第71話 明日香と沙織の入れ替わり⑦
魔法少女に変身した途端、巨大鶏が羽根攻撃をしてくる。
私達はすぐにそれを避け、巨大鶏を見る。
今回は、いつもとは戦術が大きく変わる。
沙織が前衛で、明日香が後衛だ。
参謀である沙織が前に出ることで、戦況をじっくり観察する暇が無くなってしまう。
明日香にそういう指揮とか出来るようには見えないし……どうしようか。
そこまで考えて、脳に閃光が走るような感覚がした。
「沙織は明日香と一緒にいて!」
私の言葉に、沙織は「え!?」と驚きの声を上げた。
だから私は続けた。
「今の沙織に接近戦は難しいし、沙織が指示してくれないと戦況がグチャグチャになっちゃう! だから、お願い!」
「……分かりました」
私の言葉に沙織は頷くと、明日香と共に下がる。
明日香の遠距離攻撃も期待出来ない。
蜜柑と二人で切り拓く。
「蜜柑! 行くよ!」
「うんっ!」
私が促すと、蜜柑は頷く。
前を見た時、私は違和感を抱いた。
巨大鶏の羽根攻撃……ここまで隙間があったっけ?
いや、違う。トネールの魔法の弾幕が、これ以上に濃密だったんだ。
おかげで、前より余裕を持って前に出ることが出来る。
……敵より濃密な弾幕攻撃してくるとか、結構容赦ねぇな、トネール。
「はぁぁぁぁぁッ!」
私は素早く羽根攻撃の隙間を縫い、一気に巨大鶏に距離を詰める。
薙刀の特性は、リーチが長いこと。
長い柄をしっかり握り、巨大鶏に向かって振り上げる。
「コケェッ!」
いざ薙刀斬りかかろうとした時、巨大鶏がこちらに尻を向けてくる。
しまった、と思った。しかし、すでに私は薙刀を振り上げ、奴を斬るモーションに入っていた。
……避けられない……!
目の前に巨大な卵の殻が現れ、それが体にぶち当たる。
私の体は吹き飛び、卵ごと地面にぶつかった。
緑色の卵白や紫色の卵黄が体に纏わりつき、凄く気持ち悪い。
「クッ……!」
慌てて立ち上がろうとするが、魔力が卵白に溶け出ているのか、体に力が入らない。
地面に付いた腕に力が入らず、地面に伏せることしか出来ない。
体にネチャネチャした感覚が纏わりつき、物凄く気持ち悪い。
「葉月ちゃん!」
すると、不安そうに蜜柑が駆け寄って来る。
まぁ、蜜柑みたいな美少女がこんなネバネバ塗れにならなくてよかった。
……って、それどころじゃない。
「蜜柑! 来るな!」
「え!?」
驚く蜜柑に、羽根攻撃が諸に当たる。
この卵と違ってすぐに復帰出来るか……?
そう思っていた時、蜜柑の服を羽根が貫いているのが分かった。
「な……!」
「グッ……!」
蜜柑は慌てて服を破いて復帰しようとするが、それより先に、追撃の羽根が来る。
彼女にそれを避ける術など無く、それを諸に受け、地面に倒れ伏せる。
人数が少ない分、一人一人を的確に潰せる。
私は卵白塗れの草を握り締め、歯ぎしりをした。
その時、巨大鶏の眉間を矢が貫いた。
「ゴゲッ!?」
「葉月と蜜柑に気を取られすぎです。もっと周りを見ましょう」
明日香の低い声がする。いや、これは沙織の声!?
なんとか首を動かして声がした方を見ると、そこでは……何だアレ。
弓矢を構えている明日香を、後ろから沙織が助けている。
もう一度言う。何だアレ。
「二人とも……何してんの……?」
「僕の命中率は低い。でも、普段弓矢を武器にしている沙織が手伝ってくれれば、命中率は大幅に上がるってわけ!」
「……まさか、あそこまで見事に眉間に刺さるとは思いませんでしたが」
冷ややかな沙織のコメントに、巨大鶏は不愉快そうに首を振る。
矢を振り落とそうとしているのだろうか。
しかし、かなり深く刺さっている様子で、振り落とせる気配が無かった。
とはいえ、悪あがきのように両羽を振るっているせいで、こちらも近づけない。
少なくとも、沙織がトドメを刺すのは難しい。
「……僕がやらないと、か……」
そう呟いた明日香の頬を、冷や汗が伝う。
……緊張している。
当たり前か。彼女自身の弓矢の命中率はそこまで高くないらしいから。
訓練の最中では的の真ん中に命中したらしいが、百発百中ではない。
「……力が入り過ぎです」
その時、沙織が明日香の背中に密着し、彼女の手に自分の手を添えた。
何をしているのか、と注視してみると、沙織が明日香に何か囁いているのが分かった。
すると明日香は頷き、沙織の指示に従って姿勢とか力加減を変えていく。
「後は……技を使う時をイメージすれば、きっと……」
「分かった」
沙織の言葉に明日香は頷き、力を込める。
すると、矢に風が纏わりつく……が、さらにその上に炎が纏った。
「何……アレ……」
ボロボロになりながらも立ち上がろうとしていた蜜柑が、明日香と沙織の状況を見て呟く。
彼女の言葉に、私は全力で同意する。
何だアレは。あんなの、見たことが無い。
炎と風を纏った矢は、さらに大きくなって弓をも纏わりつき、形を変えていく。
やがてそれは……一丁の銃になる。
ファッ!?
「ッ……!?」
驚きの声を上げようとしたが、大分魔力が溶け出てしまったようで、声が出なかった。
銃は、白を基調としているが、金色の線がアクセントで入っている。
よく見ると、魔法陣のような紋様が複数描かれていた。
「……行くよ」
明日香はそう呟き、銃を構える。
しかし、結構重いのか、腕が震えていた。
すると、後ろから沙織が支えた。
明日香の体は腕力があるので、沙織が支えると銃はその銃口を真っ直ぐ巨大鶏に向ける。
銃口が安定したのを確認すると、明日香は引き金に指を当て……静かに引いた。
次の瞬間、銃口から真っ赤な閃光が炸裂した。
それは真っ直ぐ突き進み、巨大鶏の体を貫く。
すると、そこを中心に炎が巻き起こり、まるで竜巻のように回転しながら燃え広がる。
やがてその場に巨大な炎の竜巻ができ、巨大鶏の体を灰と化していった。




