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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章3 蜜柑とギン編
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最終話 当たり前の日常

 蜜柑の部屋を目の前にした私は、その場で蹈鞴を踏んでしまう。

 ……やっぱり怖い。

 覚悟を決めたのは良いけど……それでも、怖いものは怖いんだ。

 けど、このまま何もせずにいるわけにもいかない。

 あと一歩。

 この部屋に入って、それから……全部を話す。


「すぅ……ふぅ……」


 小さく深呼吸をして、私は顔を上げる。

 ゆっくりとドアノブに手を伸ばし、鉄のドアノブを握り締める。

 それから、ドアノブを捻り、ゆっくりと引いた。


 まだ、部屋の中は暗かった。

 時計を見ると、六時過ぎを指している。

 ……通りで暗いわけだ。

 こんな時間に起こしたら、迷惑かもしれない。

 蜜柑が起きる時間まで待っていようかな。

 今日は土曜日だから、学校も無いし……起きてからゆっくり話せば良いかな。

 そう思いつつ、私はゆっくりとベッドの横まで歩いて行き、足を止める。


「……」


 掌に汗を掻いているのが、嫌でも分かる。

 私はゆっくりと近付き、眠る蜜柑の顔を覗き込んだ。

 暗い中でも、大分暗闇に目が慣れてきて、薄暗い中で蜜柑の寝顔が分かった。


「……綺麗だなぁ……」


 小さく、私は呟いた。

 安らかに眠るその顔は、まるで作り物のように精巧で、良く出来た人形みたいだった。

 勿論、顔が好きというわけではない。好きになる前は、むしろ憎たらしい顔だと思っていたくらい。

 けど、好きになってからは……彼女の全てが好きになっていた。

 もう戻れないくらい……大好きに――。


「……ギン……ちゃん……?」


 すると、蜜柑の声がした。

 一瞬、蜜柑が起きてしまったかもしれないと危惧したが、目が開いていない。

 ……寝言か……。

 ……私の夢を、見ているのかな……。


「……蜜柑……」


 小さく、私は名前を呼ぶ。

 今の蜜柑には届かない。けど……目が覚めたら……私の気持ちを全て、届ける。

 それまでしばらくは、こうやって、寝顔でも見て待機を……――。


「……やっぱりギンちゃんだぁ……」


 眠たげな声で呟く蜜柑の言葉に、私は息を呑んだ。

 ……起き……てる……?

 私の疑問に応えるように、窓から朝陽が差し込んでくる。

 差し込んだ光は、ベッドで眠る蜜柑の顔を照らす。

 するとそこでは、横になったまま私を見つめる蜜柑の姿があった。


「……み……かん……」

「ギンちゃん……おはよぉ……」


 ふにゃふにゃと柔らかい笑みを浮かべながら言う蜜柑に、私は口ごもる。

 ……完全に寝ぼけてる……。

 こんな状況で何を言っても、彼女の記憶には残らないだろう。

 というか、蜜柑があまりにもフワフワした感じで話しかけてくるもんだから、緊張が一気に解けてしまう。

 力が抜けて、次の言葉を続けることが出来ない。

 その場に立ち尽くしていると、蜜柑がゆっくり手を上げ、自分の勉強机を指さした。


「ギンちゃん……あれ……あけてみて……?」

「……あれ……?」

「あのぉ……ひきだし……」


 どこか能天気な感じの声で言う蜜柑に、私は彼女の勉強机に近付き、一番上の引き出しを開けた。

 すると、可愛らしくラッピングされた小袋が一つ入っていた。

 手に取って見ると、中にマカロンが一つ入っていることに気付いた。


「……これは……」

「……まかろん……」


 小さく呟く蜜柑に、私はパッと顔を上げる。

 するとそこには、ベッドで横になったまま、薄く目を開けてこちらを見つめる蜜柑がいた。

 彼女は、焦点が合わない様子の目で私を見つめながら続けた。


「ギンちゃん……はじめて、いえにきたとき……まかろんたべてたでしょ……?」

「……ぁ……」

「まかろんってねぇ……とくべつなひとに、わたすんだよ……だから……」


 ギンちゃんにあげるね……と、半分眠っているような声で、蜜柑は言った。

 彼女の言葉に、私は袋を開け、中に入っていたマカロンを取り出した。

 綺麗な形をした、真ん丸のマカロン。

 私はそれを指で摘まみ、口に運ぶ。


 齧ると、サクッとした歯触りの後に、柔らかで厚みのある生地とねっちりした感じのクリームが混ざり合う。

 甘い味が口の中に広がり……彼女の優しさが、私の胸の中を満たしていくような感覚がした。

 私は残ったマカロンの欠片を口に突っ込み、何度も齧る。


「……蜜柑……」

「おいしかった? さいきん、ギンちゃんげんきないから、これでげんきだして……」

「蜜柑ッ!」


 名前を呼びながら、私は蜜柑の肩を掴んだ。

 涙が溢れそうになる。

 私が突然強く肩を掴んだからか、蜜柑はその目を大きく見開き、私を見つめた。


「えと……あれ? ギンちゃん? どうかしたの?」

「……蜜柑……」


 どうやら、本当に寝ぼけていたらしく、先程の出来事を覚えていないみたいだった。

 キョトンとした表情で呟く蜜柑に、私は名前を呼びながら、床に膝をつく。

 縋りつくようにベッドに突っ伏しながらも、私は彼女の服を掴んだままだった。

 離したくなかった。こんなに私のことを想ってくれている彼女を、手放したくなかった。

 泣きそうになっていると、その手を優しく包み込まれるような感覚があった。


「大丈夫……大丈夫だよ……」


 小さな声で優しく言いながら、蜜柑は私の手を撫でる。

 それに顔を上げると、蜜柑は私を見て微笑んだ。


「ギンちゃんには……私が付いてるからね?」


 優しく微笑みながら言う蜜柑に……泣きそうになる。

 私は唇を噛みしめ、彼女の服を強く握り締める。


「蜜柑は……私のこと、好き?」

「うん」


 私の言葉に、蜜柑は迷わず頷く。

 即答だった。行間を空けるのも惜しいと云わんばかりに、即決していた。

 それに、私は体を起こし、彼女と視線を合わせながら続けた。


「例えば……私にすごい秘密があったとしても……?」

「うん」

「実は、蜜柑に好きな人がいて……その記憶が無いことを良いことに……私がこうやって、交際していたとしても……?」

「……うん」

「ホントは昔、蜜柑にすっごく酷いことをたくさん言ってて……蜜柑を傷つけていたとしても?」

「……」

「それを全部忘れてることを知ってて……隠して……ずっと蜜柑に優しくしていたとしても……?」

「……」


 私の言葉に、蜜柑の表情がどんどん困惑したものへと変わっていく。

 あぁ……ダメだ……嫌われる……。

 言葉だけでこれなんだ。キスして記憶が戻ったりでもしたら……嫌われるッ。

 やっぱり……ダメなんだ……。

 そう思って、俯いた時だった。


「ギンちゃん」


 短く、名前を呼ばれる。

 彼女の顔を見るのが怖くて、私は俯いたまま、何も言えなくなる。

 すると、頬に手が添えられた。

 少し力を込められ、私の顔は強引に上げられる。

 咄嗟に目を瞑り、私は蜜柑の次の言葉を待った。

 罵倒か、別れか、それとも……それとも……――「んッ」――。


「……ッ?」


 私の思考を遮るように……唇を奪われた。

 突然のことに、私は目を見開く。

 するとそこには、こちらを真っ直ぐ見つめる蜜柑の目があった。

 至近距離で見る彼女の目に緊張していた時、腕を掴まれ強引に引っ張られる。


「んんッ……!?」


 突然のことに対応できず、気付けば私は、ベッドに押し倒されていた。

 背中と後頭部にベッドの柔らかい感触を感じると同時に、私の体に圧し掛かるように、蜜柑の体が被さった。

 状況を理解するよりも前に両手首を押さえつけられ、またもや唇を奪われる。

 今度はそれで終わりではなく、唇に、蜜柑の唇とは別の柔らかい感触を感じた。

 唾液で湿ったそれは私の唇を割り、口内に侵入してくる。

 ソレは軟体動物のように私の口内を這いずり回り、私の舌を絡め取る。


 あぁ、これは……蜜柑の舌だ。

 舌を絡め取られ、口の中を撫でられ、何度も接吻を交わしながら……私達は覆い被さる。

 息継ぎの度に、蜜柑の熱い呼吸が、私の顔に掛かる。

 最初は手首を押さえつけていた手が、気付けば私の掌を覆い、指を絡ませてきていた。

 火照る頭の中で、彼女の体温だけを頼りに状況を把握する。

 私は彼女の手を握り返しながら、必死に彼女からの口付けを受け止める。

 重力に従って、蜜柑の唾液が私の口の中に流れて来る。

 それを、私は受け止める。何度も喉を鳴らしながら、飲み込んでいく。


「……ぷはぁっ」


 どれくらい経った頃だろうか。

 蜜柑は息を吐きながら、体を起こしていく。

 唇が離れると、ツー……と、透明の橋が出来上がる。

 しかし、それはすぐに重力に従って崩落し、私の口元に垂れる。

 まるで涎のように口元から垂れる唾液を拭う余裕など、私には無かった。


「はぁ……はぁ……」


 何度も熱い吐息を繰り返しながら、私は蜜柑の顔を見つめる。

 蜜柑は私の顔を見つめながら、小さく微笑み、口を開く。


「好きじゃなかったら、こんなことしないよ? ……ギンちゃん」

「……蜜柑……なんで……」

「確かに、異世界にいた頃は葉月ちゃんのことが好きだったけど……今はその百倍、ギンちゃんのこと好きだもん」


 その言葉に、私は目を見開いた。

 ……記憶を……取り戻したの……?

 でも、蜜柑は、それでも……。

 ぼやける思考は纏まらず、状況を上手く理解することが出来ない。

 けど……蜜柑に拒絶されなかったということだけは分かる。

 それが分かった瞬間……涙が溢れた。


「ギンちゃん!? 大丈夫!?」

「良かったぁ……蜜柑に、嫌われなくて……うれしい……」


 言いながら涙を拭っていると、その手を掴まれる。

 何だろうかと思っていると、蜜柑が私の涙を舐め取った。

 舌が頬を這う感触に、ビクッと体を震わせてしまう。

 そのまま呆けていると、蜜柑は私を見て、笑みを浮かべた。


「私も……ギンちゃんが喜んでくれて嬉しいよ」

「……蜜柑……」

「……後で、葉月ちゃんに挨拶に行かないとね。娘さんをくださいって」


 冗談めかした様子で言う蜜柑に、私は「そうだね」と笑う。

 ……いつもと変わらない朝。

 窓から差し込む日差しが、私達を明るく照らす。

 今日もまた……一日が始まる。

これにて、異世界で魔法少女始めました!完全に完結とさせて頂きます。

今まで読んで下さった方々、本当にありがとうございました!

「百話くらいで完結するやろ!(゜∀。)」

「番外編なんて三十話くらいで完結するやろ!(。∀゜)」

と去年の今頃は思っていました。まさかここまで長くなるなんて思ってませんでした。自分の執筆量が制御できないんです。

なんていうか、ホントにダラダラと長く続いてしまって……異世界モノを書くのも初めてで、未熟な部分も多々あったと思います。自分でも、反省点は多く自覚しているつもりです。

まぁ、何はともあれ、完結出来て大満足です!

書き始めた頃からの読者様。ここまで付き合って下さり本当にありがとうございます!皆様の支えのおかげでここまで書くことが出来ました!大好きです!

最近知ったという読者様。かなりの話数だったにも関わらずここまで読んで下さり本当にありがとうございます!大好きです!


なんだかんだなろうデビューで書き始めたこの作品が完結したわけですが、私はこれからも創作活動は続けていくつもりです。

過去に書いた作品や同時進行で書いてた別の百合小説等もありますので、今作が気に入って頂けた読者様は、是非そちらも読んで下さると幸いです。

そして、異世界系の百合も、実はすでに次回作は考えてあります。

また他の作品にて、皆様とお会い出来たらなと思います。

では皆さん。お元気で!

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