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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第2章 旅路編
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第42話 異国への旅立ち

 ノールト国への旅の準備は、時間はあまり掛からなかった。

 与えられた鞄に、魔法少女の制服数着と寝間着。ついでに日記と筆記用具を入れたらそれで終わりだ。

 他のメンバーも大体そんな感じなので、すぐに私達は荷物の整理を終えて、生活スペースを後にした。

 しばらく帰ることはない……が、なんだかんだ泊まったのは五日程度なので、愛着はそこまで湧かない。

 ホテルのような感覚だ。


 他愛のない雑談をしながら城を出ると、城の前には大きな馬車があった。

 馬車と言っても、乗り物そのものは立派で高級そうな馬車だが、それを引く馬がかなり異形だけど。

 いや、これは馬というよりアルパカじゃん?

 アルパカみたいな見た目のモフモフの可愛らしい生物が二匹、馬車の前に繋がれている。

 一瞬この子達に馬車が引けるの? と思ったが、よく見ると足はかなり屈強だ。

 脚力ならあるのね。


「アルパカだ」

「アルパカですね」

「アルパカ初めて見た」


 トップスリーの感想も満場一致でアルパカだった。

 やっぱアルパカだよね。


「おや、思っていたよりも早い集合だな」


 その時、背後から聴こえた声に、私はバッと自分でも驚くほどの速さで振り向いた。


「フラムさん!」

「……あぁ、葉月殿か。髪の色が変わっているから気が付かなかったよ」


 そう言って白い歯を見せて笑うフラムさん。

 爽やかに笑っているが、その手には、巨大な旅行鞄を持っている。

 私はすぐに彼女の前まで駆け寄った。


「フラムさんも行くんですか?」

「あぁ。あまりここに人員を割けないからな。同性だし、私が皆の護衛をすることになった」

「……葉月ちゃん。知り合い?」


 フラムさんと話していると、背後から声を掛けられた。

 見ると、それは蜜柑だった。

 彼女の言葉にフラムさんは頷いた。


「葉月殿以外は初めましてだな。今日から皆の護衛を担当する、副騎士団長のフラム・シュヴァリエだ。どうぞよろしく」


 そう言って蜜柑に手を差し出すフラムさん。

 蜜柑はそれに「ふぇぇ……」と情けない声を発しつつも、フラムさんの手を握る。

 彼女の反応に笑っていた時だった。


「私も同行させて頂きます」


 背後からそんな声がして、私は振り返る。

 そこに立っていたのは、トネールだった。

 昨日や、今日円卓の間で着ていたようなドレスより簡潔でシンプルな感じのドレスを着ている。


「トネール!」

「ノールト国に行くまでに一つ国を跨ぎますから、その際に私が交渉役をさせて頂きます。……よろしくね、葉月」


 途中まで敬語で話していたトネールは、最後にそう言って微笑んだ。

 それに私は「よろしくっ」と頷く。


「キュイー!」


 すると私の肩に乗っていたギンが嬉しそうに鳴いてトネールにじゃれついた。

 トネールはそれに笑って、じゃれつくギンの頭を撫でた。


「ギンも、今日からよろしくね」

「キュイ!」


 トネールの言葉に、ギンは頷く素振りをした。

 んー。ギンって召喚者に懐くって言っていたけど、トネールにもよく懐いている気がするんだよなぁ。

 魔法陣書いた人も召喚者に含まれるのだろうか。


「さて、それじゃあ全員揃ったし、アルス車に乗り込んでくれ」

「……アルス車?」

「あぁ、あの動物はこの世界でアルスと呼ばれている。だから、アルス車だ」


 そう言ってフラムさんが指さしたのは、私達が散々アルパカだと言ったフワフワの動物だった。

 最初の二文字は一緒だった。


「じゃあ、トネール行こうか」

「えぇ」


 私が手を差し出して言うと、トネールは右手でギンを抱き、左手で私の手を握った。

 それから私は病弱であるトネールをエスコートして、アルス車に乗り込む。

 中は二つの椅子が対面になる構造で、片方の椅子に三人は座れる形だった。

 私は隅の方に座って、真ん中にトネールを座らせた。

 トネールの症状が安定している方とはいえ、旅路で何が起こるか分かったものではない。

 真ん中の方に座らせれば、何かあった時にフラムさんがすぐに気付いてくれるハズだ。

 そう考えながら、椅子の下にある空洞に鞄をしまっていた時、他の魔法少女達も乗ってくる。


「えっ……葉月ちゃん、なんで……」


 三人の中で最後に乗って来た蜜柑は、私を見てなぜかショックを受けた。

 え、私何かした?

 少し考えてみるが、特に思い至らない。

 考え込んでいる間に、蜜柑は落ち込んだ様子で私の向かい側に座った。

 前の席は、私から見て右から蜜柑、沙織、明日香だ。

 良いね。沙織と明日香の距離が近いね。最高だね。


「……よし。もう全員揃ったな」


 明日香×沙織を心の中で拝んでいると、フラムさんがそう言って乗り込んでくる。

 それから、恐らくこのアルス車の従者らしき人に何かハンドサインを送る。

 体をアルス車の中に引っ込めると、私の思惑通り、トネールの隣に腰かけた。

 少しして、私はとあることを思い出し、フラムさんに顔を向けた。


「あの、フラムさん」

「ん? 何か忘れ物か?」

「いや、そういうわけではなくて、あの……日記の本、ありがとうございます」


 私の言葉に、フラムさんは一瞬キョトンとした後で、「あぁ」と言って微笑んだ。

 そう、ずっとこのお礼を言いたかったのだ。

 しかし、先ほどは久々の再会で一瞬吹っ飛んでしまった。

 ずっと会いたいって思ってたからねー。ついつい。


「いや、私は大したことはしていないさ。使用人に言伝をしただけで」

「いえ、本当は私がやらないといけないことですし。……あの日記帳、大事に毎日書いてますよ」

「ははっ……それなら良かった」


 そう言って微笑むフラムさんに、私は頷いた。

 すると、アルス車が動き出すのが分かった。

 椅子から震動が伝わって来て、窓から見える景色が後ろに流れ始めた。

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