2-03 悪役令嬢になりました ①
あのラストダンスは、お母様が仕組んだものでした。
まあいいんですけど、随分とリンネも人間世界に慣れてきたような気がします。
逆に慣れていないのは、元人間の恩坐くんだったりする。彼の場合は生き方が不器用だから貴族社会に慣れていないのよね。
伯父様が国王陛下になってから二ヶ月近くが過ぎて、そろそろ年が明けて新学期になります。……魔術学院も二年以上ぶりなんだけど、私も次からは七年生になる。七年生って言い慣れない単語だな。
この二ヶ月で聖王国も色々と変わりました。一番変わったのは王位交代だけど、南方もバタバタしてたのです。
何しろベルローズ公爵家とその寄子の幾つかの貴族家が、家族や兵士ごと逃亡しているから、領主がいない無法地域が出来ちゃったのです。
騎士や兵がいないからならず者が集まりやすい。それ以前に逃げ出した連中は後先考えずに傭兵団を沢山雇って囲っていたので、その人達が突然解雇されたからさあ大変。あのバル…熊さん達のような大手ならともかく、大義もなく金に釣られたような連中なんで、ならず者より始末が悪い。
ってな訳で、元公爵家は王都から人員を送って何とかしている。その他の公爵家からも騎士や兵士を送った。でも早々に管理人を置かないといけないんだけど、どうするんだろ?
そして、子爵や男爵家のような中級貴族は功績があった人に賞与として土地付きで新しい領主に任命すれば済むけど、侯爵家と伯爵家も一つずつ空いてしまった。
まぁ、さすがに侯爵家のほうは王国全域に親戚がいるから、あっと言う間に次の人が決まったけど、魔物が出る深い森を含む大きな領地を持つ伯爵領は、どの貴族も欲しいと名乗り出なかった。
多分、魔物のせいで赤字経営だったんでしょうね……。だからあっさり国を裏切ったのかも知れないけど、その魔物をギリギリ押さえていた兵達も半分くらい居なくなったので、その伯爵領は領民がやばい状態になってしまった。
そこで白羽の矢が立ったのが、聖王国の勇者ノエル君です。
ノエルは二年前の功績により伯爵位を貰った訳ですが、養父の子爵である熊さん共々領地無しの恩給だけの貴族だったので、今回の反乱鎮圧に貢献したとしてそちらの土地を賜ったのです。
……押し付けた? 悪く言うとそうなんですけど、良く言えば適材適所。
お父様がついでに隣接していた男爵領も上げちゃうよ、と養父の熊さんも送り出したので、南方に燻っていた程度の良い傭兵団を吸収して、元の団員200名はそのまま騎士と兵士に繰り上がり、勇者を頭に持つかなりの武力を持った傭兵騎士団が出来上がったのです。
熊さんにはノエルの他に子は居ないので、将来、ノエルに子が生まれると次男までは元男爵領で子爵位確定と言う事もあって、貴族の女の子達がギラギラしたお目々でノエルを見つめておりました。
「イヤ、大変だったんだよ!?」
「それは俺も分かるけどな……」
その南方の国境近くで、ノエルとリックが苦労話に花を咲かせています。一瞬、心の声にツッコまれたかと思ったよ。
ノエルが忙しかったのは知っているけど、リックも何かあったのかな?
私達が何で国境なんかに揃っているのかと言いますと、シルベール教国からの魔術学院に留学する“王族”ご一行をお迎えする為です。
一応相手も王族ですし、こちらも適当な騎士で出迎えをさせる訳にはいかないので、ノエル卿にも警備の人員を出して貰って、学友となる予定の私達が出迎えることになったのです。めんどい。
「姫様、教国の王族方が見えましたわっ」
「うん」
正式に私の護衛騎士となったビアンカが報告してくる。
ブリちゃん達は何とお見合いが上手く行ったようで、正式に寿退職することになりました。……本当に決まって良かったわ。かなり面倒くさい感じになってたし。
そんな訳で現在は、新しくニアを隊長として、新規に15歳前後の騎士家の娘10人を騎士として雇用した新体制に移行しております。
……ニアが隊長で大丈夫なんだろうか。
ところで私やビアンカが『王族』と言ったのは、また教国がやらかしてくれたから。
聖王国が教国の第二王子の留学を許可したら、直前になって彼の妹である第一王女の留学もねじ込んできました。
さすがにそれは無いでしょう? でももう出発したので宜しくとだけ返事が届いて、もう王都に、南方の子爵家が購入していた広い屋敷を借り受ける算段も付いているそうです。……その子爵は中立派かと思われていたのですが、油断しましたね。
しかも、第二王子の護衛や世話係として30名くらい従者がいるのですが、第一王女が来ることで、80名近くにまで膨れあがっていて、宰相さんが頭を抱えていた。
大丈夫ですよ、宰相さん。再び輝きだした頭皮に闇をもたらしましょう。
「来たわね」
「ああ」
ポツリと呟いた私の言葉に、いつの間にか隣に来ていたリックが相づちを打つ。
先頭の馬に乗っている白と青の鎧を着た騎士達が教団騎士団なのでしょう。その数は40人くらい? その後ろに黒塗りの六頭引きの馬車が10台くらい続く。
「随分と大袈裟ね……」
「俺達が魔王討伐に遠征した時は、この倍は居たぞ、ユールシア」
そんな過去もありました。
そう言えば私が8歳で隣国に行った時も60人くらいで行ったっけ? あれはお父様が過保護だから仕方ないのですよ。
「……ん?」
先ほど教団騎士の一人が先触れに来ましたけど、目に見える距離になったところで、真っ青な鎧を着た一人の騎士が向かってくる。
ノエルの部下達がさりげなく陣を作ると、その騎士はその手前で馬を止め、こちらをジロジロと値踏みするように見つめて、私で視線を止めると軽い感じで口笛を鳴らす。
「おっ、綺麗な子が居るなっ、あんたが聖王国の聖女かい?」
「…………」
年の頃はリックと同じくらいでしょうか。黒い髪に碧い瞳。それなりの美形と言ってもいいですが、何か不遜と言いますか、他を見下している感じがします。
えっと……まさか、
「貴公は何者だ? シルベール教国の騎士だとお見受けするが……」
「ああ? お前に興味はねぇよ、俺はそこの女と話がある」
声を掛けたリックの言葉をその青騎士はバッサリ切って捨てる。一国の王子を蔑ろにするその行為に聖騎士達が剣に手を掛けるが、青騎士はそれを意に介さず、私を見て微かに顔を顰めた。
「……お前、遮断系の“スキル”を持ってやがんな」
「ルシアっ!」
私に何かされたと思ったのか、ノエルが前に出て剣の柄に手を掛けた。
「お前、何をしたっ!」
「……ほぉ~、お前が“勇者”か。だがその剣を抜いたら、俺も手加減はしねぇぞ?」
青騎士とノエルが睨み合う。
その間に私と出遅れたリックは護衛騎士達に囲まれていた。本日のお伴はファニーとノアに頼んだけど、そのノアが私の耳元でこっそりと囁いた。
「彼は“スキル”と言っていましたね。ファニーの解析が済むまで我らの後ろに」
「……ええ」
青騎士は確かに『スキル』と言った。
単純に人が持っている技能をそう言っているのならいいですが、もし本当に、異世界テスのような、技能を数値化されたものや、特殊なスキル持ちだと何を仕掛けられるか分からない。
それに彼は、一目でノエルを『勇者』と見抜いた。
ノエルはそれなりに他国でも有名だけど、前に出てきた少年騎士風のノエルを見て、すぐさま正体を看破した。
この世界に数値化された【スキル】の概念は無い。テスでも過去の転生者や大魔導士達が精霊達と契約してそれをもたらしていた。
なら、個人単位で何かと契約して、自分だけそれを使える奴がいたとしても、可能性は0じゃない。実際、地球に転生した元勇者は、自力で“勇者の秘術”系スキルを使用していたからね。
「……【鑑定】もしくは【解析】…かも」
隣のファニーがボソリと呟いて私もそれに頷く。ファニーの解析は目で見て相手の魔力の流れからの推察だけど、それをアプリのように自動で出来るスキルもあるかも知れない。
でも、私を“視れ”なかったと言うことは、勇気くんよりも力は下かも。でも他にも何か“隠し球”がありそうな気配がする。
「お兄様、何をやっていますのっ」
緊迫感が高まった空気をぶち壊すような、女の子の可愛らしい声が響いた。
いつの間にか側まで来ていたシルベール教国ご一行の中から、私と同じくらいの歳の豪華なドレスを着た、ピンクブロンドのやたらと可愛らしい女の子が、騎士達に囲まれながらこちらに歩いてくる。
「エステル、勇者との邪魔すんなよぉ」
「アクセル兄様がまた勝手なことをしているのでしょ。……ああっ、もしかして、そちらの方は、勇者ノエル様ですかっ! きゃあ、カッコイイっ! もしかして向こうの方はリュドリック王子様ですかっ! 話で聴くよりずっと素敵だわっ! もぉお、エステル困っちゃうっ」
エステルと呼ばれたその少女は、ピンク色の染めた頬に両手を当てて、興奮が抑えきれないように何度も跳びはねていた。
「「「………」」」
……思わず無言になる私達。なんだこれ(笑)。 エステルって……教国の第一王女の名前だった気がするよっ。
マジかぁ……。するとこの傲慢な青騎士が私に婚約を申し込んできた“第二王子”となる訳ですね。
また、ヒロイン(笑)の気配が致します。コレってこの場で入国拒否したら拙いですかね?
また厄介そうなのが(笑)
次回、ユルの悪役令嬢をお楽しみください。





