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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第4章 ノールト国編
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第85話 氷龍VS魔法少女③

「ねぇ、やっぱり無理だって」

「大丈夫。行ける行ける」

「えぇー」


 困惑気味の声を上げる明日香に「まぁまぁ」と言いながら、私は彼女の肩の上でバランスをとる。

 私が考えた作戦。それは肩車だった。

 明日香は片腕、私は片足が機能しない。

 だから、それをお互いで補助し合うのだ。


 両足が無事である明日香が私を肩車し、私が薙刀で攻撃をする。

 魔法少女の力で充分腕力は上がっているので、彼女の機動力に問題は無い。

 無事な左腕で私の凍った左足をしっかり掴み、右足の方は彼女の体に絡めている。

 落ちても問題は無いだろうし……行けると、思いたい。


「明日香、葉月、ふざけるなら帰って下さい」


 そんな私達を見て、木の枝の上から沙織がそう言った。


「違う! ふざけてなんてない! 至って真面目だ!」

「……片足が凍るだけで人はここまで愚かになってしまうのですね。嘆かわしいことです」


 呆れた様子でそう言い、首を横に振る沙織。

 この子とは一生分かり合えないな、と心のどこかで思った。

 明日香は小さな声で「沙織に幻滅された……!?」と言ってショックを受けている。

 いや、今はそれどころじゃないからな?


「葉月ちゃん……流石にそれは……」


 そして、蜜柑も若干引いた様子でこちらを見ている。

 肩車そんなにダメか!? 想像以上に不評で結構悲しい。

 しかし、まともに戦うことなんて出来ないので、こうするしかない。


「ガルァ……?」


 しまいには、ドラゴンも不思議そうな表情をした。

 なんていうか、アレみたい。

 トンボが二匹重なって飛んでいるのを見つけた子供みたい。

 ……間違ってはいない。


「とにかく行くよ! ……明日香はとにかくドラゴンの攻撃を避けながら突進して。上は気にしない感じで」

「わ、分かった……!」


 明日香が大きく頷いたのを確認し、私は薙刀を構える。

 すると、明日香はドラゴンに向かって駆け出した。

 勢いのせいで体が後ろに倒れそうになるのを、なんとか気合で持ちこたえる。

 その時、ドラゴンが前足を振り下ろしてきた。


「明日香!」

「分かってる!」


 明日香はすぐに斜め前に一気に跳び、前足を避ける。

 しかし、そこにもう片方の前足が来る。

 明日香は一度跳んでしまったため、対処しきれない。


「はぁッ!」


 強く息を吐き、私は薙刀でその前足をいなした。

 刃の方だと切り裂いてしまうので、柄を使って、押し出すように。

 真っ直ぐ振り下ろされていた前足は軌道を逸らし、私達の後ろを通り過ぎる。

 強引に軌道をずらされた前足は地面を抉り、ガリガリと何かを削るような爆音を発した。

 それに顔をしかめつつ、私は前を見る。


 ここまでくれば、ドラゴンはもう間近。

 鱗がある場所を殴っては意味が無い。よく見ると、腹は鱗が無い。

 明日香も同じことを考えたのだろう。

 強く踏み込み、一気に距離を詰める。

 私は薙刀を構え、明日香は足を振り上げる。


 そして……ドラゴンの腹に攻撃を放つ。

 深々と突き刺さった薙刀。めり込んだ明日香の右足。

 先ほどのように金属音と共に弾かれたりせず、しっかりとダメージをその体に与える。

 ドラゴンは私達の攻撃に、苦しげな声を漏らす。


「……?」


 その時、左足に違和感を抱いた。

 冷たくて感覚が無かったのが、一気に熱を持ち始める。

 見ると、氷が溶けていた。

 そういえば、魔法少女は攻撃をするとダメージが回復するんだったか。

 凍結にも効果があるとは……。


「まだ……まだぁ!」


 その時、明日香はそう言って左腕を振り上げる。

 どうしたのかと驚いていると、明日香の左腕に炎が纏う。


「ちょ……!?」


 突然足に近い位置に炎が巻き起こり、私は咄嗟に彼女の肩を蹴って後ろに跳ぶ。

 すると、反動で明日香の体が前に出る。

 しかし彼女にとってはそれが好都合だったらしく、強く踏み込んでドラゴンに距離を詰める。

 ……あれ? 明日香の右肩は凍ったまま……?

 そう思っていた時、明日香の左拳がドラゴンの腹を打ち抜いた。


「ガァッ……!?」


 息を吐くような声を漏らしながら、ドラゴンの体は揺らぐ。

 腹を炎が貫き、後ろに倒れる。

 それと同時に、明日香の体が前に倒れる。


「明日香!」


 私は慌てて明日香の肩を後ろから掴み、彼女が前に倒れるのを止める。

 すると明日香は疲れたような目で私を見て、微笑んだ。


「グルルルル……」


 その時、ドラゴンが喉を鳴らすように低い呻き声を上げた。

 私はすぐに明日香に肩を貸し、後ずさる。

 技を受けても倒せないなんて……。

 ガッカリすると同時に、納得した。

 これほど強大な相手だ。たった一度の技では倒せないかもしれないという仮説は、心のどこかにあった。

 問題はそこでは無く……――。


「……やっと、か……」


 離れた場所からドラゴンの目を見て、私は小さく呟く。

 あぁ、やっと……“その目”が見れた。

 虫を見るような、見下した冷たい目じゃない。

 自分の命を脅かす存在を見る、畏怖の目。


 今、ドラゴンにとって私達は、食物でも無ければ獲物でも無い――自分と対等に渡り合え、尚且つ、自分の命を奪うかもしれない――敵であると、判断された。

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