第74話 冷たい幼馴染
「アリアちゃん……」
「……トネール義姉様……」
そこには、一人の少女が立っていた。
リヒトさんに比べて少し暗い感じのオレンジ色の、ウェーブが掛かった長髪。
目は澄んだ紺色だ。
背は低いが、蜜柑に比べると高い方。
「……誰?」
私がつい聞くと、アリアさんはビクッと肩を震わせた。
それから私とトネールを交互に見て、若干眉間に皺を寄せた。
「……これは失礼致しました。私は、ソラーレ国第一王女。現国王のリヒト様の実妹。アリア・ルチェ・ソラーレです。どうぞ、お見知りおきを」
そう言ってドレスを両手で摘み、上品なお辞儀をする。
トネールが知っていることは、これは嘘ではないのだろう。
……しかし、この子が本当にストーカー?
「アリアちゃんお久しぶりですね。前に会った時より大きくなられて……」
トネールが明るい笑みでそう言うと、アリアさんは冷たい眼差しをトネールに送った。
しばらく見つめ合った後、先にアリアさんが目を逸らす。
「えぇ……本当にお久しぶりですね。トネール義姉様」
「そんな堅苦しい呼び方をなさらないで? 昔のように、トネールちゃんと……」
「リヒト兄様とフラーユ義姉様が結婚された為、私達も義理の姉妹になったのです。ですから、もう昔のような友人関係とは違います。……何度言ったら分かって下さるのですか?」
まるで私に説明するかのように、アリアさんは冷たく言い放つ。
すると、トネールはまるで怒られた子犬のように、シュンとした。
アリアさんはそれを一瞥すると、私の方を見て、口角を若干上げて微笑んだ。
「……本日は、この城に泊まるのですよね? 魔法少女の皆様にはいつもお世話になっております。どうぞ、気兼ねなく、自宅だと思ってゆっくりしていって下さい」
「あ……ご丁寧に、どうも……」
私が軽く会釈をしながら言うと、アリアさんは微笑み、私の横を通って玉座の間に入っていく。
その後ろ姿を見送ると、途端に肩から力が抜けた。
ずっと緊張していたことに、今更気付く。
かなり強張っていたのか、血流が肩に巡っているのが分かる。
いや、それよりも……。
「トネール、今のって……」
「……あはは……変なとこ、見られちゃった」
そう言って目を伏せ、両手の指を絡めるトネール。
長い睫毛が影を落とし、彼女の白い肌に黒いコントラストを作る。
彼女の顔はどこか悲しそうで、胸が苦しくなる。
「ねぇ、今の子……」
「……アリアちゃんはね、私の幼馴染なの」
幼馴染、という単語に、私はビクッと肩を震わせた。
トネールはそんな私の変化に気付いているのか否か、特に変わらぬ態度で続けた。
「リヒト義兄様とフラーユお姉様は、生まれた頃から婚約者だったから、よく会う機会があって……その中で、アリアちゃんと仲良くしていたの」
それから聞いた話では、アリアさんはトネールより一歳年下らしい。
小さい頃からよく遊び、仲が良かったのだとか。
しかし、ある時を境に、突然アリアさんからの態度が激変。
距離を取られ、冷たく接するようになってしまったらしい。
本当に突然だったから、トネールにも理由は分からないみたい。
「昔は凄く純粋で優しい子だったの。王族で集まるパーティの時は、よく私の後を付いて来て……本当の妹みたいで……」
そう言って悲しそうに目を伏せるトネール。
幼馴染、か……。
私の頭に、若菜の顔が浮かぶ。
彼女も、人見知りが激しい性格だから、よく私の背中に隠れていた。
年齢が一緒だから妹だとは思わなかったけれど、守らないといけない存在だとは思っていた。
……あの子、今頃一人でやっていけてるかな……。
突然湧いた思考に、不安感が湧き上がって来る。
そこで、思考が逸れそうだったので、慌てて頭を横に振って軌道修正を試みる。
しかし、もしも若菜に急に疎遠になられたら……ショックで寝込みそう。
ていうか、誰も信じられなくなって、病みそう。
トネールはそんなショックを受けているのか……。
「……私にも、力になれることは無いかな?」
「え?」
私の言葉に、トネールは不思議そうな顔でこちらを見た。
だから、私は彼女の手を取り、続けた。
「私にもね、幼馴染がいるんだ。今は、元いた世界にいるんだけど……凄く仲が良くて、一番の親友だと思ってる。もしあの子に突然嫌われたらって考えたら、凄く悲しい。……トネールの気持ちも分かるんだ」
「そんな、私は……」
「だから、私はトネールの力になりたい! ……二人の関係を、元に戻したい」
ダメ、かな? と、聞きながら首を傾げてみる。
するとトネールは驚いたような顔をしてから、首を横に振り、私の手を握り返してくる。
「ううん……嬉しい」
そう言って微笑むトネールの顔に、ドキッ、と、心臓の音がやけに大きく高鳴った。
突然のことに困惑しつつも、私は「良かった」と答えた。
でも、一体なぜ急に疎遠になったりしたのだろうか。
本人に聞かないことには始まらないけど、二人きりになる機会なんてあるのかな……。
どうにか二人きりになれれば……いや、贅沢は言わない。
せめて、少しでも話す機会があれば……どこかで、アリアさんと会うことが出来れば……。
明日は予定があるので、二回投稿は出来ないかもしれません。




