第93話 ワガママ娘と両親
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
ドラゴンの姿をしていた召喚獣が、ある日可愛らしい幼女になって帰って来た。
な……何を言っているのかわからねーと思うがおれも何が起きたかわからなかった……。
そして現在、さらにわけがわからないことが起こっている。
可愛らしい幼女の姿になった召喚獣ことギンが、蜜柑に対して敵意剥き出しなのだ。
なんでや! 蜜柑可愛いやんけ!
「ギン。蜜柑に攻撃したらダメだからね?」
「ッ……」
ひとまず命令すると、ちょうど飛びかかろうとしていたギンの動きが止まる。
人間になっても、召喚者と召喚獣の主従関係は継続しているようだ。
私はギンを背中に隠し、蜜柑に顔を向ける。
「ねぇ、今、その子のことギンって……」
困惑気味の表情で言う蜜柑に、私は頬を引きつらせる。
やはり隠せるものでもない。
とはいえ、ここで全てを説明するのは効率が悪い。
結構長い話になるから、他のメンバーがいる時に話した方が得策だ。
「えっと……これには深い訳がありまして……でも、他の人にも話さないといけないから、後で良い?」
「……葉月ちゃんがそう言うなら……」
目を伏せながら言う蜜柑に、ギンが私に抱きつきながら片手で中指を立てる。
さっきのビッチと言い、お前はどこでそう言う知識を手に入れたんだ!?
……そういえば、ギンって私の魔力から出来ているよな……?
まさか私のせい?
「だから、一緒に朝食を食べるのは無理。ごめんね」
「……分かった。あまり危険なことはしないでね」
蜜柑はそう言って微笑み、歩いて行く。
うーん……いずれはギンのことは話さないといけないとはいえ、色々と順番というものがある。
まずフラムさんが戻ってくるのを待たなければいけないし、服くらいは着せてあげたい。
流石に全裸で大人数の前に出すのは、産みの親としては複雑なものがある。
「ヘクシッ!」
その時、ギンがクシャミをした。
すると、ポンッと音を立てて、ドラゴンの姿に戻る。
……人間態終了?
「ギン?」
「キュイ……キュイ!」
小さく鳴いて力むような動作を取ると、また元の人間の姿に戻った。
んんっ?
「どうなってんの?」
「んー。なんか力入れると姿変えれるみたい」
なんて便利な体。
……ん? それじゃあ……。
「基本的にずっとドラゴンの姿でいれば良いんじゃない?」
「えー! やだー!」
このワガママ娘が……と思っていた時、ギンが強く抱きついてきた。
んな……!?
「ギン!?」
「だって、前の姿の時は、こうしてギューッてすることも、ママやお母さんとお喋りすることも出来なかったんだもん。だから、前の姿でいるなんてやだ!」
「……ギン……」
「あ、でも空飛ぶの楽しいし、前のも好き!」
無邪気な笑顔で言うギンに、私は苦笑を零した。
まぁ、折角人間になれるようになったんだ。
私の召喚獣なんだし、しっかり世話を見なければ。
「葉月、大丈夫だった?」
トネールの声がしたので、私はギンを連れてベッドに向かう。
不安そうにこちらを見ているトネールに、私は頬を掻いた。
「いやぁ……蜜柑にギンのことばれちゃった。まぁ、隠し通せるものでもないし、いずれは話さないとね」
「そうだね。……ところで、ビッチとか聴こえたけど?」
トネールの言葉に、私も思い出す。
ギンは蜜柑に対してはやけに敵意剥き出しだった。
蜜柑にバレたことに気を取られていたが、確かにそちらも気になる。
「ギン。なんで蜜柑にあんな酷いこと言ったの?」
「だって、アイツママに変なことばっかりするじゃん! ママはお母さんの物なのに!」
んー? 後半気になるぞー?
まぁ、理由は大体分かった。
ギンからすれば、蜜柑は両親の仲を邪魔する汚いビッチなのだ。
……私の父親も一度だけそういうのあったわー。
上司の誘いか何かで美人のママさんがいるバーに一度行ったことがあったのだが、そこでどうやらドハマりしてしまったらしく、しばらく通い詰めていた。
まぁ、妻は私の母親だからな。良くも悪くも平凡な女性だった。たまには美人の女の人に現を抜かしたくもなったのだろう。
なぜそれに気付いたのかと言うと、漫画を借りに父の部屋に入った時に、バーのマッチ箱を見つけたのだ。
当時小学生だった私は、すぐに母の所に持って行った。
その日の晩は家族会議を開き、主に母が一方的に父を責めた。
結果として、父は、母にはブランド物のバッグを、私には魔法少女の漫画を買うことになった。
……えぇ、魔法少女の漫画を一人で本屋に買いに行かせましたよ。
私は漫画の場所とか分からないだろうし一緒に行こうかと思ったのだが、母が却下した。
父に、分からなかったらタイトルを言って店員に聞けと言ったのだ。
今思うとかなりえげつない。
話が逸れてしまった。
まぁ、浮気と言うよりは娯楽に近かったが、それでも他の女に現を抜かしたのには違い無い。
今だったらまだしも、幼い頃の私には、父がそんなことをしたのは少なからずショックではあった。
あの頃の私よりも幼いギンにとっては、私が蜜柑を好きになったりしたら、凄く傷つくだろう。
自分の母に手を出している蜜柑に敵意を抱くのも仕方がない。
「そっか。じゃあ、蜜柑には、もう私に変なことしないようにって言っておくからね」
「ホント?」
「うん。本当」
トネールとの関係に関しても否定しておくべきかと思ったが、なんかこれ以上言っても面倒だと思ったので、やめておいた。
……だって、トネールと夫婦って感じが、嫌じゃないから……。




