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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第4章 ノールト国編
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第92話 異世界で母親始めました

 銀髪美少女を部屋に招き入れ、思考を一度整理する。

 ……まず、この子は誰だ!? ていうか、ママ!? 私は生涯独身だぞ!?

 恋人いない歴=年齢だぞ!?


「ママ?」


 混乱の極みに陥っていると、私の服を掴んで見上げてくる美少女がいた。

 わけわからんけど可愛い……。

 キュルンとした大きな青い目。銀色の髪は凄く綺麗で、撫でたら気持ちよさそう。

 頬はマシュマロのようで、突いたら凄く気持ちが良いだろう。

 体はまさに幼女体型。服を握っている小さな手が愛おしい。

 ……いよいよロリコンに目覚めてしまうのか? 私よ。


「葉月? 誰だったの?」


 すると、トネールがそう言って来た。

 どうする!? 病み上がりのトネールにこの意味不明幼女を見せて大丈夫なのか!?


「この声……」


 考えるより先に、美幼女が私の手をすり抜けてトネールの方に走っていく。

 しまった……!


「ちょ……!」

「お母さん!」


 止めようとした時、美幼女がトネールのベッドにダイブして、彼女に抱きついた。

 ちょうど朝食はテーブルの上に置いていたので零したりは無かったが、問題は別である。


「お、お母さん……?」

「あの、葉月、この子は……」


 トネールは困惑しきった表情で言うトネールに、私は首を横に振る。

 私だって知らんよ。分かっていたら今苦労してない。

 そんな私達の反応に、幼女は体を起こして頬を大きく膨らませた。


「ママもお母さんもひどいよ。私のこと分かんないの?」

「いや、だから……」

「ギンだよー」


 満面の笑顔を浮かべながら幼女が放った言葉に、しばらくの間思考が停止した。

 ……ギン……?


「え? は? えっと?」

「だからー、ギンだよー」


 そう言ってベッドから下り、手を翼のようにしてパタパタと動かす素振りをする。

 いや、そんな事されても分からんし……。

 とはいえ、銀色の毛と青い目というのはギンの特徴と一致している。

 そもそもギンの事は魔法少女以外ではトネールとフラムさんしか知らないハズだし……。


「……マジでギンなの?」

「そーだよ?」

「……召喚獣が人間になるなど、聞いたこと無いのですが……」


 困惑した表情で言うトネールに、ギンは「えへへ」と笑った。

 いや、褒めてないからな。


「とりあえず何があったのか、出来るだけ詳しく教えて貰える?」

「分かった!」


 私の言葉に、ギンは嬉しそうに言った。

 それから聞いた話によるとこうだ。


 前にドラゴンと戦った時、ギンは私を守った。

 しかし、本人はどうやらドラゴンを倒すつもりで私を庇っていたらしい。

 結局ドラゴンは倒せず、私……大好きなママを苦労させることになった。

 だから、ギンは考えた。どうやったらママを守れるだろうか。


 そこで、魔物を食べたら自分が強くなることを思い出す。

 ママを守る為に強くなりたかったギンは、この周辺の魔物を食いまくった。

 そして今朝、ギンはこの周辺の魔物のヌシを見つける。

 強くなったギンは超強いその魔物に勝利し、食した。

 すると食べている最中に、突然人間の姿になったと言う。

 んで、混乱したギンは、とりあえずママとお母さんに相談すべく、この宿屋まで帰ってきたらしい。


「……そんな全裸で、よく雪の中無事だったね」

「んー。寒かったー」


 そう言いながらトネールのベッドに潜り込むギンに、私は苦笑した。

 とはいえ、ギンが無事で良かった。

 突然幼女になってきた時は驚いたけど、可愛いし、何事も無いなら良いかな。

 なんで人間になったのかは……恐らく魔物の首を食べ過ぎたことが原因か。

 召喚獣のことはよく分からないけど、魔力を吸収し過ぎて進化とかそういう感じだと思う。

 異世界モノとかじゃ割とよくある展開じゃない?

 ……しかし、まだ気になる点がある。


「ところでさ、ギン」

「何?」

「……ママとかお母さんって……何?」


 そう。ギンは私をママと呼び、トネールをお母さんと呼んだ。

 どういう理由だ? なんでそうなった?

 私は召喚者なのだから、どちらかというとご主人様とかじゃ……ママの方がマシだな。


「……? 二人は私にとってのママだよ?」


 キョトンと首を傾げながら言うギンに、いよいよ思考が止まりそうになる。

 こめかみ辺りがヒクヒクと疼き始めていた時、ギンが私とトネールの手をそれぞれ握る。


「二人は私のお母さん! でも、ママとママじゃ分からないでしょ? だから、ママとお母さん!」

「……いや、そもそもお母さんじゃ……」

「え? でも、生まれたら一緒にいたよ?」


 困惑気味の表情で言うギンに、私は何かのアニメで見た知識を掘り起こす。

 確か、小鳥は卵から孵った時、初めて見た相手を親だと思うって……。

 ……そういや、ギンを召喚した時、私とトネールがいたな……。

 オマケに、トネールが魔法陣を描いて私の魔力で召喚したわけだから、あながち両親という例えも間違っていないのかもしれない。


「……もう良いよ。親ってことで。トネールもそれで良い?」

「え? 私はそれで構わないよ?」


 トネールの言葉に、私は安堵の息を漏らす。

 そんな私達のやり取りを見て、ギンは嬉しそうな顔をする。

 とはいえ、これからどうしたものか……。

 いつまでも全裸ってわけにもいかないし、いずれは他の魔法少女達にも話さないと。

 これからやらないといけないことが多すぎて頭が混乱していた時、部屋の扉をノックする音がした。


「……とりあえず、ギンは毛布の中にでも隠れていて。部屋には入れないようにするから」

「う、うん」


 私の言葉に、ギンは毛布に包まって姿を隠す。

 それに私は頷き、扉の方まで歩いて行く。

 開けるとそこには、蜜柑が立っていた。


「蜜柑……」

「あ、葉月ちゃん。やっぱりここにいたんだぁ」


 フワフワとした感じの笑顔で言う蜜柑に、疲れていた心が癒されるような感覚がした。

 なんか久々にこの子に癒された。最近ずっと襲われっぱなしだったからなぁ。

 ほのぼのしていると、彼女が私の手を取る。

 うん?


「蜜柑?」

「朝ご飯食べた? まだなら一緒に食べない?」

「あ、いや……ご飯はトネールと一緒に食べていて……」


 ここで部屋を離れるわけにもいかないし、トネールと食べるために持って上がっては来ている。

 何か言ってボロを出してもアレだし、とにかく早く断らないと……。

 そう思っていた時だった。


「……あー!」


 背後から聴こえた声に、私は体を硬直させた。

 振り向くとそこには、相変わらずの全裸でこちらを見ているギンがいた。

 この馬鹿!


「ちょ、ギン……!」

「ママに近付かないでよ! このビッチ!」


 そう言って私の体を後ろから抱きしめ、蜜柑を睨む。

 ……もうわけがわからないよ……。

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