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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章3 蜜柑とギン編
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第40話 その涙の意味は

 夜。

 部屋で布団を敷いていると、お風呂を上がったギンちゃんが入ってきた。


「ギンちゃん。ちゃんと髪乾かしてきた?」

「もちろん! 触って確かめる?」


 彼女の言葉に、私は顔を上げ、彼女の髪を見つめた。

 銀色の綺麗な髪はフサフサしていて、彼女の一挙一動に合わせてサラサラと揺れる。

 一目で、ちゃんと乾いていることが分かった。

 それに、私は立ち上がり、「ん」と頷いた。


「ちゃんと乾いてるね」

「えへへっ……あっ、布団敷いといてくれたんだぁ。ありがと」


 そう言いながら、ギンちゃんは布団に倒れる。

 彼女の様子に笑いつつ、私はベッドに腰かけた。

 すると、ギンちゃんは仰向けになり、天井を見つめながら口を開いた。


「いやぁ……誕生日パーティ、成功して良かったね」

「うん。……ほとんどお姉ちゃんのおかげだけど」

「でも、蜜柑が作ったケーキ美味しかったよ。私はホントに何もしてない」

「それを言ったら、ギンちゃんの手書きのチョコレートプレートも、檸檬凄く喜んでたじゃない。……ま、それ以外は全部お姉ちゃんが作ってたけど……」

「柚子の行動力は凄いなぁ」


 ギンちゃんのぼやきに、私は苦笑する。

 まぁ、結局はお姉ちゃんには敵わないってことだ。

 改めてお姉ちゃんの偉大さを感じていた時、ギンちゃんは寝返りを打ち、私の方に顔を向けてきた。


「……蜜柑の誕生日も……今日くらい大きいパーティが良い?」

「……どうだろ……」


 ギンちゃんの言葉に、私はそう答えて苦笑する。

 と言うか、こんな風に聞くなんて、私の誕生日にもパーティをしようと考えているってことじゃないか。

 そんなの、少なくともサプライズパーティーにはならない。

 私は「そうだなぁ」と呟きながら少し伸びをして、目を伏せる。

 床の一点を見つめながら、私は続けた。


「流石に頻繁にこれくらいのパーティーをするのは、お金のこととか考えると厳しいんじゃないかな」

「お……お金のことじゃなくて……! 蜜柑の気持ちが知りたいんだけど……」


 ギンちゃんの言葉に、私は少しだけ驚いた。

 ……お金は関係無く……か……。

 まさか、ここまで私のことを考えてくれているとは思っていなかったので、ちょっと嬉しい。

 私は「んー……」としばし呻き、口を開いた。


「私は、別にここまでのパーティーじゃなくても……ギンちゃんが、お誕生日おめでとうって言ってくれるだけで、充分嬉しいよ?」

「……たったそれだけで?」

「うん。だって……」


 そこまで言って、私は声を詰まらせた。

 ……晩ご飯の後の、檸檬の言葉が、脳裏を過る。

 嫌われたくない。このまま内緒のままでいたい。今の距離感を壊したくない。

 そんな感情が、胸中を支配する。

 でも、ずっとこのままでいたら……いつか、私は後悔すると思う。

 だから……私は……。


「……だって……ギンちゃんのことが、好きだから」


 私の言葉に、ギンちゃんは目を丸くした。

 キョトン……とした顔で、私の顔をジッと見つめて来る。

 ……まぁ、こんな反応になるよね。

 私は汗が滲む手を何度も握ったり開いたりを繰り返しながら、続けた。


「家族としてでもなく、友達としてでもなく……一人の女の子として、ギンちゃんのことが……好きです」

「……ちょ、ちょっと……」

「こんな年上から言われたら、気持ち悪いだろうけど……言っておきたくて……」

「なっ……ちょ、ちょっと待って!」


 私の告白を、ギンちゃんは慌てた様子で遮る。

 彼女の言葉に、私は咄嗟に口を噤んだ。

 すると、彼女は顔を上げ、続けた。


「なんで……私のこと……」

「……分からない」


 ポツリと、私は呟く。

 それに、ギンちゃんは「え……?」と聞き返した。

 私は指を組み、目を伏せて続けた。


「分かんないよ、そんなこと。ただ……気付いた時には好きだった」

「……そんなの……」

「……ごめんね」


 ポツリと、私は謝る。

 すると、ギンちゃんは「へ?」と聞き返してくる。

 私はそれに俯き、続けた。


「好きになって……ごめん。気持ち悪いだろうし、ギンちゃんを困らせることは分かってるけど……伝えずに後悔はしたくなくて。本当に、伝えたかっただけだから、これからも家族として……」

「蜜柑ッ」


 名前を呼ばれ、私は顔を上げた。

 直後、ギンちゃんが飛びかかってきた。

 ……否、抱きついてきた。

 視界に銀色の髪が舞い、風呂上がりだからか、シャンプーの良い匂いが鼻孔をくすぐる。

 少女の華奢な体に飛びつかれ、私の体は後ろに倒れる。

 バフッ……と音を立てて、私の体はベッドに沈んだ。

 ……えっと……?


「ギン……ちゃん……?」

「気持ち悪いとか、嫌いとか、嫌だとか……一言も言ってないし……!」


 彼女の言葉に、私は息を呑む。

 すると、彼女は体を起こし、馬乗りになる形で私を見下ろした。


「わ……私だって……蜜柑のこと、好きだし……」


 そう言うギンちゃんの顔は……真っ赤に赤らんでいた。

 耳まで真っ赤に染まり、青くて綺麗な目は潤んでいる。

 赤く染まった顔に、青い目は良く映える。


「……ギンちゃん……」

「……もう無理……」


 そう呟くと同時に、ギンちゃんの体は揺らぎ、私の体の上に倒れる。

 まるで、赤くなった顔を隠すように、私の首筋に顔を埋める。


「……好き過ぎて……好き過ぎて……頭、おかしくなる……」


 そう言いながら、彼女は私の体を抱きしめてきた。

 細い腕を私の体に回し、ギュッと力を込める。

 ギンちゃんの言葉に、私は何も言わずに抱きしめ返した。

 心臓が高鳴り、甘い鼓動の音が頭の中に響いてくる。

 お互いが両想いだと分かって、幸せな瞬間。


 ……肩が湿る。

 ギンちゃんが……泣いている。

 彼女が流す涙は、嬉し涙なのだろうか。

 ……それとも……――。

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