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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第3章 ソラーレ国編
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第78話 感情の正体

 気付いたら、眠っていた。

 前の晩は野宿だったから、その疲れが出たのかもしれない。

 風呂に入って体を清めた後は、そのままベッドに倒れ、眠った。

 前に聞いたことがある。横になってから十五分経たずに眠るのは、ほとんど気絶に近い状態だと。

 それほどまでに疲れていたのだろう。

 目が覚めた後は、凄く体が軽くなったような気がした。

 しかし、目が覚めてからも、胸の痛みは消えなかった。


「葉月ちゃん、朝ご飯の時間だよー」


 ベッドの上でぼんやりしていると、部屋の扉の向こう側から、蜜柑の声がした。

 私はそれに応じ、起き上がる。

 着替えたりとかは……後で良いか。

 体を起こし、扉を開けると、蜜柑が立っていた。


「えへへっ、一緒に行こ!」


 嬉しそうにそう言って笑い、私の手を取る。

 ……自分の胸の痛みの原因は、なんとなく察している。

 恐らく私は……アリアさんかトネールのことが、好きだ。

 可能性としてはトネールの方が高いけれど、一目惚れという可能性も無くはない。

 ……片思いが、こんなに苦しいものだなんて、思わなかった。


「……蜜柑は、さ」

「うん?」

「もし、私に好きな人が出来たら……どうする?」

「え?」


 私の言葉に、蜜柑は首を傾げる。

 それから少ししてから、ニコッと笑った。


「もちろん応援するよ! 葉月ちゃんには幸せになって欲しいもん!」

「……蜜柑は強いんだね」

「へ?」


 間抜けな声で返答する蜜柑に、私は苦笑する。

 蜜柑は強い。

 私は、こんなに苦しんでいるのに……やはり、片思い歴が違うからだろうか。

 ……でも、私に、好きな人の恋を応援する強さなんてあるのだろうか。


「葉月様っ」


 食事をする部屋に差し掛かった時、アリアさんが嬉しそうに私の名前を呼ぶ。

 彼女の顔を見た瞬間、心臓が変な動悸を起こした。

 戸惑っている間に、アリアさんが私の手を取り、微笑んだ。


「あの……少し、良いですか? 昨晩の事で報告があるので」

「は、はい……」


 私が頷くと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 それから私は蜜柑に先に行くよう言ってから、アリアさんに連れられて、食事をする部屋から離れる。

 しばらくして、彼女は口を開いた。


「昨日……無事に私は、自分の気持ちをトネールお姉様に伝えることが出来ました」

「へぇ……それで、どうでしたか?」


 聞いてはみるが、正直、答えは決まっている。

 ここまで嬉しそうな顔をしていれば、きっと……――。


「……ダメでした」

「……え?」


 まさかの反応に、私は聞き返す。

 すると、アリアさんはペロッと舌を出した。

 いや……意味分かんないでしょ。


「ダメって……」

「文字通り、断られたんです。私のことをそういう目で見ることは出来ない。ごめんなさい。……って」

「でも、その割には嬉しそうですよね?」

「ハイ。確かに断られましたが、私の気持ちを伝えられましたし、トネールお姉様とこれからも親しくさせて頂けることになったんです。この件をきっかけに、私自身の気持ちにも整理がつきそうで……葉月様には、本当にお世話になりました」


 そう言ってお辞儀をするアリアさんに、私も釣られて頭を下げる。

 ……二人は付き合わなかったのか……。

 その事実に、喜んでいる自分がいることが分かって、凄く複雑な気持ちになった。


「まぁ、結果はアレだけど……二人が仲直りしたみたいで、私は嬉しいです」

「本来であれば二人で解決しなければならない問題ですが……葉月様に甘えてしまって、面目ないです」


 そう言って肩を落とすアリアさんに、私は慌てて「気にしないでください!」と言う。

 するとアリアさんは顔を上げて、クスッと笑った。


「とにかく、今回は葉月様にお世話になってしまいました。もし今後何か困ったことがあれば、微弱ながら助力させて頂きます。あぁ、ソラーレ国からの援助とは、また別で……私個人からの援助、という形で」

「そこまでして頂かなくても……その気持ちだけで充分ですよ」


 私の言葉に、アリアさんは「そうですか」と少し残念そうに言った。

 それから、パッと顔を上げた。


「では、葉月様だけに、一つ情報を提供させて下さい」

「え? そんな、情報なんて……」

「いえいえ、別に凄く重要な情報というわけではなく……あの、少し耳を貸して頂いてもよろしいですか?」

「……? ハイ」


 アリアさんの言葉に、私は彼女に合わせて腰を曲げ、耳を貸す。

 するとアリアさんは両手をメガホンのような形にして私の耳に当て、口を当てる。


「トネールお姉様……好きな人がいるみたいですよ?」


 ドクンッ……と、動悸が乱れる音がした。

 アリアさんはそんな私の耳から顔を離して、悪戯っぽく笑いながら口に人差し指を当てる。

 ここだけの話……という奴だろうか。

 しかし、私の口からは、言葉が一切出なかった。


「私が告白した時に言っていたんです。好きな人がいるから、アリアちゃんと付き合うことは出来ない……と」

「……そうなんですか……」

「ハイ。トネールお姉様の好きな人って、葉月様は分かりますか?」

「……さぁ……」

「そうですよね……小さい頃からずっとその人のことが好きみたいです。あのトネールお姉様の心を射止めるだなんて、どんな素敵な方なのでしょう! あぁ、是非一度お目にかかってみたいですわ!」


 うっとりした表情で言うアリアさんに、私は、答えることが出来ない。

 トネールに好きな人がいると知ってから乱れた鼓動に、私は、自分の感情の正体を知る。

 私は……トネールのことが、好きなんだ……。

 それを自覚した瞬間、なぜか、頭の中に若菜の顔が浮かんだ。

 ……彼女を、裏切ってしまったような気持ちになった。

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