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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第3章 ソラーレ国編
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第55話 ツッコミのいない野宿準備

「大体あの時明日香が警戒を怠っていなければ、イノシシの突進をもっと容易に止めることが出来たのです」

「うぅ……ごめんなさい……」


 戦いが終わり、現在、沙織に明日香が説教をされている。

 私と沙織は技を使った為、動くことが出来ない。

 適当な木に凭れ掛かり、腕を組んで、延々と説教が続いている。

 その間明日香は正座をしており、項垂れてそれを聞いていた。


「明日香ちゃん大変そうだねぇ」

「……そうだね」


 そして、その横では、私と蜜柑の熱い戦いが行われている。

 私が動けないことを察すると、蜜柑はすぐに私を後ろから抱きしめてきた。

 それだけなら良いのだが、胸や股間部に手を伸ばそうとしてくるのはやめろ!

 唯一動かせる腕を使って蜜柑の腕を止めているのだが、彼女の腕力はかなり高い。

 本調子が出ない今では、いずれ私が犯されるのは時間の問題か……。


「いよっと!」


 その時、バキッという音を立てて扉が開けられた。

 巨大イノシシの突進により拉げていた扉が、ようやく開いたのだ。

 ……いや、あれはほぼ破壊だ。

 フラムさんの腕力によって蝶番は破壊され、扉がそのまま地面に落下した。


「……あぁ、一つ錆びていたようだな。ちょうどいい。新品に替える時期だろう」


 地面に落ちていた蝶番の一つを拾って言うフラムさんに、従者のオジサンは申し訳なさそうに笑う。

 ねぇ、もう一つの方はかなり新しく見えますけど?

 どちらにせよ新品の金属一個破壊したってことだよね?


「葉月。無事です……か……」


 フラムさんに続いてアルス車を出てきたトネールは、蜜柑に抱擁されている私を見てその頬を引きつらせた。

 違う! これはそういう意味じゃない!


「……葉月ちゃん良い匂いする」


 そう言って私の髪に顔を埋める蜜柑。

 トネールはそんな蜜柑を見て、無表情になる。

 マジで怖い。


「キュイィ!」


 そして、トネールに預けていたギンもなぜか怒った。

 お前の感情が一番分かんねぇ。


「あー……これは困った……」


 その時、従者のオジサンの声がした。

 私達は話を止め、オジサンに顔を向ける。

 彼はアルス車のタイヤを見ていて、ボリボリと頭を掻いた。


「車輪が拉げてやがる……これじゃあ、走ることが出来ん」

「えぇ! じゃあどうするんですか?」

「近くの町に連絡して用意してもらうが、少なくとも今日中に修理すんのは難しいかなぁ」

「……それじゃあ……」


 私はそう言いながら、フラムさんに視線を向けた。

 彼女はアルス車をしばらく観察していたが、やがて小さく頷き、私達を見た。


「今日はここで野宿をする」


~~~~~~~~~~~~~


「キュイ! キュイ!」


 人懐っこい声を上げながらじゃれるギンに、沙織は珍しくその聡明そうな顔を破顔させていた。


「ギン……可愛い……」

「そうでしょー。トネールに感謝しないとね」


 私の言葉に、沙織はトネールを見て「ありがとうございます」と言った。

 するとトネールは若干恥ずかしそうに顔を赤らめて、髪の毛の先を指で弄った。

 それにしても、蜜柑に対してよく怒るから私以外の魔法少女は苦手なのかと思っていたが、沙織にはかなり懐いているなぁ。

 明日香が戻ってきたら、彼女にもギンを撫でさせてみようか。


 現在、野宿の準備をするために、フラムさん、明日香、蜜柑は林の中に入っている。

 フラムさんは食料の調達。明日香と蜜柑は焚火用の薪を集めに行っている。

 技を使って動けない私と沙織、病気のことがあるトネールはお留守番だ。

 後は、アルス車の点検やアルスの世話をしないといけない従者のラムダさんも。


「ハイ。ハイ。明日ですね。分かりました」


 その時、少し離れた場所で連絡をしていたラムダさんが、そう言って何か掌サイズの石のようなものを操作する。

 大きさ的には、スマホのようだ。

 しかし、液晶も無いし、画面らしき部分には魔法陣が彫ってある。


「ラムダさん。どうでしたか?」

「あぁ。車輪の部品は明日の朝には届くようだ。曲がっている部品は一つだけだから、この調子なら、明日の昼には出発出来るよ」


 ラムダさんの言葉に、トネールは「それは良かったです」と言って微笑む。

 するとラムダさんは私を見て、首を傾げた。


「葉月ちゃん。何かオジサンの顔に付いているかい?」

「え? いや、そういうわけではないんですけど……」


 私はそう言いながら、スマホのような石の板を見る。

 すると彼は私の視線に気付いた様子で、「あぁ」と言った。


「これは、風魔法の遠話魔法を応用したもので、同じ道具を持っている物同士で連絡できる機械だよ。オジサン達はこれを、風話機と呼んでいる」

「へぇー……」

「今回みたいに、道中でのトラブルは付き物だからね。色々な町と連絡を取れるようにしているんだ」

「……でも、一つの機器によって一つの町なんですよね? その割には荷物が少ないように感じるんですけど……」

「あぁ、それはこの中にしまってあるんだよ」


 そう言ってラムダさんが出したのは、魔法陣らしき記号が刻まれたブレスレットだ。

 不思議に思っていると、彼はブレスレットに触れる。

 するとカッとブレスレットは光り、やがて、バラバラといくつか風話機が出てきた。


「おー」

「これは同じく風魔法の空間魔法を応用した貯蔵魔法。別次元の空間に荷物をしまったり、出したい物を念じて魔力を込めればすぐに出せたりする便利なものさ」

「凄い……四次元ポケットみたい……」


 私の言葉に、ラムダさんと沙織はキョトンとした。

 あ、そっか……ラムダさんはこの世界の住民だし、沙織はテレビとか見ないから。

 じゃあトネールはどうかと思い、視線を向けた。


「あれ、皆何してるの~?」


 その時、林の方から両手に木の枝を抱えた蜜柑が歩いてきた。

 彼女は私達が見ている風話機を見て、首を傾げた。


「……何それ?」

「この世界でのスマホみたいなもの。機能はかなり低いけどね」

「へー」


 私の言葉に、蜜柑は興味無さそうに返しながら、近くに木の枝を置いた。

 それから徐に私の背後に周り、抱きついて来る。

 んんッ?


「蜜柑?」

「えへへ……葉月ちゃんの充電……」


 そう言って私の髪に顔を埋める蜜柑。

 ラムダさんはそんな私達を見て、「アッハッハ!」と笑った。


「良いねぇ。お嬢ちゃん達はそういう関係だったか」

「いや、ちが……ひぁ!?」


 ラムダさんの勘違いを否定しようとした時、突然蜜柑に耳を咥えられた。

 私はそれに言葉を続けることが出来ず、体をビクつかせた。


「じゃあ、オジサンはアルスの世話もあるし、そろそろ引っ込むさ。後は女の子だけでどうぞご勝手に」


 そう言って、ラムダさんはアルスの方に歩いて行く。

 待って! 違うの!


「……そういえば、明日香は?」


 私が蜜柑に耳を攻められているのを軽く無視して、沙織はそう言って辺りを見渡した。

 無視するなー! 助けろ! ……って、沙織は動けないんだったか。

 しかし、言われてみれば、確かに明日香は戻って来ていない。


「明日香ちゃんは別行動だから、まだ薪集めしているのかも。すぐに戻って来ると思うけど」

「やめ……耳くわえながら……だめ……」

「え?」


 なんとか言葉にしてみるが、今の状態では、結局弱々しい声になってしまい、届かない。

 蜜柑はそんな私に笑い、私の頭を撫でてくる。

 なーんーでーじゃー!


「ちが……そうじゃなくてぇ……」

「じゃあ、暗くなる前に、私は薪を組んでようかな」

「トネールさん。そういう知識あるんですか?」

「ハイ。多少は」


 暢気に話すトネールと沙織に、私は嫌気が差す。

 ツッコミ不在……辛い……。

百合作品に出る男性が嫌いでも、ラムダさんのことは嫌いにならないでください。

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