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はいかいいえで答えてくれ

 俺たちが通された部屋にいたのは、俺が勝手に思っていたような貴族的な人物とは違い、がっしりした体つきのいかつい男だった。その左右には二人の武装した護衛がいる。


「俺の名はアンドリューだ。お前は誰だ?」

「俺はアラン。冒険者だ」

「冒険者風情が俺を脅そうとはどういうつもりだ」


 アンドリューは低い声で尋ねる。


「単刀直入に言うが、お前たちはシャドウをどうにかすべきだ」

「言われなくても街では調査を進めている」


 アンドリューは平然と嘘をつく。ここまであからさまだと“論破王”でなくとも分かるかもしれない。


「じゃあ例えば、もし俺がシャドウを倒すことが出来るならそれはいいんだな?」

「良くはない。奴らをいたずらに刺激すれば他の住民に被害が出る可能性がある」

「被害ならもう出ていることを知らない訳じゃないよな? 教えてくれ、自分たちがシャドウ討伐に動いて街の人に被害が出ると自分たちの責任になるから困るのか? それともシャドウと裏で繋がっているから動かないのか?」

「そんなこと部外者に言えるか!」


 そう言ってアンドリューは激昂する。


「いや、はいかいいえで答えてくれ。お前たちはシャドウと裏で繋がっているんだな?」

「いいえに決まっているだろう!」


 再びアンドリューは怒声をあげる。

 が、なぜかその答えに“論破王”のスキルは反応しなかった。ということはこいつは嘘をついていないのか? 本当にシャドウを倒そうとしていて倒せないのか? だが先ほどこいつがそう言った時は明確に嘘をついていた。


 そうか、それらが全て正しいとするとこういうことになるのか。

 ある意味では単純で納得のいく答えだ。

 俺はその仮説を確かめるべく尋ねる。


「じゃあもう一つだけ。俺はこの街の代官です、って言ってもらっていいか?」

「うるさい、お前に言われずとも代官に決まっているだろう!」


 アンドリューは怒鳴った。

 が、“論破王”の力でその言葉はやはり嘘であると分かる。要するにそういうことだ。


「代官がいきなり俺のような者に会ってくれるのがおかしいと思ったが、お前はシャドウと繋がっている街の人間ではなく、シャドウの人間そのものだったということか」


 そうであれば全ての辻褄が合う。最初にこいつが名乗った時も代官本人であるとは一言も言っていなかった。

 おそらく、この街はシャドウを見逃しているとかそういうレベルではなく、比喩でも何でもなくシャドウがこの街を支配しているのだろう。まさかここまで公然と、シャドウの人間が役場に入り込んでいるとはさすがに思わなかった。


 するとアンドリューは薄ら笑いを浮かべて言う。


「それが分かって良かったな。じゃあそれが分かったところで死んでもらおうか。全く、これだけ街に入ったものにはこの件に突っ込まない方がいいと言っているのにこういう馬鹿が絶えないから面倒なものだ」


 が、そこでギフトの力で俺はこいつを論破したことになったと気づく。

 街の人の振りをしていたのに見破ったから論破したことになったということだろうか。その瞬間、部屋のドアが開き、壁に穴が空き、四方八方から矢が飛んでくる。恐らく、こいつに“論破王”のスキルが発動していなければ今頃ハリネズミになっていたことだろう。


「伏せろ!」


 俺は何が起こったか理解出来ずにいるオリアナとともに床に伏せる。

 直後、俺たちの上を数本の矢が過ぎさっていった。


「何!? 今のを避けただと!?」


 アンドリューは初めて動揺を表に出す。


「あの、一体何が?」

「オリアナ、俺は大丈夫だからとりあえず自分の身を守ってくれ」

「は、はい」


 そう言ってオリアナはすぐに自分の周囲に魔力の盾を形成する。俺はこいつらの攻撃など止まって見える。

 アンドリューと護衛二人はすぐに剣を抜き、俺に襲い掛かってくる。同時に、壁とドアの向こうからはオリアナに向かって矢が飛んでくる。


「雑魚め!」


 俺はゆっくりと襲い掛かってくる護衛たちの背後に回り込むと、容赦なく後ろから斬りつける。背中から鮮血を噴き出し、男たちはその場に倒れた。

 さらにオリアナを襲う矢も魔力の盾で防がれた。

 完璧な罠に誘い込んだはずが、瞬く間に有利が消えたアンドリューは呆然とする。


「お、お前は何者だ!?」

「別に、ただの冒険者だ。ところでお前こそ何者だ? 街庁にいるってことはシャドウの中でもまあまあ偉いんだろう?」

「ふん、この俺を倒したところでこの街は我らが牛耳っている! お前たちなど指名手配をかけて冒険者ギルドに圧力をかけて冒険者許可証も剥奪してやる!」


 アンドリューは捨て台詞を吐きながらも俺に剣を向けてくるが、たやすく避けられる。命乞いをしてくるようであれば情報を吐かせようと思ったが、襲ってくるなら容赦する必要はない。


「そうか、ならばお前たちを全滅させるまでだ!」


 そう言って俺はアンドリューの分厚い胸元に剣を突き立てる。


「ぐわっ」


 アンドリューは一際大きな悲鳴をあげてその場に倒れる。

 それを見て壁とドアの向こうにいた敵も気配を消した。


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