第11話 姉の友人
「ただいまー」
そう挨拶をしながら、私は玄関の扉を開いた。
すると、玄関には見慣れた靴の他に、見覚えのある靴が二足並んでいた。
これは確か……お姉ちゃんの、友達の……。
一瞬浮かんだ疑問に応えるように、リビングの方から話し声が聴こえてきた。
……やっぱり……。
「蜜柑、この靴は……?」
「お姉ちゃんの友達だよ。……まぁ、気にしなくても大丈夫」
私はそう言いながら、靴を脱いで並べる。
ギンちゃんも靴を脱ぎ、私と同じように並べた。
まぁ、折角来てくれているのなら、挨拶はしておくべきかもしれない。
そう考えた私は、ギンちゃんの服が入った袋を持ち直し、リビングに足を向けた。
「あっ! 蜜柑待ってよ!」
すると、ギンちゃんは慌てた様子でそう言いながら、私の後ろについてくる。
別にギンちゃんが来る必要は無いと思うけど……まぁでも、これから一緒に住むわけだし、よく遊びに来る彼女等には挨拶でもさせるべきか。
私はギンちゃんが付いてくるのを見ながら、リビングの扉を開けた。
「でね、そしたら……あっ、みぃちゃんこんにちは~」
私が入ってくるのを見てそう声を掛けてきたのは、お姉ちゃんのお友達の、望月 花鈴さんだった。
クリッとしたまん丸い目をした、可愛らしい人。
頭の左側で黒い長髪をサイドテールにしており、右目の横に泣きぼくろがあるのが特徴だ。
「蜜柑ちゃんこんにちは。お邪魔してます」
そう言って会釈をしたのは、同じくお姉ちゃんのお友達の望月 真凛さん。
花鈴さんに比べると少し冷たい印象を受ける目付きだが、クール系の綺麗な人だ。
頭の右側で黒い長髪をサイドテールにしており、左目の横に泣きぼくろがある。
まぁ、見て分かる通り、花鈴さんと真凛さんは双子だ。
性格は真逆だが、目付きと髪型とほくろ以外は瓜二つで、黙っているとどっちがどっちか分からなくなる。
髪型とほくろも、違うと言っても鏡合わせのような感じなので、正直見た目の違いはほとんどない。
少なくとも、初見で二人を見極められる人なんてほとんどいないだろう。
「お……同じ顔の人が、二人……」
……今、私の隣で驚愕している、ギンちゃんのように。
「あれ? その子は……みぃちゃんのお友達?」
「あっ、この子は……」
「あれ、蜜柑もギンちゃんも、帰って来てたの?」
説明しようとした私の言葉を、台所からリビングにやって来たお姉ちゃんが遮った。
お姉ちゃんは花鈴さんの前にオレンジジュースが入ったコップを、真凛さんの前に紅茶が入ったティーカップを置いた。
その様子を見ていた真凛さんは「ギンちゃん?」と聞き返した。
「もしかして、さっき話してた……同居することになったっていう?」
「そうそう。蜜柑の命の恩人さん」
「へぇー……!」
お姉ちゃんの紹介に、花鈴さんは感心したような声を上げながら、ギンちゃんを見た。
どうやら、二人にはギンちゃんの話くらいはしてあったらしい。
そんなやり取りをしている間、ギンちゃんは終始驚愕に固まった様子で、口をパクパクと開閉させながら望月双子を交互に見ている。
すると、お姉ちゃんはそれに気付き、「あぁ」と小さく声を上げた。
「ギンちゃん。こっちは望月花鈴……で、こっちが望月真凛。双子よ」
「……双子……」
重々しく呟くギンちゃんに、私は苦笑する。
まぁ、私も初めてこの二人に出会った時は、ギンちゃんのような反応をしたものだ。
だって、本当にそっくりで、見分けがつかないんだもの。
「フフッ……この反応、蜜柑ちゃんの反応を思い出すね」
すると、ソファの肘置きに頬杖をつきながら、真凛さんがそんな風に言った。
彼女の言葉に、花鈴さんは「確かに」と笑った。
二人の会話に、お姉ちゃんは呆れた様子で溜息をついた。
「蜜柑どころか、二人に会った人は皆こんな反応でしょう?」
「まーねー」
「私達を初見で見分けられたのは、柚子が最初で最後だね」
「あははっ……不名誉な称号だなぁ」
真凛さんの言葉に、お姉ちゃんは苦笑を浮かべながらそう答えた。
そう。二人の話によると、お姉ちゃんは唯一、二人を最初から見分けていたらしい。
望月双子とお姉ちゃんは、中学の頃からの仲らしい。
どうやって仲良くなったのかは知らないけど、気付いたら家に遊びに来るくらいの仲になっていた。
初めて会った時は小学生の頃だったけど……かなりビックリした。
だって、学校から家に帰ったら、同じ顔をした女の子が二人いるんだもの。
それこそ、今のギンちゃんのような反応をしていたものだ。
「……なんか、頭痛くなってきた……」
しかし、まだ幼いギンちゃんには、少し情報量が多かったらしい。
この辺で私達はお暇することにしよう。
「じゃあ、私達はもう行くね。ごゆっくり」
ギンちゃんの袖を掴んで軽く引きながら、私はそう言う。
すると、花鈴さんが「あいあいー」と言って手を振った。
「またねーみぃちゃんギンちゃん」
「……またね」
「うん。また」
挨拶をしてくれる二人にそう返しながら、私とギンちゃんはリビングを後にした。
階段を上っている間も頭が痛むのか、ギンちゃんはこめかみの辺りに手を当てながら「うぅ……」と呻いた。
「……ギンちゃん、大丈夫?」
「……ややこしすぎて……頭痛い……」
「あはは……何回か会ってたら、自然と覚えるよ」
「もう会いたくない……」
情けない声を上げるギンちゃんに、私は苦笑する。
しかし、これから一緒に暮らしていけば、あの二人と顔を合わせる機会も増えるだろう。
それ以外でも、これからギンちゃんが覚えることはたくさんあるし、彼女が一緒に暮らす上でやらなきゃいけないこともたくさんある。
でも……不思議と、楽しい気分になった。




