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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第3章 ソラーレ国編
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第69話 明日香と沙織の入れ替わり⑤

<明日香視点>


 フラムさんからの指導で、ようやく矢が的に当たるようになった。

 しかし、当たるだけで、真ん中には程遠い。

 そもそも、当たるのも何本かに一本という割合だ。

 これでは、まだ実戦で使えるかは分からない。


「弓矢の扱いが難しいのは分かっているが、明日香殿は……その……」


 そう言って言いづらそうに目を逸らすフラムさん。

 言えない程に下手なのか? 弓矢の才能が無いのか?


「……あの……」


 その時、聞き慣れた低音ボイスが聴こえた。

 見るとそこには、僕の姿をした沙織が立っていた。


「沙織……!」

「ちょ、調子はどうですか?」


 沙織はそう言って、フラムさんを見る。

 よく見るとその頬は若干赤らんでいて、視線もフラムさんに真っ直ぐ向けられている。

 チラチラとこちらを見ているが……邪魔者、ということだろうか?

 もし二人きりになったら、何をするつもりなんだ? ……何がしたいんだ?


「沙織殿に比べると、上達速度はかなり遅いな。明日香殿には、弓矢の才能が無いのかもしれない」

「そうですか……」


 フラムさんの言葉に、沙織はそう呟いて顎に手を当てる。

 何を考えているんだろう?

 とはいえ、結局彼女の心は、フラムさんに向いているんだろう。

 僕はそれを……見ていることしか出来ない。


「……では、私が教えましょうか?」


 続いた言葉は、予想外だった。

 一瞬、これは夢なのではないかと危惧した。

 しかし、その嫉妬での胸の痛みと、突然の出来事に高鳴った鼓動が、夢ではなく現実での出来事であると知らしめる。

 では、幻聴? 嫉妬し過ぎて、いよいよおかしくなったか?


「……嫌、ですか?」

「へっ? あ、いや! 嫌じゃない!」


 不安そうに尋ねる沙織に、僕は慌ててそう答える。

 すると沙織はホッと息を吐いて、「良かった」と言う。

 良かった? 何が良かった?

 フラムさんと僕を二人きりにしなくて良かった? 僕をフラムさんに近付けなくて済んで良かった?

 その安堵の表情に、どんな心情が隠されているのだろう?

 ……そんなに、フラムさんが好きか?


「沙織殿の武器は弓矢だからな。私よりは扱いに慣れているし、その方が良いかもしれないな」


 そしてフラムさんも賛同する。

 彼女の言葉に、沙織は「では、お任せください」と言って微笑んだ。

 ……沙織は賢い。

 僕の指導を率先してやることで、僕とフラムさんを二人きりにしないようにできるし、フラムさんに良い顔が出来る。一石二鳥って奴だ。


「それじゃあ明日香。構えて下さい」

「え!? ハイ!」


 沙織に突然命令され、反射的に拳を構えてファイティングポーズをとる。

 すると、すぐに頭をペシッと軽く叩かれた。

 彼女は今変身を解いているので、そこまで痛くない。


「そっちじゃなくて! 弓の方です!」

「あ、うん」


 沙織の言葉に、僕は慌てて弓を構える。

 魔力で矢を生成し、標準を的に向ける。


「……まず、肩に力が入り過ぎです」


 沙織はそう言うと、僕の肩に手を置く。

 背後から急に触って来たので、つい驚いてしまった。

 ビクッ、と、自分の体が震えるのが分かった。


「だから……力を抜いてください」

「わ、分かった……」


 沙織の言葉に、僕は、極力力を抜く。

 すると沙織はクスッと笑い、僕の肩から手を離す。


「まぁ、良いです。……弓を握る力が少し強いです。そこまで強くしなくても良いですよ」


 そう言って、弓を持っている方の手に、沙織の手が添えられる。

 彼女の手が僕の手の甲や指を撫で、くすぐったい。


「全体的に力を込め過ぎです。もう少しリラックスして……でも、手の位置はずれないように……」


 そう言いながら、沙織は僕の構えを正していく。

 彼女の体で、彼女のいつもの戦い方が染み込んでいく。

 彼女の体と、僕の心が、一つになっていくみたいだ。


「……あと、体が捩れないように……」


 その時、僕の腰の辺りに、沙織の手が触れた。

 突然のことに僕は驚き、体を強張らせる。

 すると、沙織が僕の肩に手を置いた。


「力は抜くように言いましたよね?」

「ご、ごめん! 沙織の距離が近いから、緊張して……!」

「な……!」


 僕の言葉に、沙織が驚きの声を上げる。

 しかし、すぐに大きく息を吐き、僕にさらに身を寄せてきた。


「わ、ちょ……!」

「今そんなことを気にしている場合ではありません! それより、しっかり前を見て……」

「そんなこと言われても……!」


 抗議しながら背中にくっ付いている沙織に視線を向けた時、僕は言葉を失った。

 だって、沙織は顔を真っ赤にしていたから。

 体が逆ならば、僕より背が低いから隠せただろう。

 しかし、今は彼女の方が背が高いため、赤い顔を隠せない。


「……沙織……?」

「あの……これは……」

「お前等いい加減にしろ」


 低い声がして、僕達は同時に体を強張る。

 恐る恐る声がした方を見ると、そこには、明らかに怒気を纏ったフラムさんがいた。

 彼女は腕を組み、こめかみに青筋を浮かべながら僕達を見ていた。


「このまま真面目にやる気がないなら、私が直々に鍛えてやろうか……?」

「あ、明日香! 早く続きをしましょう!」

「う、うん!」


 沙織に諭され、僕は慌てて弓矢を構える。

 ……ねぇ、沙織……?

 さっきの表情は、どういう意味なの……?

 沙織は、フラムさんが好きなんだよね?

 でも、今の表情。

 偶然とか、勘違いかもしれないけどさ。

 僕も少しは……期待しても良いんですか?

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