表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章3 蜜柑とギン編
362/380

第33話 嫌われたくない体育祭④

 午後からの種目で一番の目玉と言えば、各学年ごとに行われる全員リレーだと思う。

 運動音痴からすれば、戦犯が明確に分かるリレーなんて、クソくらえって感じだけど。

 でも……今日は、不思議とそういう不快感は無いように感じた。

 リレーの為にグラウンド内に入場した私は、走順で並びながら観覧席を探した。


 観覧席の一番手前。

 自分の子供の活躍を見に来た保護者達の中で、一人だけ、物凄く背の低い影がある。

 キャスケットを被ったその少女は、誰かを探すように背伸びをしながら、グラウンドをキョロキョロと見渡している。


 ……ギンちゃんに、良い恰好を見せたい。

 不純な動機だとは思うけど、好きな人にカッコイイところを見せたいと思うのは、人としてごく普通の感情なのではないかと思う。

 彼女に見られていると思うと、不思議と気持ちは引き締まり、やる気が漲ってくる。

 ……私なんかが、リレーで良いところを見せられるなんて思わない。

 けど、せめて大きなミスはしないようにしよう。

 転んだりとか、バトンを落としたりとかね。


「それでは、位置についてー……よーい……」


 その時、審判の先生の声がした。

 私がそれに顔を上げたのと、ピストルの乾いた音がグラウンドに響くのは、ほとんど同時だった。

 直後、第一走者はクラウチングスタートの体勢から、一気に駆け出す。


 各団の応援の声が響き渡り、第一走者は地面を強く蹴って次の走者へとバトンが繋がっていく。

 第二走者、第三走者とバトンが渡されていくのを見ていると、自分の番が近付いていることを意識して緊張してしまう。

 私の走順は真ん中の方で、仮に抜かれたりしてもまだまだ挽回できる箇所。

 でも、そんな意気込みじゃだめ。

 ギンちゃんに良いところを見せたいなら、一位を取るくらいの気持ちで挑まないと。


 ……でもやっぱり緊張してきた。

 手に凄く汗を掻いている気がする。

 ズボンで掌を拭っている間に、私の前の人が、バトンの受け渡しを行うテイクオーバーゾーンに立つ。

 彼等はさらに前の人からバトンを受け取り、次々に飛び出していく。

 全クラスが走り出したのを確認すると、すぐに私と同じ順番の人がテイクオーバーゾーンの中に入っていくので、私もそれに続いて立った。

 テイクオーバーゾーンの広さは二十メートル。その中で、自分や相手の走る速さに合わせて前後に移動する。

 私は足が遅いので、前の方に移動しておく。


 しばらくすると、私達の前の走順の人達がこちらに走って来る。

 私のクラスは二位で、一位のクラスからはほんの少し引き離されていた。

 三位のクラスとも距離は少し離れてはいるが……次の走る人の走力によっては、越されるかもしれない。


 そんなことを考えている間に、一位のクラスの生徒がテイクオーバーゾーンの中にやって来る。

 すぐに私のクラスの人もテイクオーバーゾーンに入ってきたので、私は後ろを見たまま、小走りで駆け出した。

 前の人はすぐに私に追いつき、バトンを渡してくる。

 それを左手でしっかりと受け取った私は右手に持ち換え、地面を強く蹴って走り出す。


 一位のクラスとの距離は、本当に近かった。

 距離にすると、多分五メートルも無いと思う。

 越そうと思えばすぐに越せるように見えるが、どちらも全力疾走をしているこの状況では中々追いつけず、その距離感を保ったままカーブへと差し掛かる。


 ……後ろの状況が分からない。

 今、私は追いつかれているのか? 後ろの人はどれくらい後ろにいるのだろう? どうやったら前の人を追い越せる?

 色々な思考が脳内で駆け巡る中、私は必死に地面を蹴り、前の人に追いつこうと必死に足を動かす。

 でも、このままじゃ、追いつくことなんて……。


「みかぁぁぁぁんッ!」


 カーブを曲がり切る直前に、そんな声がした。

 各団や保護者の応援の声の中に紛れた、私の愛した声。

 一瞬視線を向けそうになるが、すぐに私は前を見る。

 彼女を気にしている場合じゃない。今は、リレーに集中しないと……。


「負けるなぁぁぁぁッ!」


 ……続いて聴こえた声が、弱っていた私の心を奮い立たせる。

 高鳴る甘い鼓動の音が、私の足を動かす原動力に代わる。

 どんなドーピング薬も、好きな人の声には勝てないと思う。

 負けるな。その一言だけで、私の体に力が漲ってくるのが分かる。


 カーブを曲がり切り、後は直線を走り切るだけ。

 私は一気に強く地面を蹴り、次の走者に向かって駆ける。

 さっきまでよりも体が軽くなったような感じがして、走る速度がみるみるうちに上がっていく。

 気付けば、私の前を走っていた走者はいなくなっていた。

 次の走順の人達がテイクオーバーゾーン内で並ぶ中、私のクラスの人が、一番内側に並んでいた。


「はいッ!」


 声を張り上げ、私は次の走者にバトンを渡した。

 相手がバトンを受け取り走り出すのを尻目に、私はグラウンドの中へと駆け込んだ。

 足を止めると、途端に呼吸が荒くなり、汗が噴き出してきた。

 私は膝に手を当て、何度も深呼吸を繰り返した。


 呼吸を整え、一通り汗を拭い終えると、私はパッと顔を上げた。

 すると、観覧席にて、こちらをジッと見ているギンちゃんと目が合った。

 彼女は私と目が合うなんて思っていなかったのか、ギョッとした表情を浮かべた。

 しかし、すぐにニッと笑い、こちらに向かってグッと親指を立ててきた。

 だから、私は笑い返し、同じように親指を立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ