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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第2章 旅路編
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第50話 気持ちに向き合うということ

「戻ってこーい」


 目の前で手を振られ、私は我に返る。

 顔を上げると、そこには、心配そうに私の顔を覗き込んでいる明日香がいた。


「明日香……」

「大丈夫? 晩ご飯の時以上にボーッとしてたけど……のぼせた?」

「いや……そういうわけじゃないんだけど……」


 そう受け答えをした時、先ほどの蜜柑とのやり取りを思い出した。

 途端に、彼女にキスされた部分が熱を持ち、私の顔も熱くなる。


「……蜜柑が何かしたんですか?」


 沙織の言葉に、私は頬を引きつらせる。

 まぁ、現在の沙織にそんな表情の機微など分からないだろうが。

 彼女は髪色を頼りにこちらまで歩いてきて、焦点が微妙に合っていないような目で私を見ていた。


「えっと……」

「……とりあえずさ、先にシャワーで体流そう? こんな場所で話していてもアレだし」


 明日香の言葉に、私はシャワーで体に付着してボディソープを洗い流す。

 それから大きな湯船に三人で入った。


「……で? 蜜柑と何があったの?」


 正直、こういう話は人に言いふらすものではないのかもしれない。

 しかし、私自身では、どうすることが正解なのか分からない。

 だから、私は先ほど蜜柑との中で起こった一連の出来事を二人に話した。

 この二人なら、何か解決策を練ってくれるのではないかと考えたから。

 突然こんなことを話されたら、二人も混乱してしまうかもしれないけれど。


「ヒュー。蜜柑ってば大胆」

「まぁ、それぐらいしないと葉月は気付かなさそうですからね」


 しかし、私の予想に反して、二人はそこまで驚かなかった様子だ。

 それどころか、むしろ蜜柑の気持ちを知っていたような口ぶり。

 なんだか少し嫌な予感がする。


「えっと……どういうこと?」

「多分この中では葉月だけだと思うよ? 蜜柑が葉月のこと好きだって知らなかったの」


 明日香の言葉に、私はしばらくの間思考が停止した。

 うん? えっと?

 蜜柑が? 葉月のこと? 好き?

 葉月って誰? ……私だ。


「……はぁ!?」


 まさかの展開に、私は立ちあがる。

 すると沙織は大きくため息をつき、眼鏡を正すような素振りをする。

 しかし眼鏡は現在脱衣所にあるために、何も無い空間を指が通り過ぎて、彼女の眉間を人差し指と中指が突き刺した。


「……」


 彼女のその動作に、一応は冷静になれた。

 私は再び湯船に浸かり、明日香と沙織を交互に見た。


「……いつから……」

「ん?」

「いつから、その……蜜柑は私のこと、す……好きに、なったの、かな……」

「……少なくとも、この世界に来る前から、すでに恋をしていた様子でしたが」


 沙織の言葉に、私はこの世界に来る前を思い出す。

 二年間同じクラスだったとはいえ、私と蜜柑に、そこまで接点は無かった。

 トップスリーの蜜柑と、平凡な私。

 私にとって彼女は別世界に生きる人間であり、こんな異世界召喚などされなければ、きっと連絡事項以外は一切話さない関係のまま卒業していただろう。

 では、なぜ彼女は私を? ほとんど接点など無かった私を、なぜ?


 そこで思い出したのは、入学式の日に、私が彼女を助けたという過去。

 まさか、あれが原因? あれのせいで、彼女は、私を?


「……なんで、私なんだろう……」


 口から零れた言葉は、そんな弱音だった。

 私のその言葉に、二人は驚いたような表情で私を見た。

 だから私も彼女達を見て、続けた。


「だって……変だよ。なんで私なの? 私は、明日香みたいにカッコよくもないし、優しくない。沙織みたいに綺麗でもないし、自分の意志をしっかりと持っているわけじゃない。……ましてや、蜜柑みたいに可愛くもないし。……とにかく、私はトップスリーとは違うんだよ。なんで私なんか……」

「……トップスリー……?」


 明日香が若干低い声で聞き返したそれに、私は慌てて口を両手で覆った。

 しかし、出た言葉は戻らない。

 視線を動かすと、沙織も訝しむような目で、真っ直ぐ私を見つめていた。


「葉月……トップスリーとは、何なのですか?」

「いや、その……」

「さっきの口ぶりから察するに、それは……私と明日香と、蜜柑ですか?」

「……」

「ねぇ……何その、一括り?」


 そう言って私の肩に手を置く明日香。

 分かっている。良い気持ちになるハズが無い。

 自分達に影で付けられている異名など、知りたいハズが無い。


 私達の学校には、暗黙の了解があった。

 トップスリーのメンバー……明日香、沙織、蜜柑には、トップスリーの存在を知られてはいけない。

 当然だ。話したこともない同級生達に勝手に憧れられて、影で異名まで付けられて……良い気持ちになるハズがない。

 だから、表向きは普通に同級生として接しつつ、影で憧憬を抱くという状態だった。

 陰口とかイジメとは逆……だが、やっていることは、本質的には変わらない。


「……それが蜜柑の好意を認めない理由?」

「……」

「もしもそうだと言うのなら、尚更教えて欲しいですね。……トップスリーとはいったい、何なのですか?」


 逃げ道は無い。

 私は、嫌われる覚悟を決めた。

 今までの友情がぶち壊れるのは覚悟した。

 これからの魔法少女としての生活が胃痛になるが……もう、こうするしかない。


 腹を括り、私は二人に、トップスリーというものについて全てを語った。

 三人があの学校の二年生の中で特別視され、崇拝や憧憬に近い感情を抱かれていると。

 自分達とは別世界に住んでいる人々だと、勝手に決めつけていると。


「……何だそれ」


 説明を聞き終えた明日香は、呆れたような、強張った笑みを浮かべた。


「まさか、学年内でそんなものがあったとは……」


 沙織は呆れるように呟いて、小さく首を横に振った。

 それから、ゆっくりと私の方を見てきた。


「だ、だから……私だって、この世界に来る前は、三人は住んでいる世界が違うって思っていた。……今だって、私より優れた人だと思っている。……私のことなんか、好きになるわけないって……」

「そんなの、葉月の勝手な思い込みでしょ?」


 明日香の言葉に、私は口を噤んだ。

 そんな私を見て明日香は笑い、続けた。


「この世界に来る前は、葉月のことは普通の同級生だと思っていた。今では大切な友達だと思っている」

「右に同じです。私は、中学校に入学してから今まで、貴方や他の生徒達を自分より下の存在だと思ったことはありません」


 真っ直ぐ向けられた二人の目が、まるで、私の惨めな心を覗いているような気がした。

 友達を相手に優劣とか考えて、自分とは違うと勝手に決めつけていた、弱い心を。

 すると沙織はゆっくりと近づいて、私の手を取り、自分の胸に当てた。


「私も、明日香も、蜜柑も。葉月と同じ人間です。同じ学校に通う、同じ年齢の……同じ性別の、同じ女子中学生です。……だから、蜜柑のことも、トップスリーとやらではなく、一人の少女として見てあげてください」

「……」

「僕は恋とかしたことないから分からないけどさ、蜜柑は凄く純粋に、葉月のことが好きみたいだから。……真剣、だから……葉月も、真剣に、彼女の気持ちに向き合ってあげて」

「私は……」


 私も、恋なんてしたことない。

 しかし、それが凄く大変なことで、困難なことであることは分かっている。

 ……蜜柑の気持ちに向き合う、か……。


 そこまで考えていたとき、突然頭に血が昇った。

 意識が宙に浮くような感覚と共に、私は後ろに倒れた。


「わ、葉月!」

「のぼせたみたいですね……ひとまず、一度湯船から出しましょう」


 明日香と沙織の会話が聴こえる。

 あぁ、そっか……私、のぼせたのか……こんな時に……。

 締まらないなぁ……でも、覚悟は出来た。

 回復したら、蜜柑に、応えよう。

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