第36話 林原葉月③
それから、私はトネールからこの世界の魔法や魔法陣について聞いてみた。
だって回復魔法があることは聞いたし、魔法があるなら使ってみたい。
トネール曰く、異世界から来た人達の魔力は、この世界の人間よりもかなり多いらしい。
さて、本題の魔法についてだ。
まず、魔法には大きく分けて四つの属性がある。
風、林、火、山。
まぁ、簡単に言えば風林火山だね。
よくある水魔法だとかそういう属性は無いのか聞いてみると、似たような系統の魔法が一緒にされているらしい。
例えば、水魔法だとか氷魔法などは、全部風属性に。
土魔法は山属性。
あと、林属性は少し特殊で、植物を操ったりする魔法の他に、回復魔法だとか、人の体、心などに干渉できる魔法は全て林属性に当てはまるらしい。
「でも、そういう属性とかが分かれていると、色々と不便じゃない?」
「私もそう思ったんだけど、詠唱とかのことを考えるとこうした方が楽みたい」
「へぇ……でも、なんでそういう属性分けなの?」
「分からない。魔法の雰囲気とかじゃないかな」
あっけらかんと言うトネールに、私は苦笑した。
この世界の人間はかなり大雑把らしい。
話は戻し、魔法の使い方だ。
先ほどのトネールの会話に出てきた詠唱というのが、魔法を使うポイントになってくる。
詠唱とは、云わば、魔法を使うためのリモコンのような感じだ。
魔力をどういう風に使うかを言葉にすることで命令し、形にする。
そうすることで、体の中にある魔力を形にし、魔法と化す。
それが魔法だ。
ちなみに、魔法には初級、中級、上級がある。
初級の魔法などは簡単な魔法で、詠唱も短い。
級が上がるごとに攻撃力なども増すが、その分命令が複雑になり、詠唱も長くなる。
では、魔法陣とは何か。
魔法陣は、詠唱の時間を省いたりするために作り出されたものだ。
戦闘中は、詠唱している間も敵の攻撃を避けたりしなければならない。
簡単な初級魔法などならば詠唱も短いので、滑舌次第ではそこまでタイムロスにはならない。
しかし、初級魔法の攻撃力は低い。
防御力が高い魔物や、ステータスが自分より圧倒的に高い魔物を相手にした場合、使えない。
では上級魔法はどうかと言うと、詠唱が長い。
使えば魔物を圧倒することも可能だが、他に仲間がいる場合ならまだしも、一人で魔物を戦う場合では分が悪い。
そこで人間が作り出したのが、魔法陣だ。
詠唱を記号で表し、それを円状に描く。
そこに魔力を流せば、その魔法陣として表された魔法が発動するという仕組み。
欠点を上げるなら、その魔法陣で描かれた魔法しか使えないという辺りか。
「他にも、詠唱では出来ない微調節をすることで生活の中で使える道具にしたりしてるんだよ」
「なるほど……それで色々なところに魔法陣が使われているのか」
「うん。あとは、召喚魔法とか……」
「召喚魔法?」
私が聞き返すと、トネールは頷いた。
それから、召喚魔法についても教えてくれた。
召喚魔法とは、その名の通り、生物などを召喚する魔法だ。
私達がこの世界に召喚された時に使われたのもこの魔法である。
この召喚魔法とは、どんな生物を召喚するかの命令を細かくしないといけないので、詠唱しようと思うとかなり複雑になるのだ。
まず、既存の生物を召喚するか、想像の生物を召喚するかで条件が変わる。
既存の生物を召喚する場合は、どこの誰を召喚するかを条件付けなければならない。
想像の生物を召喚する場合は、どんな生物を召喚するのかを細かく条件付けないと。
どちらにしろ、かなり複雑な詠唱になる。
文字にしようと思ったら、下手したら分厚い辞書一冊分くらいの量になる。
そこで使われるのが、魔法陣だ。
「……まぁ、これくらいがこの世界の魔法と魔法陣の仕組みだけど……分かった?」
「ま、まぁ……なんとか……」
私は頭を押さえながらそう答えた。
情報過多で、かなり頭が痛いのだ。
そんな私の頭を、トネールは優しく撫でた。
「フフッ、少し難しかったかな?」
「うーん……異世界の仕組みは難しい」
私の言葉に、トネールはフッと優しく笑った。
それから私の体を抱き寄せ、私の頭を撫でる。
……うん?
「トネール?」
「林の生命よ。我に従い、この者の痛みを取り払い給え。ペインヒーリング」
トネールがそう呟いた瞬間、頭痛がスーッと引いていった。
それに私は驚き、顔を上げてトネールの顔を見る。
するとトネールはクスッと笑った。
「ホラ、もう痛くないでしょ?」
「う、うん……今のが回復魔法?」
「えぇ。初級だけど」
「へぇ……ていうか、よく私が頭痛だって分かったね?」
「頭を押さえていたから……あと、色々な情報を急にたくさん手に入れたから、頭痛が来ていそうだなって」
「ははっ……ご名答」
私が苦笑混じりに言うと、トネールは嬉しそうに笑った。
それからようやく私の体から手を離し、背を丸めて椅子の下に手を突っ込む。
不思議に思っていると、スケッチブックのようなものを取り出した。
これは……?
「……今から絵を描くの?」
「え? あぁ、えっと……違うけど、絵を描くのは嫌いじゃないよ」
そう言いながらペラペラとスケッチブックのページを捲るトネール。
彼女が描いたであろう花の絵がチラチラと見えるが、そのどれもが凄く上手だ。
……凄いなぁ。
ボーッと観察している間に、トネールは白紙のページを開き、私を見て微笑んだ。
「それじゃあ、折角だし、何か召喚してみる?」
……この子は軽い口調で何を言ってるの?




