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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第3章 ソラーレ国編
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第63話 誰もお前を愛さない

 太陽が昇り、朝が来る。

 暗かった空が徐々に明るくなり、その眩しさに私は目を細めた。


「……朝か……」


 アルス車の下からそんな声が聴こえ、私は身を乗り出した。

 そこでは、寝袋から体を起こして瞼を擦っているフラムさんがいた。


「フラムさん! おはようございます!」

「うん? あぁ、葉月殿に明日香殿。おはよう」

「おはようございます。よく眠れましたか?」

「あぁ。おかげさまでな」


 そう言って笑うフラムさんに、私はホッとする。

 彼女は寝袋から出て立ち上がり、私の方を見上げた。


「二人共ご苦労様。もう下りて良いぞ」

「はーい」


 フラムさんの言葉に私達は頷き、梯子で下りる。

 二人共下りると、明日香はアルス車から梯子を外した。


「じゃあ、僕がラムダさんに梯子を渡しておくから、葉月は沙織達を起こしてきて」

「あぁ……いや、私が届けておくよ」

「なんで?」

「……ラムダさんが、私と蜜柑の関係を誤解しているみたいだからさ。ついでに説明しておきたくて」

「そっか。じゃあ、よろしく」


 明日香はそう言って梯子を渡してくる。

 私はそれを受け取り、ラムダさんの元に運ぶ。

 結構重いが、運べないほどではない。

 アルスの近くまで行くと、そこでは、地面に座って何か紙を見ているラムダさんがいた。


「ラムダさん。梯子持ってきました」

「おぉ、悪いね。後でしまうから、そこに置いといてくれ」

「地面に置いちゃって大丈夫ですか?」

「あぁ、構わないよ」


 その言葉に、私は、梯子を地面に置いた。

 ふとラムダさんを見ると、彼は、相変わらず熱心に紙を見ていた。

 ……何を見ているんだろう?


「何見てるんですか?」

「……? うお!?」


 ラムダさんの隣に行き紙を覗き込むと、彼は驚いて飛び退くように距離を取った。

 不思議に思っていると、彼は引きつったような笑顔を浮かべながら私に紙を見せてくる。


「ち、地図だよ。オジサンはもう確認したから、見て良いよ」

「……? はぁ……」


 ひとまず、私は素直に地図を受け取る。

 どうやら、この大陸の地図のようだ。


「お嬢ちゃんには恋人がいるんだから、そうやって無闇に男の人に近付いたりしたらいけないよ。オジサンは嫁もいるから問題無いけど、中にはそれだけで勘違いする人もいるから……」

「……」


 ラムダさんが完全に勘違いしている!

 確かに私の距離も近すぎたかもしれないけど、せめて恋人の部分は否定しておかなければ。


「いや、恋人ではなく……」

「じゃあ、オジサンはアルス車の具合を見てくるから」


 なんとか説明しようとしている間に、ラムダさんはアルス車の方に行ってしまった。

 ちくしょう! 折角の機会を台無しにしやがった! お前はいつもそうだ。

 お前はいつも失敗ばかりだ。お前は色んなことに手を付けるが、一つだってやり遂げられない。

 誰もお前を愛さない。


「……はぁ……」


 気を取り直し、私は地図を見る。

 まぁ、旅は長いんだ。

 どこかできっと彼も分かってくれるハズだ。


 さて、私達がいるのは、メンシュマン大陸という場所だ。

 私達がいたドゥンケルハルト王国は大陸の真ん中辺りにあり、王都ドゥンケルハルトはさらにその中央辺りにある。

 目的地であるノールト国はそれより北西方向にあった。

 間にあるソラーレ国は弓なりのような形をしている。

 他にも色々と国はあるが、今の所知る必要は無さそうだ。


「葉月ちゃんっ! おはよう!」


 その時、後ろから抱きつかれた。

 見ると、案の定それは蜜柑だった。


「み、蜜柑!」

「何見てるの?」


 蜜柑は私の首に腕を回すような形で抱きつき、私が見ている地図を覗き込む。


「あ、あぁ……ラムダさんが持ってた地図」

「へぇー」

「ここが、私達がいたドゥンケルハルト王国。ここが目的地のノールト国。で、今いるソラーレ国がここ」

「ふーん……」


 私の言葉に蜜柑は興味無さそうに返事をしながら、私にさらに強く抱きついた。

 ……うん。この国のことなんて興味無いよね。

 どうせ話しかけたのだって私に抱きつく口実だ。

 やられた。そして油断していた。


「蜜柑、そろそろ離して?」

「えー……やだ」

「はぁ……」


 ため息をつき、私は地図を皺に合わせて折りたたむ。

 そこで、ハッと我に返る。

 なんで蜜柑の抱きつきを当たり前のように受け入れている!?

 ここで押し負けていたら、いずれ取り返しのつかないことになる!

 負けるな、私。


「あの……蜜柑っ……」

「ひゃあ!?」

「わ、ちょっ!?」


 蜜柑を拒絶しようとした時、アルス車から下りようとした沙織が転んだのが目に入った。

 寝ぼけているのか、段差に気付かなかった様子だ。

 転倒した沙織は先導していた明日香を巻き込み、地面に倒れる。

 つまり、沙織が明日香を押し倒したような形になったのだ。


「っつぅ……沙織、大丈夫? 怪我とか……」

「……眼鏡が……」

「え?」

「眼鏡……眼鏡……」


 どうやら転んだ際に、眼鏡が吹っ飛んだらしい。

 沙織は慌てた様子で地面を触り、眼鏡を探す。

 ……冷静沈着な生徒会長が眼鏡を探して慌てている姿なんて、日本にいた頃は想像もしていなかったな。


「ちょ、沙織落ち着いて? まずは一度立ち上がって……」

「め、眼鏡が無いと、何も見えないんです……眼鏡……」


 どうやらかなり錯乱しているらしく、明日香の上に跨ったまま眼鏡を探した。

 しかも眼鏡が転がっているのは彼女の左斜め前なのに、彼女は右手側をずっと探している。

 明日香は押し倒されているため、眼鏡の場所など分からない。

 私? 私は蜜柑に拘束されているから動けません。


「……これは……」


 その時、朝食の調達に行っていたフラムさんが、落ちていた沙織の眼鏡を拾う。

 彼女は自分の目の高さまで眼鏡を持ち上げると、不思議そうに首を傾げた。


「あ、それ、沙織の……」


 沙織に乗られたままの明日香がそう声を掛けると、フラムさんはキョトンとした顔をした後で「あぁ」と呟いた。


「なんだ、沙織殿の物か。……何をしているんだ?」

「あ、えっと、ただ転んだだけで……」


 そう言いながら、沙織は慌てた様子で立ち上がる。

 明日香も這うようにして沙織の足元から抜け出し、少し離れて立ち上がる。

 フラムさんはそんな二人に笑ってから、眼鏡をしっかりと開き、沙織の目に掛けた。


「全く……気を付けないとダメだぞ」

「あ……ハイ……」


 眼鏡を掛けられ、沙織は間近でフラムさんの顔を見ることになる。

 するとその顔が赤くなり、沙織はすぐに顔を背けた。


「あ……ありが、とう……ございます……」

「あぁ」


 沙織の言葉に、フラムさんは素っ気ない様子で言い、食事の用意をする。

 そんなフラムさんを、赤らんだままの顔で沙織は見つめていた。


 そんなこんなで、今日も一日が始まった。

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