第23話 一緒に行こう
「そういえば、もうすぐ夏祭りの時期だね」
夏休みに入って二週間頃経った時だった。
晩ご飯を食べてのんびりしていた時、檸檬がそんなことをぼやいたのだ。
「……夏祭り?」
檸檬の呟きに、ギンちゃんが不思議そうに聞き返した。
すると、檸檬は「うん」と頷く。
「毎年近所の楷出神社ってところで夏祭りやってるんだ。……興味ある?」
「……蜜柑は行くの?」
檸檬の説明に、ギンちゃんはなぜかこちらに振り向きながらそう尋ねてくる。
それに、私は「そうだなぁ」と呟きながら、頬杖をついた。
「私はあまり夏祭り行かないからなぁ。……人ごみって苦手だし」
「……そうなんだ」
端的に呟くギンちゃんに、私は「うん」と頷いた。
入学式で人ごみに流され、変な先輩に声を掛けられたことがあるので、人ごみは苦手だ。
背が低いせいで、人ごみの中に入るとそのまま流されてしまう。
行かないといけなくなったら我慢するけど、自分からはあまり行かない。
「でも、一緒に行きたいなら行くよ? 苦手だけど、耐えられないって程でもないし」
「……夏祭りって楽しいの?」
ギンちゃんはそう言いながら、檸檬に視線を向けた。
彼女の言葉に、檸檬は腕を組みながら「そうだなぁ」と呟く。
「まぁ……世間一般的に見たら、楽しいのかなぁ」
「……どういう意味?」
「人には好き嫌いがあるじゃん? ギンちゃんが必ずしも夏祭りを好き~って言うとは限らないし」
檸檬の言葉に、ギンちゃんは首を傾げながら「ふーん……?」と答えた。
……よく分かっていないみたいだ。
彼女の反応に私は苦笑し、口を開いた。
「でも、ギンちゃんが夏祭りに行ったことないって言うなら、行ってみても良いかもしれないね。何事も経験だし」
私の言葉に、ギンちゃんは「そっかぁ」と呟きながら、考え込むように目を伏せた。
と言っても、まぁ、折角なら一度行ってみるべきなのかもしれない。
先程自分で言った通り、何事も経験だし。
好きになるかどうかは置いといて、こういうイベントには積極的に参加した方が良い……と思う。
何か根拠があるわけじゃないから、何とも言えないんだけどね。
「……蜜柑が行くなら……行く」
しかし、ギンちゃんの返答は予想外だった。
まさかの言葉に、私は「え?」と聞き返した。
すると、彼女はフイッと視線を逸らして続けた。
「だから……! その……蜜柑が行くなら行きたいって言ったの」
「……なんで私……」
「あー……なるほど」
ギンちゃんの言葉の意味が分からず呆けていると、檸檬が顎に手を当て、何かを察した風に呟いた。
何だろうかと思い、聞こうとした時だった。
「夏祭りの話?」
頭上から、お姉ちゃんの声が降って来た。
顔を上げると、ちょうどお姉ちゃんがスイカを切って持って来たところだった。
彼女は切ったスイカが乗った皿をテーブルの真ん中に置き、続けた。
「行くならちゃんと蜜柑が引率してよね。夜なんて特に」
「ゆず姉は一緒に来れないんだっけ?」
「うん。花鈴と真凛に誘われてるから」
そう言いながら、お姉ちゃんはスイカを一切れ手に取り、自分の手元に持っていく。
彼女の言葉に、檸檬は「あー、あの二人かぁ」と言いながら、同じくスイカを手に取った。
二人に釣られて私とギンちゃんも、それぞれスイカを手に取った。
檸檬はシャクシャクとスイカを頬張りながら、「あっ」と小さく声を上げた。
「そういえば、私も今年は一緒に行くの無理だわ」
「ん……? なんで?」
「友達に誘われてるんだよねー。あっ、ちゃんとその子の保護者同伴で行くから、ゆず姉は心配しなくて良いよ」
「……本当に保護者同伴なんでしょうね?」
ジトッとした目で尋ねるお姉ちゃんに、檸檬は「本当だって!」と反論する。
……まぁ、檸檬なら、平気で嘘つきそうではあるけどね。
でも……。
「どうせ一緒の夏祭りに行くんだし、もしも鉢合わせたらそんな嘘、すぐにバレるよね? ……流石に檸檬も、そんなにすぐにバレる嘘つく程馬鹿じゃないと思うけど」
「みぃ姉……それ、間接的に私のこと馬鹿って言ってない?」
「さぁ……何の話か分かんないなぁ」
先程のお姉ちゃんみたいなジト目で聞いて来る檸檬に、私はそう言いながら目を逸らした。
すると、お姉ちゃんは「そうね」と小さく呟いた。
「まぁ、今は信じておいてあげる。でも、もしそれが嘘だったらタダじゃおかないからね」
「本当だってばぁ!」
念を押すように言う檸檬に、お姉ちゃんは「はいはい」と小さく笑いながら答える。
明らかに信じていなさそうな反応に、檸檬はプクーと頬を膨らませた。
二人のやり取りを聞きながら、私は「そういえば」と、とあることに気付く。
「そうなると……今年はギンちゃんと二人で行くことになるのか」
「……二人?」
私の呟きに、ずっとスイカを美味しそうに頬張っていたギンちゃんが、そんな風に反応を示した。
彼女の言葉に、私は頷く。
「私は二人みたいに、夏祭りに誘ってくれるほどの友達もいないし」
「で、でも……わ、私と二人だけでも、良いの?」
「……断る理由が無くない?」
オズオズと尋ねてくるギンちゃんにそう返してみると、彼女は少しキョトンとした表情を浮かべてから、徐々にその頬を赤らめていった。
恥ずかしそうに目を伏せ、少しモジモジしてから、彼女は小さく口を開いた。
「じゃ、じゃあ……行こ」
「……うん。行こう」
私の答えに、ギンちゃんはどこか嬉しそうにはにかんだ。
最近なろうにて不正ツールが出回っているみたいですね。怖いです。




