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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
番外章2 明日香と沙織編
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第31話 頭から離れない言葉

 今日一日の練習が終わり、僕達は帰宅した。

 体育祭準備の間は、部活は休みだ。その分、放課後に残って練習したりする。

 練習の間も、家に帰ってから弟の相手をしたり、食事をしたり、風呂に入ったり、風呂上がりのストレッチをしている間も、僕の頭の中ではずっと、同じ言葉が延々とループしていた。


『……いつ、風間さんに告白すんの?』


 休憩の間に、今日子の口から出た、あの言葉。

 彼女の言葉は僕の胸に突き刺さり、深く根を張る。

 ……僕はいつ、沙織ちゃんに告白するのだろう。

 そもそも、告白するという思考すら、僕は持っていなかった気がする。

 沙織ちゃんを見て、脳内で可愛い可愛いと愛でて、片思いし続けて……その生活をずっと続けるつもりだった気がする。

 いつかこの恋心は止むものだと、だからそれまでの間の、ちょっとした気の迷いだと……心のどこかで、思っていた気がする。


 あくまで、気がするだけ。

 本心は、自分でも分からない。


 しかし、恋心は止むどころか、沙織ちゃんを見る度に膨れ上がっていく。

 彼女を見て、触れて、話す度に大きくなっていく。

 止むどころか、その心はどんどん大きくなって、僕の心を蝕む一種の毒になっていく。


 もし恋心が止むことがあるのなら、それはきっと、沙織ちゃんと一切関わらなくなった時だろう。

 しかし、彼女と交友を続ける限り、この気持ちが消えることは無い。

 そしてきっと、僕達は交友関係を続けるのだろう。

 沙織ちゃんにとっての友達は、僕一人。僕から連絡を絶たない限り、友達としての関係は続く。


 それじゃあ沙織ちゃんと話すのをやめれば良いじゃないか。

 僕の中にいる、もう一人の自分が言う。

 どうせ告白する勇気も無いんだ。このまま片思いを続けるくらいなら、彼女との関係を無かったことにすれば良い。

 確かに、そうかもしれない。

 しかし、僕の気持ちは、そう簡単に割り切れるほど生易しいものじゃなかった。

 沙織ちゃんと一緒にいることは、すごく楽しい。

 今更彼女との関係を絶つことなんて……出来ない。


「はぁ……」


 溜息をついて、僕はベッドに寝転ぶ。

 見慣れた天井が、目の前に広がっていた。

 ……僕はこれから、どうすれば良いんだろうか。


 ブーッ……ブーッ……。


 その時、どこからかバイブの音がした。

 体を起こしてみると、机の上に置いたままのスマホが画面を光らせて震えていた。

 慌てて体を起こして近付いてみると、今日子の名前が表示されていた。


「……?」


 不思議に思いつつ、僕はスマホを手にとって、応答ボタンを押す。

 それからスマホを耳に当て、口を開いた。


「もしもし?」

『あっ、明日香?』


 スマホから聴こえた声は、やけに暢気な感じがした。

 こっちは誰のせいでこんなに悩んでいるんだ……と呆れていた時、彼女は続けた。


『今何してる?』

「何って……部屋でボーッとしてたけど」

『ちょうどいいや。ちょっとベランダ出てきてよ』

「はぁ? なんで……」

『良いから、ホラ。カモン!』


 電話から聴こえた声に、僕は溜息をつき、部屋のガラス戸を開けた。

 ベランダに出ると、夜風が服を貫いて肌を刺激する。


「『よっ』」


 スマホの声と、実際の声が重なって聴こえた。

 隣の家のベランダを見てみれば、そこには、スマホを耳に当てながらこちらを見ている今日子がいた。

 僕はスマホの電話を切り、今日子に視線を向けた。


「何? 何の用?」

「フフッ、そう焦るんじゃないよ。……ホラ」


 そう言って、今日子は手元に置いてあったスポーツドリンクの缶を一つ取り、こちらに放ってくる。

 突然投げられた缶に驚きつつも、なんとか両手でキャッチする。

 僕がキャッチ出来たのを見て、今日子はニカッと笑った。


「ナイスキャッチ! 明日香!」

「……急に危ないな……もし落ちたらどうするつもりだったのさ」

「そこは……ホラ、伊勢中学校キャッチャーの送球力を信じなさいな」

「僕が取り損ねたら? 怪我したかもしれないのに」

「何年私が明日香とキャッチボールしてきたと思ってんの? ……明日香が取れないボールを投げるわけないじゃん」


 当たり前のことのように言いながらニヒッと笑う今日子に、僕は苦笑した。

 相変わらずだな……と、思った。

 どこか飄々としてて、掴めなくて……憎めなくて。

 彼女の明るさに、今までどれだけ救われてきただろうか。


 僕はベランダの囲いに肘をつき、受け取ったスポーツドリンクの缶を開ける。

 プシュッと音を立て、スポーツドリンク特有の甘酸っぱいニオイが発生する。

 数口飲むと、甘酸っぱい液体で口の中が潤っていくのが分かった。

 「ぷはっ」と息を吐き、僕は唇の端から零れたスポーツドリンクを拭う。


「美味しいでしょ? それ。私のお気に入り」


 今日子はそう言って、自分の分を飲み始める。

 彼女の喉が小刻みに動くのを見つめながら、僕は口を開いた。


「知ってるよ。昔からこのメーカーのしか飲まないじゃん」

「他のメーカーのはどうにも舌に合わなくてねぇ」

「何だそれ」

「明日香は色んなメーカーの奴飲むよね。お気に入りとか無いの?」

「特に無いけど……僕もここのが一番好きかも」

「あははっ、一緒じゃん」


 無邪気に笑う今日子に、僕も釣られて笑う。

 十四年間繰り返してきた、他愛の無い会話。

 でも……今回は、いつもと違う。

 わざわざこんな時間に呼び出したのだ。

 この他愛の無い雑談の先に……本題がある。


「……あのさ……」


 しばらく笑っていた今日子は、ふと真顔になり、僕から視線を逸らしながら口を開く。

 彼女の言葉の続きを、僕は無言で待つ。

 今日子はしばらくスポーツドリンクの缶を手の中で弄びながら、ゆっくりと、口を開いた。


「私、さ……明日香のこと、好きだったんだ」

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