけでも兄を呼ぶような悪霊だったが、恩坐はそれを躊躇った。自分の力を過信したのではなく、その怨霊が、現在進行形で他の浮遊霊を集めてそれを喰らっていたのだ。

「……くそっ」

 もう死んでいるのだから、どうしようもない。

 そう思いつつも、恩坐はその悪霊に向けて飛び出していた。

「やめろぉおっ!」

 叫びながら恩坐は、その“怒り”を氣と拳に乗せて悪霊の背中に叩き込む。

 

『キシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 悪霊が“絶叫”をあげて、小さな廃材がその叫びにひび割れ、弾け飛ぶ。

「マジかよ……っ」

 かなり強力な悪霊だ。これが【邪悪】の影響でこうなったとだとしたら、その邪悪はどれほどの力を持っているのだろう。

「うわっ!」

 悪霊が振り回す手を恩坐は躱すが、微かに触れた手の甲が青あざになっていた。

「……霊障かよ」

 本格的にどうしようもなくなった。恩坐の力では除霊どころか、逃げることも難しいだろう。

 

「…【ホーリー】…」

 

 その時、そんな声と共に悪霊が光の柱に包まれた。

『ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!?』

 苦悶の叫びを上げる悪霊。

「な、なんだっ」

 恩坐から見て悪霊の数メートル後ろに、黒ずくめの小柄な影があった。

 それは身長ほどの巨大な大剣を構え、恩坐の目でも追いきれないほどの速さで向かってくると、悪霊を頭から縦に斬り裂いた。

『……ぉ……ぁ……』

 その剣は神具の類なのか、あれほどの悪霊を簡単に滅ぼしてしまう。

「……お、おまえ…」

 黒い服に黒の覆面を被ったその人物は、小学五年生の恩坐よりもさらに小柄で、身長的にはどう見ても小学生の低学年にしか見えなかった。

「………」

 そしてその黒覆面は、唖然としている恩坐を一瞥すると、周囲に漂う浮遊霊たちを剣で斬り裂き始める。

 斬り裂くたびに、何か光のようなモノが黒覆面に吸収されているのを見て、恩坐は思わず蹴りを放っていた。

「やめろぉお!」

「っ!?」

 氣を込めた恩坐の蹴りと、受け止めた大剣で通常ではない火花が上がる。

 黒覆面が命の恩人だと知りながらも、恩坐はそれを見過ごせなかった。

「お前、何をやってるんだっ」

「……?」

 黒覆面は不思議そうに恩坐を見て、ゆるりとした動作で大剣を恩坐に向けた。

「「………」」

 互いに構えを取り、向かい合う二人。

 その時、

 

 ジャン、ジャジャジャジャン、

 

 某ご老公様のテーマ曲が流れて、二人から思わず力が抜けた。

「ちょ、ちょっとまってろ」

 誤魔化すようにそう言って、真っ赤な顔で携帯電話を取りだした恩坐は、題名も内容も書かれていないメールに顔色を変える。

 恩坐はそのメールに、心臓を縛られたような不安を覚えた。

 

「……柚子?」



 


テンプレストーリー

『拝み屋恩坐 【少年期編】』追加

 

次回、柚子に迫る悪意の影


……主人公を心配してもいいのですよ?

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― 新着の感想 ―
恩坐くん、いい子。 小学生がちょこまか戦ってるシーンを想像すると、なんとなくコロコロコミックっぽいな。
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