第75話 聞きたいこと
アリアさんと話す機会は、案外すぐに訪れた。
寝泊りをする場所に案内され、荷物の整理を終えた後で、夕食に呼ばれた。
ちなみに今日寝泊りをするのは、なんと個室だ。
やった! ルームメイトに夜這いされる心配がない!
……と思ったら隣の個室が蜜柑でした。
とりあえず扉と窓の鍵はしっかり閉めておく。マジ怖い。
話は戻し、夕食だ。
夕食は何とソラーレ国の王族の方々と共にすることになったのだ。
ちなみにメニューは、和食っぽい感じだった。
蛍光緑のご飯に、紫色の魚の刺身。ワインレッドの味噌汁に、白いほうれん草のような野菜のおひたし。
醤油は青で、ワサビは桜色。
相変わらずの見た目だが、味は物凄く美味しかったです。
夕食を食べている最中に、リヒトさんからこの国の現状について軽く聞いた。
それによると、彼の両親は敵の攻撃に巻き込まれ、亡くなったらしい。
だから、まだグランネルさんと同い年くらいなのに、一人で国を支えている。
しかし、フラーユさんと結婚してからは、彼女に支えられ二人で頑張っているらしい。
そこからは惚気が始まったのでカットする。
……両親がいないのか……。
もしかしたら、アリアさんがトネールから距離を取った原因に関係しているかもしれない。
ひとまず心にそう留めておいた。
夕食を食べ終えると、私はすぐにアリアさんを呼び止めようとした。
しかし……。
「葉月様。……少し、時間を取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
……先にアリアさんから呼び出しをくらった。
「え、私?」
「ハイ。それとも、何か他に……」
「い、いやいや! 大丈夫!」
私が慌てて了承すると、アリアさんは「良かった」と言って嬉しそうに笑った。
見ると、トネールが不安そうにこちらを見ている。
ひとまず口パクで「大丈夫」と言ってあげると、彼女は少しその表情を緩めた。
それから、私とアリアさんは食堂を出て、しばらく歩いた。
やがて辿り着いたのは……アリアさんの自室だった。
「えっと……」
「ここなら、誰かに聞かれる心配はありません。あぁ、葉月様は魔法少女ですから、遠慮なさらないで」
その言葉に甘え、私は彼女の自室に入る。
桜色を基調とした、少女らしい部屋。
……うおー! 天井付きベッドとか初めて見た!
こちらも桜色で、フリルがあしらわれた可愛らしいデザインだ。
アリアさんは自分の机の前にある椅子を出し、私に向ける。
「どうぞ、お座り下さい」
「あ、ハイ」
私はそれに応じ、椅子に腰かける。
するとアリアさんはベッドに腰かけ、私を見上げてくる。
トネールとのことを聞かなければならないのは分かっている。
しかし、彼女がなぜ私を呼んだのか。
それが凄く気になった。
「……葉月様は、トネール義姉様と親しいのですか?」
やがて、彼女はそう言った。
突然の質問に、私は首を傾げた。
「……はい?」
「あ、いや、あの……深い意味は無くて、ですね……少し、気になっただけ、といいますか……」
慌てて弁解するアリアさん。
あれ? この子トネールのこと嫌いなんだよね?
なんで、トネールとの関係なんて?
「……まぁ、親しい、ですけど……?」
ひとまずそう答える。親しいのには変わり無い。
私の言葉に、アリアさんは大きく目を見開いた。
しばらく硬直した後で「そう、ですか……」と言って、目を伏せる。
彼女の前髪によってその目は隠れ、今どんなことを思っているかが分からない。
「聞きたかったことは……それだけ?」
私の方も、早くトネールとの関係について聞きたかったので、つい催促する。
するとアリアさんは「ま、待って下さい!」と言って顔を上げた。
それから唇を真一文字に結び、目を逸らす。
「……どれくらい、親しいのですか……?」
「どれくらい……?」
どれくらい、って……進展とかそんな感じ?
そんなこと聞かれてもなぁ……。
「普通に友達……だけど?」
「……それだけ、ですか?」
「うん。それだけ」
私の言葉に、アリアさんはホッとした表情を浮かべる。
その時、百合厨である私の脳に、ある可能性が浮かんだ。
……いやいや、流石にリアルでそんなことあるわけ……でもなー、すでに私以外の魔法少女は同性愛に目覚めてるしなー、可能性ゼロではないんだよなー。
とはいえ可能性はゼロでは無いし、一度聞いてみる価値はあるだろうか。
「アリア、さん……」
「ハイ、何でしょうか?」
「……アリアさんってもしかして……トネールのこと、好きなんですか?」
そう聞いた瞬間、アリアさんの顔が、一気に赤くなった。
耳まで真っ赤になり、熟れたリンゴみたい。
……あー、ハイ。それで全てを察した。
え、これジャンル的にはどうなるんだ?
幼馴染百合? 姉妹百合? どちらにせよ、私にとっては美味しいです。
「あの……葉月様……」
「……? 何ですか?」
「……トネール義姉様には、内密にしていただけませんか? 私と葉月様だけの秘密ということで……」
不安そうに尋ねてくるアリアさんに、私は少し考えてから、頷いた。
「分かりました。その代わり、私からもお尋ねしたいことがあるのですが……」
「何でしょう?」
「……なんで、トネールと距離を取るようになったんですか?」
トネールのことが好きなら、距離を取る必要は無い。
だから、尚更気になったのだ。
「……少し長くなりますが、よろしいでしょうか?」
アリアさんの言葉に、私は頷く。
すると、彼女は安心したように微笑んだ。




