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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章3 蜜柑とギン編
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第39話 後悔しないように

「ぷはぁ……食った食った」


 晩ご飯もケーキも食べ終えると、すっかり私達のお腹は膨れていた。

 檸檬は自分のお腹を擦りながら、そんな風に言う。

 ケーキを今日中に食べなければと四切れにして食べたから、一人の量はかなり多かった。

 ご馳走もあったことで、相当腹に来ている。

 椅子の背凭れに凭れ掛かって、まるで妊婦のようにお腹を擦る檸檬を見て、お姉ちゃんはクスッと笑った。


「檸檬はゆっくり休んでて良いよ。私達でお皿を片付けておくから」

「おっ、優しい~。誕生日だから?」

「そ。……ホラ、蜜柑、ギンちゃん。手伝って」

「えぇぇ……」


 お姉ちゃんの言葉に、私は不満の声を漏らす。

 お腹いっぱいで動けないのは檸檬だけじゃないというのに……。

 内心でそう愚痴っていると、ギンちゃんが席から立ち上がった。


「私が手伝っておくから、蜜柑も休んでなよ」

「でも、ギンちゃんだけに手伝わせるのは……」

「私は力持ちだからだーいじょーうぶっ!」


 言いながら、ギンちゃんは幾つかの皿を重ね、台所へと持っていく。

 ……ここまで言われたら、手伝えないな。

 そう思った私は、椅子に座ったまま、二人が食器を片付けるのを見つめる。

 ……やっぱり、ギンちゃんだけにやらせるのは、心苦しいものがある。

 とはいえ、今から手伝うのもなぁ……と悩んでいた時だった。


「……ね、ね。みぃ姉」


 台所にいる二人には聴こえないような、小さな声で、檸檬はそう囁いて来る。

 彼女の言葉に、私は「何?」と、同じく小声で聞き返した。

 すると、檸檬はチラッと台所を見やってから、また私を見て口を開いた。


「みぃ姉ってさ……ギンちゃんのこと好きなの?」

「……なッ!?」


 突然の質問に、私はつい大きな声を出しそうになる。

 しかし、これこそギンちゃんに聞かれたらマズイと思い、すぐに声を静めて口を開いた。


「なんで……急に、そんなこと……」

「だって、ここ最近ギンちゃんのことばっかり見てるし……ギンちゃんと話してる時とか、ギンちゃんのこと話してる時とか、すっごい楽しそうだし」


 ……否定できない……。

 何も言えずに黙っていると、檸檬は「楽しそうっていうか……んー」と続けた。


「何て言うんだろう……恋する乙女の顔してるよね」

「……どんな顔……」

「頬赤らめて、まさに純情乙女って感じの顔」

「……そんな顔してるの……?」

「すっごいしてる」


 檸檬の言葉に、私はぐッと唇を噛みしめた。

 ……これはもう、否定もクソも無い。証拠が上がり過ぎている。

 黙っていると、檸檬は身を乗り出して「それで?」と続ける。


「結局のところどうなの? 当たってる?」

「……」


 檸檬の言葉に、私は無言で頷いた。

 すると、彼女は「ほぉー……」と、どこか感心した様子で溜息をついた。

 それに、私は小さく口を開いた。


「あの……このことは、あの二人には内緒に……」

「わかってるって。……ま、ゆず姉はこういう話題苦手だし、ギンちゃん本人に言う程、私は鬼じゃないよ」


 その言葉に、私はホッと息をつく。

 檸檬は、たまに意地悪だったりするけど、基本的には良い子だ。

 妹とは言っても、見た目同様、精神年齢も私より上なんじゃないかと思う時がある。

 ……頼もしい妹を持ったよ。ホントに。


「ま、みぃ姉がギンちゃんに惚れるのは、なんとなく予想してたよ」

「……そうなの?」

「うん。まぁ、命助けてもらったりしてるしね。あとはまぁ、一緒の部屋で寝たりもしてるし、意識しちゃうものなんじゃないかなぁと」


 ……全部当たってる。ご名答。

 多分、今の私の顔は、かなり赤くなっているのではないだろうか。

 何も言えずにいると、檸檬はスッと目を細め、口を開いた。


「それで? ……みぃ姉?」

「……?」

「いつ……ギンちゃんに告白すんの?」


 檸檬の言葉に、私は「えっ……?」と小さく聞き返した。

 すると、彼女はギョッとして続けた。


「まさか……告白しないままでいるつもりだったの?」

「いや……その……えっと……」


 檸檬の言葉に、私はどもってしまう。

 何と言えば良いのかと言葉を探していた時、彼女はまたもや大きく溜息をつき、頬杖をついて続けた。


「あのさぁ、私は別に否定はしないけどさ……多分それ、一番後悔するの、みぃ姉だと思うよ?」

「うっ……」


 檸檬の言葉が、矢となって私の胸に突き刺さる幻が見えた。

 胸を押さえて呻いていると、檸檬は身を乗り出して続けた。


「例えば、急にギンちゃんに恋人ができたりしたらどうするの? 告白するまでもなく失恋だよ?」

「そ……れは……」

「大体、いつギンちゃんがいなくなるかも分からないんだよ? あの子の家庭事情とかもサッパリ分からないし、急に親が連れ戻しに来たりするかもしれない」

「えっと……」

「というか、明日には急に事故で死んじゃったりするかもしれないじゃん。……明日何が起こるかなんて、誰にも分からないんだよ?」


 檸檬の言葉に、私は言葉を失った。

 ……彼女の言う通りだ。

 ギンちゃんとの出会いも、失った記憶のことも、前日から前もって分かっていたわけじゃない。

 もしかしたら明日、急に平和な日常が無くなるかもしれない。

 その時……もっと早く告白しておけば良かった、って、後悔することになるかもしれない。


「……後悔は……したくないな……」


 ポツリと、私は呟く。

 私の言葉に、檸檬は微笑み、続けた。


「だったらさ……答えは決まってるんじゃないの?」


 彼女の言葉に、私は拳を握り締めた。

 ……私の……答えは……――。

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