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何ですか? ”シャドウ”って

 トロールを倒した後、俺はテキパキと牙や爪など使えそうな部分を剥いでいく。加工すれば武器としても使えるので、思わぬ副収入になりそうだ。

 それを見て今度はオリアナが感心する。


「すごいですね」

「まあ前のパーティーでは全部俺がやっていたからな」


 倒した魔物からの剥ぎ取りなど雑用と思われていたのかいつも俺がやらされていたが、今となってはやらされていたことに感謝する。ただはぎ取ればいいのかと思われるかもしれないが、相手が大物の場合きちんと無駄な部分を除いてはぎ取らないと荷物が膨大になってしまうのでそれなりに技術はいる。

 それをオリアナは感心しながら見つめていた。

 思った以上に俺とオリアナは互いの足りない部分を補い合う関係性だったのかもしれない。


 倒した相手が思ったよりも大物だったので、俺たちはそこで魔物狩りを切り上げて次の街への道に戻る。これでしばらくは宿代には困らないだろう。


 そろそろ日が暮れるというころ、次の街にたどり着く。

 街道で出会った商人に訊いたところ、次の街はルドーという名前らしい。この前のアルザスよりも規模が大きく、街にはきちんとした城壁もある。今度はいい街だといいのだが。


 そう思って街の門をくぐったのだが、何やら街の雰囲気はおかしい。明確に口に出せる違和感がある訳ではないが、人々が行きかっているのにどこか活気がないというか、暗いというか、違和感がある。 

 とはいえ別に皆が絶望した表情で歩いているとかそういうことでもなく、表現しづらい。


「何か変じゃないか?」

「そうですね」


 ちなみにオリアナはマントを羽織ってフードを目深にかぶっているせいか、周囲に忌み子だと気づかれている様子はない。だからオリアナとは無関係に何か違和感がある訳だが、来たばかりの俺にはよく分からない。


「とりあえずギルドで報酬だけもらおう」


 街の中心部へと歩いていくと、そこには前の街よりも一回り大きなギルドの建物があり、そこに冒険者たちが入っていくのが見える。

 俺たちもそれに続いて中に入っていき、受付に向かう。

 俺は冒険者の登録証を見せて名乗り、用件を告げる。


「アルザスの方からきたアランだ。途中で魔物を倒したから報酬と、戦利品の換金をして欲しいのだが」

「……あの、中央会館の方には行かれましたか?」


 俺が頼むと、受付の女性が少し言いづらそうに言う。

 街庁や役場ではなく中央会館とは何だろうか。


「何だ、そこは」

「この街にきた方は一度そこに行ってもらうようになっているんです」

「なぜだ?」


 訊ねつつ俺は彼女の言葉に違和感を覚える。「行かなければならない」ではなく「行ってもらう」というのも不可解な表現だ。


「うちの街ではそういうことになっているんです。でもって、そこに行くと滞在許可証のようなものがもらえるので、それをもらってください」

「許可証と言うが、滞在するには許可が必要なのか?」

「いや、そうではないですが、この街では許可証がない方とはお取引出来ないということになっていまして」

「でも冒険者ギルドっていうのは独立した組織だろ? あとどの街でも登録証さえあれば取引できると聞いたが」

「ですがそういう決まりになっていて」


 だが、冒険者ギルドは国中に多数の冒険者を有するため貴族よりも大きな力を持っていると聞く。そのため、例え理不尽な命令を受けても従わないはずだ。


「冒険者ギルドは領主の権力も及ばないんじゃなかったのか?」

「いえ、縛られてはいませんが自主的にそうしているんです」

「はあ」


 だめだ、話していてもさっぱり要領を得ない。何か圧力のようなものをかけられているが、本人たちはそれを否定したいということだろうか。

 俺が困惑していると、一人の冒険者が話しかけてくる。


「ああ、それは何度言ってもだめだ。この街のしきたりみたいなもんだからな」

「しきたり?」

「ああ、この街は表向き領主がいるが、本当に支配しているのは“シャドウ”なんだ」

「しゃどう? 何ですか、しゃどうって?」


 聞き慣れない言葉に俺は困惑する。


「だめだこりゃ」


 すると冒険者は頭を抱えた。

 さすがにその態度に俺は少しむっとする。


「確かに俺はこの街のことを全然知らないが、それは初めてきた人に失礼じゃないか?」

「ああ、すまない。まさか最近この辺りで暗躍してる犯罪組織“シャドウ”を知らないやつがいるなんて。この辺りじゃ結構有名だというのに」

「そうは言われても旅人だからな」


 そんなことを言われてもこの辺りの人ではないので知る訳がない。


「悪かった。シャドウというのは元々は麻薬の密売をしていた組織らしい。有名になったので領主の調査を受けそうになったが、調査に向かった兵士たちが次々と失踪したり不可解な死を遂げたとか」

「それでそんなやつらが堂々とこの街にいるとでも言うのか?」

「堂々とはいないが、逆らうと消されるから皆シャドウの顔色をうかがいながら生きているという訳だ。この街では許可証がなければ宿にも泊まれないし、ギルドでも取引出来ない」


 それを聞いて俺はため息をつく。

 街に入ったとき、どこか活気がないと思ったがまさかそんな事情があったとは。街ごと闇の組織の顔色をうかがいながら生活しているなんてにわかには信じられないが、実際許可証とやらがなければ滞在できないというのであれば仕方ない。


「そういうことならとりあえず中央会館にいってみよう」


 仕方なく俺はギルドを出たのだった。

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